最新話が今日に間に合ってよかった。
喜多ちゃんの勧誘に失敗した私は、出来るだけ早くスターリーに行くことにしました。
「あ、ぼっちちゃん。よくわかんないけど、エナドリ買ってきたよ……って、何事!?」
私は入り口の下り階段の前で、土下座をしていました。
「なになに、『私はメンバー勧誘を失敗しました』……?」
私の首に掛かっているプレートの文字をリョウさんが読み上げた。
「とりあえず、立ってよぼっちちゃん。
いったいどうしたのさ」
「あっあの、私、結束バンドに貢献しようと、メンバーを勧誘したんですけど、だ、ダメでした!!
ぱ、パーティのお荷物は即追放……それが最近の流行りですよね?
短い間ですけど、た、楽しかったです!!」
「しないしない!! 追放なんてしないって!!」
「追放されるなら装備は要らないよね。
そのギター見たところビンテージ物っぽいし、置いていってもらって──」
「リョウも乗らないでよ!!」
そんな一幕もありましたが、私達はいつものテーブルに腰かけることになりました。
「メンバーなんてそう簡単に見つかるもんじゃないし、そんなに気にしなくてもいいよ!!
私もこういうの作ったから、地道に頑張ろう?」
そう言って、虹夏ちゃんはメンバー募集の張り紙を見せてくれました。
女の子らしいポップな文字で、センスあるな、と思っていると。
「でも、正直メンバー募集なんて効果無いよ。
ぶっちゃけバンド仲間に紹介してもらうのが鉄板。これ、バンドあるある」
「い、一応前に来てくれたじゃん!!
てか、張り紙作った私に喧嘩売ってる!?」
「でも結局逃げちゃったじゃん」
リョウさんの切り返しに、珍しく虹夏ちゃんが撃沈しました。
「ちなみに、逆にボーカル以外全部のパートを募集すると、ボーカルに魅力ないのがバレバレっていう」
「(珍しくリョウさんが饒舌だ……)
ち、ちやほやされたくてバンド始めたのに、モテなくても続けちゃうってのもあるあるですよねぇ~」
「そうそう、あるある。実際モテるのってボーカルばかりだよね」
「(やった、自虐ネタがウケた!! ぼっちのコミュスキルが1上がった!!)」
「(ぼっちちゃん、悲しすぎるよ……)
どんなバンドやってるの、って聞かれても答えられない奴~」
こ、これが、バンド女子の会話!!
みッ、満たされる~。枯渇した心の庭園に雨が降って来てる~。
「それにしても、よくぼっちちゃんが勧誘できたね。
今のあるあるじゃないけど、バンドやってる知り合いでもいたの?」
「あっいえ、以前バンドやってたって人が居て、歌も上手くて運動も人望も有って、ギターも出来るってことで誘ってみたんですけど……」
「ぼっち、えらい」
「うん、でもまあ、人それぞれ事情があるし、しかたないよ。次に頑張ろう!!」
「あ、はい」
二人は私の失敗を特に咎めることも無く、私の進歩を労ってくれる。
本当に、私は結束バンドに入ってよかった!!
「(喜多さんにギター教えることになったことは言わなくてもいいよね。バンドに入るつもりないらしいし。
でも正直、喜多さんみたいな真の陽キャが入らなくてホッとしてる自分がいる……)」
喜多ちゃんを目の前にすると、事あるごとに自分が陰キャの根暗コミュ障であると自覚させられそうな気がして、そんな自分の弱さと器の小ささが嫌だった。
「……あれ、二人ともどうしたんですか?」
なぜか不自然に会話が途切れた。
二人もなぜか、ギョッとしていた。
「(喜多って、もしかして……)
あ、ううん、何でもない。それにしても、ギターも出来て歌も上手いなんて、よくそんなうってつけの人材がいたね」
「うん、スゴイ偶然」
「いったいどんな子なのかな?」
「あっ、気になりますか?」
「うん、ぼっちちゃんが勧誘するくらいだからね!!」
これも女子トークの一環って奴かな!!
頑張れぼっち、何度も脳内トレーニングしたじゃないか!!
「そ、それが、実はギターはできないらしくて、あれやこれやで私がギターを教えることになっちゃったんですよね、うへへ」
私の馬鹿!! あれやこれやってなんだよ!!
「本当に素人みたいで、嘘ついて前のバンドに入っちゃったの後悔してて、その子喜多さんって言うんですけど、ちゃんと練習して謝りに行きたいって言ってて、悪い子じゃないんですけど……」
そこまで言って、ハッとした。
二人も、真顔で私の話を聞いていた。
「ま、まさか……」
「前に言った逃げちゃった子も、ギターとボーカルを兼任してたんだけど、どういうわけか音信不通で。
その子も喜多ちゃんって言うんだ……」
「マンガみたいな偶然」
本当に、神様のイタズラとしか思えないような偶然だった。
さっき、二人の様子が変だったのも、きっと私より早く気づいたからなんだ。
「喜多ちゃんも秀華高だって聞いてたから、まさかとは思ったけど……。(そう言うことにしておこう、嘘じゃないし)」
「あ、あ、えっと、私はどうすれば!?」
これってもしかして、板挟みだよね!?
どうしよう、どんな顔して明日喜多ちゃんの顔を見れば……。
「ねえ、ぼっちちゃん」
「は、はい!!」
「タイミングを見計らって、で良いからさ。
喜多ちゃんに勝手にバンドを抜けたこと、怒ってないって言ってくれないかな?」
「虹夏ちゃん……」
「いやー、道理で合わせの練習に頑なに参加しなかったわけだよー。
なんで気づけなかったんだろうねー」
「私は毎日仏壇に手を合わせてた」
「勝手に殺すなし」
あっけらかんと笑う虹夏ちゃんに、私は何も言えなくなった。
リョウさんもまるで気にしていない様子だった。
三人の事は、私が結束バンドに加入する前の出来事で、私が何か口を挟む権利はないはずだから。
「あともう一つ!!」
「は、はい」
「ぼっち先生がオーケーを出したら、必ず喜多ちゃんを連れて来てね。
何も言わずにお別れなんて悲しいし、そもそもこのリーダーが脱退を許した覚えはないからね!!」
私は頷いた。
そっか。虹夏ちゃんにとって、喜多ちゃんはまだ結束バンドのメンバーの一員なんだ。
「わ、わかりました!!
なんとか伝えてみます……」
「ぼっちちゃんのタイミングで良いからね?」
なぜかそんな念を入れるような言い方をされてしまった。
こ、これは絶対に言えってことでは!?
大変なことを任されてしまったぞ!!
§§§
そして翌日。
「あのー、後藤さんいるかしら?」
学校に登校して、ホームルーム前に私の教室に喜多ちゃんがやってきたのだ!!
「あ、あッ、喜多さんッ!!」
「あッ、おはよう後藤さん」
「おおお、おはようございますッ」
く、クラスメイトと朝の挨拶をしたことさえ記憶の彼方だというのに、昨日知り合ったばかりの他のクラスの生徒におはようって言えちゃった!!
これが本来在るべき学校生活!!
「昨日は急に帰っちゃってごめんなさい。
お互いに予定もあるし、連絡先交換してなかったわよね!!」
「は、はいぃ」
や、やった、虹夏ちゃん達以外と初めて連絡先を交換したぞ!!
我が世の春、我が世の春が急にやってきた!!
「それでね、早速だけど今日はお願いできるかしら?」
「あ、はい。今日はバイトも無いです」
「じゃあ放課後よろしくね!!」
放課後の約束!!
まるで、まるで女子高生みたいだぁ!!
後藤ひとり、ミジンコから晴れて女子高生にランクアップしましたぁ!!
……しかし、私の歓喜はすぐに冷めた。
喜多ちゃんが去ると、なぜかクラスのみんなは私を見ていた。
「(後藤さん、やっと友達が出来たんだ……)」
「(よかったね、後藤さん……)」
「(もしかしてこれって、なんで人気者の喜多さんがミジンコの後藤なんかと連絡先交換してるわけぇ? あいつ調子乗ってるんじゃないの? ってなる奴では!!!)」
「(悪役令嬢モノのテンプレかよ……)」
「(もはや陰キャとかではなく、人間不信ってレベルなんじゃ……)」
「(私達、どうしてそんなに怖がられてるの……?)」
私はその日、クラスメイト達からの視線に怯えながら放課後まで過ごすのでした……。
§§§
「今朝はごめんなさいね、私ったらいつも急で」
「あッ、いえ、問題ないです」
放課後。
SNSのメッセージで、昨日後藤さんがギターを弾いていた階段の下の物置きスペースで落ち合うことになった。
「後藤さんもバイトもしているのに、バンドの人たちも迷惑だったかしら……?」
私は、さりげなく探るようにそう言った。
「あ、そんなことないです。
喜多さんが上手くなったら誘ってこいって感じで……。
(どのタイミングで虹夏ちゃんたちの伝言を伝えよう……。いきなり虹夏ちゃん達の事を話しても突拍子もないし)」
「あ……そうなの」
分かっていても、罪悪感が重くのしかかる。
後藤さんの心を盗み聞きして、先輩たちの顔色を彼女越しに窺っている。
「(どうしよう、なんて伝えれば良いんだ……。私のいるバンドは、喜多さんが以前逃げ出したバンドで、心配してるから連絡ぐらいしてほしいって……こんな板挟みの修羅場はコミュ障には荷が重すぎる!!)」
後藤さんが小動物みたいにぷるぷると震えている。
ちょっとかわいい。
「とりあえず、今日は基本から教えて貰ってもいいかしら?」
「は、はい」
思考の渦潮をぐるぐると流されている後藤さんに、私が助け舟を出すと私たちは持って来たギターケースのカバーを開けた。
「あれ? 喜多さん。ギターを習いたいんですよね」
「ええ、そうよ。どうかしたの?」
「それって、ベースじゃあ」
「そんなわけないわ、ベースって弦が四本でしょ?
それぐらい素人の私でも知ってるわ!!」
「……弦が六本のベースもあります。
六弦ベースは上級者向けと言うかマニアックと言うか……」
「え、うそ……」
私は一瞬、現実を受け入れられなかった。
しかし残酷なことに、後藤さんはかぶりを振った。
これはギターではなく、ベース。それがどうしようもない真実だった。
「ご、ごめんなさーい!!」
「きッ、喜多さーん!?」
私は羞恥心と落胆で、その場から逃げてしまった。
これは罰なんだと、私は思った。
不純な動機でバンドに入ろうとして、いざとなったら裏切って、そんな馬鹿な私への神様からの罰なんだ。
私には、謝りに行く資格さえ無いようだった。
§§§
「と、いうことがありまして……」
「ぷぷッ」
「そこ、笑うな笑うな」
今日はバイトは無かったけど、バンドで集まって練習曲で腕を磨いたりする事も多い。
今回は喜多ちゃんの逃亡でそれが繰り上がってしまった形だった。
「まさかベースとギターを勘違いしてたとは。
買いに行った時に店員さんに聞かなかったのかな」
「ギターとベースはまるで別の楽器だからね」
「は、はい。すみません、私、追いかけることもできなくて……」
でも、私なんかが追いかけても、なんて声を掛ければ良かったんだろう。
「気にしないで良いよ。
しかし、困ったね。喜多ちゃん復帰計画、出だしから躓いちゃった」
「私の持ってるコレクション貸す?」
「じゃあ、それで」
「わかった、今から持ってくる」
そう言って、リョウさんはライブハウスから出ていきました。
そうか、家が近いって言ってたっけ。
「ぼっちちゃん、実はもう一つ、私に作戦があるんだ!!」
「は、はい?」
その作戦を聞いて、私は少し戸惑いました。
「お願い、できる?」
「わ、わかりました。やってみます!!」
私に出来るんだろうか。
また失敗するだろうか。
「ありがとう!!
これはぼっちちゃんにしかできないことだからね!!」
あ、天使……。
下北沢に大天使が降臨なされた。
虹夏ちゃんの笑顔と信頼が眩しい。
私は、決意した。
虹夏ちゃんやリョウさん、そして喜多ちゃんの為にも。
喜多ちゃん勧誘作戦を成功させるんだ!!
そして、翌日。
「あ、すみません、呼び出したりしちゃって……」
「ううん、こっちこそ昨日も逃げ出してごめんなさい……」
喜多ちゃんは深く落ち込んでいるようだった。
目に見える、キターンなオーラがしおしおで、じめじめっとしている。
「と、とりあえず、これ、私のバンド仲間が、貸してくれるそうです。(リョウさん、ありがとう)」
「何から何まで、ごめんなさい。(リョウ先輩……)」
喜多さんは何とかリョウさんのギターを受け取ってくれた。
「ところで、なんでそんなに機材が置いてあるの?
弾くだけの練習に本格的な機材は必要あるのかしら?」
喜多さんの言う通り、今日は家からアンプやケーブルなどを持って来た。
喜多ちゃんの分のギターも持って来たから、結構重労働だった。
「と、とりあえず、聞いてください!!
(よし、これで虹夏ちゃんの作戦通りになる)」
「う、うん……」
私は周囲に音が漏れないようにヘッドホンを渡した。
喜多ちゃんは言われるがままにそれを付けた。
携帯に録音した曲を再生し、私もギターを抱え曲の始まりと同時に弾き始めた。
「(これって!! 間違えるわけない、リョウ先輩の演奏!! そして虹夏先輩のドラム!! そして、後藤さんのギター!!)」
私は喜多さんが口を押えたのにも気づかず、演奏を続ける。
「(なに、これ。感情が揺さぶられる。心が奮い立つ!! 伝わってくる、後藤さんの想いがッ!!)」
ロックとは、変化。
このままじゃいられないという、魂の咆哮!!
だから、素人とか関係ない。
私は喜多さんとバンドがしたい!!
──バラバラの個性が一体になるのがバンドなんだ!!
私は虹夏ちゃん達に選ばれたから、結束バンドを選んだ。
だから喜多ちゃんも、結束バンドを選んだから、私達が彼女を選ぶんだ!!
私の想いを聞いて、──聴けよ!!
「(私も、後藤さんたちとバンドがしたい!! もう一度、今度こそ、先輩たちに並び立ちたい!!)」
演奏が、終わる。
名残惜しそうに、喜多ちゃんはヘッドホンを外した。
「(こ、これで良いって虹夏ちゃんは言ってたけど……)」
「後藤さん!!」
「は、はいぃ!!」
突然、目をキターンと輝かせた喜多ちゃんが私の手を取った。
「私、間違ってた!! 今すぐ、前に逃げたバンドの先輩たちに謝りに行きたい!!
あの、でもちょっと不安だから、後藤さんも一緒に来てくれないかしら?」
「あッ、はい」
それから私と喜多ちゃんは機材を片付けてスターリーに向かった。
喜多ちゃんは何となく、私のいたバンドが以前逃げたバンドだと気づいていたと話してくれた。
私達の疑似セッションで、迷いが吹っ切れたとも。
私達は、二人の待つスターリーのドアを開けた。
階段を下りた先で、いつものように二人が待っていた。
私達を認めた虹夏ちゃんが、満面の笑みでこう言った。
「おかえり、二人とも!!」
喜多ちゃん、無事脳を焼かれる。
オリジナル回となった喜多ちゃん再勧誘でした。
これにて無事に、結束バンド再結成です!!
本当は喜多ちゃんのベースでオチにしようと思ったのですが、二話に掛けて描写する自信なかったので無理やり一話にまとめました。
次回から結束バンドフルメンバーでお送りします!!
それでは、また次回!!