多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十三話 パワードスーツを買った 8

プライドさんが宇宙から持ち込んだアルビオン改の事件は、この地上で当然話題となった。

誰が撮ったのか、私とアイちゃん、ロイさんが踊る映像も街の動画サイトにいくつも投稿され、かなりの反響があった。

その内容は概ね好評で、本家のキングスマンからも好意的なコメントがあったくらいだ。

恥ずかしかったけど、とても嬉しかった。

そして私とスロウスさんの思惑通り、みんなの知っている曲で他社の機体と踊ったことにより、アルビオン改のイメージはユーモアのある平和的で庶民的な産業機として認知されたのだった。

 

「あのアルビオンが……空高く輝いていた星が……庶民の中で輝く星になるなんて複雑すぎる……」

 

とは、ラインアトラス信者であるロイさんのコメントだ。

文句があるならエリちゃんとプライドさんに言って欲しい。

で、そのアルビオン改はと言えば、コンテナと共に問答無用で街に回収された。

街の法律に則り第三者委員会が設立され、コンテナと機体は委員会の預かりとなった。

 

「一般市民の君にはもう乗る機会は無いだろう」

 

グリードはそう言っていた。

選ぶも何も、選択肢はなくなったのだ。

プライドさんは、このことを予想していただろうか。

……予想していただろうな。

それでも選んでくれることを望んだのだ。

でもゴメン! 選ばないよ!

もうこれ以上の厄介事はゴメンだよ!

そんな私はといえば、アルビオン改に試乗した翌日から街からの事情聴取はもちろん、いろんな人や企業からの問い合わせが殺到し、その対応に追われた。

で、慣れない対応に目を回す私を見かねたグリードが、またしても対応のお手伝いをしてくれることになった。

 

「小型で魅せプレイをしたモデルが、スーパーメジャーの管理AIに指名され、大型でも人々を魅了する操縦を披露をしたのだ。大型も小型も自在に扱えるパイロットは希少であり、企業、特に傭兵の派遣会社からの問い合わせは当然と言える」

「私は地味でもいいから、平和に穏やかに暮らしたいんだけどなー」

「君の才能が君の性格と乖離していることが、君にとって悩ましい事態を引き起こしていると推察する」

「うーん……」

 

ため息をつく私に、ビデオコールの向こうにいる多脚ロボットのグリードは片手を上げた。

 

「君の才能は稀有なものだが、それをどのように使い未来を切り拓くかは君次第だ。君が現状維持を望むなら、私はそのために力を貸そう」

 

……グリードは私に甘い。

でも、今の私はそれに甘えることにする。

 

「うん、ありがと。……今はいろんなことを見て知ってちゃんと考えたいんだ」

「ああ。君はまだ若い。焦らずに君のペースで進めばいい。そして私も未だ世間知らずのAIだ。君と一緒に歩ませてほしい」

 

私は笑顔を作って頷いた。

 

「わかったよ。ひとまず明日のノーザンライツ工業さんの試乗だね」

「そうだな。君がどんな反応をし操縦をするのか、私も含め皆が楽しみにしている。君も楽しめるといいな」

「うん!」

 

そして翌日、ついにノーザンライツ工業でシリウスの試乗をすることになった。

浮かれる私を四脚姿のグリードに窘められながら本社へ向かい、前にもお会いした副社長のストラスバーグさんの案内で地下の試乗スペースにやってきた。

エレベーターが空いた瞬間、跪いて出迎えるパワードスーツの姿に声を上げそうになり、慌てて口を塞ぐ。

うわあああああ!

ああああああああ!

シリウス! シリウスううううう!!

 

「ナナミ、君のバイタルの変化を確認。君の誕生日以来の興奮状態になっている。大丈夫か?」

「ちょ、ちょっと待って。落ち着かせて……」

 

深呼吸する私の背中をグリードが優しくさすってくれた。

その間も待ってくれた副社長さんたちの心の広さよ。

私が落ち着いた頃を見計らってシリウスのもとに行き、副社長さんから説明を受けてコックピットに乗り込んだ。

新型のコックピットのデザイン、はああああ! 上がるうううう!

 

「またしてもナナミが極度の興奮状態になっている。本当に大丈夫か?」

「大丈夫! 時間も時間だから試乗始めます!」

 

私はみんなに向かって言うと、コックピットを閉めた。

馴染みのあるシステムが素早く起動し、またたく間に準備が整う。

さすが最新型。

いつも乗ってるミモザよりも早い。

試乗の最終許可がおりて、私はニマニマしながら第一歩を踏み出した。

後は他の企業さんでやったことを試してみた。

尖った性能はしてないけど、全体的なバランスがとてもいい。

AHIさんでもやった、擬似的に街の外の状況を作り出し、結構時間をかけて町の外を想定しての動きもやらせてもらった。

もちろん残った時間で踊らせてもらった。

『ライジング』の新曲で、ちょっとアクロバティックでカッコイイダンスだ。

……さすがシリウス! バッチリ動ける!

嬉しいなあ!

楽しいなあ!!

 

「映像で何回か拝見していましたが、本当にマニュアルでここまで動かせるんですね」

「はい。弊社の社員はもちろん、AHIさんでも皆さん同じように驚いておりました。機体の性能もさることながら、彼女の素晴らしい才能のあってこそだと確信しております」

「そうでしょうね。弊社のテストパイロットで、マニュアルでここまで自在に動かせる人はいませんから。……業界で話題になるだけのことはありますね」

「はい。将来が楽しみなパイロットです」

 

通信で入ってくる副社長さんとグリードのやり取り。

グリードの口調がどこか自慢気に聞こえた。

またしても、後方彼氏面してるのかな?

や、それはないか。

今日は四脚で顔に表情ないもんね。

あっという間に試乗の時間が終わり、最後に具体的なお値段を教えてくれた。

私は目をむいた。

 

「これは!!」

「……信じがたい値段です。何をしたらここまでの値段になるのですか?」

「それは企業秘密ということで」

 

グリードの質問に、副社長さんはにっこり笑って答えてくれなかったけど、素体でこのお値段!

LSSや内部システムは最新鋭にするし、他にも電磁ワイヤーやシールドといった付属品も付けても、ドライ改やアルビオン改よりもお安くまとまる。

私は顔を上げた。

 

「これにします! 買います!」

「即決か。やむ無しだな」

 

私が右手を上げて高らかに言うと、グリードが両手を上げた。

 

「当初の予想通りの結果になったか」

「ああ! やっぱりシリウスには敵わなかったお!」

 

一瞬の沈黙。

 

「えっ?!」

「トニーちゃん?!」

 

唐突に現れた街の管理AIトニーちゃんのホロ映像に、私と副社長さんたちは声を上げて仰天したけど、グリードは平然としていた。

 

「購入対象になっていただけでもいいではないか。それに、ナナミにとってはあのアルビオン改よりもドライ改のほうが好印象だったと推測する」

「……アレの機体と比較するのはやめるお」

「わかった」

 

低く地響きのような声で言うトニーちゃんに、素直に、しかし感情のない声でグリードは言った。

私と副社長さんたちは思わず身を寄せ合う。

トニーちゃん、怖い。

そんな私達を見て、トニーちゃんは取り繕うようにパタパタと両手を動かした。

 

「ほらあっ、お前がいらんこと言うから、ナナちゃんたちを怯えさせちゃったじゃないかお」

「それは私のせいではなく、君の周囲の人に対する配慮に欠けた言動をしたためだ。もう少し人心について理解を深めることを強く推奨する」

「お前に言われたくないお」

「そうだな。私も人については勉強中の身だ。どうだろう、私と一緒に勉強をするか?」

「何でお前と一緒にやらなきゃならないんだお。絶対にお断りだお」

「そうか。それは残念だ」

 

全然残念じゃなさそうにグリードは言った。

完全に置いてけぼりの私達だったが、私は勇気を振り絞って片手を小さく上げた。

 

「あのー、すみません」

 

この場にいる全ての存在の視線を受けて思わず口ごもったが、頑張って口を開いた。

 

「えと、あの、ドライ改もいいとは思ったんですけど、シリウスのほうがお値段がお手頃だったこともありまして──」

「お金はとても大事ですよ。カリヤ様の判断は妥当なものです」

 

またしても一瞬の沈黙。

トニーちゃんと同様、ホロ映像で突然現れた絶世の美少女に私の勇気は瞬く間に蒸発した。

 

「えっ?」

「ラストさん?!」

「ええ、ラストですよー。こんにちは、皆様」

 

困惑する私と副社長さんたちに、完璧なカーテシーで挨拶をするラストさん。

ノーザンライツ工業さんで、街の管理AIが揃い踏みになるとは!

 

「ああ、結局シリウスになったんだね。誰もが予想した通り過ぎてアレだけど」

 

唐突にビデオ通信で現れたのはスロウスさんだ。

街の名だたるAIが一同に介した状態に、私はもちろんだけど、さすがの副社長さんたちも口を開けて絶句していた。

ラストさんが口元に手を当てながらスロウスさんを見る。

 

「支払い担当の貴方からしたら一安心の選択でしょう?」

「それは否定しないよ。だけど実際、彼女の性格と才能に見合った良い選択だと思う」

 

言ってスロウスさんはチラリとトニーちゃんを見た。

ムッとするトニーちゃん。

 

「何だお」

「残念だったね。でも絶対王者相手に健闘してたほうじゃない? よく頑張ったよ。ドンマイ」

 

誰が聞いても心のこもっていないスロウスさんの慰めの言葉に、トニーちゃんは苦虫を噛み潰したような表情になった。

 

「相変わらずな性格設定しているお。慰めるならもっと言動に気を使えお。薄っぺらいんだお」

「それ、ボクを調整する連中に言ってくれない? ボクは彼らに調整されたとおりに動いてるだけなんだからさ」

 

気怠げに言うスロウスさんに、グリードは片手を上げた。

 

「だがこの街のほとんどのAIがそうであるように、君にも自律学習の機能がある。どうだろう、私と一緒に人について勉強してみないか?」

「やだ。めんどい」

「そうか、それは残念だ」

 

トニーちゃんに続いてスロウスさんにもフラれたグリードだが、やっぱり全然残念そうには見えなかった。

さすがはAI、心がない。

ラストさんは片手を頬にあて、呆れたようなマナコでスロウスさんを見た。

 

「こういう時は、その名の通りになりますのね」

「何言ってんだかさっぱりなんだけど。もっとわかりやすく、例えばこのカリヤさんでもわかるように言ってよ」

「貴方……前時代のAIだってもっと殊勝な言葉選びをしていましたよ。それなのに!」

「前時代のAIのことなんて知ったこっちゃないよ」

「お前、本っ当に自由なやつだお」

「能力をフルで使える君に言われたくないんだけど」

「だからその言い方何とかするお!」

 

あのー、私のパワードスーツの話はどうなるんでしょうか。

すると、グリードが立ち尽くすしかない私達の方を向いた。

 

「ミスター・ストラスバーグ、購入の具体的な諸手続きをしましょう。そのために場所を移動しませんか」

「ええと、……よろしいのですか?」

 

言い合いを続ける三機のAI達を見ながら副社長さんは言うが、グリードは片手を上げた。

 

「問題ありません。これ以上グラトニーを慰める時間に貴方がたが付き合う理由はありませんので」

 

えっ、このAIたち、トニーちゃんを慰めるために集まってきたの?

すると、三機のAIは一斉に、かつ無感情にグリードの方を見た。

 

「私は街の管理AIとして、カリヤ様の人生で大切なお買い物の瞬間を見守ろうとしただけです」

「んー、ボクは敗者のグラトニーの反応が見たくて来たのも理由の一つなんだよね」

「お前、本当にいい性格設定しているお」

「それはどうも」

「褒めてねーお!」

 

で、結局、四機の大物AIが見守る異常事態の中、私はシリウスの購入の手続きをしたのだった。

それから一ヶ月後、会社に私のシリウスが納品された。

カラーリングはすっごく迷った末に、前と同じ空色のカラーリングにしたけど、差し色に鮮やかな黄色を取り入れた。

地上には決してない空色のカラーリングは、街の外でも目立つこと請け合いだ。

私はいつでも出発できる状態でコックピットに待機してたけど、もうワクテカが止まらなかった。

整備士さんたちも新型のシリウスに喜びを隠しきれない様子で最終調整をしていた。

 

「デネットさん、最終調整完了しました」

「了解だ」

 

電子書類を一通りチェックした整備士長のデネットさんは、顔を上げて私を見た。

 

「そのシリウスにとっては初めての街の外だ。あまりはしゃぎすぎるなよ」

「はい。流石に今日は慣らしでいきます」

「よし。管制に連絡。ゲートの開放準備をしろ」

 

整備士さんたちが機体から離れ、私はコックピットを閉めた。

そしてハンガーごとシリウスはゲートに自動で運ばれる。

ふと、物理キーにぶら下がっているものを見た。

ユラユラ揺れるそれは、前のシリウスの物理キーだ。

……父さんと前のシリウスのたった一つの形見。

私はそれを大切なお守りとして、新たな一歩を踏み出すことにしたのだ。

父さん、シリウス、私は未だ至らない小娘だけど、いつかグリードと並んでも恥ずかしくない友達に、大人になるからね。

そしてゲートに到着。

隔壁が音を立てて開き、相変わらず荒天模様の街の外が見えた。

ハンガーのロックが開放され、私は通路に降り立つ。

 

「ゲート開放。いつでも出発可能です」

「了解しました。ナノ社所属、ナナミ・カリヤ、出発します」

 

こうして私と新たなシリウスとの一日が始まったのだった。

 

<パワードスーツを買った 完>

 

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