サトラレ ―後藤ひとりの場合―   作:やーなん

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拙作はアニメにならってぼっちのモノローグで地の文を表現していたのですが、その方がぼっちの奇行を説明するのに台詞の保管になると思ったからです。

ですので、ぼっちにサトラレの自覚はありません。
地の文のぼっちは今の時間軸の彼女ではありません。

ただ、流石に反省してぼっちが登場しないシーンは普通に三人称視点で描写しようと思います。今回みたいに。

では、本編どうぞ!!



会議は踊るよ

 

 

 

 星歌は、面倒なことになったな、と内心毒づいた。

 彼女は今、下北沢の近くの高級ホテルにやって来ていた。

 

 結束バンドのオーディション当日だが、当然ながら営業は出来なかった。

 その理由を彼女は、ひとりに計画停電があるのを忘れてた、と伝えて帰す羽目になった。無論、その日の本来の営業で予想される利益や出演者にも補填される運びになる。

 

 サトラレ対策委員会の送迎によって彼女が到着した頃には、既に高級ホテルのワンフロアが貸し切られ、黒塗りの高級車が駐車場に並んでいた。

 

 彼女が待機している間にも、政府高官らしき老人たちが次々に会議室に入室してきた。

 

 そして、会議室に約数十人が集まると、話し合いが始まった。

 

「では、概要についてご説明します」

 

 後藤ひとり担当の役人が、進行役となって資料を配る。

 

「本日午後四時半頃、ライブハウス「STARRY」を中心に、サトラレ後藤ひとりの思念波が広範囲に拡散。

 その影響範囲は約半径一キロに及び、その範囲の人間に影響を及ぼしました」

「ほぼ下北沢全域だな」

「ええ、下北沢周辺地域はおよそ30分の間、都市機能がマヒしました。

 人々は彼女の思念波の影響を受け、軽度の躁状態になりました。事態は既に収束しています」

「人的被害は?」

 

 警察庁の官僚が問うた。

 

「奇跡的に、ゼロとしか。

 住人にインタビューしたところ、運転中だったが気分がよくなって歌いたくなった、昔を思い出して歌いたくなった、身体が躍り出した、と多少個人差はあるようです」

「精神的に高揚したサトラレの思念は数十キロの範囲に伝搬することもある。よくもその程度ですんだものだ」

「我々は彼女が、おとなしいサトラレだと聞いていたのだが」

 

 防衛省のお偉いさんが、話が違うとでも言いたそうに眉を顰めていた。

 

「ええ、彼女の思念波の影響範囲は、普段は約10m程度。

 サトラレに目覚めた幼児でさえ、その倍の範囲は伝搬します*1

「思念の伝搬距離が圧倒的に短い故に、両親の希望により引っ越しもしなかったそうだね」

「はい、ご近所も理解のある方々です」

「今回の一件は、事前に防げなかったのかね?」

「ひとえに、我々の力不足です」

「止めたまえ、責めてはおらんよ。相手は人間なのだからな」

 

 頭を下げる役人に、お偉いさん達は責任を追及する姿勢を見せなかった。

 

「問題は、今回の再現性があるかどうかです」

 

 科学技術庁の官僚が言った。

 

「今回は奇跡的に被害が起こりませんでした。

 いえ、被害が発生せずとも、都市機能が停止するだけで一秒ごとに計り知れない経済的な損失が発生します。

 我々は彼女の思念波に対して、実験を提案します」

「具体的には?」

「それについては、そちらにある後藤ひとりさんのアルバイト先のライブハウスのオーナーである伊地知さんにご協力をお願いするつもりです」

 

 星歌に無数の視線が向けられる。

 早く終わらないかな、と思いながら彼女は軽く会釈をした。

 

「後藤ひとりさんは将来的に大舞台でのライブを望んでいます。

 彼女の演奏によって引き起こされた思念波が、彼女のバンド仲間以外でも発生するのか確かめなければなりません」

「予算の増額を検討せねばならないな……」

「人員も追加で……」

 

 会議は続いて行く。

 それを星歌は欠伸をしながら見ていた。

 

 

 

 そして、翌日。

 

 

「えー、検討に検討を重ねた結果、お前達個々人の実力を見ることにした」

 

 今日は幸いにも日曜日。

 星歌は結束バンド一同をライブハウスに集めていた。

 

「えー、また?」

「お姉ちゃん、なんですぐにライブに出してくれないの!!」

「も、もう一回ですか!?」

(あば、あばばばばば……)

 

 事前にひとり以外のメンバーには通達済みであり、今回の実験体は緊張して痙攣していた。

 

「やかましい。とりあえず、一人ずつこいつを付けて演奏しろ」

 

 星歌はヘッドホンとアイマスクを用意し、それをまず最初にリョウに突き付けた。

 

「ほら、順番にやれ」

 

 そうして、リョウ、虹夏、郁代と順番にヘッドホンとアイマスクをして演奏を行った。

 

「うわーん、リョウ先輩、ミスいっぱいしちゃいました!! 慰めてください……」

「よしよし……」

 

 そして、実験の本番。ここまではひとりに違和感を持たせないための茶番。

 

「はい、後藤さん。次よ」

「あッ、はい」

 

 郁代から道具を受け取り、ひとりはヘッドホンとアイマスクを装着した。

 

 現場の全員が、アイコンタクトをした。

 

「ぼっちちゃーん!! 一回それ外して!!」

 

 虹夏が大声でそう言った。

 しかし、ノイズキャンセリング機能で機材の音しかひとりは反応できない。

 

 それを確認すると、舞台袖から三人の大人が現れた。

 

「ほ、本物だ、あの有名バンドのメンバーです……」

「あとでサイン貰おう」

「気持ちはわかるけど、ほら、こっち!!」

 

 彼らは技巧派で有名なバンドのメンバーで、彼女達のそれぞれの楽器を受け取ると、ひとり以外の結束バンドのメンバーはステージを下りた。

 

 ドラマーが、スティックを鳴らす。

 それを合図に、演奏が始まる。

 

(……あれ?)

 

 彼らは事前に結束バンドの演奏が録音されたものを聞いて、各々のメンバーの癖まで再現された完全コピーの演奏。

 

 リョウと虹夏の息の合わせ方、郁代の初心者から脱したばかりの演奏技術も、完全に再現されている。

 

(みんな、どうしたんだろう……)

 

 だというのに、後藤ひとりは気づいた。

 バンドメンバーが入れ替わって演奏しているという、小さな違和感を。

 

(何だか、いつもと違うような……)

「絶対音感だ」

「えーと、絶対音感っていうと、あれですか? 有名な音楽家が持ってるっていう」

 

 リョウの呟きに、郁代が聞いたことのある単語に反応した。

 

「うん、一般的に絶対音感って音の高低差を直感的に把握する能力って言われてる。

 これは訓練によって後天的に会得できるって言われているけど、幼少期にしか身に付かないって聞いたことがある」

「え、ぼっちちゃんがギター始めたのって、中学の頃だよね?」

「うん、不可能じゃないと思うけど、かなり難しいと思う」

 

 まさか中学時代に自力で絶対音感を身に付けたのかと、虹夏は驚いた。

 

「本当に、努力の天才なのね、後藤さん」

 

 郁代はひとりの演奏に注力する。

 もう彼女の視線に有名バンドのメンバーたちは映っていなかった。

 

 演奏が終わる。

 有名バンドのメンバーたちは、速やかに楽器を返して舞台袖に去って行った。

 

「あ、あの、これ、外して良いですか?」

「あッ、待ってて」

 

 虹夏がひとりのアイマスクとヘッドホンを外した。

 

(みんなどうしたんだろう。昨日の今日だから調子悪いのかな……)

「よし、今度はそのまま演奏しろ」

 

 ひとりが違和感を抱く前に、星歌は言った。

 

「次は本番のつもりで演奏しろ、次でライブに出すか決める」

(ひ、ひぃ、昨日みたいに吐かないようにしないと!!)

 

 彼女に発破をかけるのも忘れない。

 四人が演奏を始める。実験は最後の段階に至る。

 

 

 そして、また五分ほど下北沢は都市としての機能を失った。

 

 

 

 

 

 その日の午後。

 下北沢近くの高級ホテル、後藤ひとり対策本部では報告が行われていた。

 

「……事前に交通規制をしていたのもあり、此度の実験では交通網の混乱は見られませんでした」

「事前に想定されていた通り、彼女の思念波の悪影響は見られませんでした」

「こちらの指定した楽曲での演奏では、思念波の拡散は見られなかったことから、拡散拡大は以下の条件が揃った場合にのみ発生すると思われます」

 

 後藤ひとり担当役人が、ホワイトボードに条件を書き記した。

 

 ・後藤ひとりが作詞した歌詞の楽曲であること。

 ・長期間共に練習をしたメンバーと演奏すること。

 ・集中力が高まる状況。後に引けない、追い詰められる等々。

 

 以上の条件を満たした場合、極端な思念波の拡大と感情の伝搬が発生する、と。

 

 

「では、ある程度のコントロールが可能である、ということだな?」

「はい。このような事態が常態化していたのならば、彼女が練習中に同様の現象が何度も起こっていたと思われます」

 

 その言葉に、高官たちから安堵のため息が漏れた。

 

「……やはり、彼女にとってバンドを続けるのはリスクなのではないかな?」

 

 高官の一人がそう言った。

 

「しかし、機密保持の観点からサトラレにはできないとされた医師になったサトラレも居る。

 彼だけは良くて、彼女はダメと言うのも……」

「うーむ……」

 

 お偉いさん達は悩まし気に頭を捻っていると。

 

「実は、もうひとつご報告があります」

「なんだね?」

「いくつかのインタビューの結果をご覧ください。

『急に昔両親と歌った歌を思い出して、久しぶりに部屋の外に出た』

『喧嘩ばかりしてたお母さんに謝れて、外に出たくなった』

『本当に久々にやる気が出た。何かをしたいと思った』

 いずれも、彼女と同年代の引きこもりや、鬱病の診断を受けた人たちの言葉です」

「彼らで実験したのか!?」

「いいえ、偶々彼らが下北沢近辺に居住していただけです」

 

 役人は素知らぬ顔でそう答えた。

 

「これが、彼女の国家財産的な価値だと進言致します」

「……」

 

 これには彼ら高官たちも悩んだ。

 日本には約百五十万人近いひきこもりが存在しているという。

 鬱病も百万人以上だ。それの治療に役立つのなら、それは間違いなく国家的な利益になる。

 

「……彼女のバンド仲間を呼びたまえ」

 

 結局、その場で彼らは結論を出せなかった。

 

 

 

 

「見てくださいリョウ先輩!! このテリーヌ凄くキレイですよ!!」

「はむッ、はむッ、はむ!!」

「……リョウ、気持ちは分かるけどもうちょっと上品に食べなよ」

 

 一方その頃、ひとりを除く結束バンドのメンバーは高級ホテルの一階のレストランでビュッフェを食べていた。

 当事者として意見を求められるかもしれないから、と昨日の星歌と同じように待機中だったのである。

 時間的に夕食の頃合いなので、役人の厚意で高級ビュッフェを奢って貰っていた。

 

「伊地知先輩ももっと食べないと損ですよ!! 料金表みたらスゴイ高かったんですから!!」

 

 自分が取り分けた皿の料理の写真映えする角度で撮っている郁代が、あんまり食欲が無さそうな虹夏にそう言った。

 

「わかってるんだけどさ……ぼっちちゃんの事が心配でさ」

「……そうですね」

 

 基本的に、対策委員会はサトラレに積極的な干渉はしないことになっている。

 しかしサトラレが危険に陥ったり、逆に危険な行動をする場合はそれに限らない。

 

「もしかしたら、バンド、やれなくなるかもしれないんでしょ?」

 

 虹夏は役人から事前にそれを聞きだしていた。

 

「本当に、サトラレの影響力は凄いんですねぇ」

 

 郁代は未だにその影響力の一端を担ったことに実感が無いようだった。

 当然だろう、自分と一緒に演奏をしたら、街が停止したと言われたって現実感なんてあるわけがない。

 

「それよりも、なんでしょう。

 さっきから何度も下の名前を誰かに連呼されてるような気が」

「まあ、私達が気にしたところでどうしようもないよ」

 

 なぜか身震いしている郁代を他所に、リョウは一通り高い料理を梯子しおえると、そう言った。

 

「それに、ぼっちがギターを辞めるとは思えないし」

「…………そうだね」

 

 この時ばかりは能天気な幼馴染が羨ましい虹夏だった。

 そうしていると。

 

「皆さん、よろしいでしょうか。

 上の者達が皆さんのお話を聞きたいと」

 

 役人が現れ、そう告げたのだ。

 

 

 

 

(うわぁ、ドラマみたいです……)

(すごい大事になってる……)

 

 三人はずらりと並んで座る年上の人達の大人たちに気圧されていた。

 

「そんなに緊張しなくて構わないよ。

 君たちは後藤さんと一緒にバンド活動をして、どう思っているかな?」

「えーと、すごく楽しいです!! 後藤さんもそう思ってくれていて、やりがいを感じてくれています!!」

 

 郁代が質問に元気よく答えた。

 

「はい、ぼ……ひとりちゃんも初めて目標が出来たって、言っていました。私達もこれからのライブに向けて頑張るつもりです」

「右に同じく」

 

 虹夏は適当な返事をするリョウを横目で睨んだ。

 

「……なるほど」

「やはり、彼女達以上の適任は……」

「しかしまだ三人とも未成年だ……」

「だが……」

「そうはいっても……」

 

 大人たちは子供たちを他所に話し合いを始めた。

 

「お、お願いします!! ひとりちゃんはバンドを組むのがずっと夢だったんです! それを奪わないであげてください!!」

「伊地知先輩……」

 

 疎外感を誤魔化すように、虹夏は大声で頭を下げた。

 郁代はその行動に驚いた。

 そして、それに追従するように声を挙げる者が居た。

 

「我々からもお願いいたします」

「君は?」

「私は後藤さんの小学生時代を担当していた者です」

 

 それを聞いて、三人はあの人が、と思った。

 

「後藤さんは幼少期から、自分から何かをしたい、と言う子ではありませんでした。

 そんな彼女の初めての自己主張なのです。どうか、お願いします」

 

 彼も頭を下げた。

 

「……君たち、後藤さんのバンドメンバーになると言うことは、君らも我々側になるということだよ。

 彼女と接することに常に気を張る必要がある。

 友人として、それは辛いのではないかね?」

 

 それは三人を、心から労わる言葉だった。

 

「それについては、その……ひとりちゃんは、誰かが面倒を見てあげないとって言うか……」

「そうですよね!! 後藤さん、いつもジャージばかりだし、今度一緒にオシャレしたいです!!」

「多分、そう言うことじゃないと思うよ、喜多ちゃん……」

「ぼっち、面白いし」

「あんたはちゃんと答えろ!!」

 

 虹夏はバンド仲間の自由さにツッコミの連続だった。

 

 

「……わかりました」

 

 高官たちのまとめ役のような老人が、結論を出した。

 

「彼女の演奏を聞かずに判断するのは早計でしょう。

 各々、次のライブの日のスケジュールを開けることは可能でしょうか?」

 

 彼の言葉に、各々秘書たちに確認を取った。

 

「では、それで行きましょう」

 

 そう言うことになった。

 

「ありがとうございます!!」

 

 虹夏はもう一度頭を下げた。

 

 

 

 

 さて、ライブに出演することは決定した結束バンドの面々。

 

 だが、次なる難題が直面することになる。

 

(父!! 母!! 妹!! 犬!!)

 

 そう、チケットノルマ一人五枚。

 当然ながら、ひとりの思考は筒抜けなのだ。

 

(い、犬って……)

「……ぷッ」

(後藤さん、急にどうしたの!?)

 

 今日も後藤ひとり対策会議が繰り広げられることになるのは、言うまでも無かった。

 

 

 

 

 

*1
サトラレは基本的に常時50メートルほど思考が伝搬するとされている。




ちなみに、前回ぼっちが山田と普通に思考を読んで会話してましたが、それは山田がロックなだけで、普通に止めろと言われる案件です。

皆さん、久々の更新なのに覚えてくれて嬉しいです。
お早めに次話を投稿できたのは皆さんの応援のお陰です。

ではまた、次回!! 次もなるべく早く書くので、また会いましょう!!
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