多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十六話 看病してもらった 1

ああああああ! 痛いっ!!

身体が、全身が死ぬほど痛い!

痛い痛い痛い!

体をちょこっと動かすだけでもピキピキビリビリズキズキする。

その痛みに私はベッドの上で悶えていたが、モダモダしている間にも身体は痛みを訴える。

何でさっ?!

私は呼吸を整えながら自問する。

昨日はここまで痛くなかったじゃん!

余裕で歩いて来れたじゃん!

……あ、余裕で、は言いすぎた。

ギリギリ歩いてこれたじゃん!

私は天井を見上げながら声を出そうとして……痛いってばよ!!

顔が痛いよお! なんか熱いし腫れてる気配も感じるしい。

それでも、何とか口を動かし声を出した。

 

「今の時間と天気、それと今日のスケジュールを教えて」

 

するとふんわりとした花々の咲くエフェクトと共に、超絶美少女のホログラムが空中から現れ、音もなく華麗に着地した。

痛みを忘れて呆気にとられる私に構わず、誰もが見惚れるだろう美少女は優雅にお辞儀をした。

 

「おはようございます、カリヤ様」

「あ、おはよ痛っ! おはよう、ございます……ラストさん」

「無理に喋らなくても結構ですよ」

 

街の管理AIの一機ラストさんは、痛ましそうな表情で私を見て言う。

今日も街の管理AIの演技力は冴え光っていた。

 

「本日は六月七日、月曜日。時刻は午前六時三十二分を回ったところです。街の天気は曇りのち晴れ。本日のカリヤ様のスケジュールですが、会社の出勤は街の規定によりできません。八時半にグリードが迎えに来ますので指定の病院へ向かっていただき、その後は精密検査と処置を受け、処罰確定まで待機となります」

 

すらすらと答えるラストさん。

私は起き上がろうとして、腕に激痛が走り、ベッドにたまらず転がった。

痛っえええええええ!!

 

「カリヤ様、無理はなさらないで下さい。その両腕が一番の重傷箇所なのですから」

「何でえ……めっちゃ高くて良いプロテクターつけてたのにい……」

「そのプロテクターを破壊するほどの衝撃を身体は受けたのです。昨日の検査では骨に異常はありませんでしたけど、再度見てもらいましょうね」

「あい……」

 

素直に返事をした時だった。

 

「あー、やっぱ悲惨なことになってるんだね」

 

唐突に性別不詳の声とともに、空中にパッと動画が展開された。

画面には、やはり私と同年代の性別不詳の人物が映っている。

ピアスをジャラ付けして派手なパンクな髪型と上着を着て、気だるそうな表情で私を見ていた。

昨日お世話になった存在だった。

 

「スロウスさん」

「おはよう。様子を見に来たよ」

 

意外だった。

万事、面倒くさがりなスロウスさんが、私に気を遣ってくれるとは。

だが、ラストさんが眉を僅かにひそめた。

 

「貴方のことです。痛みに悶えるカリヤ様を見に来ただけでしょう?」

「まーね。絶対に今日のほうが酷いことになると予想できてたし」

「少しは否定っ痛あい!」

 

私は思わず突っ込もうとして顔に痛みが走り枕に突っ伏す。

くそおっ!

このAI、やっぱ性格最悪だ!

何を考えてこんな性格設定にしたんだ、シャマイム社の連中は!

襟首を締め上げて、揺さぶりながら問い詰めたい。

歯をギリギリしながら、私は痛みをこらえてベッドから起き上がった。

トイレに行きたかったからだ。

するとスロウスさんが怪訝な表情をした。

 

「何頑張って立とうとしてんの? 健康アピールしたって無駄だよ」

「トイレに行きたいんですう!」

「じゃあさっさと行きなよ。ボクらAIだから何とも思わないけど、人前で漏らす趣味あんの?」

「んなわけあるかあっ! って痛えっ!!」

 

ホント! このAIはよおおおおおああああっ!

 

「カリヤ様、スロウスに構うのが間違いの元です。スルー推奨ですよ」

「あい……」

 

ラストさんにやんわり窘められ、私はヨロヨロモタモタとトイレへと向かった。

ぐううう、体中が痛えよおおお。

涙目になりながら、どうにかトイレに到着。

内容に特に異常がないことを確認して、トイレを出た。

 

「体中が打撲と筋肉痛の症状が出ているようだね。てか顔、ムーアさんも酷いもんだけど、君も負けず劣らずだ」

 

並行してエリちゃんの様子を見てるのか、スロウスさんがそんなことを言う。

エリちゃんも私にやられて、さぞ酷い顔になっていることだろう。

……謝らないけどな。

 

「時代錯誤を承知で言いますけど、女の子のするケガじゃありませんからね」

 

嘆くようにため息をつくラストさん。

今回は暴力沙汰になった。

今後はこんなことないのが一番いいけど、暴力沙汰になる前に、もっと上手く立ち回れるようになりたい。

 

「立ったついでに食事も取ったら? こういう時こそ頭使って行動しないと」

「わかってますう」

 

スロウスさんの助言に不機嫌に応じ、身体をギクギクシャクシャクさせながら、完全栄養食の入っているキッチンの棚を開けた。

ブロック状の袋を適当に一本取り出して、椅子に崩れるように座る。

身体が痛いし思うように動けなくてしんどい。

でも食べないと痛み止めの薬が飲めない。

 

「本当は液状のもののほうが体の負担が少ないんですけどね」

「後で買ったらいいよ」

 

いつもは気軽にスナック感覚で食べている完全栄養食。

食べるのも一苦労だった。

噛むたびに顔が痛いのだ。

病院帰りに液状のものを買おう、絶対に!

私が決意した時だった。

インターホンの音が鳴る。

えっ? こんな時間に誰?!

 

「さすがにカリヤ様のこととなると早いですね」

「え?」

「カリヤ様は食事を続けてください。私が対応します」

 

ラストさんが言うと、玄関の鍵が勝手に開いた。

何故?! と思ったのも一瞬。

ラストさんが街の管理AIの権限でドアを開けたのだ。

 

「ナナミ、大丈夫か?!」

 

言って玄関からやって来たのは、人型ロボット(アンドロイド)になっているイケオジグリードだった。

手には手提げ袋を持っている。

 

「グリード、何で?!」

「私がカリヤ様の起床からの状況をグリードに動画で共有したところ、すぐに行くと申しましたのでお迎えしました」

 

どうやらラストさんが裏でグリードと連絡を取っていたらしい。

スロウスさんといいラストさんといい、本当にAIって並行作業が得意だな?!

イケオジグリードは向かいにあった椅子を私の隣へと移動させ、素早く着席した。

そしてモグモグしている私の顔を覗き込み、眉間にシワが寄った。

 

「こんなに腫れてしまって。その顔では咀嚼するのも一苦労だろう。砕いて食べやすくしよう」

「グリード、大丈夫だから」

「お言葉に甘えときなよ。実際、痛いんでしょ」

 

そーだけどさー。

スロウスさんの言葉にムスッとしながら、私は細やかな反抗を試みる。

 

「でもどうにか食べれるし」

「自分でできることを自分でやることは、自尊心を保つためにも大切なことです」

 

ラストさんが胸に手を当てながら言う。

 

「時間をかければカリヤ様も食事を取れることは承知しております。ですが、痛みを堪えながらやるのは少し違うと思うのです。ここはグリードの手を借りましょう。少しでも痛みなく食事をし、お薬を飲んで、病院の時間までベッドで安静にすることを私は推奨します」

「……わかりました」

 

ラストさんの気遣い満載の提案に、私は頷かざるを得なかった。

グリードは私の完全栄養食を手にすると簡易キッチンに立ち、袋の上からブロック状になっている栄養食を手で潰し始めた。

戸棚から深皿を取り出し、潰した栄養食をそれに移して手提げ袋から牛乳──調整されたものじゃない高級品だ──を取り出して様子を見ながら注ぐ。

かき混ぜて絶妙にとろみがついた状態になったそれを、私のもとに持ってきてくれた。

 

「グリード、ありがとう」

 

ココア色のスープ状になったそれを私は食べようと、グリードからスプーンを受け取ろうとしたけど、グリードはスプーンを何故か私から遠ざけた。

そして皿からスープ状の栄養食をすくい上げると、私に差し出した。

 

「食べさせてやろう。口を開けてくれ」

「や! 自分で食べれるよ!」

 

するとグリードは再び眉間にシワを寄せた。

 

「腕と手が昨日以上に腫れているではないか。その状態でスプーンを持つのも大変だろう。だから私が食べさせてやろうという話なのだ」

 

すると、AIたちが一斉に呆れた表情になった。

本当に表情豊かだな。

 

「君、ラストの話聞いてた? 自分でできることは自分でやるべきだよ。カリヤさん、自分で食べる意思があるんだから、それ尊重してやんなよ」

「グリード、貴方、カリヤ様の好感度をあげようと、ここぞとばかりに甘やかそうとしていますね。ダメですよ。それはやりすぎです」

 

グリードは二機のAIを見つめていたが、再び私の方を向くと、スプーンの先を私の口元に向けた。

 

「さあ、口を開けてくれ。食事をとって痛み止めを飲めば少しは楽になるから」

 

……このロボ、シカトしやがった!

私は思わずジト目になってグリードを見た。

 

「グリード、AIたちの話、聞いてくれた?」

「もちろん聞いた。聞いた上で私は君の世話をしたいのだ。……ナナミは私の世話を受けるのは嫌か?」

 

だーかーら! あからさまに悲しい表情すんなよー。

演技とわかっていても罪悪感が半端ないんだよー。

私は辛抱強くグリードに訴える。

 

「違うよ。病院に付き添ってくれるのは正直ありがたいと思ってるよ。身体、思うように動かないし、痛いし。でも、ご飯は食べられる。本当に痛くて無理だったらグリードにお願いするから、まずは私にやらせてもらえない?」

 

するとグリードは私をしばし見つめ、そしてスプーンを私に渡した。

 

「わかった。でも痛かったら我慢せずに言ってくれ。すぐに手伝うから」

「うん! ありがとう!」

 

私は嬉々としてスプーンを受け取ると、スープ状になった栄養食を口に運んだ。

動きに違和感はあるけど、食べることに問題はない。

スープ状の栄養食もまあまあの味だ。

咀嚼しなくていいのはありがたい。

楽に食べられる。

私はAIたちに見守られながら無言で食事を取り、キレイに完食した。

ちょっと物足りないけど、腹八分目、これくらいで今はちょうどいいだろう。

 

「私の出番がなかった」

 

ポツリと言うグリードを無視し、私は昨日処方された薬を手にした。

夜間で休日でしかも緊急診療だったから高かったんだよなー、病院代と薬代。

値段を見た時は、痛みを忘れるくらいショックだったもんなー。

思わずため息をつく。

あ、お水。

と思ったら、グリードが手提げ袋から飲料水のボトルを取り出して私に差し出した。

 

「カップが必要なら用意するが」

「ううん、だいじょぶ。ありがとう」

 

私は薬を無造作に口に放り込むと、お水と一緒に飲んだ。

これでしばらくすれば痛みはマシになるはずだ。

そしてグリードの手を借りてベッドに戻ると横になった。

 

「あのラストさん、スロウスさん」

「何?」

「何でしょう」

 

私は二機のAIを見つめながら言う。

 

「エリちゃんの容態はどうですか? それとシンヤさんはどうしてますか?」

 

すると二機のAIの表情が真面目なものになった。

まず口を開いたのはスロウスさんだった。

 

「さっきも少し触れたけど、ムーアさんの容態も一見は君と似たりよったりだよ。ただ違法薬物によるサイバネ化とメンタルの不調が彼女にはあるからね。君より症状は重く、診断の時間も長引くと予想する」

「キリュウ様ですが、今回の件の重要参考人として指定の場所で監視下に置かれています。今日は一日、ほぼ取り調べに費やすことになるでしょう」

「そうですか……」

 

そうだよな。

二人ともただじゃすまないよな。

私が深くため息をつくと、椅子をベッドの傍らに持ってきて座ったグリードが私を見つめた。

 

「ナナミ、今は彼らの心配をしている時ではない。君自身が街の法律に抵触する重傷を負っていることを忘れないでくれ」

「……うん。わかってるよ」

 

と、枕の横においてある端末が震えてメッセの着信を告げた。

手に取ろうとすると、私の目の前にメッセの画面が展開された。

え?!

 

「こういう時こそ文明の力を大いに利用すべきです」

 

どうやらラストさんが、私の端末を遠隔操作をしたらしい。

さすが街の最上位の存在、何でもありだな。

味方にすれば心強いけど、敵に回すととんでもない強敵になる。

や、ラストさんとケンカすること、今のところどころか将来もないけど。

ともかく、メッセはアイちゃんからだった。

 

「ナナちゃん、おはよう。

もう会社には連絡していると思うけど、私からも伝えておくね。

くれぐれも無理しないで、グリちゃんたちを頼って。

私も落ち着いたらお見舞いに行くから、それまでお大事に。

返信は不要だからね」

 

そして街で人気キャラのスタンプが送られてきた。

お大事に! と、メインキャラのイヌ、ネコ、ウサギが訴えている。

それを見たスロウスさんが、私を冷めた目で見下ろした。

 

「君の友だちは本当に常識人かつ良識派だよね。大切にしなよ」

「言われるまでもないですう」

 

私は唇を尖らせてスロウスさんに言い返した。

わかってるっつーの。

 

「それではカリヤ様、また後ほどお会いしましょう」

 

ラストさんはキレイに一礼をすると、跡形もなく消え去った。

 

「ボクも失礼するよ。ま、しばらくは街の言うことを聞いて大人しくしてなね」

 

微塵も心のこもっていない声で言って、スロウスさんを映していた画面もプツンと消えた。

心なしか部屋が幾分か広くなったように感じた。

 

「さて」

 

傍らに座るグリードが、優しく私の手の手に触れた。

 

「病院に行くまで時間はまだある。少し仮眠を取るといい。心配はいらない。時間になったら必ず起こす」

 

空中に時計を表示させると、まだ七時半前だった。

病院へ行く準備を含めて、あと三十分以上はあるのか。

 

「わかった。じゃあ八時に起こして。準備の時間が欲しいから」

「了解した」

 

グリードは微笑み頷いた。

私は目を閉じると、昨日のことに思いを馳せた。

 

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