ぼっち「(イキってすみません!!)」
大天使「(流血沙汰もロックだからね!!)」
山田「(今日から私は草を食べて過ごす)」
キターン「(キターン!!)」
赤の背景だけ見えにくいから喜多ちゃんはこんな感じを予定してます。
※原則として、色が無いボッチちゃんの「( )」内は周囲に伝搬してません。
「(押し切られて来てしまった……)」
「あはは、ゴメンね急で。無理な事頼みこんじゃって?」
「(ひえ、気を遣わせてしまった!!)
ご、ごめんなさい!!」
私は下北沢なんていうオシャレタウンに来て、ずっと顔を俯かせっぱなしだった。
時折キョロキョロ周囲を窺っては、町の陽の雰囲気に圧迫感を感じていたんだ。
「ううん、全然、気にしないで!!
それよりさ、下北沢にはよく来るの?」
わ、話題が途切れない!!
これが真の陽キャなのか、と私は頭が真っ白でした。
「あッ、いえ、下北沢みたいなオシャレな人たちの集う街なんて全然……」
「あははッ、そんなことない……よ……」
なぜか虹夏ちゃんは口ごもった。
何事かと思った私が顔を上げると、町中にはなぜかオシャレタウンのピカピカファッションばかりの通行人に交じって、厳つい黒服黒サングラスの人たちがそこら中に散見された。
車道をゆっくりと自衛隊の装甲車みたいな車が通り過ぎ、中の隊員さんたちは周囲にギラギラと目を光らせていた。
「あれー、何か今日はイベントでもあるのかな」
「さ、バラエティの撮影かなんかですかね……」
なんか芸能人が逃げて黒服が追いかけるってバラエティ番組があった気がする。
そう言えば小学生や中学生の頃の修学旅行に行った時も見かけたような……。
「オペレーション・サマースクールデイズ、実行せよ」
『了解』
その時でした、付近の放送機器から流行りの音楽が流れ始めたのは。
「あッ、ひとりちゃん、この曲知ってる?
……あれ?」
「(青春、夏休み、青い海、ひと夏のフォーリンラブ!!
かっ、怪電波ッ、突如とてキラキラピカピカの怪電波があぁあ!!)」
「大丈夫ひとりちゃん!? なんか溶けてるよ!?」
怪電波、否、急に青春真っ盛りのウルトラ陽キャソングを毒電波と共に流され、聞かされた私は跪いて頭を抱えてしまいました。
「(え、なにあの人たち。プラカード?
『君の前に居る子はサトラレです』って、ええ、うそ!?) 」
「はえ?」
虹夏ちゃんが何やらビックリした様子で、私が振り返ると、何やらプラカードみたいなものを抱き抱えた黒服の人がそそくさと立ち去るところでした。
「(いったいどうしたんだろ……)」
「(うわ、ホントだ、喋ってないのに声が聞こえる……俯きがちだったから全然気づかなかった!!)
あッ、えーと、何でもないよ!!」
「あッ、そうですか……。
(情緒不安定だけど大丈夫かな、よっぽど今日のライブが大事なんだろうな)」
「(情緒不安定は君に言われたくないよ……)」
虹夏ちゃんはなぜか、おほん、と咳払いをした。
「何でも無いよ、さあ、行こっか」
「は、はい」
「(そう言えば新学期の挨拶で注意があったなぁ、秀華高校にサトラレが居るから気を付けろって。
いや、気づかなかった私も私だけど、もっと伝え方あるよね!! なんであんなにアナログなの!?)」
前を向いた虹夏ちゃんに追従する私。
オシャレタウンの圧力から逃げるように彼女の背中にぴったりと付いて行く形になりました。
すると、自然と虹夏ちゃんのサイドテールにまとめられた髪の毛が鼻先を掠ったのです。
「(虹夏ちゃんはオシャレで良いなぁ、まさに下北のバンド女子って感じだし)」
「うおっほん」
「(それに比べて私は芋ジャージだし隈スゴイし猫背だしいつも押し入れに居るからかび臭いかもだし……あ、いや防虫剤の臭いだ。それに引き換え虹夏ちゃんはメッチャ良い匂い……本来あるべき女子高生のミルクの香りだぁ)」
私が自分のジャージの臭いを嗅いで勝手にコンプレックスを刺激されていると、ライブが近いから緊張してるのか頬を赤らめている虹夏ちゃんがおもむろに振り返って来た。
「あ、歩くペース速い?」
「あッ、いえ」
「今日出演するライブハウスはスターリーってところでね、私が二階に住んでて店長がうちのお姉ちゃんなんだ。そこで普段は私もバイトしてて」
「(改めて私が人前に出てライブするなんて、考えただけで心臓が……!!)」
「(あ、ダメだ聞こえてないし、目が合わない……)」
後ろ向きで歩きながら私の顔を覗き込もうとするみたいに見上げてくる虹夏ちゃんに、私は条件反射で顔を背けてしまいました。
だって正面から顔を見るとか難易度高いし。
「えー、と。ひとりちゃんって何か運動やってるの?」
「い、いえ、でもなぜかドッチボールだけはなぜか最後まで残ってました……」
球技大会、学校行事、蘇るトラウマ!!
「(そう言えば小学生の頃、組対抗のサッカーの試合でクラスみんなで作戦を話し合うってことになって、なぜか私が咄嗟に考えた作戦が採用されちゃったな。ほらだって、誰だって得意不得意があるし、前半は運動が苦手な子が防御に徹して後半は得意な子が点をとれば勝てるんじゃないかなって、そしたら当日に1-2で負けて、運動部の子が運動場の隅っこで泣いててうわあああああぁあっぁ!!)」*1
「(しまった、地雷踏んだ!?)」
そうして私は自ら心を閉ざした。
陰キャがクラスに交じって団体行動しても何も良いことなんて無いんだ。
いや、ダメだ。
これから私はライブをするんだ。こんな調子だったらダメだ。
思い出せ、自分。
妄想で何千回とした文化祭ライブを!!
そしてグレードアップしていく私の妄想。
「(初のワンマン……Z-PPER……スーパーアリーナ!!)」
ひとり!! ひとり!!
「私は武道館をも埋めた女……」
「(急に変な事言い出した!?)」
「はッ!?」
私は妄想が口に出ていたことに気づいて気恥ずかしさから俯いてしまいました。
「(頼む相手を間違えたって思われてませんように)」
「(リョウといいひとりちゃんといい、私って見る目ないのかな……)」
§§§
「着いた、ここだよ~」
程なくして、ライブハウス・スターリーに到着しました。
その魔境のような雰囲気に慄いたと思ったら、中は閉塞感とアングラ感に満ち溢れてて自室の押し入れみたいだったりで安心しました。
自分の生息域だと安心した私は舞い上がってイキったりしたけど、ピアスごりごりに付けたPAさんに挨拶されて委縮したりと精神的に右往左往してたわけだけど。
「やっと帰って来た」
私はこの日、もう一人の仲間と出会えたんです。
「リョウ!!」
彼女を認めた虹夏ちゃんは声を上げた。
「この子はベースの山田 リョウだよ」
「こんにちわ」
これが私とリョウさんの初めての出会いでした。
「こっちは後藤 ひとりちゃん。
奇跡的に公園に居たギタリストなんだけど……」
虹夏ちゃんはこっちを見た後、意味あり気にリョウさんにアイコンタクトを送った。
「大丈夫。さっきここにも役人さんが来て、“イベント”の告知に来たから。店長も把握してる」
「あ、そっか。良かった」
「(やっぱり外で何かイベントがあるのかな)」
「(これがサトラレ……、こんな風に聞こえるんだ)」
なぜか、じぃっと私の方を睨むように見るリョウさん。
「(に、睨まれてる!?)」
「あッ、リョウは表情が出にくいだけだから。
変人って言ったら喜ぶよ。ベーシストだし!!」
「嬉しくないし」
それはベーシスト=変人ポジションって言うテンプレって奴でしょうか。
でも一説に寄るとそれにはドラムも含まれるとか。ああいや、そんなこと、この天使的に優しい虹夏ちゃんには失礼か。
そんなことを言いつつもリョウさんはちょっと嬉しそうでした。
「まだ時間あるからスタジオ入って練習しよう。店長も本番まで練習しとけって言ってたし。
あ、そう言えば、店長が虹夏が勝手に抜け出して怒りながら買い出し行った」
「ええ!? 帰ってくる前にスタジオ行こう!!」
もう早く言ってよばかばかアホ~、と虹夏ちゃんは幼稚園生並みの語彙力でリョウさんの肩をぽかぽか罵りながら叩き始めた。
そんな彼女を、ぷっとほぼ無感情に見える表情で面白がっているリョウさん。
「ひとりちゃんもほら!!」
「あっはい」
私は二人に付いて行く形で奥のスタジオへ向かった。
現実は怖い。
でも、バンドを組めたらこれからとっても楽しいことが待ってそうな気がする!!
────と、思っていた時期が私にもありました。
「これ、今日のセットリストと
「あ、えっと、バンドメンバーは……」
バンドの基本的な構成メンバーは、ボーカル・ギター・ベースにドラム。
それにキーボードが加わったり、ギターやベースがボーカルを兼任したりと様々だけど、もう一人くらいメンバーが居てもおかしくは無いと思ったんだけど。
「これで全員だよ。
今回、私達インストバンドだから」
インストバンド。インストゥルメンタルバンド。楽器だけで構成されるバンド。
楽器に乗せられた感情やハーモニーの奥深さを楽しむ、海外では特に人気だそうだ。それだけに演奏者の技量がもろに出てしまう。
虹夏ちゃんから受け取った楽譜を見て、この曲ならいけると思った私は同時にそんな重圧を感じていた。
「(でも私、ギター上手いらしいし、任せてください!!)」
「何で突然ゴリラの真似を……」
「ぷっ。(心の中と行動が一致してない、面白い)」
バクバクする心臓に活を入れるように、何度も胸を叩きながらそう思った。
頭からやってみよう、と練習の構成を話す虹夏ちゃんだったけど、私はとにかく上手くギターを引こうと頭がいっぱいいっぱいだった。
自分の自信の無さを虚栄心と期待で無理やり、二人からの賞賛を皮算用していました。
「それじゃあ、行くよ」
「(や、やってやる!!)」
§§§
バンド経験者の虹夏とリョウはイントロの段階で察した。
──突っ走りすぎだ、と。
演奏中も普段からアイコンタクトで息を合わせる二人は、ひとりの演奏に置いてきぼりにされた。
まるで小学校の徒競走で、最後はみんなでゴールしようね、と先生に言われて手を繋いで全員でゴールしようと走ったのに、一人だけ全部無視してゴールに向かうような、そんな空気の読めない、破滅的な演奏。
「(だけど!!)」
「(これはッ!!)」
──引き込まれる!!
圧倒的、才能の暴力。
徒競走でみんなでゴールしようとしているのに、一人だけ綱引きをして全員を引きずりこもうとするような。
或いは、一人だけもう一周して全員がゴールする頃に彼女も同時にゴールするような。
「(これが、
「(体が、音で、芯から痺れる!!)」
滅茶苦茶で、だから感情を揺さぶる
技量だけでは説明できない、魂の叫び声。
ひとりは今、演奏に全神経を傾けている。
極限の集中力。明鏡止水の境地。
だから心の声の伝搬など起こっていない筈なのに、まるで譜面と歌詞が感動と同期する。
最早、超能力じみたカリスマ、それはかつて存在した稀代のギタリスト達が持ち合わせていた人々を熱狂に駆り立てる脳内麻薬のオーバードーズ!!
演奏は、いつの間にか終わっていた。
「……」
「……」
虹夏とリョウはお互いに視線を交わす。
置いて行かれたと言うのに、敗北感や劣等感なんてまるで湧いてこない。
ただ、音楽は楽しい。ロックは素晴らしい。
そんな気持ちのいい清涼感だけが胸に満ちていた。
だが、それはそれとして。
「ど下手だ……」
「うん」
「うえぇぇ!?」
額面通り弾けば良い、それで成立するほどバンドは浅く簡単ではなかった。
サトラレは国家的財産レベルの才能なので、ぼっちちゃんの才能はブーストが掛かっています。
ちなみに頭脳の方も。(成績が上がるとは言っていない。
本編は牛歩ですが、その分ちゃんと描写したいので、ご了承ください。