先生が着任して少ししたくらいの頃のお話です。
Ex-1 エンジェル24のアルバイト
『先生』
『おくれてんのか』
──『“デンジ君?”』
──『“どうしたんだい?”』
『いや』
『このつかい方がわかんなくて』
──『“送れてはいるから大丈夫!”』
──『“なにか用事とかあるの?”』
『あいや』
『先生のすきな』
『先生の好きなもん売ってるんで』
『シャーレの店はいいっすよ』
【デンジの絆ストーリーへ】
▼
“あ〜、食パン買ってないや……”
時刻は午前7時。先生はシャーレ居住区にて起床したばかり。未だ寄り来る眠気に耐えつつキッチンを確認して、食パンを切らしていたことに気づく。
“エンジェル24で買って来よ……”
ぼやきながらもそもそと寝間着を着替え、欠伸をしながらエンジェル24へ足を進める。店名の通り二十四時間営業なのでいつ行っても安心。着任して日は浅いが、既に何度もお世話になっている。商品ラインナップが若干物騒だが……。
「らっしゃいま……あ、先生」
“あれ、デンジ君……おはよう、アルバイト?”
「そっす。給料良いっすよ」
レジに珍しい顔を見る。デンジ君だ。彼もここでバイトしてたんだ、となんとなく思い、軽く世間話をする。学校の話とか、部活の話とか。彼は部活には入らずバイトをしているらしい。そんなにお金が必要なのかと聞いたら「大学ってのはお金がかかるって聞いたから」とのこと。なんてえらいんだろう……お〜いおいおいと泣きそうだった。
“食パンと……あとヨーグルトも買お。ついでにお昼の弁当も……あ、ストロベリーヨーグルトなんてあるんだ”
ちょっとわくわくしながら商品を選び、レジに持って行く。まだ慣れていないのか、デンジ君のレジ打ちは辿々しくてなんだか微笑ましかった。
「ありあとやした〜!」
“またね、デンジ君”
軽く手を振って店を後にする。デンジ君も笑って大きく手を振り返してくれた。なんだか可愛らしいな、ワンちゃんみたいな可愛さ。
▼
“あ〜、エンジェル24に食材も売ってて良かった……”
時間にして正午。そろそろお昼ご飯にしよう、という時に私のお昼ご飯(コンビニ弁当)を見た本日の当番生徒がお小言を開始。曰く、コンビニ弁当ばかりじゃ体調が心配だ、とのこと。
でも仕方ないじゃん……時間ないし……、とその生徒に言ったところ彼女が料理を作ってくれる事になった。しかしそこで問題発生──冷蔵庫にまともな食材が殆ど入ってない。というわけでエンジェル24に食材を買いに来た次第。
“卵、小松菜、あと豆腐……”
やっぱりすごいねコンビニ。生鮮食品も売ってたらもうコンビニだけでいいんじゃない? こんなこと言ったらまたあの娘のお小言ラッシュが始まるから言わないけど……。
「ありあとやした〜!」
“お疲れ様、デンジ君”
朝と同じ様に手を振る。デンジ君も変わらずのテンションだ。元気なことはいい事だね。バイトのシフトももうすぐ終わりかな。
▼
“今日も徹夜だあ〜……エナドリぃ……”
時刻は午後9時を三十分ほど過ぎた頃。どんよりした空気を纏って先生はエンジェル24に入店した。そのままエナジードリンクのコーナーへ真っ直ぐ向かい、三本ほど掴み取る。
シャーレでは徹夜残業は珍しくない。それもあの常軌を逸した量の書類が原因なのだが、その残業も今日は比較的早く終わりそうである。
というのも当番生徒がそういった書類業務を手早く片付けてくれるので、こちらの担当書類も少し手伝ってもらえたからである。故にこれから処理する書類も平時と比べると少ない、早く仕事が終わる。そういう訳だ。しかしあくまで比較的少ない、というだけで絶対量で見たらまだまだ多いことに変わりはない。そのことを考えると更に憂鬱な気分になってくる。
「先生、これ美味いんすか?」
“う〜ん、味は好きな方かなぁ……”
デンジ君が尋ねる。聞いてみるとどうやら飲んだことがないらしい。というか、ここのシフトって長いんだね……デンジ君も大変だ。
「ありあとやした〜!」
“デンジ君はちゃんと寝るんだよ〜……”
▼
“いつもよりは寝られたかな……”
書類漬けの一夜を明かし、夜の薄紫と朝の空色のコントラストが目を引く薄明の頃。食パンをトーストしてその上に焼きベーコンと目玉焼きを乗せ、カットした野菜と共に皿へ盛り付け。イチゴジャムをかけたヨーグルト、温かいコーンスープで朝食の出来上がりだ。
“美味しそ、いただきます”
テレビをつけ、寝間着のままゆっくり食す。いつもより多く眠れたからこその余裕。
“そうだ、ボールペン切らしたんだった”
コーンスープをちびちび飲みながらふと思い出す。昨夜の書類作業でストックが無くなってしまったんだった。
シャーレで扱う書類は連邦生徒会やその他学校の機関へ提出・送付したりするので、偽造防止の為に消えないボールペンを使っている。尋常ではない書類の枚数、署名などの記入欄の数。いくらボールペンがあっても足りない。
“エンジェル24に替えのインク、売ってたかなぁ……”
シャーレの腕章付きの白衣へ着替え、エンジェル24に入店する。
「らっしゃいませ〜」
“えっ”
そのレジには若干疲れの見えるデンジ君がいた。
“えっと、デンジ君?”
「あ、何すか先生〜」
“昨日の夜、家に帰った?”
「帰ってないっす」
“……朝ご飯は?”
「まだっす」
絶句した。
エンジェル24という店名だし、他のコンビニもそういう所は多いから二十四時間営業なのは解る。だがシフトが丸一日変わらないどころかそのまま二日目に突入してるのは一体どういうことだろう? シャーレと同等、下手すればそれ以上のやりがい搾取──もといブラックである。
“デンジ君はキツくないの? このバイト……”
「え、あ〜……ま〜ここ居て、物並べてるだけでいいんで」
“いやほら、家帰れないでしょ? そういう所とかは……”
「あ〜、別にヘーキっすよ! こっちに寝るトコもあるし、給料い〜んで」
純粋な笑顔でそう答えられると、逆に悲しくなってくる。お金は大事かもしれないけど、学生なんだから身体を大事にして遊んでほしいもんなのに……。
“デンジ君……”
レジ越しにデンジ君の肩をガシリと掴む。彼はちょっとびっくりしているようだ。
“一緒に朝ご飯、食べよ! ね!?”
「えェ!? 一緒にィ!?」
瞬間、デンジの脳裏に映る幸せな光景。そんなこと、もちろん──
「はい! 食べまァす!!」
この間、実に二秒。先生のツラは綺麗で超綺麗。おまけにスタイルもいい。そんな女性の誘いを断るという選択肢は、当然デンジにはなかった。
この後朝ご飯を作ってエンジェル24の店裏に持って行ってデンジ君と食べた。ジャムやらバターやらを盛りまくって『最強の食パン』を作っていたのが微笑ましかった。あと、それが意外と美味しかった。明日また食べよ。
デンジはキヴォトスでも煙草リサイクル売りバイトを……
-
やってる
-
やってない