アニメ8話大好きすぎて気付いたら筆が動いてました。
音楽知識皆無なのでガバったら許して。
ある夏の一幕。
夏休みも佳境に入り、蝉がわんわんと命を削りながら翅を鳴らしていた。友人がお祭りに行こうと誘い、特に断る理由もなく浴衣に袖を通した。
コンクリートが照り返す日差しは鳴りを潜め、心地よい風が肌をなぞる。
会場へ向かう高架下。同じ目的地であろう人々が往来し、色とりどりの浴衣や甚平が祭りの雰囲気を演出する。期待感に胸が膨らむ。縁日にはどんな店が出ているのか、想像するだけで足取りが軽くなった。
気を抜いたら駆け足になってしまいそうなのをなんとか堪えて、友人と久しぶりの会話を弾ませる。
と、にわかに周囲が騒がしくなった。
騒ぎの中心に目を向けると、赤毛の女性が路上ライブをやるらしく、その宣伝をしているところだった。
路上ライブ、物珍しさに足を止める。
そこで彼女に会った。
ピンクの髪にピンクのジャージ。ギターケースを肩にかけながら、広まっていく騒ぎになにもできずウロウロしている。
どうやら彼女もライブのメンバーらしい。
何故か観客側に混じって手を叩いていたが、赤毛の女性に手を引かれて戻っていった。
お祭り会場の近くということもあり、かなりの人が集まってきた。
そしてライブが始まった。
音は空気を揺らし観客の耳に波を届ける。
二人のギタリストが奏でる音は初めて聞いた私であっても、どこか心揺さぶられるものがあった。
単なるお遊びで弾いているわけじゃない、人生の中で少なくない時間をかけなければ習得できない技術。
しかし観客の視線が集中しているうちの一人のギタリストは目を閉じ、俯いていた。
目を瞑ったまま恐る恐る揺れるギターは、奏者の不安を表しているようだった。隣で楽しそうに鳴らしている女性とは対照的だった。
予想していたのは喧騒を塗りつぶすような破滅的な音楽。テレビとかで見て、ロックってそういうものだという認識が強かった。バケツに入ったインクを壁に叩きつける暴力的な現代アート。
でもこのライブは違った。
場の空気をなるべく壊さないように怖々と演奏している。
それはアートではなくただの音。意識の外を流れていくだけの背景に等しかった。イヤホンで聞くか生で聞くかの違い。
ちらほらと止まった足が動いていく気配を感じた。
それさえも演者は気付かない。
あるいは、気付かないふりをしているのか。
そして私は気づく。
気づいて欲しかったのではと、気づく。
気づいた時には、声が出ていた。
「頑張れ!」
肩をビクッと震わせたその子は演奏をとめてしまった。
友人に脇を突かれるが、もう遅い。
薄く染まった夕暮れに刹那の静謐が訪れた。
でも、開いた。
弱々しく拒絶していた瞳は、確かに私を見ていた。そしてゆっくりと顔が上がり、観客を見た。
少し惚けて。
次の瞬間には静寂を破り捨てるような音。
場の雰囲気が今までとは明らかに違っていた。
かき鳴らす、という表現が相応しい騒音。騒がしい、音。
空気を身体を心を全てを震わせる波が私の鼓膜を襲う。
私が気づいたこと。
それは矛盾だった。
大衆の前でのパフォーマンス。
背中を丸めて縮こまって見えた背中。
堅く瞑られた双眸、機械的に弦を弾くピック。
ただ、ギターは時々こう言っているように聴こえた。
『私を見ろ』と。
でもそれは少し違う。
『私』を見て欲しかったら、『自分』を魅せなければいけない。
弾いた指が創り出す音だけではない。
黒い箱が響かせる波だけでは足りない。
奏者自身も、また『自分』なのだ。
『自分』を魅せるには、どうするか。
鏡を見なければならない。鏡とはつまり、観客だ。
奏者が楽しそうだったら、観客も楽しい。
しかし同様に、奏者に自信がなかったら、観客も失ってしまうのだ。
この空間を楽しむ自信を。
だから
どちらか一方だけでは成り立たない。奏でられない音があるのだろう。
故に、初めて鏡を意識したギタリストが鳴らす
ロックはおろか音楽にさえ興味がなかった私は、華奢な身体と白い腕から奏でられる暴力的な音圧に、いとも簡単に魅せられてしまった。
路上ライブが終わると周りからの拍手につられるように私も自然と手を叩いていた。
ギャップ萌えというやつかもしれない。
気弱そうな外見からは想像もできないパフォーマンス。
私にはないものを持っている。
なによりも、カッコよかった。痺れた。すべてを持って行った。
「あの、このライブチケット、買ってもいいですか?」
「二枚ください!!」
近くに漂着したライブ告知の紙を拾い上げ、そういったのは必然だった。
友人も同じ気持ちだったようで、夏休みの予定が一日埋まったことを確信する。
「えっ、あ、ほ、本当に、い、良いんですか?、か、買っていただいてっ」
「ひとりちゃんしつこいぞー」
チケットが売れることが信じられないようで、しどろもどろに確認されたが私たちの意思は変わらなかった。だって。
「初めて路上ライブ見たけど、すっごく良かったです!」
「今度のライブも頑張ってくださいね!」
「はっ、はぃ、頑張りますっ!」
あの音を聴いた瞬間から、私たちはファンになってしまったのだから。
そしてそこで衝動的に買ってしまったライブチケット。今日はそのライブ当日だった。
が、生憎の台風直撃だった。
Starryというライブハウスにはなんとか到着できたが、お客さんは全然集まっていない、ように感じる。私と友人以外だと、同じような、でも場慣れしている感じの女性2人組やお一人様がポツポツと。
・・・あの店員さんっぽい人に絡んでいる酔っ払いはお客さんなのだろうか?と思ったらこの前の路上ライブで演奏していた赤毛の人だった。演奏していないと、ただのだる絡みしている酔っ払いにしか見えない。
ハンドルを握ると性格が変わる人がいるように、ギターを持つとスイッチが入る人なのかもしれない。・・・でも思い返せば前回の演奏中もすこし顔が赤かったような?
「は、初めまして、結束バンドです!」
少し震えた調子の、でも明るく振舞おうとする声に顔を上げる。
ステージにはすでに演奏の準備を終えたバンドメンバー、そのうちの一人が中央に立ってマイクを握っていた。特徴的な赤い髪や整った顔立ちは視線を集めるが、本番前に顔を合わせた時よりも表情は硬い。
緊張のせいだろうか。
「本日はお足元の悪い中お越しいただき、ありがとうございます!」
「あ、あははっ。キタちゃんロックバンドなのに礼儀正しすぎぃー・・・」
少し上ずった声に対して、ドラムの子が突っ込みを入れるけれど、盛り上がっているとは言い難い会場の雰囲気に潰されるように、声の端が消えていった。
心なしか外の雨音が良く聞こえる気がする。
あはは、と二人分の乾いた笑い声もスタジオの暗い照明に吸い込まれていくようだった。雨足が少し強まった気がした。
ふとひとりちゃんに目を向けると、こちらはあからさまに緊張して青ざめていた。でも前の路上ライブとは違って最初から目は開いていた。ちらりとこちらを気にするそぶりも見せる。
「・・・っじゃあ早速一曲目いきます!聞いてください、私たちのオリジナル曲で、『ギターと孤独と蒼い
あまり心配はしていなかった。
初めての路上ライブ、初めて聞いたロックが凄すぎてハードルが上がっていたところもある。
頭蓋骨を直接揺らされるような、心臓を握りつぶされるような、息ができなくなるくらいの衝撃を忘れることはできないだろう。
そしてこの子がギターを務めるバンドはどうなってしまうんだろうと、昨日から胸が高鳴るのを抑えられなかった。
でも、結論から言ってしまえば。
私はこのライブを楽しめなかった。
曲が終わってからちらりと周囲を伺うと、まばらだった観客が一人二人姿を消していることに気づく。
「っ、『ギターと孤独と蒼い惑星』、でした…」
「やっぱ全然パッとしないわー。早く来るんじゃなかったねー」
「・・・っ!、あぅっ、いや・・・、」
なんとか吐き出した一曲目を締める言葉は、観客席から漏れたキツイ一言で萎んでしまった。
私たちでさえも、その言葉に反論できず声が喉の奥で詰まるばかりだった。
違うと言いたい。本当はこんなものじゃないんだと声を大にして伝えたかった。
もちろん本来の演奏を聞いたことがあるわけじゃない。でもあのギターがいるバンドは私の想像なんか遥かに超えて、聴いている人の何かを震わせる熱量を持ったものだと信じて疑わなかった。
そのはずだった。
ベースはミスをしないことを第一に、マイペースぎみに。ドラムとのズレは認識してから直すために後手に回ってしまう。
ドラムはバンドの心臓である。拍を打つと、それがバンド全体に行き渡り、曲をリズムをつくる。だからこそ緊張で早鐘を打つ。視野が狭くなり肩肘を張ってしまう。
必死に声を張るあまり裏返ってしまったボーカル、手元のギターは焦りからかズレてしまい、修正しようとするとボーカルが疎かになる。サイドギターとはいえ、ミスをしたという事実はさらなる焦りを生む。
誰か一人が悪いわけじゃない。
全てが致命的に空回っていた。
たった一つの音を除いては。
「キタちゃん、次の曲紹介しないとっ」
「っ、はい、次も私たちのオリジナル曲で、つい先日できたばかりの曲なんですが・・・、」
ドラムの子が固まってしまったギターボーカルに助け舟を出す。
でもそれは目を瞑っていた。逸らしていた。
気持ちの切り替えではなく、気持ちを無視した。
観客から現実から目を背け、自分たちの演奏にさえ向き合えない。雨粒が道路を強く叩く。曇天。光など射す兆しさえなかった。
いつかの路上ライブと重なる。
大勢の観客の前でいっぱいいっぱいになっていた。
自身のことだけだった。
楽しくなかった。
だから私は確信めいたものを持っていて。
それはこのままだと次の曲も同じようになるという事だった。
せめて楽しく演奏して欲しくて。
自分に嘘をついて欲しくなくて。
向き合って欲しかった。
だから。
私が声を上げようとして、
口を塞がれた。
喋るなと、幼子にそう言いつけるように。
見ていろと、他の誰でもない自分達を見ろと。
聴けと、
確かにその路上ライブを経験したのはこの場で私たちだけじゃなかった。
そのギタリストは知っていた。
不安も緊張も。
そして孤独も。
ライブを初めて聴いた後、少しバンドについて調べてみた。まぁネット知識なんだけれど。曰く、バンドは呼吸を合わせるのが大事なのだと。一つ一つの楽器が合わさってできるのではなく、バンドが一つの楽器として曲をライブを作っているのだと。
だからソロのギターは凄くても、バンドに入るとうまく演奏できないことはままあること、らしい。
だから知っていた。
そのギタリストは孤独を知っていたのだ。誰よりも。
目を瞑って暗い瞼の中弾く孤独を。
重く澱んだ空気も、
前奏で滲み出た観客の不安も、
外で激しく地面を打っているであろう野分*1も。
全てを捩じ伏せるような波が鼓膜を揺らした。
雷鳴。
曇天に光射すのは、太陽ではなく、
私はこの日のライブを絶対忘れない。
忘れられない。
本当は『あのバンド』の歌詞妄想書きたかったんですけど力尽きました許して。
Cメロの『脚鳴らす、足跡残すまで』ってところで白米三杯はいけた。
あと、タイトルの『Unknown Band(誰も知らないバンド)』はニコニコ動画のアニメ8話のコメントから拝借しました。
投稿者様に深く感謝申し上げます。
次に書くとしたら何の局?(ない可能性たくさん)
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あのバンド
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ギターと孤独と蒼い惑星
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フラッシュバッカー
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忘れてやらない
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星座になれたら