サトラレ ―後藤ひとりの場合―   作:やーなん

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今回で、アニメ一話、漫画原作二話終了です。



初ライブ

 

 

 

 私は空いていたゴミ箱に永住することに決定しました。

 だってギターしか取り柄が無いのに、それもド下手って言われたら仕方ないよね。

 

 多分そのうち萌えないゴミとしてゴミ処理場に送られるんだ。

 きっとそこで焼却処分!! 

 わーい、お葬式の火葬代が浮くぞー。

 

 或いは泡になって消えたい。人魚姫みたいに海に飛び込めば泡に成れるかな。

 

(ななな、なんで、なんでなの?

私ギターヒーローで、登録者二十万人で、練習時間6500時間以上なのにぃぃい!!)

 

(説明しよう!!)

 

 そこでイマジナリーフレンドのギタ男くんが話しかけてきた。

 

(てか、ここに見に来てくれる人に、今更そんな説明必要無くない?)

 

 あっはい。

 

「どうも、コーラサワー後藤でーす」しゅわしゅわ

「第一話で主人公に倒されてかませキャラになりそうな人出てきた!!」

 

 脳内友人にさえ塩対応された私はゴミ箱という深海に沈むのでした。

 

「ねー、出てきて、本番始まっちゃうよ!!」

(てか、何気に凄いこと口走ってたけど……いや、口走ってた? この場合なんて表現すればいいんだろ)

「しょうがないよ、即席バンドなんだし!! 

 あたしだって、そんなに上手くないし!!」

「私は上手いよ」

 

 ここまでみじめだと逆に何だか笑いがこみ上げてきた。

 

「へ、へへへへ、へへへへ」

「とりあえずこっち向いて!! 

 現実逃避しないで!!」

 

 虹夏ちゃんの声が聞こえる。

 天使だからお迎えにきたのかな……。

 そうだ、どうせだからここで命を断とう。

 

「あっ演奏でもですけどMCも全くお役に立てないですし!! 

 あはは、私の命をもってハラきりショーでも……。

 っば、バンド名くらい覚えて帰って貰えるはず……」

「ロック過ぎる!!」

(ロックにはロックで応えねば無作法というもの)

 ひとりが野次られたら私がベースでぽむってするから」

「ベースってそんなにファンシーな音しましたっけ?」

 

 自分にまだツッコミが出来る元気が残っていようとは。

 

「流血沙汰もロックだからね!!」

「ロックだからしょうがない」

「ロック免罪符すぎる!?」

「それに、うちのバンド見に来るの多分私の友達だけだし!! 

 普通の女子高生に演奏の良し悪しなんて、わかんないって!!」

「私は分かる」

「リョウは普通じゃないから。こっちは友達私だけだし」

「ふへへ」

「そこで喜ぶか」

(お客さんに聞かれたら炎上しそうな発言……!!)

 

 私が二人のやり取りにそんなことを漠然と思っていると。

 

「虹夏、そんなに無理強いするもんじゃない」

「……あー、だよね。

 やっぱり強引だったよね、無理なお願いしてゴメン」

「あッ、いやそこは!!」

 

 二人の優しさに耐えきれなくて、気を遣わせちゃったのが情けなくて、なによりこのチャンスをふいにしたら私は一生押し入れの中で引きこもるしかなくなる。

 

「本当に、うれしかったんです、声かけられて。

 バンドはずっと組みたいと思ってて、でもメンバー集まらなくて、だから、普段カバー曲ネットにあげたり」

 

 最悪だ。

 陰キャ特有の前後の文脈が一貫してない上に聞かれても無い事をぺらぺらしゃべっちゃう奴だ。

 

「普段は何弾いてるの?」

 

 リョウさんは少しだけ労わるような声音で私の話題に乗ってくれた。

 

「あっいつ結成してもすぐ対応できるように、ここ数年の売れ線バンドの曲は全部弾けるように」

「うわ、すご!?」

「うん」

「いえ、全然。やっぱり私がバンド組むなんて……」

「売れ線のカバーばっか……。

 カバーと言えば一人すごい気になってる人がいるんだよね。

 ギターヒーローって弾いてみた動画専門のひと、知らない? 

 めちゃくちゃ上手いから聞いてみて、あとでURL送るよ!!」

「虹夏……」

(ギターヒーローって、私!?)

(私、って、ええ!?)

(この反応、やっぱり聞き流してたな)

 

 私が思わず顔を上げると、なぜか虹夏ちゃんは真っ赤な顔をしていた。

 

(ど、どうしよう、私本人に向かってなに上から目線で言おうとしてんだろ、はずかし……)

「ぷッ」

 

 なぜか虹夏ちゃんの肘打ちがリョウさんに決まった。

 

「私もおススメに上がってくるから何度か見たことあるよ……。すごく上手だった……」

「だ、だよねー!!」

 

 悶絶しながらだけどリョウさんも、褒めてくれた。

 すごく嬉しかった。

 

「えーと、何が言いたいかっていうとだね。

 あたし、ひとりちゃんの演奏に感動したんだ!!」

「え?」

「ひとりちゃんが本当に、たくさんたくさん練習したことが伝わって来たんだ。

 だから、今日がダメだからってバンドを諦めるのは早いって!! 私達も付いていけなかったし……。

 私はもっと、ひとりちゃんと一緒に演奏したいな」

「うん、私も」

 

 気が付けば俯いていた顔を上げていた。

 

(現実でなんて、誰も私に興味ないと思ってた……。

だけどこんな優しい人たちが私を見てくれていて、私なんかに声を掛けて、もっと一緒に演奏したいって言ってくれた……)

 

 ゆっくりと、決意と共に立ち上がる。

 

「あ、立った」

「よし!!」

(こんな奇跡、きっともう一生起こらない!! 絶対無駄にしちゃダメだ!!)

 

 弱い自分を奮い立たせるように、或いは何かに頼るように服の裾を強く握りしめた。

 だけど。

 

(がんばれ、ひとりちゃん!!)

(……頭では分かってる。でもやっぱり怖い。お客さんの視線に耐えられるわけが)

「怖いならこれに入って演奏したら?」

 

 リョウさんはなぜかスタジオの隅に置いてあった空段ボールを持って来た。

 

「あ、それならいけるかもです」

「えッ!?」

「わかった」

 

 私がそう言うと、リョウさんは事務所から取って来たカッターとガムテープで人が入っても大丈夫なくらいの大きさにして、顔を出す為の窓まで作ってくれました。

 

「い、いっつも弾いてる環境と同じです!!」

「どんなところに住んでるの!?」

 

 段ボールの中は暗くて狭くて、家の押し入れみたいで安心感に満ち溢れていた。

 これならできる。今私は世界の我が物にしたんだ!! 

 いざ行こう、ワールドライブに!! 

 

「み、皆さん、下北盛り上げていきましょー!!」

(少し気が大きくなった……)

 

 気合が入った私は段ボールの窓から顔を出した。

 

「そう言えば、ひとりちゃんってあだ名とかないの? 

 本名でライブ出る?」

「あッ」

 

 ライブと言えば、メンバー紹介。

 ファンはバンドメンバーを親しみやすい愛称で呼んだりするのが定番みたいなのだ。

 

「ちゅ、中学では「あの~」とか「おい」とかで……」

「それあだ名じゃなくない!?」

 

 虹夏ちゃんのツッコミもそこそこ、思案顔のリョウさんがこう言った。

 

「ひとり、……ひとりぼっち、ぼっちちゃんは?」

「デリケートなところを!?」

 

 あだ名……リア充グループ、友人グループ同士のお決まりの儀式!! 

 それをついに私にも!! 

 

「ぼぼぼぼぼっちです!!」

(喜んでるし、なんか涙出てきた……)

 

 なぜか虹夏ちゃんは目元を拭った。

 

「あ、そういえばまだバンド名を聞いてなかったです」

「うッ」

「結束バンドだよ」

 

 そのバンド名を聞いた私は、宇宙ネコみたいな表情になりながらその意味を咀嚼した。

 結束バンド。英名タイバンド。モノによっては五百キロ以上の物体を支えられる、あの便利アイテム? 

 

「ぷぷ、傑作」

(リョウさんのツボがいまいちよく分からない……)

「もう!! ダジャレ寒いし絶対変えるから!!」

「なんで、可愛いよね?」

「あ、はい……」

 

 この感じだとバンド名を命名したのは虹夏ちゃんなのでは? 

 これ、多分いい案がなかったからとりあえず適当に付けておいたパターンだ。それも結局この名前で浸透しちゃって変えるに変えられなくなるやつだ。

 

 すると、スタジオの外から「結束バンドさん、そろそろ出番です」という声が聞こえた。

 私は怖気づいて、思わず窓から段ボール中に顔を引っ込めようとするけど。

 

「大丈夫だよ!!」

 

 明るい虹夏ちゃんの声が、私を引き留めました。

 

「とにかく楽しく引くことを心がけようよ。

 音ってものすごく感情が表れやすいから。バンドとしての完成度を求めてい行くのは次からで全然良いよ、ね? 次頑張ろう?」

 

 私は、えも言えない感情で感動しました。

 本当に虹夏ちゃんは次を求めてくれている。

 私を、ここに居場所をくれる人だったんだって。

 

 

「初めまして、結束バンドでーす!!」

 

 そして、私は段ボールを被ったまま初ライブを行った。

 

 全く集中できなくて、いつもの実力を全然出せなくて最悪だったけど。

 でも、バンド組んで誰かと演奏するのってこんなに楽しいんだ。

 

 この日、私は知ったんです。

 一人で演奏するだけでは得られない、バンドの楽しさを。

 それを誰かと共有する素晴らしさと、尊さを。

 

 私、今日最高に輝い──。

 

 

──―てない!! 

 

 むしろ人生で一番みじめかも!! 

 

 二人は堂々とステージで演奏してるのに、私一人だけ段ボールに閉じこもって、これじゃあお情けで出演させてもらってるのと変わらない!! 

 

 これがバンドか? バンドマンか? ただの壊れたレコードと同じじゃないか!! 

 こんなものが私の描いていたバンドマンじゃあないぃ!! 

 

「ミスりまくったー」

「MC滑ってたね」

(きっと滑ったのは私の格好が寒かったからに違いない!!)

(そこまで思いつめなくても……)

(段ボール被って演奏とか、ロックだと思うんだけどなぁ。まあ私は絶対やらないけど)

 

 私は演奏の最中によれよれになった段ボールを脱ぎ捨て、決死の覚悟を決めて二人に言った。

 

「次のライブまでにはクラスメイトに挨拶できるようになっておきます!!」

「なんの宣言!?」

「目覚ましい成長……」

 

 リョウさんは私の決意にハンカチで目元を拭った。

 すると、虹夏ちゃんは手ごたえを感じたのか。

 

「よーし、今日はぼっちちゃん歓迎会兼反省会だー!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私の陰キャの魂が背中を引っ張った。

 今日はもう良いよね。だってもう頑張ったし。これ以上はキャパを超えてるって!! 

 

「きょ、今日はヒトと話し過ぎて疲れたので帰ります!!」

「ごめん眠い」

「え、えッ」

 

 し、失礼します、と言い残して私は逃げるように去って行った。

 

「全然結束力無い!?」

 

 そんな虹夏ちゃんの叫び声が聞こえたような気がしました。

 

 

 絶対コミュ障治して、ギターヒーローとしての力を発揮するんだ!! 

 虹夏ちゃん、リョウさん、結束バンドの為に!! 

 

 もう肌寒さも無い五月の夜の帰り道、私はそう誓うのでした。

 

 

 

 

 




Fate/CCCで、アンデルセン先生は物語は書きたい話と、書くべき話が有る、と話していました。
今回は作者として書くべき話でした。
なぜなら、二次創作として原作から変化が乏しい回だったからです。

二次創作は原作と言う素材を生かしつつ、いかにオリジナリティを加えて違和感を無くして書くものだと思っています。
これが原作沿い主人公視点の難しい所ですよね。
下手に省いたら主人公の心理描写が穴抜けになるんですから。

ですが、次回以降は大きな変化を与えるつもりです。
それではまた、次回をば!!

お楽しみに!!

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