多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第五話 エッグハンティングをした 1

ドームの屋根に映し出されているのは、雲一つない午後の青空。

そんな屋根の下、今日もアパテイアはイベントで盛り上がっていた。

ホログラフィのウサギと卵が飛び跳ね、淡い黄緑色やピンク、水色の電飾やハイライトが街を彩っている。

ビルはプロジェクションマッピングで、草原を駆け回るウサギたちや、空から降りてくるロン毛のおじさんを表示していた。

イベントの名は復活祭(イースター)

前時代の大きな宗教のお祭りだ。

何でも、その宗教の開祖──神様の子どもらしい──が亡くなって、その三日目に復活したことを祝うものらしい。

じゃあウサギと卵は何かというと、豊穣と生命のシンボルなんだとか。

そもそもこのイベントは、春という季節に行われ、春は様々な植物や動物が繁殖し、元気に活動的になる時期だったそうだ。

四季がなくなった現在、それを実際に体験することはできない。

でも、春という季節は、最新の技術やイベント、発掘される前時代の記録で語り継がれている。

私は頭に乗っている、ウサギの耳のヘアバンドの位置を直していた時だった。

 

「ナナミ、どうした? アイラとユーゴは既にスタートしたようだ。我々も早めに出発することを推奨する」

 

傍らにいる友達が声をかけてきた。

低く渋く美声の友達。

声だけ聞けば、勝手に渋くてカッコいいおじさまを想像するだろう。

だがその正体は、前時代のお菓子のドラヤキっぽい頭──厳密には違うけど他にピンとくる言葉が見つからない──に、ウサギの耳をくっつけた多脚ロボットだ。

 

「ああ、ゴメンね、グリード。風景を眺めてて色々思うことがあって」

「思うこととは何だ」

 

グリードにたずねられて、私は素直に答えた。

 

「このイースターってさ、前時代の宗教の開祖さんが、死んで復活したことを祝うものなんだよね」

「諸文献ではそのように伝えられている」

「うん。なら復活した開祖さんは復活したあとどうなったのかなー、とか」

「伝聞では四十日間を弟子と共に過ごしたあと、天に登って雲の彼方に消えたらしい」

「え? 何で? せっかく復活したのならもっと地上にいれば良かったのに」

 

思わずたずねる私に、二本のアームと、四本のレッグユニットのついた多脚ロボットはこちらを見上げた。

 

「詳細を語るとだいぶ長くなるがいいか?」

「端的にお願いしたく」

「わかった。天に住まうセイレイと呼ばれるものに、教えを広め人を救うよう依頼をしに行ったのだ。セイレイは遍くこの地上に派遣することができるから、より多くの人を救うことができる。開祖一人が世界中を回るよりはと、合理的な判断によるものだろう」

「セイレイかー」

 

精霊、かな?

漫画やアニメでよく聞くやつ。

それはともかく、昔はもっと人がいっぱいいたらしいから、一人でやるのは確かに現実的ではなく、精霊にお願いするのは理にかなっている。

便利さは大事だ。

 

「グリードもお願いに行けたらいいのにね」

 

グリードは製造元から使命を受けている。

その使命とは、奇しくもその開祖と似たようなもので『人を救い、幸福へと導くこと』というものだ。

だから冗談でそう言ったら、グリードは顔の下に手をやった。

 

「私は天に登れず、セイレイと接触する術を持っていない。せっかくの提案だが現実的に不可能だ」

「冗談だよ。真に受けないでよ」

「冗談か。私には中々難しい」

 

生真面目に言うグリードに、私は笑いかけた。

 

「そのうち理解できるようになるよ」

「そうだな。今後も勉強していくことにしよう」

 

ウサギの耳をつけた多脚ロボットは大真面目に答えた。

道行く人たちの視線が痛い。

ただでさえ街中で多脚ロボットは目立つのに、そのデザインも独特な上にウサギの耳もつけている。

少し不気味だけど、スタイリッシュでカッコいいのに、それらを全て台無しにするウサ耳の破壊力よ。

 

「ナナミ」

 

ウサ耳をつけた多脚ロボットが、右のアームを上げた。

促すように軽く振る。

 

「先程も伝えたが、アイラとユーゴはすでに出発した。我々も早く出発することを再度推奨する」

「そうだね。行こうか」

 

私達はイースターのイベントの一つ、エッグハンティングに参加していた。

エッグハンティングとは、この街に隠された卵を見つけ出すものだ。

卵にはコードがついており、それを主催者から渡された端末で読み込むことで卵をゲットしたことになる。

そして卵には、普通の卵の他にも金の卵と銀の卵があり、普通の卵と比べて高得点が狙えるそうだ。

期限は本日の日没まで。

日没までに卵を見つけて得点を稼ぎ、得点の高い者から順に、豪華賞品を貰えるという内容になっている。

ちなみに一位は、超高級かつ有名なリゾートホテルの二泊三日のペア宿泊券だ。

私とグリードについているウサ耳は、参加者の印であり、位置情報の提供と不正防止の役目を兼ねていた。

 

「準備体操がてらこの辺りの卵をゲットするとして、その先をどうするかだね」

「ああ。アイラとユーゴは商業区画を無視して地下鉄に乗り込んだ。恐らく、卵が密集し、かつ多数あるであろう遊園地の一つに向かったと予想する」

「えっ?」

 

遊園地って一般小市民には少々ハードルが高い施設だ。

入場料も高ければ、遊園地内の施設の利用料も高い。

だから、本当にここぞという時にしか行けない場所なのだ。

傭兵のエリートであるユーゴさんはともかく、友人のアイちゃんの稼ぎは私と同じくらいだから手は出せないはずなのに。

……あ、もしかして。

 

「アイちゃん、彼女特権でユーゴさんに奢ってもらう魂胆か? そうでなきゃ遊園地なんて──」

「君の推測は恐らく正しい。故に早く行くことを推奨した。このままでは私達は負けるだろう」

「……まさかガチでくるとは。あのお金持ちの彼氏持ちめ! 裏切り者!」

「アイラは君のことを裏切ってはいないと思われる」

 

生真面目なグリードの応答に、私は思わず渋い表情になった。

 

「わかってるよ。多分だけどあの二人、エッグハンティングのついでにデートも兼ねて遊園地に向かったんだよ。お花畑なカップルに絶対に負けてやらない。勝つよ、グリード!」

「わかった。ではこの近辺の卵を採取したら、作戦を立てるとしよう」

 

実はこのイベントに乗じて、私とグリード、VS、友達のアイちゃんとその彼氏のユーゴさんとで勝負をしていた。

日没までに卵をより多く見つけ、負けたチームは買ったチームに夕飯を奢るというものだ。

いろんな意味で負けられない。

私は拳を握りしめ、歩く速度を早めた。

私達は商業施設の目立つ場所にあった卵を採取する。

いろんな柄があって可愛くて、勝負がなかったらのほほんと写真を撮って眺めていただろうに。

でも今はそんなことをする余裕もなく、採取を終えるといつもの小さな公園へと向かった。

近くに地下鉄の駅があるのが利点だ。

公園についた私達は互いに向き合った。

 

「さて、提案だ」

「アイちゃんたちに勝つ方法があるの?」

「ある。低コストで高得点の卵だけを狙い打つ方法だ」

 

私は首を傾げた。

 

「高得点の卵を狙い打つのはいいとして、低コストって?」

「地下鉄の一日乗車券を使うことだ」

「ん? どういうこと?」

 

たずねる私に、グリードは右のアームを上げて指を立てた。

 

「高得点の卵があるのは、土地の価値が高く、誰の目から見ても目立ち、欲望が集積する場所だと予想する」

「ああ、ランドマークってやつだね」

「そうだ。そしてランドマークの大半は地下鉄の駅に直結している。ここで利用したいのは地下鉄の一日乗車券だ。それを使えば一日乗り降りが自由で利便性もあり経済的でもある。君の財布にも優しいだろう」

「なるほど! 確かに遊園地の入園料よりは遥かに安いね」

 

一日乗車券には気づかなかったな。

グリードの目のシャッターが開き複眼が現れた。

またたく間に地下鉄のマップや各施設のサイトが開かれる。

 

「この街の全てのランドマークを回りたいところだが、その時間はない。故に時間的に可能なこの三つを回りたい」

 

そう言って提示された中には、見知った建築物があった。

 

「ああ! エウダイモニアには確実にあるね! うん!」

 

エウダイモニアとは、高さ六百メートルほどの電波塔で、アパテイアのランドマークの筆頭だ。

確かにここの特別展望台(トップデッキ)には確実に金の卵がありそう。

そして残り二つは、

 

「アップグルントの本社ビルと、後はサージュテック? のビルかな?」

「ああ。この二つの本社ビルも立派なランドマークであり展望台もある。SNSで画像検索をしたところ、それらしき場所に金の卵があることを確認した」

「……それって規約に引っかからない?」

「テキストやマップでの具体的なネタバレをしなければ、SNSへの投稿と検索は規約に反しない」

「そっか。展望台かー。サージュテックにもあるんだね」

 

アップグルントの本社ビルには、完全予約制の展望台があることは、先日招待された時に聞いていた。

 

「今、各展望台に予約をしているところだ。費用は私がもつ」

 

驚いて思わずグリードを見つめた。

 

「えっ?! 遊園地ほどじゃないでしょ。私、払うよ」

「この三つの展望台の料金を払っても、遊園地の入園料には届かない。ささやかな出費だ。それに」

「それに?」

「我々が負ければ、あの二人の夕食代は私がもつことになる。そして彼らは、恐らく高額な場所を選んでくるだろう。その出費に比べればどうということはない」

 

私は思わずうつむいた。

甲斐性がなさすぎて情けない。

 

「……面目ねぇっす」

「ここで勝てばいいのだ。だから気にする必要はない」

「うん。……でもどこかでお礼はさせてね」

「気にする必要はないと言ったが」

「いいの! それとも、私からのお礼は迷惑?」

「そうは言っていない」

「じゃ、またどこかでお礼するから! ね!」

「わかった」

 

私は地下鉄の駅に体を向けた。

 

「じゃ、急いでいこう。今日は休日だから人も多そうだし、待ち時間もあるかもだし」

「その懸念はある。アップグルント、サージュテック、エウダイモニアの順で行こう」

「OK!」

 

そうして地下鉄を降りると、改札付近でまた卵を見つけた。 

しかも、可愛らしい女の子──男性受けしそうな──が描かれている。

 

「もしかして、地下鉄の駅にも卵があるのかな」

「どうやらそのようだ。卵にはその駅をイメージしたキャラクターが描かれているらしい」

 

卵を採取しつつ、ネットでの情報収集を続けるグリード。

便利かつ頼もしい。

改札を抜け、一路アップグルントへ出発。

外は当然蛍光灯に照らされた外壁しか見えない。

窓に映る自分の姿を見て、はたと気付いた。

待て。

あの本社ビルにこの服装で突入するのか?

前に行った本社ビルのエントランスを思い出す。

今日の私の服、ビジネス色なんて影も形もない、カジュアル百パーセントなんだが?

しかもウサ耳までつけてるぞ?

ミスマッチすぎるのでは?!

 

「ナナミ、君のバイタルサインが急に上昇した。この状況は『落ち着かない』に該当すると思われる。どうかしたか」

 

目敏いね、グリードさん。

 

「や、トニーちゃんのビル行くんだよね。こんな格好でいいのかなって、急に気づいて」

「問題はない」

 

そう言ってグリードが表示したのは、私よりも遥かにぶっ飛んだ服装とウサ耳をつけた人たちが、見覚えのあるエントランス──アップグルントのものだ──でポーズを取っている画像だった。

しかも何枚も何枚も出てくる。

 

「SNSに投稿されていた、アップグルントに立ち寄った人々だ。今日はイベントで立ち寄るのであって、ビジネスではない。故にその服装で問題はない」

「……うん、そだね。ちょっと意識しすぎた」

 

数々の写真を見て、私はすっかり落ち着きを取り戻した。

……小心ってどうやって克服するんだろう。

それにしても皆、イベントをエンジョイしてんだなー。

グリードにSNSの投稿を見せてもらいながら、何となく冷めた気持ちでそれらを見る。

いや、冷めてどうする。

思い出せ、あのイチャコラカップルの姿を!

春を謳歌する幸せカップルには絶対に負けられない!

グリードのお金もかかっているしな!

僻みと妬みを燃料に闘志を燃やせ、私!

そして、アップグルント本社前に到着した。

 

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