多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十四話 映画を観てラーメンを食べた 2

ブルーバベル、観終わりました。

ちゃんとエンドロールまで観ました。

無意識のうちに劇場を出た私は、係員ロボットにスナックのトレイを渡し、フラフラとロビーへと足を向けた。

歩きながら周囲の人の話が聞こえてくる。

 

「いやー、これで三回観たけどさー、観れば観るほど伏線の回収だとか、キャラの心情だとかわかって面白くなるなー。やっぱあれだな、ブルーバベルの中のシーンでさ」

「おい、ここで語るなよ。あとで店で聞くからさ」

「やー、ホント、何でこの作品が人気がないのかわからんよ」

 

とか。

 

「ネットでネタバレを徹底してたの、あーいう理由だったんだねー」

「ていうか、理解できた? 私、あんまよくわかってないんだけど」

「私なんて全っ然わかってないよー。ネタバレ満載とかいう豪華版のパンフ買わないと」

「ね」

「高いけど気になるから買わざるを得ないー」

「商売上手だよねー」

 

とか。

私の感想としては、私の目の前で女子三人が語っている感想とほぼ同じだった。

理解が追いつかず、呆然とするしかない。

 

「ナナミ、大丈夫か?」

 

隣で並んで歩くイケオジグリードが声をかけてくる。

私は軽く手を振った。

 

「大丈夫。驚きと混乱がゴッチャになって、頭が全然働いてないだけだから」

「……それはあまり大丈夫ではなさそうだな」

「大丈夫だよ。あ、トイレ行ってきていい?」

「もちろんだ。足元に気をつけてな」

 

というわけでトイレへと向かい、用を足して手を洗い、身なりを整えると少しだけ気持ちが落ち着いた。

はあ、何というか、すごい作品だったな。

鏡に映る私は、疲れと困惑の色がはっきり顔に出ていた。

せめてもと思って、明るく元気な色のリップを塗り直す。

これで良し!

トイレを出ると、遠巻きに注目されていたグリードが私の元へやってきた。

 

「少しは落ち着いたか?」

「うん。でも映画の中身は半分以上わからないままだし、まだ浮足立った感じ続いているけどね」

 

私は正直に今の状況を告げた。

事前のネタバレ無しの情報、おねショタのSFアクション、という触れ込みは間違ってはいなかった。

間違ってはいなかったけど、それは本っ当に表層の部分に過ぎなかった。

一皮めくってみたら、中身は重厚なガチのSF作品で、私はついていくことが全くできずに置いてけぼりにされた挙句、あのラスト。

ロディアとは別ベクトルで衝撃的な世界観だった。

 

「君の理解の手助けになればと思い、豪華版のパンフレットを購入した。受け取ってくれ」

「ありがとう」

 

グリードに言われるがまま、端末に豪華版のパンフレットを取り込む。

……データ量が普通のパンフの倍以上あるんだが?

 

「豪華版は詳細な設定や用語などを載せているので、その量になっているようだ。販売もネタバレと転売防止のため、鑑賞したことを確認してから購入できるシステムになっている」

「最近、そういうシステムになってること多いみたいね」

 

豪華版のパンフの表紙は、世界の果ての荒野に燦然と輝くブルーバベルと呼ばれる塔のみが描かれたものだ。

私はパンフを適当にめくってみた。

キャラクター紹介からして情報量が多い。

軽い気持ちで読むものじゃないよ、これ。

私はパンフを閉じて端末に格納した。

 

「後で落ち着いた場所で読むことにする」

「それがいいだろう」

 

映画館を出ると、ドームの天井はすっかり夜の装いとなっており、区画のビルは華やかにきらびやかに輝いていた。

ビルに表示された時計は、夕食の時間帯になっていることを示している。

もうこんな時間かー。

 

「ではドクのオススメのラーメン店へ向かうとしよう」

「確か、ビジネス区画の駅前にあるんだっけ?」

「そうだ。『トラのセイカ』は人気店で夕食時ということもあり行列ができている。すぐに出発することを推奨する」

「わかった」

 

実はスナックを食べたからそんなにお腹は減っていないけど、移動して待っている間に空くかな。

いざとなったら、量を少なめにして注文すればいいか。

私達は再び地下鉄の駅に行き、ビジネス区画へと向かった。

この時間にビジネス区画に向かう人は流石に少ないようで、すんなりと座席に座ることができた。

 

「ブルーバベル、君には大分難解な内容だったようだ。楽しめなかったとしたら申し訳がない」

 

座るやいなや謝ってくるグリードに私は驚き、首を横に振った。

 

「謝らないでよ。道中のアクションはすごく楽しかったよ。主人公二人の掛け合いも面白かったし」

 

そう。

ブルーバベルに到着するまでは、本当に楽しくて迫力もあるアクションロードムービーだったのだ。

 

「ただ、ね、ブルーバベルに着いてからがね、ちょっと難しくなったなって。塔内のアクション部分しかわかんなくなって……」

「そうか」

 

私はグリードを見つめる。

 

「確認したいんだけどさ、あの世界ってVRっていうか、仮想空間って認識でいいんだよね?」

「そうだ」

「で、主人公の一人、生体AIのキー以外、全員、AIなんだよね?」

「そのとおりだ」

 

グリードは語る。

ブルーバベルの物語は、入れ子構造になっているのだと。

本当の人々が住む現実世界と、その人々が管理する超巨大サーバー『ブルーバベル』に構築された世界とがあり、ブルーバベルの世界に住む人、正確にはAIには現実世界は認識できない、という設定になっていた。

だけど、生体AIのキー、その正体は人間のサーバー管理者が、悪い研究者たちの陰謀によってブルーバベルの世界に閉じ込められたことで変わる。

一部のAIが現実世界を認識し、キーに協力して現実世界に接続しようとしたのだ。

現実世界の悪者研究者たちは、悪事がバレてしまうことを恐れ、それを阻止すべく動き出す。

ブルーバベルの世界を操り、真実にたどり着いたAIを消却(デリート)し、キーの存在も完全に消し去ろうとした。

と、いうのが物語の導入部分なのだそうだ。

 

「で、結局、キーが塔の機能、サーバーの機能を完全に乗っ取って、現実世界の悪者研究者に復讐をしようとするところで終わり、ってことでいいんだよね?」

「とても簡単に言えばそういうことになる」

 

認識は大体あってるようで何よりだ。

だが、謎は多く残されている。

ブルーバベルとよばれるサーバーは一つではなく、複数個あるのではないか。

キー以外にも悪事に巻き込まれた現実世界の人がいるのではないか。

現実世界を知った主人公のミアは、キーを元の世界に戻すべくキーに協力することにしたが、他のAIの反応はどうなのか。

そもそもブルーバベルが作られた目的は何か。

そして現実世界はどんな状態になっているのか。

等々、掘れば掘るほど謎がザクザク出てくるものだから、それが考察勢に火をつけ、ネタバレに十分に配慮しながらネットで活発なやり取りが行われているのが現状なのだった。

私はグリードの丁寧でわかりやすい解説と、豪華版パンフの用語集で、ブルーバベルの世界を少しでも理解しようと頑張った。

頑張りつつ、ふと思い浮かぶことがあった。

 

「ねえ、グリード」

「何だ」

「グリードはブルーバベルを楽しめた?」

「楽しむという感覚がないため、その質問には答えられない」

 

うーん、やっぱそうか。

心ないんだから、そうなるよね。

でもグリードはふと微笑んだ。

 

「だがブルーバベルの話や設定を予想、考察している時、私のCPUが活性化したのを確認している。この状態は、君とともに過ごす時間にも同じことが起こっていることから、とても良い傾向にあると結論づけている」

「えっと、楽しめたってこと?」

「この状態を楽しんでいると仮定するのならば、そういうことになる」

 

回りくどい上に慎重だけど、安易に結論出しちゃうのも危ないもんね。

でも、私の勝手な勘だけど、これはとても良いことだと思う。

だから私は笑顔を浮かべた。

 

「グリードが活性化したのは多分いいことだよ。これからそういうの増やしていけるといいね」

「そうだな」

 

ほのぼのとした雰囲気が私達を包む。

…………。

あれっ? 私、何か大事なことを忘れているような……?

正体不明のそれを思い出そうとした時、電車が目的の駅へ着いた。

 

「ナナミ、降りよう」

 

グリードに促されて下車し、改札を通過。

グリードのナビで店の前に到着した。

小さいビルの一階がお店になっていて、ホログラムでおっかない顔をしたトラが店を飾っている。

木の看板には、筆文字で大きく漢字で『虎の青果』と書かれていた。

店の前には十人ほどすでに並んでいる。

どれくらい待つんだろう。

 

「この人数から予測する待ち時間は二十五分ほどになる」

 

私の気持ちを読み取ったかのようにグリードが言う。

 

「平日のこの時間は二十人以上並ぶ時があるから、今日は少ないほうだ」

「そうなの?」

「ここはビジネス区画だ。休日は人口が減少する傾向にある。ドクが一番勧めるの店が休みなのもそのためだ」

「ああ、前の試乗の時も言ってたね」

 

つまり人気店のラーメンを食べる絶好のチャンスだ。

 

「よし! 並ぼう!」

「了解した」

 

そうして列の最後尾につくと、私の目の前に電子書類が現れた。

メニュー表だ。

ついでに注文もできちゃうシステムかー。

 

「店の回転率を上げるため、極限まで効率化しているようだな。それで、ナナミは何を食べるのか決まったのか?」

「まだだけど、ダイエットのこともあるからスーパーコンニャク麺ってのにしようかな……って……ヒッ!!」

 

思わずひきつった声が出た。

なっ、なにこれ、たっか!!

コンニャク麺、メッチャ高っ!!

普通の麺の五倍以上のお値段じゃん!?

 

「君のバイタルの変動を確認。スーパーコンニャク麺の値段の高さに驚いたと推測する」

「そ、そうだよ。……何で、何でこんなに」

「スーパーコンニャク麺の原料のコンニャクが希少であること、麺までの加工の手間と工数がかかることなどから、普通の麺よりも割高となっている」

 

あえぐように言う私に、グリードは冷静に説明をしてくれた。

 

「そうだったんか……」

 

ブルーバベルに圧倒されて、このお店の下調べをしなかった私、迂闊すぎる。

……でも! 初志貫徹! コンニャク麺にしよう!

お、お値段がアレだけど普通盛りで、そんで野菜多めにして。

……うう、やっぱ高いな。

でもプチ贅沢をする時のために副業でお金を稼いでって……あああっ!

私の脳裏にここまでの出来事が蘇った。

 

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