バレンタインのmiComet。

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苦い、甘い

 バレンタインデーが目前に迫った日曜日。

 

「ん……?」

 買い物に来ていた星街すいせいは、偶然その帰り道で見知った人物の後ろ姿が目に映る。

 ――あれ、みこちじゃん。

 すいせいはみこち――さくらみこがある店に入って行くのが見えた。

 ――みこちもなんか買いに来たのかな?

「……ちょっと驚かせちゃおうかな」

 そんな悪だくみを思い付いた彼女は、みこが入った店の前へと向かう。

 

 店の前に着くと、そこはスイーツショップであるのが分かった。

「みこちが入ったのってここだよね?」

 中にいるであろうみこに気付かれないようにそっと店を覗く。

 ――あ、いた。

 店内には真剣そうな表情で商品を選んでいるみこの姿があった。

 ――いったい何をそんなに悩んで……。

 彼女が見ていた商品の棚には沢山のチョコ菓子と、バレンタインの文字が書かれたPOP広告が置かれている。

 その光景と、普段の様子からは想像できない真剣なみこの表情に、すいせいはさっき思い付いた悪戯の事など一瞬で消えてしまった。

 代わりに――

「誰に渡すんだろ……」

 そんな言葉が口を突いて出た。

「――ハッ、いやいや、みこちが誰にバレンタインのチョコあげるのとか別に関係ないじゃん」

 そこまで言って、胸を締め付けられるような感覚に襲われる。

 自分の知らないところで、知らない人にみこがチョコを渡している姿が浮かんで――

 ――帰ろ……。

 店内の彼女に見つからないように、すいせいは一度来た道を引き返して行く。

 

 家に帰り着いたすいせいは何もする気が起きずに、モヤモヤとした気持ちを抱えたままだった。

 

 × × ×

 

 そしてバレンタインデー当日。

 

 あれからすいせいの気持ちはスッキリとしない物が続いていた。しかし、今日は切り替えなければならない。

 スタジオでの収録が以前から予定にあるからだ。

「でも今日のはなぁ……」

 彼女は苦笑いを浮かべる。

 今日はあろうことかmiCometでの収録であった。

 もしあの時選んでいたチョコを、誰かに渡している所を見てしまったら……。

 ――って、みこちとはビジネスだから! バレンタインとか関係ないし!

 頭を振って思い浮かべてしまった光景を吹き飛ばす。

「……まだ早いけど、もう出ようかな……」

 今は歩いて気分をリフレッシュさせよう。そう彼女は思った。

 

 早い時間に家を出たのもあり、すいせいはスタジオ近くの公園で時間を潰していた。

「流石にまだちょっと寒いなぁ」

 ――これならこんな外じゃなくて、カフェとかで時間潰せばよかった……。

 冷える身体を温めようと、自販機に向かおうと彼女は立ち上がる。その瞬間――

「あれ、すいちゃん?」

 声をかけてきたのは、収録の共演者にしてmiCometの相方――そしてモヤモヤの原因であるみこだった。

「なにしてんの?」

「――べ、別に何も?」

 あくまでも何でもないという風にすいせいは装う。

「……なんか今日のすいちゃんおかしくない?」

 みこはジトリとした目で見る。

 ――なんで変なところで鋭いんだよ!

「おかしくないって! それより、みこちこそ何してんの? それ何?」

 すいせいはみこが手にしているオシャレな袋が気になった。

「あー……これは、その……」

 今度はみこの方の歯切れが悪くなる。

 ――え、何その反応……。

 少し頬も赤くなっているように見える彼女に、すいせいはそれがバレンタインで渡す物なのだと思い至り、またしてもモヤモヤとした感情が頭をもたげ始めた。

「あ、もしかしてバレンタインのチョコ? 誰にあげんの?」

 笑いながら、少し茶化すようにしてみこに問いかける。自分ではちゃんと笑えているかは分からないが。

 ――やだな。

 心の中はそんな感情でいっぱいだった。

「いやー……なんと言いますか……」

 あはは、とみこは照れながら苦笑いを浮かべる。

 ――そんなのいいから早く教えてよ。

 それが口に出してしまいそうになる。

 

 だがその前に、みこは袋からラッピングされた箱を取り出すと、その箱をすいせいへと差し出す。

「すいちゃん……これ……」

 その彼女はさっきよりも顔を赤くし、もじもじとしている。

「――えっ、私に……?」

 突然プレゼントを渡された事に、彼女は呆気に取られた。

 無意識に差し出された箱を受け取ると、しばらくして嬉しさが込み上げてくる。

「めちゃくちゃに恥ずかしいんですけど!」

 手で顔をパタパタと扇ぐみこに、すいせいは「開けていい?」と聞く。

「えぇ、ここでぇー……? い、いいけど……」

 許可をもらった事で、ウキウキとしながらラッピングを解いて箱を開ける。

「これって……ピアス?」

「うん……」

 みこがプレゼントに選んだのは、ピンク色の星が付いたピアスだった。

「チョコじゃないの?」

「すいちゃん甘いのも苦いのも苦手じゃん?」

 みこのその気遣いに、すいせいは感心をする。しかし何故ピアスなのか、というのは未だに疑問だった。

「別に私の好きなやつでも良かったでしょ」

「だって……」

 そこでみこの声が小さくなる。

 気になったすいせいは彼女に近寄った。

「どうせなら形に残るプレゼントにしたかったし……」

「――は」

 今までより一番恥ずかしそうに言うみこの姿に、すいせいも言葉を一瞬詰まらせ、彼女もみこと同様に頬を赤く染める。

「……」

「……お、おっも!」

 耐えきれなくなったすいせいは、顔を赤くしたままそんな事を口にした。

「はぁー!? 重いとか言うなよ!」

「いやいや、こんなの選ぶ理由が形に残るのがいいとか重いでしょ!? しかもピンクの星とかなんだよこれぇ!」

「じゃあ返せよ! 代わりにオメーの苦手なもん買って来てやんぞ星街ィ!」

「もう貰ったからこれはすいちゃんの物ですぅー! 今から着けちゃうもんねっ!」

 そこまで言い合ってから、息の上がった二人は恥ずかしさで互いに顔を背ける。

 

 その後の収録はmiCometの二人が妙な雰囲気だったと、参加していたスタッフは言う。

 


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