怪奇! キヴォトスのチェンソー男!   作:アマテ_V3

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2-2 強盗団『ハロウィン』

 

 

『デンジ君、先生がどこに行ったか知らない?』

 

──『いや知らねえ、どうしたんだ?』

 

『出張するって書き置きだけして行っちゃったのよ! 丁度いいからちょっとシャーレまで来てくれない?』

 

──『あ〜、今すぐ?』

 

『今すぐ!』

 

──『はいよ』

 

 

 先生来訪から数日のシャーレ執務室。現在、その部屋の主であるはずの先生は不在。彼女の机の上には──

 

『出張に行ってきます。今度ラーメン奢るから許して。

 ──P.S 多分新しい書類とか出てくると思うので、よろしく』

 

という書き置きが残されていた。なぜ、どこに、誰のところへ……そういった情報は一切無し。今朝、その書き置きを発見したユウカは大慌てだった。

 実際、その後に新しく上がってきた書類などもあり、その処理に追われている。シャーレはその権限からできることが多い。しかし、それはやらなければならない書類作業が多い事も意味している。先生と当番の生徒が共に作業をしても時間がかかるもの、それを一人でやろうというのはあまりにも無茶なのだ。

 

「もーー! どうして私に一言もなく……! このままじゃ埒が明かないわ!」

 

 そうしてユウカは応援を求めた。

 問題は誰に声をかけるか───。先日のシャーレ奪還の一件で、ユウカは共に戦った人達とは連絡先を交換していた。その面々が脳内に浮かぶ。

 

(守月さんは自警団、羽川さんは正義実現委員会で忙しいだろうし、火宮さんもたしか風紀委員……となると……!)

 

 

「んでよ、なんで俺呼んだの?」

「シャーレ所属の中で一番暇そうだからよ」

「……まあ、今日はバイトなかったけどよォ〜」

 

 モモトークでユウカに呼び出されたデンジ。口では少々不満げだが、内心はけっこう嬉しかったりする。デスク上の書類をテキパキと処理していくユウカは真面目であり、デンジが少し苦手でやりづらさを覚える人間だが、顔立ちは整っていて、素直に可愛いと言える女性なのだ。

 

「んで? 俺はなにすりゃいいんだ?」

「デンジ君はこっちの書類をお願い。分からない所あったら質問して。できる限り答えるわ」

「あ〜〜…………、了解」

 

 デンジの質問に、横のデスク上に積まれた書類を指してユウカは答える。それは紙束やファイルが幾重にも積まれた山で、ユウカが処理しているものまではいかなくとも、人のやる気を減衰させるには充分なものだった。

 デンジはそれをチラと見て顔を顰めるが、ここで帰るのもな、と思い直して渋々作業を始めた。

 

(……なんかこういうの、公安のときが最後だっけか……)

 

 デビルハンターとして公安に勤めていた時は、書類作業も仕事の一つだった。悪魔退治で何かを壊せば始末書、悪魔の死体の事でも始末書、始末書、始末書……目の前の山程はなくとも、書かなければならない書類は多かった。全ての書き方を覚えた訳ではないし、何なら今はほとんど忘れている。デンジはあの時どう教わったかを思い出して───

 

 

 

 

『これが建造物損壊の始末書で……これが悪魔の死体利用の確認……』

 

『デンジ君の目が見えなくなっても、私の噛む力で私だってわかるくらいに覚えて』

 

『もしもデンジ君が銃の悪魔を殺せたら、私がキミの願い事、なんでも一つ叶えてあげる』

 

 

 

 

 脳裏に浮かぶ顔。()()で、()()で、そして()()───。

 

 デンジは頭を振って、頬を二、三度叩く。ユウカは突然のことに横を見やるが、デンジはしっかり作業を始めたため、自らも作業へ戻った。

 

 

「……なあ、ここってどうすりゃ……」

「ん? えーっと、これはここに……」

 

「これはどーすりゃいいんだ?」

「えっと、これを……」

 

「……あ、デンジ君? ここ間違えてるわよ」

「あ? あ〜、すまねえ」

 

「……う……、読めねえ、助けてくれ……」

「嘘でしょ? ……これはね……」

 

 作業開始から約30分。ユウカは早くもデンジに呆れ始めていた。書類の仕様、書き方が分からないなどはまだしも、数多の計算ミスや誤字脱字、そもそも簡単な計算のやり方が分からなかったり、漢字が読めなかったりしている。それらのミスを指摘したり質問に答えていると、時間はいくらかそちらに取られてしまうわけで、呼ぶ前より効率が落ちてさえいるような気がしてしまう。

 

「……ねえ、大丈夫? 勉強はちゃんとしてるの?」

「ま、まァ、なんとか……」

「ゲヘナにも毎日通ってるらしいじゃない。決して簡単な内容じゃないと思うけど、ついて行けてる?」

「…………」

「……はあ。この漢字は『せいきゅう』って読むの。どっちも義務教育で習うはずだけれど……」

 

「あー…………。その、()()()()()()()、義務教育」

 

「え?」

 

 ユウカは耳を疑った。キヴォトスでは、中学までは義務教育で、必ず受けなければならない。それを目の前の男は受けてないと言う。

 

 彼はキヴォトスの外から来たという。教育に関してキヴォトスとは違うのかとも思ったが、先生によればキヴォトスとの違いは『先生』という職業の人間がいるくらい。義務教育はあるだろう。じゃあ、一体なぜ?

 

「えっと、その、借金があってよ……。それ返すのに働いてたんだよ……その、色々」

「えっ、じゃあ、今バイトしてるのも……」

「いや、今はねえんだ。ヤクザのジジイがその、死んだから」

 

 ユウカは後悔した。明らかに土足でずかずかと踏み込んではいけない所に来ている。デンジの顔も気まずそうだ。

 

「そ、そうなの! ごめんなさい、余計な事聞いちゃって……」

「いや、大丈夫ダイジョーブ……」

 

 ユウカは少し慌てた様子で言い、自分の作業へ戻る。初めて会った時の満面の笑みとは違う、どこか影を感じる顔を見て、胸が締め付けられる。義務教育を受けるべき年齢で借金返済のために働く……それは今まで普通に教育を受けてきたユウカには想像できなかった。

 

「わ、分からないことがあったら、本当にどんどん聞いていいからね!」

「お、おう」

 

 

(……殺したなんて言えねえしなぁ)

 

 

 一方のデンジは少し苦々しげな顔をしている。辛い過去を思い出しているとかではなく、嘘をつくのが少し苦手で表情に出てしまうのだ。

 

 デンジが借金を背負っていた頃、ゾンビの悪魔と契約してゾンビになったヤクザに殺されている。その時ポチタがデンジの心臓となり、死の淵から蘇った。悪魔を殺してもゾンビはゾンビのままだったので、そのまま真っ二つにして借金をパアにしたのだ。

 

 人殺しは良くない。そんなこと、今のデンジは十分に理解している。正直にあの事を言えばすごい気まずくなって引かれる。それもユウカに。それだけはすごいまずい。

 

 よってデンジは少し誤魔化した。どう誤魔化すかで少し詰まってしまったが、ユウカは作業に戻ったのでどうやら乗り切ったようだ。デンジは胸を撫で下ろし、作業へ戻る。

 

 

「失礼します。先生はいらっしゃいますか?」

 

 二人が作業を再開してから程なくして、一人の生徒がシャーレの戸をくぐる。赤いスカーフとライン、『Justice』の文字とトリニティ校章の入った黒い制服を纏う女生徒───羽川ハスミ。

 

「あ、羽川さん? 先生なら出張よ。どこに行ったのかは分からないけど」

「あぁ、そうなのですか? うーん、どうしましょうか」

「何か先生に用事?」

 

 先生の不在を聞いたハスミは困ったようにこめかみを押さえる。ユウカが用件を問うと、ハスミは逡巡した後、口を開いた。

 

「ここ最近、トリニティ自治区で頻発する強盗事件……その解決に協力していただきたいのです」

 

 

 トリニティ自治区、ある日の昼下がり。

 中心部ではないが郊外でもない微妙な場所にある銀行。本日も職員が順調に業務をこなし、問題なく営業している…………()()()()()

 

「あの……すみません……」

「! はい、どのような、要、ケン……!?」

 

 声をかけられた窓口職員が顔を上げると、目の前では顔を彫り入れたカボチャを被り、黒いライダースーツを着た高身長の謎の人物がショットガンの銃口をこちらに突きつけている。

 

「えっと、その、この、これに……お金を……」

「おいサ……ジャック! もっとハキハキ言うんだ!」

 

 緊張した様子で喋るカボチャ頭『ジャック』に、包帯をグルグル巻きにした小柄なミイラが怒鳴る。

 

「えっ、ひゃい! このバッグに、お金詰めてください! さもないと、さも、ないと……」

「さもないとブッ飛ばす!!」

「えっ、あっ、ぶ、ぶっとば……」

「ホラ早く詰めろって! アタシの拳骨のサビになりてえかあ〜?」

「手に錆はできないよマミーちゃん……」

「うるせー! 細けえこたいい! こーいうのは勢いが大事なんだよ!」

 

 職員の目の前でコントのようなやり取りをする二人だが、服装は珍妙そのもので変質極まりなく、やっている事は銀行強盗であるため立派な犯罪者である。どう見ても強盗をする服装ではない為に脳内が疑問符で埋め尽くされるが、やり取りをしていても一切逸れない銃口が職員の危機感を最大まで高め、恐怖を煽っていた。

 

「二人とも、早くしなよ。長居しちゃ証拠が残るんだから、さっさと貰って退散するよ」

「は、はい、バロンちゃん」

「ちぇッ、一発くれー殴ってもいいだろ」

「捕まりたいなら殴れば? ヴァルキューレとも喧嘩できるよ?」

「ヘイヘイ、わーかったよ」

 

 『ジャック』と『マミー』のやり取りの中に割って入ったのは不気味な笑顔の仮面をつけた男爵風の人物。二人は『バロン』の言葉に割と素直に従った。どうやら彼女がリーダー格のようである。

 

「じゃ、ちゃっちゃと詰めて。手早く終わらせてね」

「はっ、はははい!」

 

 職員は『バロン』から突きつけられた拳銃を見て、弾かれたように金を詰め始める。その最中、こっそり通報のボタンを押そうとして───耳を劈く轟音が、一発響く。

 

「駄目だよ、駄目。()()()()って言ったんだ。()()()()、なんて一回も言ってないだろう。次は()()()よ」

 

 職員の肩ギリギリを銃弾が掠める。あと少しズレていたら、鮮血が噴き出ていることだったろう。職員はこの射撃で完全に抵抗を諦めてしまった。

 

 

「オッケー、それじゃズラかるよ」

「はい」「ラジャ」

 

 

 黒いボストンバッグに金をたんまり詰めた強盗三人組は風のように素早く去った。その場に居合わせた人の通報で警察が到着したのは、彼女らが逃げ去った後だった。

 

 

「トリニティ自治区で頻発する強盗事件は、このように仮装で顔などを完全に隠して行う『仮装強盗』で行われています。その手口から、この1ヶ月間で起こった21の事件は同一犯───通称、強盗団『ハロウィン』によるものと見ています」

「にっ……! そんなに!?」

「は〜、頭い〜んだな〜」

 

 シャーレの応接室でデンジ達とハスミが向き合って話している。デンジは強盗団の手口に感心していた。

 

 ───強盗団『ハロウィン』。主にブラックマーケット内、時々いずれかの自治区の銀行などで強盗を繰り返す集団。その手口は『仮装強盗』。顔や手など全身をくまなく隠した仮装を纏って強盗をし、逃走中にそれらをどこかで処分して捜査の目から外れる。事前に下調べをかなりしているようで、監視カメラの死角などを把握しており、それを利用した逃走で警察の眼を何度も欺いている。目撃者も『髭面サンタ』とか『カボチャ頭』としか言わず、手がかりがほとんど残らないのが常である。

 また、事件のたびに人数が増減しており、正確な人数も分かっていない。一つの巨大な組織なのではないかとの見方さえある。

 

 

「───その強盗団が現在、トリニティ自治区を集中的に狙っています。正義実現委員会、自警団ともにこの件の対応をしているのですが、追い詰めても煙幕や閃光弾で逃げられてしまい……一旦逃がすと捜査網にもかからないのです」

「もうすごいを通り越して怖いわね……」

「とにかくスゲー悪ぃやつなんだな」

「それで、先生を頼りにここへ来たのですが、まさか出張とは……」

 

 ハスミは少し俯き、今後の事を思案する。先生に頼れないとなれば、もっと人員を増やして対応するしかない。一、二年の委員にももっと招集を掛けねば……と考えていると、デンジが口を開く。

 

「じゃあよ、俺達で捕まえようぜ、ハロウィン」

「え?」「えっ?」

 

「いや、だってよ、先生は今いねえ。で、代わりに俺らが仕事してるだろ? じゃあ今は俺らが先生なんだぜ」

「…………いやいや! 違うから! ただ仕事を手伝いに来てるだけで……!」

「大丈夫だろ。ユウカは頭いいから、捕まえる方法とか思いつけるし、俺は前強盗を捕まえたことあるんだぜ」

「いやいやいやいや!! 頭の良さとそれは関係ない……!!」

「つーわけでやるぜハスミさん。何すりゃいーんだ?」

「もー! 話聞きなさいよ〜!!」

「は、はは……では、その……」

 

 

 

 デンジはハスミに『年上の美しい人』というイメージがある。物腰は柔らかく、冷静沈着。デンジはハスミに、どこかあの人に似たものを感じていた。その人が困っているなら、どうにかして助けたい……そしてモテたい。

 

 早い話が、格好つけたかったのである。

 

「よっしゃあ! ぜってー捕まえるぜ!」

「どうして私まで……」

 

 デンジは止まらない。やる時はやるのである。

 

 




その頃の先生
「ここどこ……助けて……」
「ん、大丈夫?」
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