多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

100 / 128
第二十三話 パワードスーツを買った 7

「やるんか?」

 

ロイさんの気軽な調子の中に潜む緊張感を帯びた声に私は力強く頷いた。

 

「やるとは?」

「私、試乗の時に最後に踊ることにしてるんです。素体の動きと操縦の感覚を掴むのに適しているので。今までの企業さんはそれを許してくれました。というわけで踊ります!」

 

プライドさんの問いかけに、私は有無を言わさぬ勢いで宣言した。

私の覚悟に応じてロイさんはゴーグルの向こうで真剣な目で私を見た。

 

「ここまできたらつきあうさ。アイラ!」

 

そうして群衆の中から二機のパワードスーツが現れ、私の右手にアイちゃんのカペラ、左手にロイさんのタイプC・フィーアが並び立った。

瞬間、基地のライトが私達を眩く照らした。

スロウスさん、名前とは裏腹に早速仕事してる。

凄い。

群衆が明らかに動揺しているのが機体越しに伝わってくる。

外部マイクをオンにし、ついでにパブリック通信を開くと緊張して震える唇を開いた。

 

「ここにお集まりの皆さん! 私は今日、ご縁があってラインアトラス重工さんの新型パワードスーツ、アルビオン改に試乗させていただきました。皆さんに改めてアルビオン改の性能をご覧いただきたく、今ここで踊りたいと思います! ぜひ最後までご覧ください!」

 

どうにか吃ることなく話すことができた。

でも心臓の鼓動は荒ぶる一方だ。

初めてモデルとして展示場に立ったとき以来の凄まじい緊張感。

あの時はカールソンさんという精神的支柱がいた。

でも、今は私が先頭に立って横に立つ二人を支えなければいけない。

 

「カリヤ様」

 

プライドさんが声をかけるが、あえて無視した。

 

「曲は皆さんご存知『キングスマン』の『Universe Party』です! お願いします!」

 

私は言うと皆に背を向けた。

両隣のアイちゃんとロイさんも皆に背を向けると、一拍おいて基地から音楽が鳴り出した。

始まった!

単調な上半身の動きを数回繰り返し、そして群衆の方を振り向いた。

そして本格的に前奏が始まり、両手を上げてパラパラと呼ばれる動きを繰り返す。

……ああ、やっぱり地上での安定感はタイプE・ドライ改に軍配が上がるな。

あの機体、芯がしっかりしてたもん。

姿勢制御の楽ちんだったもん。

それに比べると、アルビオン改は姿勢制御にしっかりと気を配る必要があった。

視線を走らせると、横に並ぶアイちゃんとロイさんも頑張って踊っているのが見えた。

ちゃんと踊れているよ、ありがとう!

私、頑張って盛り上げるから!

そして前奏が終わり、歌の部分が始まった。

ここを完璧にやらないと、ただただダサくなる足のステップだ。

逆に完璧にこなせばダサかっこいいという、良き塩梅になる。

頑張れアルビオン改!

私と一緒に、人々に親しまれ笑顔にさせる平和で庶民的な産業機を目指そう!!

私は音楽に合わせての操縦に集中した。

そしてサビに入った。

小さなお子ちゃまでもできる実に微笑ましい動きだ。

それを真剣にやるのがプロであり、私の流儀でもある。

 

「あのアルビオンが踊ってる……」

「やべえ、顔がニヤける」

「アルビオン改の動きすごい! 真剣にやってて見てて元気になる!」

「え?! マニュアルなの?! すげえな!」

「企業の垣根を超えて踊ってるの、何か感動する」

 

パブリック通信で聞こえてくるみんなの声に、私は嬉しくて笑顔になった。

間奏に入っても気は抜けない。

このダンスの肝になるパラパラダンスがある。

私はそれをしっかりこなし、歌は二番になって、また比較的難しいステップをこなす箇所に入った。

キングスマンにとってこの曲は、とてもとても大事にしている曲だと聞いたことがある。

そんな人たちが見ても恥ずかしくないよう、敬意を込めて一生懸命操縦して、アルビオン改にダンスをさせた。

その間にもパブリック通信は盛り上がっていた。

みんな笑っている。

でもバカにした笑いじゃない。

楽しんでいる。

それが励みになって、私の操縦に熱が入った。

さあ、曲もそろそろ終盤だ!

頑張れ、アルビオン改!

アイちゃん、ロイさん、あともう少し頑張って!

 

「傭兵部隊が到着しました」

「わかりました。続けます!」

 

プライドさんの報告に、私は操縦しながら答えた。

確かに目の端に武装したパワードスーツたちが集結しているのを見た。

だけど、それ以上のものを見た。

群衆の中で手拍子をしたり、一緒に踊っているパワードスーツや人が多くいたのだ!

嬉しい!

やっぱこの選曲で正解だったんだ!

私は大きくジャンプして喜びを表現した。

そして曲はラストスパートに突入。

でも傭兵部隊が動く様子はない。

様子見してる。

そして決めのポーズをして曲は終わった。

場は大いに盛り上がっていた。

私はガッツポーズをとった。

ミッションコンプリートだ!

 

「アイちゃん、ロイさん、お疲れ様です! ありがとうございます!」

「久しぶりに踊ってマジ疲れたわ。でもいい反応じゃねーの?」

「はい。予想以上です!」

 

周囲から拍手やらリアクションが見えた。

 

「楽しかったー!」

「アルビオン改、すげー面白かった!」

「あんたらが楽しそうだから、見てるこっちも楽しかったぜ」

「ダサかっこいい!! あ、これ、褒め言葉です!」

「キングー──キングスマンのファンの総称──歴八年のファンです! すごく良かったです!」

 

パブリック通信からのコメントに私は機体を動かした。

両手を大きく広げ、周囲にお辞儀をする。

マイクを再びオンにし、パブリック通信に向かって言った。

 

「良い機体と観衆に恵まれました! ありがとうございます!」

 

そして待機している傭兵部隊に体を向けた。

 

「最後まで踊らせていただき、ありがとうございました! あとは指示に従います!」

 

深々と機体の頭を下げる。

 

「カリヤ様」

「はい」

 

プライドさんが声をかけるのに応じる。

 

「試乗、お疲れ様でした。最後に予想外の展開となりましたが、アルビオン改のアピールには十分な内容だと思われます。ありがとうございました」

「そう言っていただけて安心しました。楽しかったです」

「それは何よりです」

 

プライドさんの言動に揺らぎは感じられなかった。

もしかして、アルビオン改の庶民化作戦、失敗した感じ?

でも、今この場でロイさんなりスロウスさんなりに聞くことはできない。

もやもやしていたら、プライドさんから感想を聞かれたので、率直に感じたことを伝えることにした。

宇宙にいるだけあって空中での機動はファースト・スターと同レベルの高さだが、重力のある地上での動きにはマニュアルでは不安があること。

地上での活動には、タイプE・ドライ改のほうが安定感があったことなどを伝えた。

 

「地上の重力から離れて八十年以上にもなりますと、勘も鈍ってくるものなのですね。正直AHIさんのドライ改には全てにおいて勝るものと思い上がっておりました。お恥ずかしい話です」

 

や、勘もなければ、恥ずかしいなんて感情も無いでしょ。

思わず突っ込みたくなったが、このAI、言葉選びや調子が本当に人に近く、類まれな演技力もあって人と話しているような錯覚をしてしまう。

いろんなAIと接してきたけど、底の知れなさはトニーちゃんと匹敵するんじゃないかな。

油断大敵。

私は気を引き締めた時だった。

 

「ナナミ! ナナミ!」

 

パブリック通信で私に呼びかける、聞き慣れた低音の美声。

同時に私達の前に、個性的なのにカッコイイデザインのパワードスーツが歩み寄る。

一度見たことがある。

一鍔重機の変形型パワードスーツ、スーパー・ノヴァだ。

それを見た途端、さっき引き締めた気が緩みそうになった。

 

「グリード。来てくれたんだ」

「君がまた事件に巻き込まれたとスロウスから聞いて、取り急ぎ傭兵部隊と一緒に来た。無事なようで何よりだ」

「うん、大丈夫だよ。心配かけてゴメンね」

「やはりあのAIが噛んでいましたか。その名に反する働きぶりは相変わらずのようですね」

 

それは私も思ってました。

もちろん言わないけど。

 

「さて、カリヤ様。私から一つご提案があります」

 

グリードの存在を無視するかのような態度を不審に思いつつ、私は首を傾げる。

 

「……何でしょう?」

「私と一緒に宇宙に、アタラクシアに来ませんか」

 

…………は?

アタラクシア?

いや知ってるよ、低軌道上にある電脳都市。

肉体と地上を捨てて、データだけになった人が住む街だ。

 

「貴方の才能は地上でも有益なものですが、宇宙にあっても有益なものだと判断しました。私達の管理する街で、その能力を存分に発揮して頂きたいのです。いかがでしょう。私と一緒に新たな人の世界を創造してみませんか」

「や、それは無理です」

 

思うより先に言葉が口をついて出た。

びっくりしたけど、でも紛れもなく私の本心だ。

 

「理由をお尋ねしてもよろしいですか」

「はい。私は今週の土曜日、グリードと一緒にノーザンライツ工業さんに行って、シリウスの試乗をすることになってるんです。だから無理です」

 

キッパリ断るとプライドさんは沈黙した。

 

「ナナミ」

 

私達のやり取りを聞いていたのだろう。

私の名を呼ぶグリードの声に、喜びがハッキリと現れていた。

 

「そうだとも。君は今週末、ノーザンライツ工業でシリウスの試乗をすることになっている。私も一緒に行くと約束した。……想定外の事態ではあったが、そのパワードスーツの操縦は楽しかったか?」

「うん。ドライ改とは正反対の性能で面白かったし楽しかった」

「そうか。シリウスの試乗がより楽しみになったな」

「うんうん! すっごく楽しみ♡」

「……そうですか」

 

グリードの言葉にニコニコする私に、プライドさんは穏やかに言った。

 

「貴方がご贔屓になさっているノーザンライツ工業さんとのお約束があるのならば、仕方がありませんね。残念ですが、今回は引き下がることにしましょう」

 

私がノーザンライツ工業オタなこと、やっぱ知ってるんだな。

……エリちゃんめ。

 

「催し物は終わったようだな」

 

パブリック通信に、派手な柄のヘルメットにゴーグル、マスクをつけた男の人が現れた。

 

「俺たちは基地からの要請を受けて派遣された、タイクーン・インターナショナルの第一傭兵部隊だ。ここにいる全員、今から事情聴取をさせてもらうから動くなよ!」

「どうやらタイムアップのようですね」

 

平然と言うプライドさん。

どこまでも落ち着きを払った態度は、さすが感情のないAIと言うべきか。

 

「この機体は地上に残しておきます。どうぞお好きなようにお取り扱いください。できれば、貴方が選んでくださるといいのですが」

「ちゃんと考えておきます」

「ありがとうございます。本日は貴方にお会い出来て本当に良かったです。試乗、お疲れ様でした。それではまた、お会いしましょう」

 

プライドさんがこの機体から離れたことを感じ取った。

最後の最後まで穏やかな紳士な姿勢を崩すことなく私に接してくれたプライドさん。

その泰然とした姿勢はトニーちゃんやラストさん同様、私のような小娘一人では全く太刀打ちできないと悟った。

完全に私の自由となったアルビオン改で、私はアイちゃんとロイさんに改めてお礼をし、元のミモザに戻ろうとしたけど、動くなという言いつけがあって、機体に居座ることを余儀なくされた。

そして始まる事情聴取。

その時間は深夜まで及び、発掘したレアメタル付きのエシュ・エレグバを会社に持ち帰ったのは、日付をまたぐことになってしまった。

ちなみにこんな深夜残業は初めてだ。

後日、街で改めて事情聴取をすることになったものの、プライドさんが宇宙から持ち込んだ置き土産によって私達が振り回された事件は、ひとまず幕を下ろしたのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告