多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

109 / 128
第二十五話 元友人とケンカをした 5

翌日、地下鉄の駅から出て会社へ向かおうとしたら、アイちゃんが硬い表情で私を待っていた。

これ、アイちゃんのとこにもラストさんが来たな?

私達は挨拶をし、そして並んで会社へと向かう。

しばらくしてアイちゃんが口を開いた。

 

「昨日の夜なんだけど、私のところに管理AIが現れて」

 

ああ、やっぱりね。

アイちゃんが声を落として言うのを、私は頷いた。

 

「私のとこにも来たよ。ゴメン、私の最近の動きや検索履歴から怪しまれていたみたいで」

「ナナちゃんのせいだけじゃないよ。私の行動履歴や検索履歴も目をつけられてたんだと思う。多分合わせ技で私達の企み、推測したんだね」

 

アイちゃんは緊張感に満ちた表情になった。

 

「家族の前じゃなかったけど注意喚起されたよ。エリちゃんたち連れ戻すまで気をつけないと」

「私は警告まで受けたよ」

「えっ?!」

 

私を見るアイちゃんの表情が明らかに強張った。

警告は、街で普通に暮らしている人にとっては、忌避すべき事柄で本当にヤバイ事態の表れなのだ。

 

「け、警告って……、や、確かにナナちゃんの役割を考えればそういう判断になるかもだけど」

「でも何でか、万が一のときのためのアドバイスをくれた」

「…………は? 何故?」

 

アイちゃんが不審がるのもわかる。

だって私も未だにラストさんの考えがわからないのだから。

私は首を横に振った。

 

「わからない。だからこそ、できる限り話し合いで済むようにはしたい」

「そだね」

「ただ、今までのエリちゃんの行動から、ラストさんも話し合いは難しいだろうって予測してる。……覚悟したほうがいいかも」

「そうならないようにするために、私も頑張って説得するよ。グリちゃんもナナちゃんを守るために頑張ると思うし」

 

そうして歩いていたら会社に近づいてきた。

私はしっかりと顔を上げて言った。

 

「まずは今日を乗り越えよう」

「うん!」

 

そして私達は職場の門をくぐった。

普段通りに仕事をして、終わったら副業のメンテナンスステーションのお仕事に精を出す。

仕事の先輩であるアンドロイドのサヤネさんの指示に従いながらスタンドカフェで接客をし、たまに操作の拙いパワードスーツの誘導を行ったり、操縦を変わってもらいハンガーまで運んだり。

副業、大変だけど楽しい。

紛れもない私の大切な日常なのに、明後日次第ではそれも危うくなる。

 

「ナナちゃん! ちょっと誘導手伝ってくれる?」

「はい! わかりました!」

 

店長のリヒトさんに言われて、私は意識を切り替えた。

集中、集中。

そしてその日の副業は無事に終わり、寄り道せずに家に戻ると、宅配ボックスに荷物が届いていた。

仕事早い!

いそいそと家に荷物を持ち帰り、早速梱包を取り除いてプロテクターと応急薬をテーブルに並べる。

……着てみよう。

シャワーを浴びたあと、早速当日の服に着替えてみた。

胸やお尻の肉を寄せたり持ち上げたりしながらインナースーツを身に着け……あ、ぴったりじゃん!

トレーニング頑張っているせいだろう、モデルをやった時のスタイルを維持できているようだ。

良かったあ。

思わずニッコリしつつ、電子説明書を見ながら腕と膝と脛にプロテクターを身に着けた。

それから、ダボダボのフード付きのトレーナーとワンサイズ大きいワイドパンツを履き、ホログラムで今の自分を映し出す。

ん! あまりプロテクターが目立たなくていいんじゃない?

よし! 外に出よう。

 

と思ったら軽い電子音とともに、私の目の前に画面が表示された。

あ、もう寝る時間か。

私はそれを無視し、家から外に飛び出して体を動かしてみた。

プロテクター、軽くて丈夫なやつ──なのでとても高いやつ──選んだけど、実際に身に着けて動いてみると、やっぱり感覚が違っていた。

モデルの時やった武闘のパフォーマンスをやってみる。

やっぱ腕と足の感覚が違う。

ぶっつけ本番でやらずに良かった。

この感覚で戦うことになるかもしれないからね。

一通り動いて、またしても寝る時間だとお知らせが来たので、汗をかく前に家に引き上げることにした。

それにしてもこのインナースーツ、前は意識してなかったけど、こんなにピタピタなのに全然蒸れないのはすごい。

高品質なインナースーツの条件として、透湿性にも優れているのもポイントなのだとやっぱりモデルをやる事になった時に習った。

繊維の世界、奥が深い。

家に戻ると、寝ろと急かしてくるアラームを適当にあしらい、パジャマに着替えておやすみなさいした。

 

そしてついに話し合いの前日。

会社帰りに例のお店で、現状報告と最終打ち合わせをすることになった。

 

「先日、ナナミとアイラから報告を受けたが、ラストからアイラは注意、ナナミは警告を受けたそうだ」

「やっぱそうなったか。あのAI、戦前から代替わりせず同一性を保って今現在までいるから、人への造詣がものすごく深いんだよ」

 

グリードの報告にスロウスさんは肩をすくめる。

 

「よく観察し、ほぼ正確に人の行動を予測する。監視者としては本当に優秀だよ。露出狂なのが台無しにしてるけど」

「華麗な容姿と柔らかい物腰に騙されそうになるんですけど、本当によく見てらしてびっくりしました。改めて街の監視と記録が凄いことを実感しました」

 

アイちゃんは殊勝に言うと、スロウスさんは感情無く私を見た。

 

「でも、そのAIからアドバイスも受けたんでしょ」

「はい」

「今回のことは管理AIの手落ちから始まったことだからね。仮にカリヤさんに何かあったとしても、そこが付け入るスキになるかな」

「何事もなく話し合いですむのが一番いいことは明白だ。私自身、ナナミが危険な目に合うのは何としても避けたい」

「うんうん。それ、この一ヶ月で何度も聞いてるから。わかってるから」

 

グリードが四角四面に言うのを、スロウスさんは面倒くさそうに手を振ってあしらった。

 

「それより、明日の予定の最終確認をしよう」

「了解した」

 

私達は明日の予定を改めて確認して解散となった。

エリちゃんにはスロウスさんが家まで送り届け、私はグリードが送ってくれることになった。

言葉数少なく家路をたどり、社宅の前まで来た時、グリードが前触れなく手を握ってきた。

驚き立ち止まる私に、グリードも立ち止まり真剣な表情で私を見下ろし言った。

 

「話し合いで済めばそれが一番いい。だが君たちとラストの予測も無視はできない。万が一の時は、私が必ず君たちを守る。これは使命に通じる行為だ」

「うん。でもまずは話し合い、上手くいくといいね」

「そうだな」

 

グリードは微笑み、私の距離を縮めた。

近いよ!

言おうとしたけど、グリードに見つめられて完全にフリーズした。

 

「おやすみ、ナナミ。良い夢を」

 

優しく囁くように言うグリードに、私はどうにか口を開いた。

 

「……あ、ありがとう」

 

グリードは微笑みを深くすると、再び距離を取って手を離した。

だから! イケオジ、ズルいってばよ!

ドキドキしながら、それを誤魔化すように私は手をパタパタと振る。

 

「じゃ、また明日ね」

 

私は足早に家へと戻った。

部屋に入ってホッと一息つく。

……私は頭をブンブンと横に振った。

雑念退散! 雑念退散!

シャワー浴びよう!

そしてすぐ寝よう!

私は即座にそれを実行し、ベッドに横になった。

 

「おやすみなさい」

 

室内の電気が落とされ、私は目を閉じた。

まぶたの裏にイケオジグリードの微笑みがチラついたけど、すぐに眠りに落ちた。

 

そして話し合いの当日になった。

お昼ご飯を簡単に食べて準備万端で待っていたら、予定通りにスロウスさんが車で自宅まで迎えに来てくれて、途中でアイちゃんと合流し、街の端っこへと移動した。

車で走ること二時間近く。

スロウスさんが管理し現在は凍結中の超大企業(スーパーメジャー)、シャマイム社の本拠地へやって来た。

本来なら人や物やロボットの往来があって、華やかで賑やかで、でも威厳もあって、そんな光景が目の前にあるはずなのに、凍結されたその場所は冷たく空虚としか言えない雰囲気が漂っていた。

前にも来たけど、相変わらずだな。

今でも現役で稼働中のスーパーメジャーの本拠地と比較するとあまりにも寂しくて、胸が締め付けられる思いがした。

その正門の前に四脚のグリードが既に待っていて、私達と合流。

駐車スペースに車を止め、軽トラの荷台にグリードを乗せて地下通路を進むことになった。

帰りにエリちゃんたちを乗せることを想定してのことだ。

私はもちろん、アイちゃんも緊張している様子で道中は言葉数も少なく進むと、前回も見た大隔壁の前に到着した。

早速二機のAIは作業を開始する。

 

「二人とも先程からバイタルが緊張状態になっている。少しリラックスをすることを要請する」

 

大隔壁を開けるための操作を手伝うグリードが、私達に優しく声をかけてきた。

するとスロウスさんが作業をしながらグリードを横目で見た。

 

「君がジョークの一つでも言えればいいのに」

「ジョーク。私には未だに理解ができていない事柄の一つだ。そういう君はどうなのだ?」

「ボクがそういう性格(キャラ)に見える?」

「いや、気遣い自体を面倒として性格設定されている君にそれはありえない。仮に言ったとして、君のそれはいわゆる『悪趣味』『不謹慎』と分類されるものになると推察される」

「よくわかってんじゃん」

 

このAIたち……。

私の横に立つアイちゃんも、さすがに呆れているようだった。

で、大隔壁がトラックが通れる程度に開き、私達は念の為マスクをつけて隔壁の向こうへとトラックを進めた。

 

「予定では、エリザベートの本日の一戦目が始まる時間だ」

 

グリードが告げると、私達の目の前で動画が展開された。

見たことのある違法闘技場がライブ中継されている。

 

「相変わらず、異様な盛り上がりですね」

「人気のあるエリザベートと、目下そのライバルと言われている女性プレイヤーとの戦いの前だからな」

「相手はランキング八位のプレイヤーだね。前評判では、前回の戦いでムーアさんの調子が好調なのは周知されてるから、接戦の末にムーアさんが勝つんじゃないかって話」

 

グリードの話を受けて前評判を語るスロウスさんの話に私は思わず呟く。

 

「相手も相当意気込んでるんだろうな」

「うん、意識せざるを得ないよね」

 

アイちゃんも頷いた。

そして歓声が一段と大きくなると、エリちゃんのゲッカビジンと、グレイッシュな鉄色がキレイで機械化された女性プレイヤーが出てきた。

機体の名前はアイアン・ローズと言うらしい。

 

「相手は八割方、機械化されているそうだよ」

「八割?!」

 

思わず声を上げる私。

隣のアイちゃんは絶句している。

 

「元々事故で四肢を機械化したみたいだけど、プレイヤーになってからは、さらにそれを進めたってさ」

「事故で四肢を機械化したのは選択肢としてはありだけど、プレイヤーになるために機械化進めるって、やっぱりちょっと理解ができないかな」

 

理解に苦しむようなアイちゃんに、トラックを運転するスロウスさんは肩をすくめた。

 

「ボクにもわからないよ。ただ、プレイヤーとして名を挙げるには、それくらいのことは当たり前みたいだね」

「街の外のプレイヤーは過酷なんですね」

 

街のプレイヤーの健全さとは大きくかけ離れた世界だ。

何でもアリで、つくづくおっかない世界だと思う。

私達が話している間に試合が始まった途端、ぶつかり合う二人。

二人とも攻撃が速い!

目が覚めるような攻撃の応酬に、私は息をのんだ。

 

「ダメ。全然目が追いつかない……」

「速いよ。二人とも最初から全力で飛ばしてる」

 

ため息をつくアイちゃん。

私も追いつくのがやっとの状態で、身が引き締まるのを感じた。

 

「二人とも良い仕上がりだね」

「ああ。機体の調整も良好のようだ。観客も盛り上がっているし、いい試合になりそうだな」

 

無機質に言う二機のAI。

激しい攻防に私は手に汗を握りながら、エリちゃんを見つめる。

やはりエリちゃんはキックの攻撃が強いな。

養成学校時代の頃から、エリちゃんの得意技だった。

よく観察しろ、私。

もしかしたら、最悪、私が相手をすることになるかもしれないのだから。

試合は前評判どおりの接戦となったが、エリちゃんの変幻自在の多段キックに、ついに相手が防戦一方になり始めた。

機械化するとどうしても生身より重量があがるから、それを支える筋力とスタミナの調整がとても重要になるし、それを戦術に考慮しなくてはならない。

その見込みが甘かった相手はスタミナ切れを起こしている。

今がチャンスだ!

私の思いが通じたかのように、エリちゃんの猛攻が始まり、相手は防御姿勢を崩してサンドバッグ状態となった。

エリちゃんの渾身の蹴りが相手にヒットして、相手はついに地面に転がる。

エリちゃんはすぐさま相手の背中についているLSSを一撃で踏み抜いた。

勝負ありだ!

審判もエリちゃんの勝利を宣言し、エリちゃんは大いに盛り上がる観客に優雅にお辞儀をして試合場を去った。

そして、お相手は担架に乗せられて退場。

毎度の光景だ。

私とアイちゃんは拍手をした。

凄い試合だった!

 

「盛り上がっているところ悪いけど、そろそろ闘技場のある区域に入るよ」

 

スロウスさんが素っ気なく言うと同時に視界が大きく広がった。

正真正銘の街の外、仕事以外では足を伸ばすことすらしない治外法権の地だ。

様々なヒトとモノとが忙しなく行き来している。

私達の乗っているトラックは、街の外でも現役で活躍中のものらしく変に目立つことはしなかった。

まあ、乗っている人とロボは小奇麗で街の外の住人らしからぬ存在だけど。

ライブ中継を消したグリードが、私の方を見た。

 

「君はエリザベートの状況をどう見る?」

「相手次第だけど、一時間の休憩時間は相当貴重な時間になるよ」

「その次の相手も今試合が終わった。ランキング五位の強敵だね」

 

エリちゃんのランキングが三位だから、さっきの相手より強力な相手との対戦になる。

私は試合後のエリちゃんの状態を思い出した。

 

「……試合後も呼吸も整ってたみたいだし、闘志も感じられた。エリちゃんの中身はまだまだ戦える感じはする」

「すごい体力だね。養成学校時代とはやっぱ全然違う。薬の影響もあるだろうけど、エリちゃん自身も凄い努力をしてきたんだろうね」

 

アイちゃんの評価に私はしっかりと頷く。

 

「その努力、才能とともに街の中で活かせていたら、どれほどの名声を得ていたことか。街の手からこぼれ落ちてしまったのが本当に惜しい存在だ」

 

グリードが言うと、スロウスさんは呆れたような表情になった。

 

「これからそれを取り戻しに行くんでしょ」

「そうだよ。そのために今日来たんだから」

「そうだったな」

 

グリードは優しい声音で応じると、闘技場の壁が見えてきた。

トラックは今回、闘技場関係者の駐車場へ置くことになったとのこと。

私達のことも関係者として扱うよう、シンヤさんが取り計らってくれたらしい。

駐車場にトラックを置き、私達は警備ロボのチェックを受け、関係者出入り口から闘技場へ入った。

……スムーズにチェックが通って良かった。

プロテクターを着けた程度では問題はなかったらしい。

私は内心ホッとしつつ声をかけた。

 

「お疲れ様でーす」

 

関係者通路を、グリードとスロウスさんを先頭に、アイちゃんと私が続いて歩いていると、再び警備ロボが登場。

あ、これ前回もいたロボたちだ。

再びチェックを受けて、すんなりと通過。

こちらも一声かけて、やっと選手の控室前まで来た。

 

「僕らはムーアさんの試合が終わるまでこの部屋で待機。ムーアさんとキリュウさんはこの部屋の隣だよ。彼女の試合が終わったら会いに行く段取りになってる」

「OK」

 

私達はエリちゃんとかち合わないよう、急いで部屋へと入った。

控室にはロッカーとテーブルと椅子、機体を調整するための電源やケーブルが置かれていた。

空気清浄機もあったので早速起動。

私達がマスクを外すと、グリードがこちらを向いた。

 

「隣の部屋のシンヤと連絡を取った。エリザベートの現在の状態は良好のようだ。次の試合も問題なくいけるらしい」

「やっぱりね」

「すごいなー、エリちゃん」

 

素直に賞賛するアイちゃん。

違法とはいえ、エリちゃんはプロのプレイヤーだ。

やっぱり意識とか心構えとかが全然違う。

私達は控室にあった椅子に腰かけて、部屋のモニターから試合を見ることにした。

改めて街の中の大会と比較すると、殺伐とした雰囲気と異様な熱気が凄い。

確かに、街の中の大会を生ぬるいと見る人もいるだろう。

だけど私は知っている。

厳しいレギュレーションの中で知恵を絞り、限界まで高めようとする人の創意工夫と強い意志を、小型のモデルをやった時に見た。

私はその、できる限り犠牲は少なく、その結果歩みが遅くとも、確実に進む技術進化を応援したいと思ったのだ。

もちろん異論は認めるけど、でも、性急に事を運びすぎたエリちゃんたちの現状を見ると、何でもありで無軌道な技術進化は危険だし、誰も幸せにしないと思う。

私はモニターの試合を見ながらそんなことを考えていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告