腕の良いアホトレとモブウマ娘 作:リボガンに恨みを抱く物
【特集】
凱旋門賞後の記者会見が示した、ひとつの“違和感”
――歴史の中の例外か、それとも兆しか
今年の凱旋門賞は、競バ史において記録される一戦となった。
アジア圏所属のウマ娘が初めてこのレースを制したという事実は、それだけで十分に歴史的である。
しかし、レースそのもの以上に、欧州競バ関係者の間で静かな議論を呼んでいるのが、レース後に行われた記者会見である。
■ 予定外だった勝者、準備されていなかった舞台
今回の記者会見は、明らかに想定外の状況下で行われた。
欧州側は日本勢の勝利を前提とした通訳体制を整えておらず、結果として、トレーナーが即席の通訳を務める形となった。
この事実は、運営上の問題として片付けることもできる。
だが、それ以上に重要なのは、その通訳を通じて発せられた言葉の内容である。
■ 「いつもと変わらない」という表現がもたらした波紋
会見冒頭、凱旋門賞を走った感想を問われた勝者は、
「いつも通りの自分の走りができた」
と述べた。
通訳されたフランス語は、
「Rien de différent de mes courses habituelles.」
――直訳すれば「普段のレースと何も変わらない」。
この一文は、事実としては穏当である。
しかし、100年以上欧州競バの象徴であり続けた凱旋門賞に対して向けられた言葉としては、あまりにも淡々としていた。
世界一を決めるレース、その中で、いつも通り、高揚もしない、普段と同じ
会場がざわついた理由は、決して挑発的だったからではない。
重みが与えられなかったからである。
■ 勝利の確信についての回答が示した価値観の差
「どの時点で勝利を確信したか」という質問に対し、勝者は、
「後ろを気にして走ることはない。勝利を考えることもない」
と答えた。
これは、トップアスリートとして理解できる姿勢だ。
しかし、欧州競バが重視してきた
・駆け引き
・展開
・他者との相対的関係
という価値観とは、大きく異なる。
勝者の視線は、常に自分の走りのみに向けられていた。
それは、欧州競バの文脈では、多対一でも気にするような相手はいないという皮肉に聞こえた事だろう。
■ 「事故」という言葉がもたらした決定的な沈黙
会見後半、記者から投げかけられた質問は、極めて慎重なものだった。
「欧州競バは、追いつかれる側になったと感じますか?」
これに対する回答は、こう通訳された。
「100年に一度の事故のようなものだ。
一度の勝利で、1世紀の支配が消えることはない」
内容だけを見れば、欧州競バの歴史と価値を認める発言である。
しかし、その言葉選びは、会場に決定的な沈黙をもたらした。
なぜならこの発言は、
今回の勝利を“例外”として確定させたからだ。
・脅威ではない
・潮流ではない
・評価の対象ですらない
そう表現した言葉は彼らを刺激しないよう選ばれた言葉かもしれない
しかし、それは勝者からの憐れみの言葉であると受け取られた、高度な皮肉である
■ 最後の一言が残した、最も重い余韻
会見の締めとして、勝者はこう述べた。
「ヨーロッパは本当に素晴らしい場所だった。また来たい」
この言葉は、礼儀正しく、好意的で、非の打ち所がない。
だが、同時にこうも読める。
――また、この舞台に立つつもりだ。
欧州競バの関係者が感じた違和感は、
挑発でも敗北感でもない。
**「説明のつかない静かな不安」**である。
■ 歴史は例外を許容する。しかし、記憶する。
今回の勝利が、単なる一度きりの出来事なのか。
それとも、価値観の異なる競走文化が交差した結果なのか。
現時点で断定することはできない。
しかし確かな事がいくつかある。
欧州競バは、これまでとは違う種類の勝者を目撃したという事
そしてその圧倒的強者は、また来年も凱旋門に来るであろう事
この勝利が彼女が言う通りの例外なのか、欧州競バ没落の始まりなのか、来年全てがわかる事だろう。