多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十四話 映画を観てラーメンを食べた 1

土曜日の午後、いつものカフェで四脚のグリードとテラス席でお茶をしていた。

週一でこのカフェのこの席でグリードとお茶するのも一年以上となる。

もうすっかり店の常連となり、店長さんを始めとしたスタッフのグリードへの対応は慣れたものだった。

私と同じく店の常連客もグリードの存在は慣れたものになっていたけど、普通のお客さんはそうはいかない。

こちらへの視線をチラチラ飛ばすことはもちろん、グリードに写真をお願いするお客さんもいたりする。

でもその対応にも慣れた。

対応が落ち着いた頃に、私はお茶をしてグリードにお話をする。

この一週間の出来事や漫画やアニメの感想とかをとりとめもなく話していて、今日はチートデーだから、夕飯も気兼ねなく美味しいものを食べたいなーと言ったら、グリードが片手を上げた。

 

「ナナミ、今日の夕食はラーメンにしないか?」

「ラーメン」

「そうだ」

 

ラーメンって、あのラーメンだよね?

麺類で、味はショーユとかミソとか色々あって、トッピングも多種多様で、そしてダイエット中は厳禁とされているあのラーメンのことだよね?

 

「ラーメンは、前時代から人気のあった麺類の一種だ。麺、ダシ、タレ、具材、油の五つの要素で構成され、その組み合せは小型パワードスーツのパーツ並みに数知れない。この街でも人気のある料理だが、原材料が高価なため価格設定が高い店が多い。そして私を管理するドクの大好物でもある」

 

ああ、やっぱりそのラーメンでいいのね。

ラーメンかー。

糖質と塩分、脂質が半端ない食べ物だから、チートデー以外は絶対に食べないようにと専属トレーナーさんから言われ、私は律儀にそれを守っているのだった。

そして『ドク』という単語で思い出す。

先月、一鍔(ヒトツバ)重機でファースト・スターの試乗の帰りに、ドクことディネーシュ・バルマさんにランチにラーメンはいかがかと勧められたのだ。

 

「カリヤさんには『トラのセイカ』オススメします! カロリーを気にする娘さんたちも押しかけるラーメン店でして、食物繊維が豊富でローカロリーなスーパーコンニャク麺のメニューがあるんです。もちろん完全栄養食にも使用されているハイパー小麦粉(フラワー)の麺もあります。味もシオとショーユと選べてどちらもそれぞれ美味い! 俺はそのまんまだと物足りないから、油を多めにして食べていますがね」

 

拳を振り上げて力説するバルマさんの表情はピカピカに輝いていて、何というか、ラーメンに対する愛を感じられた。

で、グリードが言うには、塩分と脂質過多で街に注意をされているらしいけど、バルマさんは、

 

「うるせー。街の注意が怖くてラーメン食えるか!」

 

と言い切っていた。

この一人と一機のやりとり、一鍔さんにいる間に何度か見聞きしてたけど、程よい距離感で良い信頼関係にあるんだな、と思った。

それはともかく。

 

「ラーメンなのはいいけど、お値段お高いんでしょ? グリードもさっき言ってたじゃん。いくらかかるのかな?」

「そこは安心してくれ。私が提案したのだ。当然私が奢る」

「や、自腹切るよ」

 

そのために今も副業を頑張っているのだ。

今日はただのチートデーで、特別の記念日でもないから、ここは自腹を切るべきだろう。

すると、グリードが突然ガクリと左へと傾いた。

 

「え?! ちょっとグリード?」

「……ナナミは私に奢られることがそんなに嫌か」

 

傾きながら悲しそうな声音で言うグリードに、眉間にシワが寄るのを感じた。

このロボ、小癪な演技をしおってからに。

 

「嫌とかそうじゃなくて、毎回言ってるけど、私は今まで十分すぎるほど奢られてきたよ。副業だってやってるし、今回は自分で出すよ」

「私は私の奢りで君が欲望と快楽を満たすさまを観察したいのだ」

「だからグリードさん、言い方が正直すぎるってば」

 

私は両手を腰にあてた。

そして胸を張る。

 

「ラーメン食べるなら自腹でいくからね! ここは譲らないよ!」

「君は変なところで頑固だ」

「グリードに言われたくないよ」

 

睨み合う私達。

いや、正確には睨んでいるのは私だけなんだけど。

そうしていること数分、グリードは体勢を立て直して両手を上げた。

 

「わかった。そこまで言うなら今回は割り勘でいこう」

「よし! てか、友達ならそれが当たり前だからね」

「人対人ならそうだろうが私はAIだ。その理屈は通じるのだろうか」

「今更屁理屈こねても駄目! 今日は割り勘! 決まりだよ!」

「……わかった」

 

こうしてラーメンの支払いの件は決着がついた。

でも今から夕飯を食べるには時間が早いし、かと言ってこのカフェに居座り続けるわけにはいかない。

 

「夕飯まで時間があるから、時間を潰す場所探さないと」

「では映画を観るのはどうだろうか」

 

言ってグリードはこの街の映画館のタイムテーブルを私の目の前に表示した。

どれどれ。

ホラーやミステリーは私の趣味じゃないからパス。

やっぱアクションか、ラブコメか、アニメがいいな。

……新作のロボアニメかー、SNSでの評判も悪くないんだよねー。

前時代のアニメのリマスターもいいな。

あ、このアニメを実写化したやつも、そこそこ評判いいんだよな。

でもどれもピンとこない。

 

「うーん」

 

あ、そうだ。

 

「グリードは観たいものある?」

「私の勤め先で話題になっている映画がある。君の趣味とは少し違う内容だが」

 

そう言ってグリードは一つの画面を展開した。

青くてキレイな塔を背景に、薄汚れた少女とキレイな男の子がゴツいバイクに乗っている画像。

少女と少年の背後には武装した人やロボットが追いかけている。

タイトルは『ブルーバベル』。

キャッチコピーは『運ぶものは、未知の世界を開く鍵』だそうだ。

聞いたことがあるタイトルだった。

 

「ブルーバベル。確かアズール☆ライトが主題歌を歌ってたよね」

「そうだ。もしかして内容も知ってるのか?」

「ううん。アズール☆ライトの新たなダンスを見たいと思ってミュージックビデオを見た時にタイアップしてるのを知っただけ」

 

ちなみにダンスは超絶難しく、絶対にシリウスで踊れるようになりたいと思って日々ガン見してるところだ。

 

「映画の内容に興味はない感じか」

「うーん、ダンスばかりに目がいってたからなー」

 

でもグリードは興味を持っているようだ。

それはグリードにとって大切なことだと思う。

だから私は笑顔で言った。

 

「グリードが興味あるなら観に行こうか」

「無理はしなくてもいい」

「ううん。食わず嫌いは良くないからね。せっかくだから行こうよ。でも途中で寝ちゃったらゴメンね」

「ありがとう。鑑賞料金は」

「うん、割り勘ね」

 

私が満面の笑顔で言うと、グリードはピタリと動きを止めた。

強い視線の圧力を感じる。

グリードとしては奢りたいのだろうが、でも負けないぞ! 折れないぞ!

再び睨み合うこと数分。

グリードが再び両手を軽く上げた。

 

「わかった。割り勘でいこう」

 

勝った!

私は内心両手でガッツポーズをとる。

 

「じゃ、早速映画館に行こ」

「上映している映画館と時間を検索中。……検索完了。今から四十分後に上映される映画館がある」

「興行区画までの移動を考えると、ちょっと急ぐ必要あるね」

「そうだな」

 

私が立ち上がると、グリードは私のコーヒーカップの乗ったトレイを手にして返却場所へと戻してくれた。

あまりに素早くかつ自然な動きに、私は手を出すスキがなかった。

立ち尽くす私にグリードがこちらを向いた。

 

「ナナミ、行こう」

「……うん」

 

何故か負けた気分を味わいつつ、私達はカフェを後にした。

地下鉄に乗って興行区画に向かう。

私はその間にも、端末でブルーバベルの情報をSNSで調べることにした。

驚くべきことに、ネタバレをする投稿がほとんどなく、あってもワンクッションおいて投稿している人がほとんどだった。

民度が高えな。

私はネタバレ平気だけど、隠したいという意思を尊重することにした。

で、ネタバレなしで集めた情報をまとめると、おねショタのSFアクション、とのことだった。

ふーん。

アクションは好きだから、退屈せずに見れそうかな。

でも、こんなにネタバレ防止を徹底している上で考察が飛び交っているなんて、何かあるな。

ほら、去年やったロディア──ロード・オブ・ディアボリカ、VRゲームのこと──のエンディングみたいな?

あれは本当に酷いエンディングだったからなー。

 

「ナナミ、どうした? 表情が急に沈んだようだが」

 

目敏いグリードが声をかけてくる。

 

「……映画の内容がやはり君の趣味じゃなかったか? 今なら変更できるが」

「ああ、違う違う。ロディアのエンディングを思い出して落ち込んでただけたから」

「なぜそこで、ロディアのエンディングの話が出てくるのだ?」

「うん、ネタバレなしの情報を見る限り、最後に多分大きなチャブダイ返しがあるんじゃないかって思ってさ」

「なるほど、そういうことか」

 

グリードは顔の下に手をあてる。

 

「ロディアのようなエンディングなら、ネットユーザーも耐性のないものに対して警告を発信するはずだ。そのコメントが見当たらないことから、ロディアレベルの救いのない結末にはなっていないと予想する」

「だといいけどね」

 

こればかりは観なければわからない。

覚悟を決めて観ることにしよう!

 

「到着が上映間近になると予想し、先に座席の予約をしておく」

「うん」

 

グリードの目の前に映画館の座席情報が現れた。

箱が小さめのせいか、席は程よく埋まっていたが並んで座れそうな席があった。

……あ!

 

「ねえ、グリード」

「何だ?」

「その姿で映画館入れるの?」

「入れるが座席には座れない。なので人型ロボット(アンドロイド)になる。映画の後にラーメン店に行くことになるので丁度いい」

「そっか」

 

じゃあ大丈夫だね。

 

「席はここでいいか?」

「うん。並んで座れるね」

「では、決定だ」

 

言ってグリードはあっという間に手続きを済ませた。

さすがAI、入力が早いなーって……ああっ!

 

「グリード、お金!」

「私が二人分払った。問題ない」

 

平然と言う多脚ロボを私は睨んだ。

 

「割り勘って言ったじゃん」

「そういえば言っていたな」

 

このロボ、とぼけることを覚えたか。

成長しやがって。

 

「今払うよ」

「ここでの金銭のやり取りは人目が憚られる。また後にしよう」

「……わかった。絶対だよ」

 

私は声を潜めつつも強く言ったけど、グリードは特に反応をしなかった。

……このロボ、奢る気でいる。

私がちょっとでもスキを見せたら押し通すつもりだ!

そう察し、私は拳を握りしめる。

させない。

必ず割り勘にする。

それが友達ってもんでしょうがよ!

私はグリードと対等の友達になりたいのだ。

ここから気を引き締めよう!

私は決意を固めるのだった。

時間通りに興行区画の駅に到着。

少し早足で目的の映画館へ向かうけど、土曜日ということもあって人出が多い。

だけどグリードが現れると、みんながサッと道を開けてくれた。

これも毎度の光景。

好奇の視線を向けてくる人や無断で写真を撮る人もいたが全て無視した。

もちろん、声をかけてきて写真をお願いする人もいたけど、グリードが映画の時間があることを告げると素直に引き下がってくれた。

と、目的の映画館の前に人だかりができていた。

特に女性が多い。

その中心にいるのは、イケオジグリードだった。

アンドロイドであることはわかっているだろうが、一鍔重機が心血注いで作り上げたその存在感は市販のアンドロイドとはレベルが全然違う。

当たり障りなく対応していたイケオジグリードだったが、私と視線があった途端、無表情だったその顔にふわりと物柔らかな微笑みを浮かべた。

私は思わず立ち止まり息をのむ。

すごい。

自然な微笑みが前にも増して板についてきた。

やっぱり成長しているのだ。

グリードの微笑みに硬直する周囲の女性たちに一言断り、イケオジグリードが私達の元へやってきた。

姿勢正しく歩く姿も、カジュアルな服装もバッチリきまっている。

私の前で止まったイケオジグリードは、映画館の方に体を向けた。

 

「ナナミ、上映時間まで後十分ほどだ。急ごう」

「あ、うん。何か待たせてゴメンね」

「待ってはいない。午後からずっと君のそばにいるではないか」

「まあ、そうなんだけどさ……」

 

私の右隣に四脚ロボのグリードがいて、そして目の前にイケオジグリードがいて。

四脚グリードとイケオジグリードが揃って登場するのが初めてで、私は軽く混乱していた。

AI、並行作業もできるけど、いざ目の当たりにすると凄いことなんだなー。

 

「四脚は職場へ戻し、ここからは人型で君と過ごす」

 

イケオジグリードが言うと、四脚グリードは特に何も言わず、滑るようにして私達から離れていった。

中身は同じで、グリードという存在の同一性は保たれているとわかっていても、ちょっと寂しく感じた。

四脚の姿のほうが、私にとっては愛着があるのだ。

 

「ナナミ」

 

こちらを見向きもせず去っていく四脚グリードを見送る私に人型グリードが声をかけてきた。

見上げれば、優しく微笑んでいるイケオジ。

さっきまでの女性の皆さんとの態度とは温度差がありすぎて、おかげでドキドキするんだが。

 

「上映時間が迫っている。急いで入場することを推奨する。スナック類も買いたいのだろう」

「もちろん! 行こう!」

 

こうして人型へフォームチェンジしたグリードと駆け足で映画館へ向かった。

すかさずスナックを奢ろうとするグリードの先手を打つことができた私は、スナックとドリンクを手に持ち満足して入場ゲートをくぐる。

ふふん、やられてばかりじゃないのですよ。

その時、私の脳裏に閃光が走った。

私は勢い良く顔を上げる。

 

「あ! 映画のお金!」

「上映時間三分前だ。終わってからにしよう」

「……わかった」

 

さすがにここはグリードの言うとおりだ。

映画が終わってから、グリードにお金を払う。

忘れないようにね、私。

急いで予約した席に着席する。

ブルーバベル。

AIに管理されている大都市メディナの下層、情報が厳しく制限された地域で、運び屋として生計を立てながら暮らす少女ミアは、ある日、老技術者から依頼を受ける。

運ぶものは、少年型の生体AI。

名前はキー。

運ぶ先は、世界の果てにありヒトもモノも寄せ付けない、この星で一番高い謎の塔、通称ブルーバベルだった。

しかしキーは、AI管理社会を打倒する組織からも、街を管理するAIたちからも狙われていたのだ。

ミアは、キーを無事にブルーバベルに届けることができるのか。

というのが、ネットで調べた簡単なあらすじだ。

さ、始まるぞー。

こうして私達はブルーバベルを鑑賞することになったのだった。

 

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