多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十四話 映画を観てラーメンを食べた 3

私は勢い良くグリードを見上げる。

 

「グリード! 映画のお金! あとパンフのお金も!」

「気付いてしまったか。このまま誤魔化せるかと推測したのだが」

 

イケオジグリードの眉間にわずかにシワが寄った。

今日はいつもより表情が豊かだな。

じゃ、なくて!

 

「何その言い方! 奢る気満々じゃん!?」

「私は最初からそのつもりでいたが」

「でも割り勘にしようねって言ったら、わかったって言ったじゃん!」

「そうしないといつまでも話が進まないと判断したため、表向きは了承の姿勢を示した」

 

このロボ!

私は奥歯をギリギリしながら端末を取り出し、グリードに突きつけた。

 

「さあ! 受け取ってもらおうか、私のお金!」

「拒否する」

 

言って、そっぽを向くイケオジロボ。

と、その視線がメニュー表に目を向けられた。

 

「目論見が崩れた以上、もはや誤魔化す必要もない。ラーメンも注文をしてしまおう」

「え」

 

グリードは穏やかに微笑んで言った。

何故かアクマっぽいと思った。

 

「安心してくれ。君のダイエットの状況は把握している。麺はスーパーコンニャク麺で量は普通。味はショーユ。野菜を多めにして他のトッピングはなしとする」

 

言いながらグリードがさっさと注文を始めたのを見て、私はとっさにグリードの腕を掴んだ。

 

「グリード!」

「私は普通の麺で量は少なめ。味はショーユにしてトッピングは全て抜きにする」

「それ、麺しかないじゃん……」

「そうだな。だが問題はない。私は君にラーメンを奢りたいだけで、私自身は特にラーメンに興味はないからな。これで決まりだ」

 

止めようとしても、AIの電子器機への反応速度には人は決して敵わない。

問答無用で注文が確定し、私達の目の前からメニュー表が消えた。

私はグリードの腕を掴んだまま、その彫りの深い端正な横顔に訴える。

 

「グリードは私の甲斐性を信頼してないの?」

「それはない。君が本業も副業も頑張っていることは知っている。だからこそ、その稼ぎは君が本当に必要とした時に使ってほしいのだ」

 

そしてグリードは少し寂しげな表情をした。

 

「君こそ、私の甲斐性を信頼していないのか? 君に映画鑑賞一つ、ラーメン一杯も奢れずに、人を幸せに導く使命を果たせると思うか?」

「そんなことないよ。ただ私は、グリードと並んでも恥ずかしくない対等の友達になりたいって思ってて」

「君と私はすでに対等な友達だと思っている。恥ずかしいも何もない」

 

グリードは再び穏やかな微笑みを浮かべ、右手を胸に当てた。

 

「その友達はいつも頑張っている。私はその報いを与えたいだけだ。そしてその友達と共に見聞を広げて成長したいと思っているのだ」

 

真摯な言葉に私は反論の言葉を失った。

と、グリードが笑みを深くする。

 

「しばらくそうしてくれないか」

「え?」

「君が私にしがみつくなど滅多にないことだ。ちゃんと記録しておきたい」

「あ!」

 

私はとっさにグリードの腕から手を離し、半歩距離を取った。

 

「ゴメン!」

「謝る必要はない。好きな子に触れられることは、人ならば嬉しい状況だと認識している。私もCPUが今までにない速度で処理が向上していることを確認した。私はこの状況を喜んでいると仮定することにしよう」

 

グリードは言葉の通り嬉しそうな表情になった。

イケオジなのに、私と同年代のような男の子のような笑顔。

私は思わず息をのむ。

……イケメン、ズルい。

おまけに超美声ときた。

ストライクゾーンから外れてるはずなのに、頭がクラクラする。

ふと見れば、歩く人たち、特に女性がグリードをガン見していた。

列に並ぶ女性たちも、チラチラとグリードを見ている。

つくづくアンドロイドのグリードはすっごく魅力的なのだと思い知った。

……私、外見も中身もイケオジのグリードと釣り合ってない。

そっか。

だから、四脚の姿に親しみと安心感を覚えていたんだ。

唐突に気づいた。

私、グリードと対等の立場に、自他共に認める本当の友達になりたいと思っている。

けど、人の姿をされているとそれがとっても難しい。

人はどうしても見た目に引きずられる生き物だ。

私はイケオジグリードと比較され、値踏みされ、色々思われることだろう。

……自意識過剰なのは認める。

でも人の姿じゃないなら、誰が見てもロボットだとわかる姿なら、少なくとも外見の比較や値踏みはできない。

それに安心していたんだ。

でもそれって、やっぱり対等とは言えないんじゃないの?

 

「ナナミ、どうした?」

 

グリードが顔をのぞき込んでくる。

至近距離の不意打ちはやめろ。

私は慌てて両手を振る。

 

「あ、えと、その、ね、友達の距離感、ちゃんと守らないとなって反省してました」

「……そうか。ちゃんと反省できて偉いな」

 

小さな子どもを褒めるようなことを言い、グリードは小さく笑った。

その笑顔は嬉しそうでもあり、何でか寂しそうにも見えた。

あーあ。

私はこっそりため息をつく。

結局自腹を切ったのは、カフェのコーヒーと映画のスナックと飲み物だけ。

後は全部奢られてしまった。

グリードはああ言ってくれたけど、やっぱり自腹を切るのが筋だと思うんだよ。

今後はイベントがおこったら注意しないと。

私が一人反省会をしている間にも列は捌けていき、ついに店内に入ることができた。

L字型の細長い店内は、四脚ロボでは入ることはできない狭さだ。

グリードがアンドロイドになったの正解だな。

私はグリードと並んでカウンターに座り、待つこと十分、ラーメンが提供された。

うおっ! 野菜いっぱいだ!

ハクサイとモヤシとニンジンと……緑の何か。

ネギ?

ともかく、早速写真を撮り、ついでにグリードのラーメンの写真も撮った。

そして、手を合わせていただきます!

味は、美味しかった!

特に野菜がメチャ美味し!

ていうか、ラーメン、そんなに食べたことないから、比較のしようがないのが正直なとこだけど、私の口にはあっていた。

夢中で食べていると、

 

「どうやら君の口にはあっていたようだな」

 

私の食べる姿を観察していたグリードが満足そうに言った。

グリードの前に置かれている丼に手を付けられた様子は全くない。

このロボ……。

私は口の中の物を飲み込んで、顔をはっきりとしかめてみせた。

 

「グリードも食べなよ。伸びちゃうよ」

「わかっている」

 

言われてグリードはやっとラーメンに口をつけた。

いつもこうだよ。

私の観察を優先する。

あ、そうだ。

 

「ね、グリード。コンニャク麺、少しあげる。普通の麺と比較してみたら?」

「いいのか?」

「いいよ。これでさらに食の経験値アップだよ。ブーストかけるよ」

 

私はグリードの丼にコンニャク麺と野菜を少しずつ移す。

そしてグリードはコンニャク麺と野菜を食べた。

飲み込むのを確認してたずねる。

 

「どう? なんか違うとこある?」

「見た目、成分、栄養価が違う」

 

無機質に言う四角四面のロボに、私はヤケクソ気味に大きく頷いた。

 

「うん! それは知ってる! それ以外で!」

「それ以外の大きな違いは、麺のちぢれ方だ。スーパーコンニャク麺はストレートに近く、スープが麺に絡まりにくいため、普通の麺より味が淡白になっている。私には判別不能だが、人によって好みが分かれると予想する」

「ほーほー」

「噛みごたえはスーパーコンニャク麺の方がある。その上で素材の成分の点も含め、腹持ちという点ではコンニャク麺のほうがダイエットには向いているだろう」

「そっか」

 

では最後に難問をいってみましょうか。

 

「どっちのが美味しいと思った?」

 

私の質問にグリードは表情なく私を見つめて口を開いた。

 

「私には美味しいという判断の基準がないため、その問いには答えられない」

「やっぱそうかー」

 

真っ正直に答えるグリードに、私は内心で肩を落とした。

いやまあ、予想してたけどね。

グリードは顎に手をあてる。

 

「ただ私としては、栄養価の点で勝るコンニャク麺の方が人に大きな幸福をもたらすと予想したのだが、ネットの情報では、値段と味の点から普通の麺を好む人が多いようだった。ナナミはどう思った?」

 

たずねられて私は頷いた。

理解できる評価だったからだ。

 

「うん。確かにコンニャク麺、麺にもハッキリした味を求める人には物足りないかもね。あと値段はやっぱ大きい」

「確かに、対価に対して幸福度が勝らなければ人は満足しないか」

 

あの値段でこのお味。

コンニャク麺、美味しかったけど、普通の麺と味がそう変わらないなら、迷わず普通の麺を選ぶだろう。

私はため息をついた。

 

「……ダイエットし始めてから気付いたけどさ、健康を維持するのってお金かかるんだね。身体にいいもの、大体お高い」

「それだけの手間と時間をかけているからな。前時代は貧富の差が健康の差にも繋がっていた。今は完全栄養食があるおかげで、その差は縮まってはいるが」

「そなんだけどねー」

 

でも一日三食、味が淡白で平坦な完全栄養食は飽きる。

味にバリエーションがあっても飽きる。

それはモデルの仕事をしていた時に嫌というほど経験した。

少なくとも私は、毎日の食事に味や食感の違いを求めていて、たまに刺激のあるものを食べたいと思っている。

おそらくはそういう人が一定数いるのだろう。

だからこの街には外食産業が存在し発展していると思うのだ。

私は視線を丼に移し、スープは残して残っていた具を全て食べた。

 

「ごちそうさまでしたー。美味しかったです」

 

笑顔で言うと、カウンターの向こうで作業をしていたお兄さん店員がニッコリ笑った。

 

「ありがとうございます!」

 

見れば、グリードもラーメンを食べきったところだった。

 

「ごちそうさまです」

「ありがとうございまーす!」

 

ロボのグリードにも愛想よく応答をする店員さん。

私の中でこの店の評価がドンと上がった。

たまにSNSで聞くのだ。

ロボというか、アンドロイドに対して塩対応するお店の話。

そりゃ、アンドロイドやロボには心はないから塩対応でもいいだろうけど、私の中では人と同じように扱ってもらうほうが好印象なのだ。

私たちは席を立ち、店を出た。

まだ店の前には行列ができている。

味は間違いなく美味しいし、店員さんの接客もバッチリだし、ロボに対して表向き偏見もない。

この店が人気店になるのは当然と思えた。

私はご機嫌になってグリードに笑顔を向けた。

 

「グリード、ごちそうさま。美味しかったよ。ありがとうね」

「喜んでもらえて何よりだ。紹介したドクも喜ぶだろう」

 

グリードの視線の向こうで、バルマさんは私達を見ているのだろうか。

今度直接会った時に、改めてちゃんと感想を伝えよう。

私たちは笑顔で店を後にした。

 

<映画を観てラーメンを食べた 完>

 

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