多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十五話 元友人とケンカをした 2

今日も街の外は荒天だった。

しかも二泊三日と久しぶりの遠征だ。

とある会社の傭兵部隊が新たに浄化地帯を作り出したことを聞きつけ、私とアイちゃん、ロイさんは、新たな浄化地帯に一番乗りする勢いで遠征を決めたのだった。

結果はバッチリ♡

レアメタルもザクザク取れてボーナスがとても楽しみな内容になった。

そして今日はその遠征の最終日。

回収した資源を会社へ運ぶトラックを見守りつつ移動中だけど、ちょっぴり疲れも感じていた。

基地には宿泊施設もあるけど、必要最低限って感じで、疲れを取るには物足りない。

それはアイちゃんも同じようで、というか、明らかに疲れの色が顔にはっきり出ていた。

情報収集と管理、気を遣うもんね。

でも操縦がいささか不安定になっているのが気になる。

AIの補助があるリンケージでこれだから、マニュアルだったら事故りかねない。

 

「みんな聞いて」

 

アイちゃんがフワフワとした口調で言う。

 

「私ね、お家に帰ったらあ、アロマ効かせたお風呂にゆっくり浸かってえ、フッカフカのベットで寝るんだあ」

「おい、死亡フラグっぽく言うな! てか気を抜くな!」

 

元傭兵で体も心も元気で丈夫なロイさんが、気が抜けかけているアイちゃんを窘める。

 

「それともあれか? 俺の持ってる栄養剤をそんなに飲みたいか? あ?!」

「あっ、そ、それだけは勘弁してください! 頑張ります! 頑張りますから!」

「よし! 家に帰るまで気合い入れてけよ!」

「はい!」

 

ロイさんに活を入れられたアイちゃんは、頬をペチペチ叩いて自分を鼓舞したようだった。

ちなみにロイさんの持っている栄養剤は傭兵時代に使っていたものだそうで、効き目は抜群なんだけど、とーっても不味い上に副作用で半日は寝込むようなシロモノなのだ。

私も入社後しばらくして遠征時に飲まされ酷い目を見た。

いやー、ジムで体を鍛えていて本当に良かった。

明らかに体力ついたもんね。

で、予定通り夕方には帰社できて、報告書とかの書類を片付けて会社を出たのは夜だった。

ふと思いたち、いつものカフェでコーヒーを飲もうと寄り道をすることにした。

私にとってあのカフェと駅周辺は、日常の象徴とも言える場所なのだ。

今日はグリードはいないけど、いつものテラス席で飲むコーヒーはとても美味しく感じられた。

ふー……落ち着くし良い気分。

たったの二泊三日なのに、私もなんだかんだで疲れて癒やしを求めてたのかな。

あ、そうだ。

グリードに街に戻ったこと伝えよう。

端末からメッセを立ち上げようとした時だった。

軽い電子音と共にメールの着信があった。

ん? 何ぞ?

送信者はグリードだ。

 

「ミズ・エリザベート・ムーアの件について」

 

その件名に、一瞬心が凍りついた。

エリザベート・ムーア、私の元友達のエリちゃんのことだ。

メールの内容は、パスワードと生体認証を必要とする書類が添付されている簡素なものだった。

添付されている文書ファイルに、内容が書かれているのだろう。

続いて複雑かつ長いパスワードが記載されたメールが送られてきた。

……前にもあったなこんなこと。

私は念の為周囲を見渡し、人目がないことを確認してから複雑怪奇なパスワードを打ち込んだ。

生体認証をクリアすると文書ファイルが開かれる。

文書ファイルには、エリちゃんの件で進展があったからちゃんとした場所でお話をしたいとのことだった。

……エリちゃんたちに何か動きがあったんだ。

更に文書を読み進める。

場所は、以前にも行った『ハイドアウェイ・アパテイア』という、街の管理AIの目が、意図的に届かないようになっている特別なお店だ。

ついでに言えばドレスコードもある、普段の私なら絶対に寄り付かないお店でもある。

日時は今週の土曜日の十九時って……明後日じゃん!

私は反射的にブラウザを立ち上げた。

服、レンタルしないと!

いや、先に返事をしたほうがいいか!

私はグリードに出席する旨をすぐに返信して、前にもお世話になったレンタル衣装のお店で洋服探しを始めるのだった。

その翌日、出社すると神妙な顔をしたアイちゃんが私を待っていた。

あ、これ、エリちゃんのことだな。

更衣室に誰もいないことを確認し、アイちゃんが口を開く。

 

「あのさ、ナナちゃん。昨日グリちゃんからメール来なかった?」

 

やっぱそのことか。

 

「来たよ。エリちゃんのことだよね」

「うん。そっか」

 

私達は何となく黙って着替え始める。

作業着を着終わり、浄化済みの防護服に手をかけた時にアイちゃんが口を開いた。

 

「スロウスさんがエリちゃんの追跡調査してたのは知ってたけど、グリちゃんもエリちゃんたちのことずっと追跡してたの?」

「うん。エリちゃんとシンヤさんのこと、諦めてなかったよ。機会を見つけて必ずすくい上げるって言ってた。それがグリードの使命だから」

「確か、『人を救い、幸福へと導く』だっけ」

「そう」

 

これはグリードに限った話じゃなく、街の管理AIたちもスロウスさんにも課せられた使命だ。

でもって、低軌道上にある電脳都市アタラクシアの管理AIたちも同じ使命を持っている、と思う。

それはともかく。

 

「あの店に呼ばれたってことは、動きがあったんだろうね。……あんまり良くない方向に」

「でも、助けるチャンスができたってことでもあるんだよね。少しでも力になれるといいんだけど」

「力になってほしいから私達を呼んだんだと思う」

「だとしたら、まずはグリちゃんたちから、ちゃんとお話聞かないとね」

 

アイちゃんは防護服を着ながら言い、私は近くにあるベンチに腰を下ろしながら頷いた。

防護靴を履き、再び立ち上がる。

グローブとヘルメットを抱えてアイちゃんを見た。

 

「とりあえず今日は、目の前の仕事に集中しよ」

「だね!」

 

さあ! 今日もお仕事頑張るぞ!

着替え終えた私達は気合を入れて更衣室を出た。

そしていつも通り荒天の中、資源回収の仕事に勤しみ、ボチボチ資源を回収して無事に帰還。

お疲れ様でした!

私とアイちゃんは定時で上がり、一緒に前にお世話になったレンタル衣装のお店に向かった。

私は前回のパンツスーツにしようと思っていたのに貸出中。

というか、サイズの合う上に好みのパンツスーツがほぼ借りられていた状態だった。

 

「ナナちゃん、たまにはワンピースも来てみたら? ナナちゃんの今の体形なら選びたい放題だよ!」

「ええ! 例えばこちらのワンピースはいかがでしょう。レースのケープが人気のデザインです!」

「わあ! 可愛い♡ ね、試してみよ!」

 

自分のことは二の次で、目をキラキラさせながら勧めてくるアイちゃんと店員さん。

代わる代わるホログラムで様々なワンピースを私に着せていく。

私は虚無な心で二人の着せ替え人形になっていた。

こうしてアイちゃんと店員さんが厳選したワンピースとアクセサリーを借り、その足で靴も購入。

始終ご機嫌だったアイちゃんと駅で別れて、私は昨日と同じくいつものカフェに立ち寄り、いつものコーヒーを頼んで、いつものテラス席に座った。

あー、疲れた。

オシャレが嫌なわけじゃないんだけど、カジュアル大好きな身としては、うん、まあ、気を遣う服装は気疲れするのだ。

それにいつもズボンだから、スカートが履きなれず心もとない気分にもなる。

 

「ナナちゃん、カジュアルやスポーティなのが大好きなの知ってるし否定しないよ。でも、たまには、ね、ワンピースやスカートを履いてオシャレの幅を広げるのも大事だと私は思うの」

 

ニコニコ笑顔で正論を言うアイちゃんに、私は何も言い返すことができなかった。

……ま、明日のたった数時間のことだ。

たまにはいいでしょ。

コーヒーを飲み干した時、メッセの着信があった。

……ラストさんだ。

 

「こんばんは、カリヤ様。本日もお仕事お疲れ様です。先程はレンタル衣装のお店に行かれてましたね。私もあの場に立ち会い、皆さんと一緒に衣装を選んで差し上げたかったです」

 

思わず笑顔になった。

ああ、ラストさん好きそう、そういうの。

いや、AIだから好きも嫌いもないけど、過去の言動から察するに、ファッションとか見た目とかに興味を持つように調整されていると私は感じた。

 

「さて、エリザベート・ムーア様の件、グリードとスロウスが何を企んでいるかは存じ上げませんが、くれぐれもご用心を。今のカリヤ様は先日のアルビオン改のこともあり、様々な方面から注目を集めています。しばらくの間は身の振る舞いに気を使ってくださいませ」

 

続いて送られてきたメッセージに、私は顔が強張った。

さすがは街の管理AI。

グリードとスロウスさんの動きもお見通しか。

企みも実はわかっているけど、あえて知らないふりをしている。

そんな雰囲気だ。

ああそうか、これ、ラストさんの親切な注意喚起なのだ。

私はしばし考え、端末をタップしてメッセージを打ちこんだ。

 

「こんばんは。いつもお仕事お疲れ様です。明日の件につきましては承知しました。友人も一緒に行くので、まずはしっかりお話を聞いて相談したいと思います。お気遣い、ありがとうございます」

 

失礼がないか確認し、送信。

既読マークがすぐにつき、可愛いイラストの女の子がニッコリしているスタンプが表示された。

私は思わずため息をつく。

ひとまず、街から信頼をされていることはわかったけど、監視の目もしっかり働いていることも改めて実感した。

できれば街の管理AIの信頼を損ねるような真似はしたくないけど、どうなるかな。

先行きに暗雲が垂れ込めている予感がするのは気のせいか。

私は空のカップののったトレーを持って立ち上がった。

……帰ろう。

これ以上考えても埒が明かない。

ラストさんに言ったように、明日ちゃんとお話を聞いてみんなで相談しよう。

優秀なAI二機と信頼できる友人もいる。

きっといい方向へ転がってくれるはずだ。

私はトレーを返却すると、家に戻るため店を後にした。

 

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