多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十六話 看病してもらった 2

エリちゃんとのケンカのあとどうなったのか。

エリちゃんとシンヤさんは抱き合って泣いていたが、空いていたドアから医療用ロボットと人の救命士が現れた。

スロウスさんとグリードが呼び寄せたのだろう。

状態の酷いエリちゃんを街の病院へと手配する手続きが行われた。

応急処置をし、担架に乗せられてエリちゃんは運ばれていく。

その後を、シンヤさんとアイちゃん、スロウスさんが付いていくことになった。

嵐のようにメチャクチャになった部屋に残されたのは、私とグリードだけになった。

私は流れてくる鼻血を拭いながら、辛うじて座れそうな折りたたみ椅子にドッカリと座った。

あああああああ!

メッチャ疲れたし、何より全身が痛え!!

グッタリする私を横に、グリードが素早く部屋から出ていった。

と、思ったらすぐに戻ってきた。

アームには私のバックを抱えている。

 

「応急処置をしよう」

 

言って、グリードは持ってきた応急薬で私の処置をしてくれた。

 

「歩けないようなら改めて救急隊を呼ぶが」

「大丈夫。歩けるよ。行きに来たトラックで帰る。そんで病院に行く」

「わかった」

 

こうして一通りの応急処置をすると、グリードは置き去りになっていたエリちゃんのアウタースーツの入ったケースの元に向かった。

私も手伝ってグリードの背中についている格納庫へとしまう。

大切な大切な、シンヤさんとエリちゃんで作り上げた最高の小型強化外骨格(パワードスーツ)の一つ。

これも街へ持って帰るのだ。

私は荒れ果てた部屋を見渡し、口を開いた。

 

「この部屋、どうなるんだろうね」

「闘技大会を開いている組織が何とかするだろう。賠償請求は、恐らくされない。張本人たちは街に戻ってしまった上に、組織自体も叩けばいくらでも埃が出てくるのは確実だ。部屋一つ程度の損害で、街に手を出すようなことはしないと予測する」

「そっか」

 

街の中なら、エリちゃんと私で弁償になるところだろうが、ここは治外法権の地。

そして、そもそもこの闘技場と大会自体が違法なのだ。

それを大いに利用させてもらおう。

再び椅子に座ってしばし休んでいると、どうにか鼻血が止まったので帰ることにした。

野次馬が集まり始めている控室の廊下を抜け出し、駐車場に停めてあるトラックまで歩く。

身体が鉛のように重かったけど、でも頑張って歩いた。

家につくまでが、私の戦いなのだ。

 

「ナナミ、あともう少しだ」

「うん! 大丈夫だよ、グリード」

 

私はあえて笑顔で元気よく返事した。

トラックに乗り込むと、グリードの遠隔運転で迅速に街の外から脱出した。

地下通路に入ってしばらく進むと、例の大隔壁が開きっぱなしだった。

エリちゃんを搬送したあと、恐らく私達のためにスロウスさんが開けっ放しにしておいたのだろう。

人の気配が全くないことを確認し、グリードが主導となって隔壁を閉めた。

私はぐったりしながらその作業を見つめる。

これでよほどのことがない限り、この場所に来ることはもうない。

隔壁が完全に閉まったのを確認して、再びトラックは無人の地下通路を進んだ。

 

「ナナミ」

 

自動運転(オートモード)に切り替えたグリードが背後から声をかける。

 

「何?」

「今日はお疲れ様だった。そして本当にすまなかった」

 

明らかに沈んだ声で言うグリードに、私は体ごと荷台にいるグリードに向ける。

 

「何で謝るの? グリード、何も悪いことしてないじゃん?」

「話し合いで解決できず、君に怪我をさせてしまった。君が街からペナルティを受けることは間違いない。……私は君を守れなかった」

「そんなことないよ!」

 

私は後ろの窓から身を乗り出してグリードの鋼鉄の手を取った。

全身、メッチャ痛かったけど、でもちゃんと気持ちを伝えたい気持ちが勝った。

 

「この程度の怪我で済んだの、グリードのおかげだよ。だって、プロテクター無くした私を守ってくれたじゃん。あの時守ってくれなかったら両腕、粉々になって、もっと酷い罰を受けることになってた」

 

そして痛みに耐えてニッコリと笑う。

 

「本当にありがとうね。守ってくれたときの姿、カッコ良かったよ。頼もしかった。嬉しかったよ」

「ナナミ」

 

グリードはそっと私の手を握った。

 

「私が君の代わりにエリザベートの怒りを受け止めることができれば良かったのに。君の痛みを肩代わりできれば良かったのに」

 

グリードの複眼の目の光は、声同様に悲しげに見えた。

 

「だが、心のないロボット()では、真に彼女の心を受け止めることはできなかったろう。彼女のわだかまりを吐き出させることはできなかったろう。そのことが酷くもどかしい」

 

私は自宅でラストさんと会った時のことを思い出していた。

ラストさんも悲しそうだった。

胸が痛くなるほどの表現力と演技力だった。

グリードと同じような考えをもっていたのだろうか。

私は微笑んだ。

 

「これは私の役割だったんだよ。誰にも譲るつもりはなかった。だから街からの罰は覚悟完了済みなんだ。大丈夫。素直に街の指示に従うよ」

「そうか……」

 

グリードはそっと私から手を離した。

 

「私はスロウスと共に、できる限り君の弁護をするつもりだ。スロウスも触れていたが今回の件、街の手落ちから始まったことだからな」

「うん。ありがとう」

 

話している間に地下通路を抜けて、シャマイム社の敷地に戻ってきた。

途端、警告音とともに私の目の前に真っ赤な警告文書が現れた。

私の怪我を街が早速察知し、病院へ行くよう命令する文書だった。

私は思わず笑った。

 

「ハハッ、ホント、仕事早いなー」

「笑いごとではない。急いで病院へいこう。受け入れ先は街が指示してくれる」

 

そのままトラックで街が指示する病院へ向かった。

病院で検査と応急処置が施され、ひとまず家に戻ることになった。

明日改めて精密検査をし、その結果次第で罪状が確定するとのことだった。

病院からの帰り道、スロウスさんからエリちゃんたちの情報が共有された。

エリちゃん、意識はしっかりしているそうだが、ケンカでのケガと違法薬物の影響を考慮し、即入院になったそうだ。

シンヤさんは重要参考人として警備部に身柄を保護され、アイちゃんはスロウスさんが自宅へ送り届けたとのことだった。

自宅の前についた時、グリードは再び私の手を優しく取った。

 

「明日の通院も私が付き添う。安心してくれ」

「うん、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうね」

「それくらいの甲斐性はあるつもりだ。いくらでも頼ってくれ」

 

こうして激動の一日は、心と体に痛みを残して幕を下ろしたのだった。

……本当に激動の一日だった。

そのツケが今朝のこれだ。

あーあ、私、どうなっちゃうのかな。

とりあえず、この身体の痛みを何とかしたい。

身体が弱ると、心も弱くなる。

逆もまた然り。

だから、手っ取り早く体を元の状態に戻したい。

とりあえず、痛み止めが早く効いてくれるといいな。

私は取り留めもなくいろんなことを思いながら、トロトロと眠りに落ちようとしていた時だった。

 

「ナナミ、八時だ」

 

落ち着いた、しかしハッキリしたグリードの声に私はまぶたを押し上げた。

無表情で私を覗き込むイケオジが目の前にいた。

 

「君の脳波の状態からどうやら眠りに落ちようとしていたようだが、すまない、約束の時間だ」

「だいじょぶ。起きるよ」

 

外に出るんだから身だしなみを整えないと。

ゆっくりと起き上がったが、気のせいか、さっきよりは痛みが引いたように思えた。

薬、効いてるのかな。

効き、超早いじゃん。

でも身体は熱く、ギクシャク感は否めない。

スロウスさんに言われたとおり、頭使って行動しないとね。

私は頭の中でやるべきことと、その導線を考える。

洗顔して歯磨きして、化粧は眉描くくらいでいいか。

でもって着替え。

脱ぎ着しやすい服をチョイスしないと。

私がベッドから立ち上がろうとして、グリードがそれを止めた

 

「顔洗って歯磨きしたいんだけど」

「その顔でいつもの洗顔は負荷が大きい。濡れタオルと歯磨きセットを用意した。使ってくれ」

 

グリードは言うと視線をテーブルへと向けた。

そこには、ホカホカの濡れタオルと歯磨きセット、洗面器が用意してあった。

間違いなくありがたいけど、ちょっと複雑な気持ち。

せっかく考えたのにー。

ともかく、洗顔と歯磨きを滞りなく終了。

さあ、眉を描いたら厄介な着替えだ。

今度こそ立とうとしたら、またしてもグリードに止められた。

 

「グリード?」

「君の自立心と自尊心を削ぐつもりはない。だが今は非常時。ラストも触れていたが、こういう時こそ文明の力を利用すべきだ」

 

グリードは再びテーブルに向くと、四角い機械を手にした。

あ! あの機械は──。

とか思っている間に、機械からパシリとフラッシュが瞬いた。

次の瞬間にはホログラムで着替えは完了していた。

一見、私がいつも来ているストリート系のオーバーサイズの服だ。

でもホロをとけば、ノーブラ、ヨレヨレTシャツに短パンのみすぼらしい恰好なんだけど。

てか、さすがにノーブラで外に出るのはどうなの。

せめてシャツの下にブラトップを着たい。

そうグリードに伝えたけど、グリードは頑なに首を縦に振らなかった。

 

「このホロ装置を作ったのはラストの経営するサージュテックグループの一つゼクウだ。ゼクウ社は、前時代からこの星で絶大な信頼を得ている光学迷彩専門の会社。市販のホロ透過装置では、このホロは破れない。安心してくれ」

「うん。ラストさんの会社だから信頼してるよ。ただそれでもノーブラで外に出るのは心許なくて……」

「痛いよりはいいだろう。我慢してくれ」

「ぬうううううう」

「それと顔も確認してはどうだ?」

 

言われて端末をグリードから受け取り、自撮りモードで確認すると、おお! いつもの私の顔だ!

眉もしっかり描かれていて、リップも塗られている。

すごいぞ! 光のサージュテック! そしてゼクウ!

そして、そんなお高いであろうホロ装置を持つ、グリードの財力よ!

……ケガ治して、頑張ろうな、私。

そうしている間にも時間は過ぎていき、病院へと行く時間になった。

ノーブラの件はもう仕方ない。

端末を手にし、私は今度こそ立ち上がる。

痛みはだいぶ引いていたけど、やっぱり身体は思うように動かない。

ギクシャクする私を見かねたのか、グリードが私の横に立った。

 

「あ、グリード、ごめん。ちょっと手伝ってえええええええ!?」

 

私は思わず声を上げた。

下半身が宙に浮いたと思ったら、グリードに抱きかかえられていた。

お姫様抱っこというやつだ。

間近かつ密着状態になって、私は思いっきり動揺した。

 

「グ、グリード?!」

「君の要請に応えた。さあ行こう」

 

グリードは私を抱え、スタスタと玄関へ向かって歩き出す。

私は動揺からパニック状態になった。

 

「ままままま待って! 待って! 待って! 歩ける! 歩けるから! まずは止まろ? そんで降ろしてくれるかな?」

「その要請は全て却下する」

「何でさ?!」

 

グリードは玄関の前で立ち止まり、私をジッと見つめた。

黙っていれば、本当に上品かつ威厳のある紳士なイケオジだ。

オジ属性がなくても、見惚れること間違い無しの美貌である。

私は恥ずかしくなって思わず視線をそらした。

 

「先程も言ったが君の自立心と自尊心は尊重したいが今は非常時。今は私の手を借り、できる限り負担を少なく行動することを強く推奨する」

 

言って、グリードはグイと私を片腕で抱え直した。

片腕抱っことは力あるなー。

さすがアンドロイド。

それとも何かコツとかあるのかな?

じゃなくて!

 

「とりあえず降ろしてくれる? 靴も履きたいし」

「靴を渡すので履いてほしい」

 

グリードは更に私の身体を密着させると、片膝をついて私の靴を取り上げた。

そして立ち上がり靴を私に手渡す。

 

「どうぞ」

「この体勢で履けってか」

「そうだが、何か問題があるのか? ……そうか、私が履かしてやれば──」

「自分でやるよ!」

 

片腕で抱っこされながら、私は靴を履いた。

そしてグリードはドアを開けると、玄関を出てさっさと歩き始める。

ドアはオートロックなので問題はないんだけど、私はどうなるんだ?!

 

「グリードさん、どこまでこの体勢で行くの?!」

「車できたから駐車場までだ」

 

えー、ちょっと距離あんじゃん。

私はキョロキョロとあたりを見渡す。

これ、恥ずかしいから人目にはつきたくない。

やっぱり降りたいよー。

落ち着かずもだもだしていると、グリードがひょいと私を抱え直した。

 

「ナナミ、頼むからおとなしくしていてくれ。そうすれば早く着くから」

「なら迅速にお願いします」

 

私は切実な声で訴える。

 

「このカッコ、恥ずかしいから人に見られたくないよ」

「どこが恥ずかしいのか私には理解不能だが、他ならぬ君の頼みだ。了解した」

 

グリードは小走りで駐車場へと向かう。

その間、私の体勢は安定していて揺れることもなかった。

アンドロイド、やっぱ力あんのな。

で、駐車場に到着。

本日のお車はアビームモーターズのヒルシュの最新型だ。

同社のティガーが流線型のかっこいいデザインなのに対し、ヒルシュは全体的に四角い形をしている。

ネットの情報によれば、前面の視界を大きく取ることで視覚やAIからの情報が見えやすく、女性でも運転がしやすいとのこと。

私は今の立場を忘れて、思いが口をついて出た。

 

「運転したいなー」

「元気になったらレンタルして乗ればいい。今は病院へ行くことが先決だ」

「はーい」

 

自動で助手席のドアが開き、丁寧に乗せられるとグリードは素早く運転席へと移動し、いざ病院へ出発したのだった。

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