エデン条約篇が始まります。
以降はEp:1を追加したりExを追加したりと変則的な投稿になります。
3-1 悪夢と雲行き
──私の見る未来の夢は、変わりつつある。
私はあの悪趣味な条約の行く末に絶望した。誰かが誰かを憎悪し、嫌悪し、そうして争って──後には何も残らない。不快で、不愉快で、忌まわしいお話だ。
これ以上の最悪はないだろう。私はそれをおくびにも出さず安穏と日々を送っていた。しかし、そんな未来はまやかしで、ほんの序章に過ぎなかった。夢は変わりつつある──
荒廃した街、幾人もの人間がその毒牙にかかり──もう誰かが人殺しになり、争いが始まるなどという程度のお話ではない。あの忌まわしい異形の『悪魔』が希望を破壊し、世界の平穏を奪い去っていく。乗じて己以外の全てを憎むアリウスが憎しみを伝播させていくだろう。もうどうしようもない……世界は『
楽園などないんだよ──夢想家達が頑なに語る『エデン』など。私も、遅かれ早かれ考えうる限り最悪の末路を辿るだろう。
『アア? なんだァ、オレのこと覗き見しやがって気持ち悪ぃ。悪夢を見せて発狂させてやろうか?』
夢の中で、世界の崩れゆく様を呆然と見ていたとき──
……ああ、私は恐怖している。眠ることが、夢を見ることがこんなにも恐ろしいとは。だが、眠らないというのは人間には不可能だ。
悪魔が、今も私を見つめている──。
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最近巷を騒がせている『チェンソーマン』なる怪人。橙赤色のマスクに頭部と両の腕から飛び出したチェンソー、妖しく光る眼──どう見ても映画の
以下、インタビューに応じてくださった方々の言葉である。
『チェンソーマン? ああ……全く散々ですよ。あいつのせいでしばらくお肉見ると気持ち悪くなっちゃって……』
『そいつってアレでしょ? 人食べるんだって掲示板で見た』
『この前のバケモンブッ殺した奴だろ? どーせ碌なやつじゃないだろ、あんなん』
『チェンソーマン……そう呼ばれているのですね。彼は正義の味方です。私は助けていただいたのですから』
『いいよねチェーンソーマン、あーゆーの好きだよ〜』
『やってることは正気の沙汰じゃないよ。そのうち人殺しちゃうんじゃない?』
『チェンソーマンは俺の予想じゃマジでイイやつですネ』
『早く逮捕すべきだろう、ヴァルキューレは何やってんだ?』
如何だろうか。知らない人間も僅かにいたが、彼の名前と姿は概ね知れ渡っている。既にインターネットでは私達のような物好きがコミュニティを作り、彼の正体を考察して楽しんでいるらしい。筆者もそのコミュニティを覗いたが、『ブラックマーケットのヤバイ人体実験で産み出された怪物説』『チェンソーが意思を持った説』『主食が鉄と人の怪物説』『地獄からやって来た悪魔説』など実に興味をそそられる物がゴロゴロ転がっていた。
閑話休題。
ここまで彼が一般に知られるようになったのは先日の『怪物襲来事件』だろう。D.U.シラトリ区の一角が大きく損害を被る程の怪物、それを彼は討ち取ってみせた。その事件の話題性、ショッキングさ、そしてクロノスのニュースが大々的に取り上げた事で彼は知られるようになった。しかしこの事件で彼は明らかに害である怪物を屠ったにも関わらず、人々の彼に対する心象はやや悪い。好意的に見ていない人間が多いのだ。
それはやはり見た目、そして先の事件のグロテスクさが起因していると私は考える。人々は視覚的な情報に踊らされるものだ。私とて例外ではない。彼、チェンソーマンの見た目はお世辞にも
だが、私としてはそれがいいと思っている。彼が恐怖されているのも、どうせ皆が彼をよく知らないからに過ぎない。事実は小説よりも奇なり。全てが空想通りなど退屈も甚だしい。こんな雑誌のライターをしている物好きとしては──例え人として良くないとしても──彼が怪物を切り刻む爽快な光景をまた見たいと切に思う。だって──カッコイイじゃないか、そうは思わないか?
──ゴシップ誌『都市怪奇』より抜粋
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「それで美食研のいつものに巻き込まれてさ〜〜」
「爆発オチ?」
「そうそう、瓦礫はすごいし埃まみれになるしでほんとサイアク」
ある日の午後、昼を過ぎて夕暮れに差し掛かろうという微妙な時間帯。ゲヘナ学園の教室では授業終わりの学生が幾人か残って談笑したり本を読んだり、各人が好きなことをしている。そんな中で、ある生徒は──
「デンジ〜〜、シャーレの先生が用ある、って…………何してん?」
「ああ、イスのバイト……」
──イスになっていた。
女生徒のイスになって、どこか幸せそうな顔をしている。傍から見たらイジメかと思われるような様相、しかし事実は全く異なる。デンジは訳を説明して立ち上がり、廊下へ向かう。その背には「また座らせてね〜ん!」と声がかけられる。やべえ、もしかしてあの娘俺のこと──、とデンジは少し舞い上がる。
“やあデンジ君、調子はどう?”
「超元気っす!」
“ところでさ……どうしてイスになってたの”
「十円で十分イスになるっつうバイトで……」
“分給一円なんだけどいいのかい? それで……”
廊下の窓近くで二人並んで、軽い世間話をする。最近公開された映画の話、バイトの話、その他色々。そんな中、先生が一つ話を切り出す。
“そういえばデンジ君、ちょっとお手伝いしてほしい事があって”
「手伝い……?」
“いや〜、私ちょっとトリニティの方で何日か仕事があってね。書類作業とかも持ち込んでやるつもりなんだけど、他の学校に書類を届けるのとか出来ないからさ、デンジ君に頼みたくて”
「いっすよ! ド〜ンと任せてくださいよ!」
デンジはお使いみたいなもんだろ、と即了承する。別に内容を聞かなくても了承していただろうが。
“あとこのお手伝いのことで、トリニティに来る時は私服で来てね。話は私が通しておくから”
「そりゃいーっすけど、どうして……?」
“近々トリニティとゲヘナが取り決めを交わすんだ。『エデン条約』って言ってね”
「へえ〜、知らなかった……」
“元々トリニティとゲヘナって仲悪いんだよね。エデン条約はそれをなくして仲良くしましょう、協力しましょうって約束なの”
「仲悪いのに俺行って良いんすか?」
“ぶっちゃけるとそこまで嫌ってる人っていないんだよ。ホントに少数。でもシャーレのアレコレで入ると関係に響いちゃうかもしれないから、私服でねってこと”
「はぁ……」
デンジは正直よく解っていなかった。周囲にトリニティが嫌いな生徒がいない。大抵の生徒は何も気にせず生活している。そもそもトリニティと関わることがないからだ。
(まあ、嫌いなヤツが自分のトコ来たら嫌だよなあ……)
トリニティとゲヘナの確執は相当に根深いものである事を知らないデンジはそれを軽く捉え、先生の私服案に同意した。別に断る気は毛頭なかったが。
“そう言ってくれて助かるよ〜本当に……じゃあお手伝い頼むときは連絡するね。じゃあね、デンジ君”
「あ、はい! さよなら先生ェ〜!」
───
“なんとかデンジ君に約束は取り付けられた……”
先生はゲヘナの廊下を歩きながら独り呟く。窓から射し込む光は静かな廊下を橙色に染め上げる。
──先生は考える。D.U.に突如として現れた怪物──それを両断したチェンソーマン。近づくエデン条約の締結、補習授業部のこと──デンジの存在。
(“どうも雲行きがね……裏切り者の件もあるし……
一見あまり繋がりのない物事同士──しかし先生は不穏な予感が拭えなかった。誰も気づかないくらいゆっくりと、キヴォトスが良くない方へ引きずり込まれているような──。
“それでも、皆を信じるだけなんだけどね”
先生はか細く呟き、ゲヘナを後にした。
夕陽は薄黒い雲に隠される。それはまるで不穏な未来を暗示するようだった。
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ゲヘナ自治区の暗い裏路地。そこに女生徒が二人佇み、何かを待っている。
「…………」
「………………」
沈黙。時折吹く風の音がやけに響く。そんな中、物言わぬ無線から声が発せられる。
『チームⅡ、報告を』
「こちらチームⅡ。『チェンソー』の住居を特定、行動把握を開始する」
ほとんど感情のない声で淡々と報告を交わす。人間らしさを消したようなその様はおよそ学生とは思えない。
『了解。こちらチームⅠ、トリニティ内部の仕込みは順調。そちらも隙を見て
「了解、リーダー」
再び静寂が訪れる。もうすぐ夜になる。彼女らにとって全てを闇が覆い隠す夜は好都合だった。
「行くよ、ヒヨリ」
「はっ、はい……」
二人はゆっくりと裏路地の闇に消えて行く。作戦は開始された。目標は『チェンソー』の始末。今後の作戦に支障を来す前に消さなければならない。
アリウスはトリニティとゲヘナの破壊を望む。太古からの憎しみは闇にて膨れ上がり、学園都市を呑み込まんとしている。
崩壊の足音が近づく。空虚な世界を打ち壊す為に。
そういえばアニメ先生のCVがアキ君の人になりましたね。
つまり先生はアキ君ということです。
デンジの防御タイプは……
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通常装甲
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軽装備
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重装甲
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特殊装甲
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弾力装甲