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「報告です、マダム……『鬼』が討たれました」
「……そう、それで?」
「監視員によりますと、例の『チェンソー』に頭蓋を割られて絶命したとのことで……」
「ハァ……もう報告は結構、下がりなさい」
「ハッ」
──やはり負けましたか。元々期待などしていませんでしたが。あのような悪魔は扱いづらいでしょうし、むしろ好都合ですね。
ベアトリーチェの心中は大して波立たない。確かに『鬼』にチェンソーの情報を渡したのは彼女である。しかしそれは向こうが頻りに要求したからであり、彼女は鬼がチェンソーを始末できようができまいがどうでも良かった。元々始末の計画は練っていたし、チェンソーを消してくれれば儲けもの。始末の対象を鬼に変えるだけである。
ロイヤルブラッドを用いた『儀式』により齎されるであろう力、そして手中にある『悪魔』の力。揃った暁には、私はこの世界で最も大いなる存在となるのだ──そう目論むベアトリーチェは、今も闇の中で不敵に笑っている。
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「そっ、総員包囲!」
その一声でヴァルキューレの警官隊が銃を構え、デンジを遠巻きに囲む。その顔色は青く、銃を持つ手が震えている者も一人や二人ではない。数多く向けられている銃口からイヤな記憶がデンジの脳裏を過り、顔を顰める。
「えっ、いや、あ〜、その……俺ぁ別にワリぃヤツじゃねえって」
「そんな訳あるか! お前もやられたそこのと同類だろチェンソーの化け物ォ!」
デンジに程近い警官が恐怖に震えながら言う。その姿はデンジを非常に悩ませた。どうすれば俺が人間で、何も悪いことをするつもりがないということを解ってもらえるだろう。
そう考え始めてから正体をバラそう、自然に──と思い至るのにそう時間は掛からなかった。
「俺、チェンソーマン! コイツみてーに人間は食べねえヨ! だって俺ぁ人間だからよ!」
そう明るく言ってみても、むしろ警官の顔が険しくなるばかり。いよいよ顔を見せなきゃならないらしい、デンジはそう直感した。
「証拠に、人間の姿を見せてやろうかァ〜?」
なおも明るくそう宣言して、いざチェンソー解除──とその時。警官隊の足元、そしてデンジの周囲にバラ撒かれた筒状手榴弾から白煙が吐き出される。短時間の内に視界を白く染め上げ、その場の全員を混乱の渦に落とし込む。
「なっ、んだこれ……」
デンジも例外ではない。今まさに人間であることを証明しようとしたのに、このままでは誰も自分の姿をみてくれないじゃないか。しかしこの濃霧の中、どうすることも出来ない。ただ晴れるのを待つデンジに──
「申し訳ありません」
後方から首へ手刀が一閃。デンジは声を上げる間もなく意識を飛ばし、その場に崩れ落ちる。手刀の主はその身体を抱え、グズグズになった包囲網を機敏に抜け出して近辺の路地裏へと姿を消す。
白煙が晴れて警官隊がデンジのいた方を見ても、そこには僅かに残った鬼の死体と赤黒い血、手榴弾の残骸しかなく、件のチェンソー男は影も形もなかった。
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「ダメです……ダメ……本当の貴方は私だけが解っていればいいのですから……」
悪魔襲撃の現場から遠く離れた路地裏。ワカモは恍惚とした顔で、壁に寄りかけて座らせたチェンソーの胸に耳を当てている。耳を離したと思えば裂けたシャツから見えるスターターロープを愛おしげに撫で、また胸に耳を当てる。
彼女の脳裏に、エンジン音が響く。血みどろになろうが、化物に喰われようが、エンジン音を響かせて立ち上がる──そんな姿に『憧れ』というのが生温いくらい惚れてしまったのだ。喋り方と戦う姿から、チェンソーが以前自分と戦った男だと解っていても。
「あぁ……この心臓の音も、チェンソーも、全部愛おしい……」
そうしてまた耳をすませて心臓の音を聴く。それが自分を救ったあのエンジン音のような気がして──。
「ん……ァ……」
「ひゃっ!?」
チェンソーが意識を戻し始めた。ワカモは急に、自分が今していることが恥ずかしく感じられて飛び退いてしまう。
「わ、私はなんてこと……し、失礼!」
ワカモは顔を合わせていられなくなり、ビルの壁をパルクールのように移動して屋上に出る。そのまま他のビルを伝って襲撃現場から離れていく。飛び跳ねるアクロバティックな動きの中でも、鬼に噛み切られたデンジの左腕を彼女は大事に抱えていた。
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「……ァ……?」
はっきりしない意識の中で、デンジは辺りを見回す。見慣れているような、そうでもないような。薄汚れた路地裏の方へなんとなく歩いていく。
「…………ポチタ!!」
「ワン!」
入ってすぐのゴミ箱の陰に、親友がいた。声をかけると、変わらない笑顔で返してくれる。駆け寄って抱え上げて、抱きしめる。夢のようで、とても幸せ──しかしポチタは間もなく自らデンジの腕の中から抜け出してしまう。
「ポチタ……?」
『デンジ』
ポチタは路地裏の奥へ進むと、振り返ってデンジを見据える。間を開けて、優しく語り始めた。
『私はデンジの夢が大好きだ。だから今、デンジが夢を追っていて私も幸せなんだ』
「ポチタ……?」
『でもデンジ、気をつけて。これからまた、デンジの夢に邪魔が入るから』
そうして、ポチタの姿が急速に遠くなっていく。自分が離れているのか、ポチタが離れているのか──デンジはハッとして駆け寄るが、距離は遠くなるばかり。そのうち息が切れて膝に手を置いて気づいたのは──自分が子供の姿だったこと。それに気づいたら、なんだか周りから色が無くなっていくような感じがした。
▽
「ポチタ!」
目を覚ますと、見知らぬ路地裏。頭のチェンソーも溶け落ちて普通の人間に戻ったデンジは、狭い空を見上げて気絶する前の出来事を思い浮かべる。銃を向けられて、正体を明かそうとして、煙を撒かれて、何故か気絶して──つまり。
「……ッ……やっと自然に明かせそうだったのにィ!!」
悪魔に踏み潰された時よりも、悪魔に喰われた時よりも険しい顔をして叫ぶ。バラバラにした悪魔のことは頭の片隅に追いやられ、心中を占めるのは人間である証明が出来なかった後悔。デンジは力なく立ち上がって、何度も溜息をつきながら家路についたのだった。
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「……どう処理しろって言うのよ、コレ」
デンジが項垂れて帰路についているのと同時刻、ユウカも溜息をついていた。周囲の面々は規制線を貼ったり鑑識を要請したりしているが、あの巨大な怪物の死体は消えてしまっている。器物の修復は最優先事項としても、ワカモが扇動した不良たちも粗方逃走してしまっているし、事件について何を調べればいいのだろう。
とりあえず損害に関しての大体の金額を出す手伝いはしよう、と壊れた建物を見回っている時だった。
「……あら? これは……学生証?」
歩道にカードが落ちていた。拾って表を見ると、ゲヘナ学園の学生証であり──名前は『早川 デンジ』と書かれている。
(デンジ君の……? でも現場にはいなかったじゃない……)
現場へ到着し、装備を整えて事に当たる前にデンジがいなくなったことにユウカは気づいていた。デンジはキヴォトス生まれではない。だから危険を感じて避難したんだと思っていた。じゃあ何故学生証がこんな現場近くに落ちているのだろう……? 影から攻撃していた? いや、そもそも銃持ってたっけ?
「……とりあえず後で返しておきましょう。モモトークで一応知らせておかないと……」
スマホを取り出して学生証を撮影し、メッセージ付きでモモトークに送信する。その最中、ユウカの頭に荒唐無稽な考えが首をもたげる。
──あのチェンソー男がデンジ君なのでは?
(……いやいや! いくら何でも、デンジ君はあんな狂った感じじゃ──)
どうしても脳内で、シャーレで一生懸命に作業をしていたデンジと血塗れチェンソー男が繋がらない。否定し切れはしないが、かと言って肯定も出来ない。
すっきりしない心持ちのまま、見回りを再開する。一応返す時に聞いてみよう、と半ば彼がチェンソーとイコールではない事を祈る気持ちでそう決めた。
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“さて。アビドスも無事解決したし、今度は書類も解決しなきゃ……”
先生はインスタントコーヒーを入れ、なんとなくシャーレ執務室のテレビをつける。ちょうど朝のニュースが流れている。
『……いてのニュースです! シラトリ区での怪物の襲撃というビッグ事件から数日が経ち、被害の全容が掴めて来たようです! こちらが当時の上空からの映像になります!』
“ゲホゲホ! ゲホッ……”
先生は噎せて咳き込む。コーヒーが意外に熱かったとかそういう訳ではなく、ニュースで流れた映像があまりにもショッキングで先生も全く把握していないものだったからだ。
巨大な体躯と規格外のパワーで街を破壊する『鬼』──そしてそれをズタズタにするチェンソー男。流石にモザイク処理はされているものの、どう見ても血液臓物が飛び散っているその光景は朝のお茶の間に流すものではない。
“ええ……”
ニュースに依ると捜査は難航しているようで、『チェンソーマン』と名乗ったらしいチェンソー男の行方は依然として解らないため、情報提供を呼びかけているようだ。
“うーん……ちょっと
先生は脳内の懸念事項リストに『チェンソーマン』を加える。しばらくそのニュースを眺めていたが、入口ドアがノックされるとすぐに笑って出迎え、書類作業を開始する。その頭の片隅では、これから現れるであろう問題に対処する計画を修正し続けていた。
“そうだユウカ、今日ラーメン食べに行かない? ちょっと遠いけど、早く仕事終わりそうだし。柴関って言うんだけどね……”
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デンジの初期星数は……
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