「アー写……?」
「アーティスト写真を撮るんだって」
「ああ……」
喜多ちゃんにフォローされ、私は合点がいきました。
要するに宣材用の写真のことだ。
誰しもCDのジャケットとか、見たことあるはずだ。
「そうそう!! バンドメンバーも揃ったし、暇のうちに撮っておこうかなって!!
今ある結束バンドのアー写ってぼっちちゃん映ってないしね」
「い、今ある?」
これまで結束バンドは人数不足だったので、私はもう既にアー写があることに小首を傾げました。
「見る? この間ライブに出るために撮った」
「うぎゅ」
リョウさんがスマホの画像を差し出すと、それを見た喜多ちゃんが顔を引きつらせた。
そこには元気にピースをしている躍動感あふれる虹夏ちゃんと、クールな表情のリョウさん。
──そして、本人不在で卒業写真の端っこに証明写真みたいな喜多ちゃんが映っていたのです。
「ほら、喜多ちゃん逃げちゃったから……」
「ごめんなさい!!」
「(こんな酷いアー写初めて見た……)」
「(仕方ないとは言え、容赦ない……。フォローしとこ)
苦肉の策だったんだよ……喜多ちゃんごめんね」
「いえ、私が悪いので……」
「(これはこれでロックだと思うんだけどな)」
「えー、そんなわけで今日は天気も良いし、皆の予定も空いていたし外でアー写撮ろうかなって!!」
「そ、外でですか!?」
陰キャの“イン”はインドアの“イン”でもある。
人目のある外での活動は、私にとって夜の大海に放り出されるようなものなのです。
「スタジオを借りるのはおカネが無いから無理」
「(下北の町中で写真撮るとか、陰キャにはハードルが高すぎる!!)」
「(あ、バンド活動の一環てことなら、スタジオ代経費で落ちたのでは?)」
「(後藤さん、大丈夫かしら)
スターリーでぱぱっと撮っちゃダメなんですか?」
私の方を見て、内心を察してくれたのか喜多ちゃんがそう言いました。
「アー写ってのはバンドの方向性とかメンバーの特徴を一枚で伝える大切なモノだからさ!!」
「それじゃあ頑張らないとですね!!」
そう、これは正真正銘バンド活動。
納得した喜多さんは目を輝かせて頷きました。
「うん、ライブハウスのサイト告知やフライヤーや雑誌。
どんな媒体で使われても他のバンドに埋もれないようなインパクトが重要なんだよ!!」
「だそうだ」
正直リョウさんはやる気が有るのかどうかわからないけど、それを聞いて私は決意した。
「わ、わかりました!! 覚悟決めます!!」
「べつに戦場とかに行くわけじゃないからね?
それじゃあ、アー写撮影の旅に、レッツゴー!!」
「おー!!」
「おぉ……」
こうして私達は下北沢の周辺を探索することになったのです。
商店街、駅前の駐輪場前、服屋の露店、路地裏、人気のない階段、駐車場前のフェンス、アジサイの前や公園の遊具。
虹夏ちゃん曰く、金欠バンドマンの定番の撮影ポイントは回ったとのこと。
私達はそれぞれのポイントで、多くの写真を撮りました。
「今日、楽器持ってくれば良かったわね」
自販機でジュースを買い、ちょっとした小休止に喜多ちゃんがそう言いました。
「(確かに、バンドのアー写だから楽器を持っていれば誰がどのパートか分かる……)
が、楽器持っていた方が更にかっこよくなるかも……」
「君たちはね!!
絵になるのはギターとベースだけで、ドラムは可哀想なことになるんだよ!! 手に持つのはドラムスティックだけだよ!!」
「かわいいじゃん」
「じゃあ今日だけ楽器交換しよ!!」
「かっこ悪いからやだ」
そして繰り広げられるリョウさんと虹夏ちゃんのじゃれ合いという名の追いかけっこ。
「(こ、これが幼馴染同士の気安いやり取り!! 私も幼馴染がいたら陽キャに成れたのかな……?)」
幼馴染持ちの私とか、一時期流行った王の〇宝持ちのチート転生者とか、ひと昔前のスーパーシ〇ジ君並みの最強キャラでは!?
来たれよ、並行世界の私!!
私にだけ優しい
パラレルぼっち「(現実見ようよ。私に優しいってのは、誰にでも優しいってことだよ。少なくとも、私だけを愛してるわけじゃないから)」
そ う だ っ た !!
オタクに優しいギャル並みに気持ち悪い妄想だった!!
そもそも私にだけ優しいとか気持ち悪過ぎる!! いくら何でも陰キャ拗らせすぎだろ、私!!
でも二次創作ぐらい夢見たっていいじゃない!!
それが作者の願望の入り混じった浅ましい代物でも、それが二次創作ってモノだよね!!
始祖も言ってたじゃん*1、ぼっちは幾らでも盛っていいって!! なんで誰も私の陰キャな性格を盛らないの!?
絶望した!! 私は盛られないのに、私の周囲ばかり盛られる二次創作に絶望した!!
「(急にどんな世界でも私はぼっちだと言う電波が……)」
「(ぼっちがまた変な電波を受信してる)」
「(やっぱりぼっちちゃんは妖怪なのでは……)」
「(今日も変化球ね、これは慣れるの大変そうだわ)」
そうして小休止を終えた私達が探索を開始すると、私はよさげな壁を見つけました。
ちょっと離れてしまったので、私は急いで三人を追いかけて良さげな壁の前で写真を撮ることになったのです。
「それじゃあ、撮るよー!!」
ぱしゃり。
そうして撮られた写真には、何だか心霊現象が写っていた。
……私だった。
「うーん、メンバーのキャラは出てるけど、いまいちバンド感がバンドっぽさを感じる要素がほしいなぁ」
「ここはバンドマンのお手本たる存在こと、私の表情を真似してみて」
「その自信はどこからでてくるの!?」
「でも先輩の言う通りにすれば間違いないわよね!! ねっ、後藤さん!!」
「あっはい」
「イエスマンが二人……わかったよー」
皆さんは背後霊みたいな私には触れないようでした。
パシャ。
そうして撮られた写真には、何だか心霊現象が写っていた。
……私だった。
「お通夜みたい……」
「(どうも、背後霊の後藤です……)」
「ご、後藤さん、次は顔を上げてみたらどうかな!! (反応するなって無理、後藤さん寂しそうだもん)」
「はっはい」
流石写真写りの良い喜多ちゃんのアドバイスは的確でした。
写真の中の背後霊はなんとか受肉したようで、写真写りの悪いUMA程度にはなったようでした。
「なんだか惜しいのばっかだなー。
それにしても喜多ちゃんはどの写真もカワイイねぇ」
「そんなことないですよ」
「あるあるって、なんか写真慣れしてるっていうか」
「ああ、私よくイソスタに写真あげてるので!!」
そう言って、喜多ちゃんは自分のアカウントを開いてスマホを見せてくれました。
「ほら!!」
「ヴっ」
その画面を見た瞬間、私の全身は雷に打たれたように痙攣を始めました。
「ぼっちちゃんが瀕死状態に!?」
「後藤さんどうしたの死なないで!?
どうしよう、体がぴくぴくしてる!? どうしちゃったの、起きてぇ!!」
「(友達と写真なんて一度も撮ったことない……だって友達いなかったし。家族以外と撮った写真って学校の行事くらいだし。私が十五年生きてきた証がこれだけ……)」
「やばい、顔がヤバいって!!」
「(言ってることも大分ヤバい)」
「(現代の女子高生で私みたいな人って他に居るのかな……ツチノコと肩を並べるくらいの希少種なのでは……?)
私が、私が下北沢のツチノコです……」のこのこ
「後藤さんが変な事言ってる!?」
「いつもこんなんだよ」
存在するかどうかわからない存在に声を掛けてくれる。この人たちって控えめに言って聖人なのでは?
「ぼっちちゃんもイソスタ始めてみたら?
ね、SNS大臣?」
「はい、バンド活動していくならメンバー個人のSNSあった方が良いと思うし」
「バンドのSNSも作らないとね!!」
「一緒に友達登録しましょう?」
その声が聞こえた瞬間、私はとある想像をしてしまい、絶叫を挙げてしまいました。
「後藤さん!?」
「(人間が出していい声じゃない……)」
「(私がアカウントなんて持ったら、ただでさえ根暗なのにバンドやって人気者になろうとしてる拗らせ人間なのに……そんな私がSNSなんて始めてしまったら、生まれてしまう!!)」
感想くれー
「(────承認欲求モンスターが!!)」
高評価くれー
「(なんか別の人の願望が混じってない!?)」
「(承認欲求なんて、誰もが持っていて当たり前なのに……)」
「(見える、見える、未来が見える。ホントに女の子なんですか、とか煽られて、いいねが貰えたら、脱げとか言われたりして、どんどん要求がエスカレートして、それに応えていくうちに 大 炎 上!!)」
証人喜多「(後藤さんのアカウントの煽りで私の方にも炎上が飛び火して、およよ~)」
判事山田「(SNS炎上でバンドを解散に追い込んだ罪で死刑を求刑します)」
裁判長虹夏「(結束バンド裁判の判決を言い渡します。被告人後藤、死刑!!)」
バ ン ド 解 散!!!
わ か り き っ た 未 来 !!!
「(私には動画サイトだけあればいい……)」
「(どういうことかわかったけど、毎回妄想上の私のキャラに対して物申したい!!)」
「(私って後藤さんの中ではこんなキャラなの……? 私ってそんなにぶりっ子っぽい!?)」
「(毎回よくネタが尽きないな……)」
その後、虹夏ちゃんと喜多ちゃんの呼びかけで正気に戻ったことで、改めてアー写撮影が再開されました。
私のパンツが映りこむというハプニングもあったけど、なんとかアー写は撮り終わりました。
「いいねぇ、バンド感に青春っぽさがプラスされたね!!」
「写真のデータ、貰っても良いですか!!」
「あっ私も……」
人生で初めて他人と撮った写真、自分の部屋に飾りたいと思ったのです。
「人気バンドへの夢にまた一歩近づいたね!!」
「はっはい」
「結束バンド、本格始動ですね!!」
「よーし、夏にライブ(未定)、デモCDを配布して(未定)、冬にはファーストミニアルバムをリリース(未定)して、下北沢発祥のエモエモなエモロックバンドになるぞー!!」
「確定情報が何一つないですね!!」
「(それ、前に虹夏ちゃんが言ってたどんなバンドって聞かれて答えられないバンドあるあるでは……)」
「あはは、たしかに!! まだ曲も出来てないのに!!」
「あッ(完全に忘れてた!!)」
そこからすぐに現地解散になったと思うけど、私は曲の事をすっかり忘れていたのです。
気づけば近くの公園のベンチに座っていて、一応持ってきておいた歌詞ノートを手に見下ろしていました。
時間が経てば立つほど、歌詞のハードルが上がっていく気がする……。
世の中には追い詰められないと創作を出来ない人がいるらしいけど、少なくとも私はそのタイプじゃなさそうだった。
この歌詞ノートを誰かに見せて、冷たい反応をされたらと思うと怖かった。
逆に、優しく励まされても惨めで最悪だと思った。
だから、一旦誰かに見せて様子を見ようと思ったのです。
喜多ちゃん? いや、あの子に引かれたら二度と立ち直れない。
虹夏ちゃん? 彼女は何でも肯定してくれる。そんなんで出来たモノが良いモノの筈な訳が無い。
リョウさん? ああ、彼女なら忌憚のない意見をくれそうだと思った。私に気を遣って、バンドの為にならないことは言わないだろう、とそう思った。
私はリョウさんにメッセージを送った。
返事はすぐに返って来た。
『明日なら予定空いてる』
わかりました、と私もメッセージを送った。
誰かに歌詞を見せるなんて初めてだった。
私は不安になりながらも、明日を待った。
山田が予定を明日にした理由は、今日はお腹が膨れてるからです。
そろそろ山田株、高騰しますよ。買いですね!!
あと、特に理由は無かったんですが、匿名にしていた作者名公開しました。
普段は「メアリース・シリーズ」ってタグに付けてるオリジナル作品を書いてます。
なぜ今のタイミングで公開したかというと、今回なら美味しいかなって。
それではまた、次回!!