感想欄で度々ぼっちちゃんがサトラレだと喜多ちゃん結束バンド入れるのかって心配がありますが、考えても見てください。
皆さんが護衛なら、酔っ払いの不審者を護衛対象に近づけますか?
路上ライブは……ダメそうですね……。
『今後のバンド活動についてみんなで話し合おう!!
明日ライブハウスに集合ね!!』
教えて貰ったSNSの結束バンドのグループチャットにそんな虹夏ちゃんのメッセージが送られたのは昨日の話。
「(と言われて来たけど、こんな芋娘が入ったらなんだコイツ的な目で見られる……。一斉に視線が向くのが嫌だ……)」
サスペンスやホラーでよくある大勢が一斉に主人公たちに視線を向けるアレ、映画でもトラウマになりそう。
と言うことは、私にとって人生とはホラーなのでは?
「(前は虹夏ちゃんと一緒だったから入れたけど……。誰か入らないかな、誰かと一緒に入りたい……)」
とか言いつつ、知らない誰かが入ろうとしたらテンパって結局入れないやーつ。
目的のコンビニに入ろうとした時とか、私ってば何かと理由を付けてその周辺をぐるぐるした後に入ったりするんだ。
「(あと五分経ったら絶対入ろう……いや十分、いや十五分……い、いっそのこと、ここでライブハウスの前に飾られたオブジェとして生きるのも!!)」
「ぼっちちゃん、早く入って!!」
あ、天使……。
虹夏ちゃんがリョウさんを伴って丁度やってきてくれました。
「と、言うわけで、第一回結束バンドメンバーミーティングの開催です、拍手拍手!!」
虹夏ちゃんたちのバイトの前の時間を利用して、ミーティングが始まりました。
流石、ほとんど自宅、ライブハウスの一角を借りられるなんてすごいな。
「あー、思えば全然仲良くないから何話せばいいか分からないや!!」
「(身も蓋も無い!?)」
「そんな時の為にこんなものを」
そう言ってリョウさんが取り出したのは、お昼のバラエティ番組で使いそうな一抱えもあるサイコロでした。
「(何かヤバそうなもの混ざってるけど……)」
その一面には『バンジージャンプ』とハッキリと書かれてました。
これはツッコミ待ちなのだろうか。
小粋なジョークで会話を円滑にするという会話術なのかな。
虹夏ちゃんがサイコロを投げると、最初の話題は学校の話になりました。
「あッ、そう言えば二人とも同じ学校……」
「そう、下高!!」
「二人とも下北沢に住んでるから近い所選んだ」
「ぼっちちゃんは秀華高ってことは、家ここらへんなの?」
「あっいや、県外で……片道二時間です」
「二時間!? なんで!?」
「高校は誰も過去の自分を知らないところにしたくて……」
「ガコバナ終了!!」
私が陰キャ過ぎて速効で話題が終わってしまった……。
「すみません、高校でも基本一人なので、楽しい話題を提供できなくて……」
「(そうだ、リョウをダシにしてぼっちちゃんを励まそう)
大丈夫だって、リョウもあんまり友達居ないし」
「うん、虹夏だけ」
トゥクン、とそれを聞いた同族意識が芽生えたんです。
陰キャは同じ陰キャに惹かれ合うんだ!!
「(リョウさんは私と同類なんだ!!)」
「休みの日は廃墟探索したり、一人で古着屋さん巡ったり」
「(──いや、違う!! リョウさんは一人で居るのが好きな人だ!! コミュ障は一人で服屋は入れないし)」
独りぼっちと孤高は違うんだぁ……。
「(ああもう、また失敗しちゃった!!)
ほら、ぼっちちゃん、もっと会話を楽しもうよ!!」
「(勝手にダメージ受けてる、おもしろ……)」
「つ、次は好きな音楽の話──」
「ぼっちちゃん、ぼっちちゃんおーい!!」
「は!? あ、あれ、私今、何を……」
「き、記憶が飛んでる……(そんなに青春にトラウマが……)」
「あッ、すみません。
いっ今なんの話をしてたんでしたっけ?」
「この前話した逃げたギターの話。
あの子がボーカルを担当のはずだった」
リョウさんが簡単にまとめて答えてくれた。
「(そう言えばそうだっけ。ライブ直前でドタキャンとかロックだなぁ。私にはとても真似できないや……)」
そう言えば、と私は小学生に上がった頃、昼休みに一人になれる場所を探して図書館で聖書を読んだりしたな。
「(神様は乗り越えられない試練を与えないって言うけど、あれって困難な試練から逃げてもいいって解釈らしいけど、実際それって袋小路だよね。敬虔な信徒から家族も財産も全部奪った後、何日も知り合いに責めさいなまれ続けられたりするし、多分神様のトラップに違いない。主は奪い、与えられるってDV彼氏そのものだし!!)」
「(なんか難しいこと考えてる!?)」
「(ヨブ記かぁ、お父さんの書斎にもあったなぁ)」
「ぼ、ボーカルも探さないとね!!
あたしは歌下手だし、ぼっちちゃんは!?」
私は虹夏ちゃんの声に我に返って、無言で首を横に振った。
「じゃあリョウは?」
「フロントマンまでしたら、私のワンマンバンドになってバンドを潰してしまう……」
「その湧き出る自信は何?」
「(羨ましい、その自信分けて欲しい)」
はあ、と虹夏ちゃんは溜息を吐いてリョウさんから私に視線を戻した。
「ボーカル見つかったら曲も作って行こうよ!!
リョウは作曲できるし。歌詞に禁句多いならぼっちちゃんが書けばいいよ。
(語彙力ありそうだし……)」
「(わ、私!? 小中9年間休み時間を図書室で過ごし続けたのはこのための……布石!?)」
「(ぼっちちゃん、サトラレじゃなくても保護が必要なんじゃ……か弱すぎるよ)」
「虹夏は何するの?」
「ど、ドラムはバンド内の潤滑油としての役割がありまして……」
「就活生か」
でも実際、私達って虹夏ちゃんがいないとまとまらなさそう。
「(虹夏ちゃんは今のままでも大丈夫だと思うなぁ、リーダーの素質って仲間を集めることだって言うし)」
「(ぼっちちゃん……ありがとう!!)」
「(虹夏、わかりやすいなぁ)」
そんなことを考えているうちに、虹夏ちゃんはサイコロを取りました。
「次はノルマの話──」
「は!? あ、あれ、私今、何を……」
「いや、またかい!!」
「要はライブに出演するにもお金が掛かるからバイトしようって話」
「リョウも順応早いな!!」
あッ、そう言えばそんな話だった気も。
バイトとか無理過ぎて脳が思考を拒絶していた。
おほん、と虹夏ちゃんは咳払いして、リョウさんと視線を交わした。
「もしバイト先とかこだわりがないなら、ぼっちちゃんもここでバイトすればいいよ」
「えっ、あっえ……?」
「あたしもリョウも居るから怖くないよ!!」
「アットホームで和気あいあいとした職場です」
これが同調圧力!!
陽キャたちの結束力の源!!
「(絶対嫌だ、働きたくない、社会が怖い!!)」
「(また同じこと考えてる、ホントに記憶が飛んでるんだ……)」
「(お腹空いた、今日はサバみそが良いかな)」
「(断れ、断れ自分!!)」
あ、でも……。
主は奪い、与える。つまり、そういうことなの!?
「(これは試されてるんだ、私が敬虔な結束バンドメンバーなのか。神様は信徒を試す為に敢えて悪魔を遣わせることもあるし、つまりここで断ったら青銅の蛇のイスラエル人みたいに焼き殺されるってことでは!?)」
私の脳内に、降臨する!!
聞こえる、神のお告げが!!
ゴッド虹夏エル「私に服従しないとか死刑じゃん、いっそ火炙り行っとく? チェケラ!!」
「が、がんばりまひゅ……」
「(ぷッ、もう無理)」
「(勝手に私で変な想像しないでくれるかな!?)」
リョウさんはなぜか急にテーブルに突っ伏した。眠いのかな。
その後、バンドの経費は虹夏ちゃんが管理することが決まり、私は来週からバイトすることが決まったのでした。
帰りの道中、私はおもむろにスマホを取り出し。
「宝くじ 当たる確率……」
そんなことを検索するのでした……。
§§§
ライブハウス・スターリーから後藤ひとりが退店し、それと入れ替わるようにビジネススーツを纏った若い男が入店した。
「失礼ですが、店長さんはいらっしゃいますか?」
「あ、今呼んできます!!」
彼女を見送ったばかりの虹夏が顔色を緊張に変えてバックルームに戻っていく。
程なくして、スターリーの店長である星歌が妹の虹夏を伴って現れた。
「伊地知さん、この度はこちらの提案を呑んでくださってありがとうございます」
「別に、こいつらがしたいことに口を挟むつもりは無いので」
役人の言葉に、星歌は素っ気なく言った。
そのまま役人は彼女らに連れられ、事務所の方へと進む。
そこには、うとうとと舟をこいでいるリョウも居た。
「リョウ、起きて!!
役人さんが来てるよ!!」
「あ、うん」
虹夏がリョウの肩を揺らして起こし、四人は同じテーブルに着いた。
「まず事務的なことから。
サトラレを雇うに当たって、先月度の収益との差額分を今月以降補填致します」
そう言って、役人は書類を渡した。
「この場で確認してください。
それは持ち帰らねばならないので」
星歌は資料に目を落としていた視線を役人に向ける。
サトラレの眼に触れるわけにはいかない、と名刺すらその場で回収した徹底的で抜かりないこの男を。
「それと、こちらのポスターを店内の目につくところに」
そして、次に彼が差し出したのは、一枚のポスターだ。
内容はこうだ。
『サトラレ保護法は厳しすぎる!! 懲役七年は正しいと思いますか?』、と。
一見啓発的文章だが、これはサトラレの周囲の人間に警告する為のモノだった。
つまり、わかってるなお前たち? と無言の圧力をかけているのだ。
「そして我々から感謝を。
サトラレの行動範囲は限定される方が保護もやりやすいので」
バンドマンは基本お金の無い生き物だ。
バイトをして糊口を凌ぐ者など数えきれないほど居るだろう。
ならばこそ、理解のある人物が雇って貰えればそれが良い。ひとりが活動するバンドの拠点なら一石二鳥だ。
「最初に言った通り、この子たちの活動だ。
どっちにしろ、私は口を挟むつもりはなかった」
豪胆だ、と役人は思った。
彼女はサトラレを雇うことで客が店に寄りつかないことを恐れていない様子だった。
「では、結束バンドのお二人に尋ねます。
これからも継続してひとりさんとバンド活動を続けるおつもりですか?」
「はい!!」
「勿論」
二人の答えは単純明瞭だった。
それだけに、役人はテーブルに肘を突いて手を組んで溜息を吐いた。
「ではもう一つ質問を。
お二人はバンドとして、どの程度を目指していますか?」
その問いに、虹夏とリョウは顔を見合わせた。
「とりあえず、年内にデビューしてファーストミニアルバムをリリース!! なんて考えています」
「なるほど」
彼の視線が虹夏からリョウに向けられる。
「まあ、私は成り行きで」
「いい加減すぎる!?」
「そうですか」
はあ、と今度は先ほどとは別種の溜息が彼から漏れた。
「お二人ならもう、ひとりさんの才覚を肌身で感じたことでしょう」
「あ、はい、すごかったです」
「彼女の才覚は、決してこの小さなライブハウスに収まるものではありません」
小さなライブハウス扱いされて、虹夏は内心ちょっとムッとしたが。
「ひとりさんが動画サイトに動画を投稿しているのは聞きましたか?」
「はい、スゴイ上手いですよね」
「実際にその身で彼女の演奏を味わった感想はどうです?」
あ、と二人は彼が何を言いたいのか理解した。
ギターヒーロー名義の動画は確かに、素晴らしかった。だが、彼女の生の演奏はその比ではなかった。
「我々は、サトラレとしての思考伝達さえも、ひとりさんのギターの才能の一つとして考えています」
それを痛感した二人は、何も言えなかった。
「サトラレの思考以外に、感情が伝搬する例は確認されています。
ある意味で、サトラレとしての能力を最も使いこなせているのがひとりさんなのです」
まさに人間の脳の神秘。
神の与えたギフトとしか言いようが無かった。
「何らかの刺激や感情の幅によって、サトラレとしての思考伝搬の範囲も広がると予測され、武道館規模の観客全員に熱狂を巻き起こすことも不可能ではないかもしれません」
「すごい、流石ひとりちゃん」
「うん」
「彼女も大きな舞台での演奏を望んでいます。
ですが、それは彼女にとって諸刃の剣になっているのです」
三人は、テーブルの上に置かれたポスターに視線が行った。
「ご存じ、サトラレ保護法を逸してサトラレにサトラレと告げた者は処罰されます。
ですが、故意ではなく、サトラレ自らが知ってしまうケースもあるのです。
例えば、サトラレ保護法が成立したのは1979年。当時は今のようなSNS全盛期は想像も出来なかったでしょう。
我々は保護対象への情報操作をする権限を持ちますが、それでも限界がある。理性的でないファンが増えることは望ましくない」
有名人の気を引きたくて、あなたはサトラレだ、なんていう輩が出ないとも限らない。
某大人気アイドルグループのファンの民度は最低だとよく言われるくらいなので、期待する方が愚かだ。
「己がサトラレだと知ったサトラレの末路の多くは悲惨です。
彼女が売れたい、と言うなら我々は売らせます。
彼女の見える範囲でのみ、売れた世界を見せるつもりです」
それは非常に残酷な、鳥籠の鳥も同然の人生だった。
「そんな、酷すぎます!!」
「しかしこれは、同時に我々の存在意義に矛盾を孕んだ選択なのです」
「え?」
「サトラレ保護法の条文には、国益の円滑なる接収の為、という言葉が何度も出てきます。
我々がひとりさんを保護しているのは、彼女の人権の為であるのは勿論、国益のためになると期待されているからでもあります」
つまりは、ひとりを完全に鳥籠の鳥にすれば、国益にはならないことになる。
「彼女の保護の為の資金は税金から捻出されていますので、税金の使い方に文句を言いたい輩からせっつかれるわけです。
最悪、彼女の保護の予算を減らせと言う者も出るでしょう」
沈黙が舞い降りる。
誰も口をきけない空気だった。
「あなたは、どう思うの?」
そんな空気を破ったのは、リョウだった。
「私ですか?」
「うん、ひとりにどうなって欲しいの?」
「私は……」
役人は言った。
「彼女の演奏が埋もれるのは、非常に惜しいと思います。
ひとりさんはきっと、かつて日本に到来したビートルズのブームの再来になりますよ。当時のように多くの人間が彼女の後に続き、同じギターや服装を身に付け、バンドを志すようになるはずです」
それは、光に目が焼かれた者の顔だった、と三人は確信した。
それで分かった。少なくとも彼は、後藤ひとりの味方であると。
「話はよく分かった」
一通りの話が終わり、星歌は目を細めて口を開く。
「だけど帰れ。バンドマンに対して、売らせてやるなんて言う奴は、二度とこの店の敷居をまたぐな」
「お、お姉ちゃん!!」
「他人に生き方を決められて、何がロックだ」
「うん、ロックじゃない」
「リョウまで!?」
「彼女の生き方は彼女が決める。その結末がどうであれ、それを伝説にしてこそバンドマンだ。
他人の生き様、死に様に口を挟むな」
そんな姉の姿を見て、虹夏は思い出した。かつてバンドマンとして輝いていた、姉の姿を。当時の尖っていた彼女のカッコよさを。
「……ふふ、彼女のご両親と同じようなことを仰るのですね」
「…………」
「私も、夢見ずにはいられません。
サトラレと言う己の宿命を受け入れ、なおもライブ会場でロックを叫ぶひとりさんの姿を」
そう言って、役人は立ち上がった。
「あなたの意見は持ち帰って検討させてもらいます。それでは」
失礼します、と言って役人は帰って行った。
「……なんか、本当にとんでもない存在なんだね、ぼっちちゃん」
「日本中がぼっちと同じ服装……ぷぷッ」
お気楽な二人に、星歌もため息を吐いた。
「今日はもう上がって良いよ二人とも。
あいつの言うことは、まあ気にするな」
成功するまでの過程を楽しめないのは不幸だしな、と彼女は内心そう思っていたら。
「もし、ぼっちちゃんの書いた歌詞でライブしたら、どうなるんだろうね!!」
「きっとすごいことになる」
星歌は思わずフッと微笑んでしまった。
なぜなら、この二人も既に、後藤ひとりという光に目を焼かれてしまっていたのだから。
心理描写に色付けするのにいろいろと意見がありますが。
私の心の中の山田が。
「個性捨てたら死んでるのと一緒だよ」と言ったので、我が道を貫きます。
私はハーメルンで投稿しているので、ここでしか出来ないことをやりたいと思っています。
これ以降、文字色に関して反応しないのであしからず。