「何も思いつかない……歌詞は一行も書いてないのにサインは完成してしまってる……。こんなことしてる場合じゃないのに!!」
創作と言うのは書けない時は書けないんですぅ!!
でもそうやって自分を甘やかしていると一か月、二か月、と何もできずに時間だけ進んでいく……。
「昨日も現実逃避して動画五時間も編集してたし!!
ああ──!! 私のばかー!! ゾウリムシ!!」
そこで、私は思い出しました。
中学の頃に書いた作詞ノートがあったことを。
「あった!」
私は自室に戻って押し入れの中の段ボールを漁ると、発見しました。
そしてその中身を捲った私は思いました。
……呪詛?
私は無言で作詞ノートを閉じました。
「(明るい歌詞、青春……。暗い歌詞だったら幾らでも書けるけど、そんなの誰も望んでないし……)
(もっとキターンっとしたバンドっぽいのを……)」
結束バンドのボーカルは喜多ちゃんで、歌詞は彼女に合わせたキャラクターのモノが良いと、この頃の私は考えていたのです。
「(明るい人間に成りきるんだ!! 創造するのは、常に最強の陽キャ!!)」
来た、来た、喜多!!
最強無敵な太陽神の如き、究極の陽キャが!!
ヘリオス喜多「(ぽぽぽーん!! へいカモーン、とりあえずパしかないっしょ、ウェーイ!! オールナイトダンシングフォーエバー!! 今日はみんな集まってくれて、あざまる水産よいちょまる!!)」
「行こうぜズッ友!! 奇跡起こして観客全員目からカシオレ、キメさせようぜぇ~~!!」
完成した!! 最強無敵の陽キャが!!
────いや違う!! これは陽キャじゃなくてただのパリピだ!!
「(暗示じゃダメだ、ちゃんと喜多さんに成り切ろう!!)」
トレース、
「きゃー!! リョウ先輩、今日もカッコいいぃぃ!!
お昼食べてないなら、今から奢らせてくださいぃ、むしろ貢がせてぇえ!!
退廃的なバンドマンに貢いでダメになる私って、なんて儚げでカワイイの……もっと滅茶苦茶にされたい……」
あれ、これも違くない? これじゃあただのイタいナルシストでは?
その時、自室の扉を開ける音が聞こえた。
「お母さん、腕のいい霊媒師さん知ってるのよ」
「南無南無」
振り返ると、心底心配した様子のお母さんと数珠を持ったお父さんが入ってきた。
「も、もう、誤解だから勝手に入ってこないでよ~~!!」
私は何とか二人を部屋から押し返した。
親フラに心痛めた私は押し入れに引きこもって歌詞の執筆に励んだ。
「(青春ソングはヤメだ。応援ソングにしよう。本当は無責任に現状を肯定する歌詞はあまり好きじゃないんだけど……)」
そうして、頭から捻りだした言葉をノートに書き連ねていく。
『みんなが居る』
『夢は必ず叶うよ』
『自分を信じて』
書いていて、思った。──薄っぺらい、と。
私がほんの少しもそうだとは思っていない、普段即興で弾くクソなオリジナル曲の内容以下の代物だった。
観客が求めているのはリアリティ、それが創作と言うものだ。
共感性、メッセージ性、そしてそれをどう魅せるか。
私の書いた歌詞を木に例えるなら、これは根元から腐っているに等しかったのです。
「(こんな歌詞を聞いたら、余計落ち込んじゃう……)」
そんな風に落ち込んでいると、スマホに着信音が鳴った。
アプリを開くと、虹夏ちゃんから明日昼間に下北沢駅前に集合の連絡が。
思わず、引きつった声が出た。
それは私にとって、デュラハンの死の宣告も同然だったのです。
§§§
翌日、私は仲間内で集合したことなんて無いので、集合時間前の一番近い電車で向かうことにしたのだけど、私が集合場所に到着する一時間前に話は遡ります。
「それでは、本日の移動範囲は下北沢駅周辺を逸脱しない、と」
私以外の結束バンドのメンバーは、ファミレスの中で役人さんと打ち合わせをしていました。
「は、はい。アー写を撮る予定なので」
「はぐ、もぐッ、追加で注文しても?」
「あんたは少しは自重しろ」
ぱこーん、と虹夏ちゃんのツッコミがガッツリとした定食を食べているリョウさんに炸裂。
「だって、好きなの食べて良いって」
「日本人なら遠慮を知りなさい!!」
虹夏ちゃんも喜多ちゃんも飲み物ぐらいしか頼んでいないのに、この落差でした。
「お気になさらず。
ひとりさんの周辺二十メートルは常時警護の者を配備します。
通行人にはあらかじめ勧告を行い、退去または自然な振る舞いを要請します」
「……あの、ここまでする必要ってあるんですか?」
この裏ミーティングというか、警備計画の打ち合わせは喜多ちゃんは初参加だったので、彼女は疑問を述べました。
「例えば、ここに調味料が置かれていますね。
私がこれの注ぎ口を舐める動画を撮影し、動画サイトなどにアップしたらどうなりますか?」
「えっと、炎上して大変なことに成ります」
「それと同じことを、誰かがひとりさんに対して行わないと誰が保証できますか?」
役人さんの真剣な言葉に、喜多ちゃんは二の句を継げなかった。
「誰もが悪いことだと分かって、軽い気持ちで……そう、軽い気持ちで誰かの人生を左右する軽挙妄動を行う。
それがSNS全盛期の現代社会なのです。
人間の愚かさは、常に法律を上回る。少なくともそれを想定しなければなりません。我々の仕事は、想定外でした、では済まないので」
「そうですね……」
SNSにどっぷりハマっている喜多さんは否定できませんでした。
炎上騒動なんて、今の時代有り触れている。
無思慮で無責任な行動を行う人間や、そんな相手に匿名の正義感を笠に着た私刑に酔いしれた衆愚に恐怖を抱いたことは、一度や二度ではないのでしょう。
「すみません、スペシャル特盛パフェください」
「あー、もう。少し分けてよね」
「あの……ひとつだけ聞いても良いですか?」
リョウさんと虹夏ちゃんのやり取りを尻目に、喜多ちゃんは役人さんに質問を投げかけました。
「はい、なんなりと」
「後藤さんって、聞いた限りずっと友達が一人も出来なかったみたいですけど、それを問題だと思わなかったんですか?」
初対面の大人に対する不信感からなる、喜多ちゃんには珍しい刺々しい言葉でした。
きっと私に友達がいないのは彼らの所為なのでは、と思ったのでしょう。
「……はあ、我々が何の手も打たなかったとお思いですか?」
役人さんは手を組んで深い溜息を吐いた。
その溜息には万感が籠っていました。
いやあの、本当にすみません……。
「ぼっちのぼっち列伝、気になる」
「この子はホントに……」
「構いません。彼女のネガティブさに耐性ができるに越したことはないので」
虹夏ちゃんはリョウさんの発言を咎めたけど、役人さんが語り始めたので聞く体勢になった。
「私がひとりさんを担当する以前、前の担当者は小学生の間の六年を担当しました。
彼は小学校に入学して一年経っても友人を作ろうとしないひとりさんを気の毒に思い、ベストフレンド計画──彼女の親友を送り込む計画を立案しました」
「親友が送り込まれるとか、悲しすぎる……」
「ハッキリ言って、未成年の職員を送り込むのは委員会でも度々論議になることです。
ですが、自分が友達が出来ないのはサトラレだからだ、なんて思考になられても問題なので、
ひとりさんの場合はやむを得ない、と判断されました。ええ、当時からそんな有様だったそうです」
役人さんの話に、思わず虹夏ちゃんは涙がほろりと流れました。
「しかし、ひとりさんのマイナス思考は、同年代の未熟な職員たちではどうにもなりませんでした。
ベストフレンド計画は彼女が小学生を卒業するまで、クラス替えの度に行われました。
しかしいずれも失敗に終わったのです。前任者はこれに責任を感じ、担当を辞任しました」
「後藤さん、筋金入りなのね……」
「中学生に成り、私がひとりさんの担当チームを引き継ぎました。
バックアップチームに精神学者などの有識者を起用し、彼女の自主性を育て自己肯定感を高める方針に切り替わったのです。
……まあ、チームの精神医学者は今すぐにでも精神科に通院すべきだ、と主張しましたが、彼女は飽くまで普通にこだわっていたので家族との協議の結果、通院の案は却下されました。
多感な時期の女子に精神に障害がある、と告げるのは酷なことですから、それでよかったと私は思っています」
「ぼっち、面白いのに」
「ええ、彼女の周囲も、彼女がサトラレだという事実に対して少しづつ向き合おうとしてくれました。
彼女の精神面は障害などではなく、個性であると。故に時間が解決してくれると、我々は判断したのです」
実に筋道だった話に、三人は腑に落ちてしまったのです。
役人さんたちの暗闘を。それに四苦八苦する様を。
「皆さんは、サトリ妖怪をご存じですか?」
「相手の心を読む妖怪?」
役人さんの急な問いかけ、リョウさんが応じた。
「そう、かの妖怪は囲炉裏に薪をくべた際の火の粉が当たり、撃退されたと伝えられています。
思考を巡らし、予算を見立て、綿密に計画した我々よりも、ひとりさんの心の内側に踏み入れたのは偶然という火の粉の如き出会いだった。
────実にロックだと、そうは思いませんか?」
思わず彼の言葉に、三人は顔を見合わせました。
「サトラレ妖怪ぼっち……SCP*1みたい、おもしろ」
「ぼっちちゃん、たまに妖怪みたいな挙動するからあんまり否定できない……!!」
「先輩方……」
喜多ちゃんは二人の反応に苦笑い。
「でも、わかりました。
後藤さんってみんなから愛されてるんですね!!」
キターン!! と、陽キャオーラ全開の喜多さん。
多分、私が大人たちの都合で不遇な状態に居ると言う考えが勘違いだとわかったのでしょう。
「ですので我々は、あなた達を高く評価しています」
「その言い方メッチャ胡散臭い依頼人みたいですね!!」
「報酬は前払いで」
「それ死亡フラグ!?」
役人さんは喜多ちゃん達のノリを軽くスルーしてこう言いました。
「我々の至らなさ故にひとりさんには寂しい思いをさせてきました。
これからも陰ながら応援していきますので、ご栄達を願っています」
そろそろ時間ですよ、と彼が言うと、時計は集合時間十五分前を指していた。
「あ、本当だ!! 今日はごちそうさまでした!!」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまです。早くいかないと、ぼっちちゃん気にしちゃうもんね!!」
こうして、結束バンドのメンバー(私抜き)の裏ミーティングは終わったのです。
そして、現時刻。
「ゆゆゆ、許してください!!」
私は土下座を敢行してました。
「後藤さん!?」
「いきなりデジャビュ!? どうしたの!?」
「調子に乗った癖に歌詞書きあげてこない私を呼び出して吊るし上げる会では……?」
狂人山田「(今日の占い結果は、ぼっちちゃん黒です)」
村人虹夏「(じゃあ吊りだね!! ぼっちちゃん寡黙だったしどっちにしろ吊り確定かな!!)」
人狼喜多「(お二人に賛成でーす!! 今日はリョウ先輩を襲っちゃおう♥ きゃー!!)」
ザコ占い師後藤「(あばばばばばばば!!!!)」
──投票の結果、後藤ひとりさんは処刑されました!!
§狼陣営の勝利です§
「(
「(よし、勝った)」
「(なんで脳内でそんな悲惨なゲーム結果を妄想してるの……?)」
「(どちらかというと、私はリョウ先輩に襲われたいかな!!)」
私が絶望していると、虹夏ちゃんが膝を折って私の顔を見ました。
「そんな外道なことしないって。
ほら、立って!! 周りから変な目で見られるのイヤでしょ?」
「は、はい……」
そのまま彼女は私の首に掛かってある、『私は約束通りに歌詞をかき上げられませんでした』と書いてあるプレートを外してくれた。
「私たちはバンド仲間なんだから、お互いにフォローしていこう。ね、ぼっちちゃん?」
「は、はいぃ」
「そうですね!! ほら、後藤さん!!
私達もう友達なんだから変に遠慮しないでいいのよ!!」
虹夏ちゃんと喜多ちゃんの笑顔が眩しい。
え、友達。とも、だち?
友達って、いつからなったの!?
友達っていつの間にかなってるって聞いたけど、誰かが証明書とか発行してるの!?
幾多のトラウマが、フラッシュバックする。
友達って一方的にこっちが思ってるばかりじゃないの? 教えて太宰先生!!
私達って、友達なんだ。
「(ともだち……ィィィイイ)」
苦しい、友情って、友達って何なんだ……。
「(ぷぷッ、アヘ顔になってる)」
「(その台詞は大真面目なシーンでもネタにされる奴だから止めようよ!?)」
「(あれ、私どこかで間違えたの!?)」
リョウさんがなぜかぷるぷるしてる。
虹夏ちゃんもツッコミたそうにしてるし、喜多ちゃんもオロオロしてる、私が挙動不審だから引かれちゃった!!
「あ、あの、その、それで今日は何をしに集まったので……?」
クソ陰キャっぽい小声で視線を逸らしながら言ってしまった。
死にたい……。
「あのね、この前思いつかなかったけどまだあったんだよ。バンドらしいこと」
「え?」
そして虹夏ちゃんは指でカメラを模りました。
「アー写を撮ろう!!」
それが今日のバンド活動の内容でした。
ともだち……ィィィイイ(本当はやりたかっただけ)
本当はアニメ四話終了まで書きたかったのですが、思いのほか舞台裏のシーンが長引いてしまいました。
ストーリーが牛歩ですみません。
次回でアニメ四話を終わらせ、いよいよ山場の五話のオーディションに行きたいですね!!
それでは、また次回!!