むせかえるような暑さ。蝉の声すら陽炎に引き裂かれる。
──東京の夏が、少年を自販機へと駆り立てる。
蒸し殺すような夏の暑さに耐えかねて、僕はボクサーパンツにキャップの姿でアパートの廊下に飛び出した。
夏の熱気が風鈴を鳴らす。摂氏36℃の東京は、半裸で外に飛び出したくらいじゃ僕を許しちゃくれない。むしろ直射日光で全身が焼かれて、よけいに体が熱くなった。
このままじゃ、暑くて死んでしまう!
危機感に追われた僕の目に、パッと飛び込んできたものがあった。先日エレベータ前の掲示板の隣に設置されたばかりの自販機である。
自販機………そうだ、コーラだ、コーラを買おう!いや、ペプシのほうがいいか!?
どっちでもいい。とにかくキンキンに冷えた清涼飲料を喉に流し込みたかった。
僕はパンツを脱ぎ捨てて自室へと飛び込んだ。桐タンスからアルマーニの財布を取り出すと、一目散に自販機へと駆けていく。
ペプシを買うぞ!
100円と50円を投入し、500mLのペプシを購入。ゴロゴロと音を立てて取り出し口に落ちてくるペプシ。
ペットボトルの表面をつたう無数の水の雫に、夏の太陽の陽射しがてらてらと当たって小粒のダイヤモンドのように輝いている。
当然ながら、僕の渇きはペプシ1本では潤せない。何度も硬貨を投入し、何本ものペプシを取り出し口に落とす。
そうして、取り出し口いっぱいにペプシが積み重なった。
さて、せっかくのペプシだ。どうせなら最高の状態で飲みたい。
最高の状態とはもちろん、エアコンをガンガンに効かせた気温18℃の部屋で、氷水に沈めておいたペプシを飲むことだ。
幸い自室にはダイキンのエアコンも氷水を貯めたクーラーBOXもある。
となれば、あとは自室にペプシを運び入れるだけだ。
またまた自室に駆け込み、Uber Eatsのリュックを背負ってから自販機の前に戻る。
そして、20本はあろうかというペプシを、Uber Eatsのリュックに詰め込んでいった。
────最後の1本を手に取った瞬間だった。
僕の背後から聞いたこともないような怒声が飛んできた。
声の主は、アパートの大家だった。
「おめえ……フルチンでなにやってんだべ!!?」
僕は声を無視してペプシの入ったUber Eatsのリュックを背負い、自室に飛び込む。
帰宅してすぐさまエアコンを18℃に設定。ペプシを一つ残らずクーラーBOXの氷水に沈めていく。冷えまくった氷水の中に腕を突っ込む感覚がたまらない。
ペプシが冷えるまでの間、ベランダのビーチチェアに寝そべり、アツアツの直射日光と湿度ムンムンの高温外気で肉体を疲弊させておく。
最高のペプシを味わうには、夏の熱気に蒸し殺される必要があるからだ。
灼熱地獄に耐えること10分、20分、30分……
…………もう限界だ!
全身汗まみれの僕はビーチチェアから飛び上がった。そして勢いよくベランダのスライドドアを開けた。
瞬間、透き抜けるような涼風に全身を包まれる。
エアコンで冷やされた空気が、過剰に蓄えられた体熱を急激に奪っていく。
この感覚だけでもたまらないが、重要なのはこれからだ。
僕は部屋に入ると、クーラーBOXを開き、氷水の中に腕を突っ込み、底に沈んでいたペプシを取り出した。
僕の手に握られているペプシは肌を刺すほどに冷たい。これを飲んだら一体どうなってしまうのか。
ペットボトルのフタを開けると、僕は一気に口の中へと液体を注ぎ込んだ。
爽快な冷たさと炭酸の濁流が僕の喉を襲う。甘味をもった清流が喉を流れ落ちるたびに渇いた肉体へと吸い取られていく。乾燥した食道を、甘い水と炭酸で癒やしていく。手足の先まで清らかな水が流れていく。
まさに、至高の体験だ。
気付けば、20本以上もあったペプシは全て空っぽになっていた。
空っぽになったペットボトルを転がしながら、僕は心の中でこう呟いた。
────夏は、まだまだ続く。