サトラレ ―後藤ひとりの場合―   作:やーなん

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お待たせしました!!



心境

 

 

 

 アー写撮影の翌日。

 私は歌詞ノートを持ってライブハウスに向かいました。

 

 今日はリョウさんに歌詞を見て貰う日でした。

 この日は日曜日で結束バンドの合同練習の日となっていたので、それが終わってからということになりました。

 

(たった一晩が長く感じられた……具体的には一か月以上……)

 

 私の足取りは重かった。

 どんな創作にも、作者の主観が入り混じるモノ。

 

 創作の本質とは、自己主張だ。

 それはたとえ二次創作と言われるようなジャンルでも、いやそう言う分野だからこそより強く誇示される。

 

 マンガやアニメの夢小説で登場人物と関わり合ったり、原作の展開が納得いかなかったから二次創作で変化を加えたり、好きなキャラ同士のカップリングを作り上げたり。

 

 それはつまり、自分の内面をさらけ出すことに等しいんだ。

 

 不安だった。

 怖かった。

 歌詞が暗すぎて気持ち悪いとか言われたら二度と立ち直れない気がする。

 

 頭の中がぐるぐるして、結局練習にも身が入らなかった。

 

「ぼっちちゃん、大丈夫? 

 なんだか集中できてなかったみたいだけど」

「ああああ、すみません、すみません!! 

 きッ、今日はミスしてばかりで!! お、おお詫びに指を詰めます……!!」

「バンドはヤクザじゃないよ!?」

 

 虹夏ちゃんに心配されてしまった……。

 情けない。

 穴が有ったら入りたい……。あ、ゴミ箱あった。

 

「後藤さん!? ぬるりとゴミ箱に入っちゃった!?」

(人間とは思えない挙動……)

「ああもう、ほら、汚いから出よう、ね、ほら」

 

 この世界に安住の地は無かった。

 私はゴミ箱を引っ張った虹夏ちゃんによって、引っ張り出されてしまいました。

 

(ダメだ、怖くて集中できない……。私の作詞が結束バンドの行く末を決めるんだ……。勇気を出してリョウさんに見せないと。でも否定されたら……)

「ぼっちちゃん、大丈夫? 調子悪いの? (そこまで思いつめなくてもいいのに……)

「ぼっち」

 

 塩を掛けられたナメクジみたいなっていると、私はリョウさんの声に顔を上げた

 

「は、はい!!」

「今日の練習は切り上げて休憩しよう」

「あっははい、わかりました!!」

「二人もそれでいい?」

「うん、あとは任せたよ」

「リョウ先輩がそう言うなら!!」

 

 遂にこの時が来てしまった!! 

 私はゴルゴダの丘に向かうイエスキリストのように十字架と人類の罪を背負った気分になりながら、リョウさんに付いて行くことにしました。

 

 すると。

 

「今日はもう終わりか、お前ら。

 丁度固まってるうちにこれ、渡しておくぞ」

 

 店長さんが現れて、封筒を差し出してきました。

 

「お待ちかねの給料だ。

 はい、ぼっちちゃんの分。来月はもう少し入ってね」

「あっありがとうございます!!」

 

 封筒を開けると、中には諭吉さんのお顔が。

 一万円。たった一万円だけど、これは私の努力の結晶だった。

 

「軍資金も手に入ったし、どこかでランチでも食べよう」

「わ、わかりました!!」

 

 そうしてリョウさんに付いて行った先は、出来たばかりのオサレな喫茶店でした。

 私は席に案内される時もリョウさんの影法師のように存在感を消して、この私には場違いな雰囲気に委縮していました。

 

「何食べる?」

「あ、さ、サンドイッチで……」

「じゃあ私はカレーにしよう」

 

 注文も終わった。だけど、私はどう切り出せばいいか分からなかった。

 普通に話しかければいいじゃん、って思うよね? 

 

 それが出来たらコミュ障じゃないんだ!! 

 無駄に相手の顔色を窺って、今話しかけたら邪魔じゃないかなって、いつも思っちゃうんだ!! 

 なんだこいつって思われると思うと何もできなくなるんだ。

 でも結局それは、気遣いではなく他力本願。

 自分で切り出すのが怖いから、相手からコミュニケーションを取って欲しいという己の浅はかさだった。

 

(喋るのも苦手だけど沈黙も同じくらい嫌だ!! お願いします、何か喋ってください!!)

「……早く歌詞みせて」

「あっはい、お願いします」

「うむ、拝読いたす」

 

 結局私は、バンドに入っても何一つ成長できていなかった。

 

「おっおお……」

(珍しくうろたえている!?)

「これでいいんだ?」

(よくはないけどバンドの事を考えると……)

 あ、はい、傑作です」

 

 私が視線を逸らしながら言うと、リョウさんはノートの中身を指差しこう言った。

 

「個人的にこのサインはロックバンドにしては子供っぽい気がする。

 それにもっと作画カロリー減らした方がいいよ」

「そのページじゃないです!!」

 

 気を取り直して、私はリョウさんに歌詞を書いたページを見せた。

 

「ぼっち的にはこの歌詞で満足?」

「えっ、……あっはい……ヒットしたバンドらしいのがいいのかなって……」

「……」

(言えない……。自分をさらけ出すのが怖くて取り繕ったような歌詞になったなんて……)

 

 不安や恐怖。

 自分がどう見られるか、怖い。

 

(精神的に向上心の無い者は馬鹿だ。わかってるんだ、そんなこと)

「言ってなかったっけ。

 私、昔は別のバンドに居たんだけど」

(……喜多さんがそんなこと言ってたな)

「そのバンドの青臭いけど真っすぐな歌詞が好きだったんだ。

 でも売れる為に必死になってどんどん歌詞を売れ線にして、それが嫌になったから辞めたんだ」

 

 それは、よく聞く話だった。

 例えばインディーズ時代は尖った歌詞で歌っていたバンドが、デビューした途端につまらない歌詞の歌ばかり歌うようになった、と評するファン達の声。

 

 結局、誰かにとっての100点より、皆にとっての70点。

 ベストよりベターが受け入れられる。

 

「バンドそのものが嫌になってたところを、虹夏がさそってくれて」

 

 ──『だって私、リョウのベース好きだし!!』

 

「そう虹夏に言われて、もう一度バンドやってみようかなって」

 

 リョウさんにとって、虹夏ちゃんのその言葉がバンド人生を変えたように。

 

 

「個性捨てたら死んでるのと一緒だよ」

 

 その言葉は、虹夏ちゃんがリョウさんに送った言葉と同じように、私にとってはバンド人生の変わった言葉でした。

 

「リョウさん……」

 

 私はその言葉に心動かされたんです。

 

「前のバンドも結局解散しちゃったし、私はこのバンドには死んでほしくないな。

 だから、他人の顔色窺ってつまんない歌詞書かなくて良いから。

 ぼっちが好きなように書いてよ。皆ぼっちがいいと思ったから頼んでるんだ」

 

『私は私自身さえ信用していないのです。つまり自分で自分が信用できないから、人も信用できないようになっているのです。自分を呪うより外に仕方がないのです』*1

 

 それが私の本質だった。

 

「け、けどそうすると根暗でどんよりとした歌詞が……」

 

 でも私の人生は、私に積み重なった呪いと同じ。

 だからどこまでも私は自分に否定的だった。

 

「でもそれ、リア充っ子に歌わせたら面白くない?」

「え……」

 

 脳裏に浮かぶ、喜多ちゃんが笑顔で中指を立てて呪詛めいた歌詞を謳う姿が!! 

 

(私を誰も必要としない、だから~私もお前ら全員必要としない~♪)

(毎日一人呪っていくね、卒業式は私ひとり、いえ~♪)

 

(いやいや、流石にここまで酷い歌詞は作らない……はず!!)

(曲名は「主席卒業」かな)

 

 私は不穏な妄想を切って捨てた。

 

「バラバラな人間の個性が集まって、それが一つの音楽になるんだよ」

 

 だけどリョウさんは、みんなは、そんな私が良いと言ってくれた。

 それが私にとっては救いだったのです。

 

「そろそろ出ようか。午後も練習だし」

「あっはい。(リョウ先輩ってしっかりした人だったんだ……)

 

 この場合における、しっかりしたの定義は、確固とした自分があること。

 普段の虹夏ちゃんとのやり取りから垣間見えるズボラな部分では無いったら無いのです。

 

 ちなみに、この後。

 

「ごめん、おごって」

「ええ!? さ、さっきお給料貰ったのでは!?」

「実は欲しい楽器があって……手持ちとお給料合わせたらギリギリみたい」

(生き様が崖っぷちすぎる!?)

 

 この後先を考えてない生き方、実にロックなリョウさんだった。

 彼女は一応尊敬できる先輩だけど、この部分だけは真似しまいと思う私でした。

 

 とりあえず、来月に返してもらう約束でこの場はおカネを貸してライブハウスに戻りました。

 

 そこで更なる悲劇が巻き起こったのです。

 

「ごめーん、ライブ代徴収するの忘れてた!!」

 

 その額、ひとり一万円。

 

「聞いてください、新曲「さよなら諭吉」……」

「私だって心苦しいんだよー」

「ねえ、虹夏。欲しい楽器あるから私の分は来月払うね」

「却下」

「先輩ッ、良ければ私の分を使ってください!!」

「本当に貢がないの、喜多ちゃん!!」

 

 私の努力の結晶が消えていきました。

 しかし、同時にこうも思ったのです。

 

(でもまあ、ここでバイトするだけで毎月ライブ代は稼げるんだし、良いか……)

「えー!! アルバム創るのってそんなにお金かかるんですか!?」

 

 そんな私の甘さを引き裂くように、喜多ちゃんの悲鳴じみた声が聞こえました。

 どうやらこれからの必要経費について虹夏ちゃんに尋ねていたようでした。

 

「うん、せっかくだからライブの物販で置いてみたいけど、スタジオ代で五万から十万円は掛かるし、それも一発録りが前提だからね。もう一日掛かると費用は嵩むから」

「深夜料金なら安くなるところもあるけど、私達学生だから」

「あとMV撮影も結構おカネ掛かるよー」

 

 虹夏ちゃんとリョウさんがそんな辛い現実を叩きつけてきました。

 

「バンドってお金掛かるんですね。

 じゃあ夏休みは別のバイトも増やさないとですね!!」

「……」

「だね、みんなで海の家でバイトしちゃう?」

「いいですね、海!!」

 

 二人がバイトの話で盛り上がっている横で、私は絶望のどん底に突き落とされた気分でした。

 海でバイト? そんなの絶対無理!! 

 

(ダメだ未成年には貸してくれない……肝臓売りにいかないと……)

(いや、そこまでしてバンドに尽くさなくて良いから!!)

(どどど、どうしよう、後藤さんが早まる前に止めないと!!)

 

 私が必死に消費者金融を検索していると、バイトの話で盛り上がっていた二人がこっちを向きました。

 

「あッ、ぼっちちゃんは海でバイトはダメそうかな!!」

「そ、そうですね!! 

 とりあえず、物販は例の結束バンドで今は我慢しましょう!!」

「あ、ああ、あのぼったくり適正価格の……」

 

 あれ、私の台詞が改変されてる!? *2

 

「虹夏は年内にアルバム出したいって言ってたけど、そんなに早足にならなくてもいいよ」

「うーん、そうだね!! 目標は大事だけど、まずは地道にファン獲得しながら活動しようか!!」

「ファンが増えたら、マネージャーをやらせてって言ってくれる人も出てくるかもしれませんね!!」

 

 喜多ちゃんはバンド活動で人気が出たらの想像に目を輝かせていました。

 いや、どちらかというとそれって喜多ちゃんみたいな人では? 

 普通はギターボーカルを担当するまでバイタリティは無いと思うな。

 

「それ、女性関係で揉めて解散フラグ」

「こらリョウ!! 不吉な事言わないでよ!!」

「マネージャーは女の人にしないとですね……」

 

 バンドとして人気が出て、ちやほやされる。

 そんな未来をみんなで想像する。

 本当に楽しい時間でした。

 

「ぼっちちゃんは人気が出たらどうする?」

「わ、私ですか? 私は、えーっと──―」

 

 

 

 §§§

 

 

 今日の練習が終わりました。

 私は明日も学校が有るので、早めに帰宅しました。

 

「リョウ、今日はぼっちちゃんと何を話したの?」

「後藤さんだけ、ズルいです!! 先輩、後で一緒にランチに行きましょう!!」

 

 虹夏ちゃんと、まだライブハウスに残っていた喜多ちゃんがそんなことをリョウさんに聞いたのです。

 

「別に。ちょっとぼっちのことが分かっただけ」

「ふーん。ぼっちちゃんって心の中は丸見えなのになかなかこっちに心開いてくれないからねぇ」

「ホントですよね。心の中って、結局は自分で考えをまとめたりしますし、客観的に見ると意外としっちゃかめっちゃかなんですね」

 

 三人が私と一緒に過ごすようになって、抱いた感想がそれでした。

 

「それで、リョウから見てぼっちちゃんはどんな子?」

 

 虹夏ちゃんの言葉に、リョウさんは僅かに逡巡すると。

 

「人間を愛し得る人、愛せずにはいられない人、それでいて自分の懐に入ろうとするものを、手をひろげて抱き締める事の出来ない人、──これがぼっちであった」*3

 

 そう二人に答えたのでした。

 予想外の答えにぽかんとする虹夏ちゃんと、詩的ですね、と褒め称える喜多ちゃん。

 

 それだけ言い終えると、またいつものようにリョウさんは寡黙に一日を終えたのです。

 

 

 

 

*1
夏目漱石「こころ」より抜粋

*2
ぼざろグッズの公式ネタ。→ソース

*3
夏目漱石「こころ」から引用




最近仕事が変わったので慣れるまでなかなか執筆する気力が湧きませんでした。
ムラのある作者なのです。悪しからず!!

次回はオーディションまで終わらせたいですね!!
ではまた、次回!!
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