「(では聴いてください。
『その日入った新人より使えないダメバイトのエレジー』)」
「おっ新曲?」
「やめさせろ」
私の演奏は店長さんの一言で中止になりました……。
なぜ私がこんなクソなオリジナル曲を弾こうとしたかと言うと、話は数十分前に遡る。
喜多ちゃんは無事虹夏ちゃんたちと和解しました。
けど、謝るだけでは気が収まらないと言うことで、店長さんが提案。今日は忙しくなりそうだから本日一日タダ働きと相成ったわけです。
なぜか店長さんの私物らしきメイド服を纏った喜多ちゃんは、初めてのバイトもテキパキこなして、私は自信喪失。
「(店内BGMにすらなれない私はやっぱりクビなんだ……。追放されちゃうんだ……)」
「(いや仕事してよ……。あ、そうだ!!)
ぼっちちゃん、喜多ちゃんにドリンクを教えてあげてよ」
「あっはい!!」
私が名誉挽回のチャンスを物にしようと意気込んでいる裏で、こんな会話が成されていました。
「思ったより、客足は減ってないですね。
今日も客を呼べるバンドが多いですし」
「当然だろ。チケット代を
「あー」
それを聞いて、話題を振ったPAさんは大体のことを察した様でした。
「
彼女がバイト中に出演するバンドの方にも、ノルマ分は
「バンドマンはおカネが無いですしねー」
「ライブの爆音なら“声”も殆ど気にならないしね。
絶対に収支がプラスになるなら、誰だってやりたがるさ。
集客力のあるバンドが出れば、多少スタッフに問題があっても気にしない連中も来るわけだ。
こっちとしても、給料を払う必要のない“スタッフ”も雇えたし」
「本当に、至れり尽くせりですねー」
「そこまでする価値があるんだろうさ」
そんな会話をしていた二人に、そっとリョウさんが近づきました。
「つまり、私達の分のノルマ代も税金から補填されるってことで?」
「は? お前らは例外だよ。補填は無しだ」
「な、何で!?」
「何のためにこんなことしてると思ってる。
肝心のあの子がライブハウスのシステムに違和感を持ったらどうする。
そう言うわけで、お前らからはきっちりとノルマ代を頂く。
お前も仕事に戻れ、給料から差っ引くぞ」
と、そんな会話があったことなど私は知る由も無く。
「あっはは……へへ、は……。(見られてると緊張する!!)」
「後藤さん、溢れてる溢れてる!!」
コーヒーサーバーの使い方を教えようとして大失敗していました……。
「大丈夫? 大体わかったから後藤さんはもう休んでて? (分かってるつもりだったけど、本当に後藤さんって繊細なのね……)」
「(イキってすみません……)」
「よかった、大事にならなくて……(心の声が聞こえてるのに、まったく感性が把握できない……どうして謝ってるのかしら?)」
幸い、カップからこぼれたコーヒーが手に掛った時間は少なく、ちょっとヒリヒリする程度で火傷には至っていないようでした。
「(あれ、この指……)
喜多さん、この指……皮が厚くなってて……」
「ああ、これ? 一応私なりに練習してたつもりだったんだけどね……」
喜多ちゃんは私への手当てを終えると、皮の厚くなった自分の指先に触れた。
「私、結構突っ走っちゃうところがあって、それで失敗ばかりしちゃうの……」
「(しまった、地雷踏んじゃった……どどど、どうしよう!!)」
「(後藤さん……何か共通の話題は無いかな……あ、そうだ)
ねえ、後藤さんってなんでバンド始めようと思ったの?」
「え……」
私は咄嗟に考えを巡らせました。
「(インドア趣味なのに派手でカッコいいし、人気者になれるし……ダメだ、動機が全部不純すぎる!!)
あッ、世界平和……世界平和を伝えたくて……」
「意識高いのね……。(よかった、ちょっとだけ親近感……)」
喜多ちゃんの存在は、私にとって重圧に近いモノがありました。
彼女は私の理想形のひとつ。
彼女を見ていると、自分は絶対こうは成れないと、思い知らされてしまうのです。
「え、ええ、ええと、突っ走るのも私は悪くないと思います!!
“神曲”を書いたダンテの言葉に、“物事を成し遂げる秘訣は行動することだ”とあるので」
「後藤さん、物知りなのねー。
私、神曲は“この門をくぐる者は、一切の希望を捨てよ。”ぐらいしか知らないわ」
「あっ、有名ですもんね!! (なんか自分の知識をひけらかしてるみたいでイヤだな……)」
まるで無意識に喜多ちゃんにマウントを取ろうとしているみたいで、私は言いようもない恥ずかしさを覚えていた。
それからライブハウスの開店時間になり、私は喜多ちゃんと一緒にドリンクバーで受付をすることになった。
「すみません、コーラお願いします」
「はい、こちらコーラです!!」
店長さんが言った通り、今日はいつもより客入りが多い。
それも、ライブの開始前には暇になり始めた。
私は、彼女に聞いてみた。
「き、喜多さんがバンド始めた理由は何ですか?
憧れの先輩って、リョウさんの事ですよね」
「うん」
喜多ちゃんは頷いた。
「私は後藤さんと違って不純なんだけど、先輩の路上ライブを見て一目惚れしたの」
「(リョウさんって他のバンドもしてたんだ……)」
「ちょっと浮世離れしてる雰囲気とか、ユニセックスな見た目とか、何より楽器が様になってるのよね!!」
「あっ分かります」
確かにリョウさんは楽器を持っているとカッコいい。
彼女にはバンドマンとしての華があった。
「わ、私が持つとどうしても楽器に持たされている感が……」
「分かるわ!! 楽器が本体みたいになっちゃう!!
あの感じなんなのかしらねー」
「どうやったら楽器に舐められないものか……」
「あのー、カシオレください」
筋トレとかすればいいのかな、と思っていると、お客さんが注文に来た。
それに完璧に対応する喜多ちゃん。
ちょっとだけ湧いた親近感が消え失せるのを感じる……。
私まだ、お客さんの顔を見れない……。
そして、ライブが始まった。
本格的にドリンクバーは暇になった。
「演奏を聞いてから、リョウ先輩のことをずっと追ってたんだけど、前のバンド突然抜けちゃって……。
その後、結束バンドのメンバー募集してたから、思わず入りたいって言っちゃって」
「へ、へぇ……(行動力の化身だ……私にも少し分けて欲しい)」
「だってバンドって、第二の家族って感じしない?
本当の家族以上にずっと一緒に居て、皆で同じ夢を追って……友人とか恋人を超越した不思議な存在な気がして……」
正直言って、私は喜多ちゃんのことをまるで理解しようとしてこなかった。
「部活とか何もしてこなかったし、そういうの憧れてたんだ」
「(わかるなー、私もずっと憧れてた……)」
「そう、私は結束バンドに入って、先輩の娘に成りたかったのよ……友達より深く、密にッ!!」
「(あれ、喜多さんって結構ヤバい人……?)」
「(あれ、これくらい普通じゃないの?)」
……すみません、やっぱり理解できません。
「……だからこそ、結束バンドに戻るつもりは無かったんだ。
私のように逃げ出した無責任な人間が、先輩たちに顔向けできないって」
「そんなことは、無いと思いますけど」
神は乗り越えられない試練を与えない。それは同時に、困難を回避する道を与えられるからだ。
立ち向かうことは全てじゃない。
「だ、ダンテは神曲で、非難も賞賛も無い生活を送った人々の事を、悲し気な魂と表現しています。
喜多さんの行動も、バンド的にはロックかと!!」
「ああいや、そう言うことじゃなくて……」
私の馬鹿、励ますにももっと別の言い方があるだろー!!
「だけどね、私、後藤さんの演奏を聞いて、それじゃダメだって思ったの」
「喜多さん……」
「なんて言ったらいいのかな、音と音との調和がとれて、それが美しさになって、私もその中に入りたいと思ったの」
美は魂を揺さぶり覚醒させる、私はそんなダンテの名言を思い出した。
「だから、こうしちゃいられないって、ここに戻って来たの。
まるで子供の時みたいに、気持ちが逸って!!」
それは、まるで初めてギターを手にした時の私と同じだった。
「私、この気持ちを大事にしたい。
でも不安もあるの。平凡な私が、三人の調和を乱さないかって……」
「そっ、それは、だ、大丈夫です!!
わ、私はまだ全然突っ走る演奏ばっかりしかできないですし!!
結束バンドはまだメンバーが揃ったばかりですし、出来が悪いのを心配するのはまだ早いです!!」
「後藤さん……ふふ、そうよね!!
まだ全然、出来の良し悪しを語る段階じゃないわよね!!」
喜多ちゃんが笑ってくれた。
それを見て、私もホッとした。
「は、はい。虹夏ちゃんも言ってましたけど、楽しむことが大事ですし……。
きっ喜多さんもバンド好きってわかったし、ひ、一人で弾くよりも皆で弾くのが楽しいですよ」
「うん、私、頑張る。結束バンドのギターとして」
こうして、私達結束バンドは本格的に始動したのでした。
そして、バイト終了後。
「(あ、そうだ。これ一応確認の意味でも言っておかないと)
そうだ、先輩たち。今のパリピバンド路線は止めた方がいいですよ……。毎晩踊り狂ってるんですよね?」
「それどこ情報!? (ああ、ぼっちちゃんか……)」
「エナドリ飲む?」
私は虹夏ちゃんの視線から逃げるように顔を逸らしたのでした。
前回と今回、山田の心理描写が全く無いですが、ネタ切れとかじゃないです。
普段から何も考えてないって公式でも言ってたから(震え声
まあ、今回は繋ぎの回ですし、いよいよ次回はアニメ四話、問題のあのシーンまで行けたら行きたいです。
それでは、また次回!!