多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十六話 看病してもらった 8

夢を見た。

ゴツゴツモコモコの宇宙服? を着てコクピットに座っている私。

周囲は真っ暗だ。

てか、足元も真っ暗だ。

三百六十度、真っ暗闇だった。

……なんだここ?!

私どこにいるの?!

パニックになりかけた時だった。

 

「カリヤさん、グリード、聞こえているか」

 

落ち着いた男性の声。

聞いたことないのに、夢の私は自然と口を開いた。

 

「問題ありません。感度良好です、船長(コマンダー)

「こちらグリード。問題なく聞こえている。本部はどうだ?」

「問題ない。よく聞こえている。早速ミッションの準備を始めよう」

「はい。グリード、準備開始」

「了解。神経電気信号接続(リンケージ)開始」

 

……ミッションイズ何?

なのに夢の私はテキパキと目の前のコンソールに手を付けていく。

……何、この計器類、見たことないんだけど。

 

「燃料温度の上昇を確認。バッテリー九十八パーセント。機内の油圧良し。LSS、問題なく稼働中。……リンケージの接続率九十パーセントを突破。ミッションの開始条件をクリア。ファースト・スター、準備完了」

「本部了解。……ではミッションをスタートする」

 

て、この機体ってファースト・スターなの?

私のシリウスじゃないの?

いや、AIにグリードが搭載されている時点で、ファースト・スターなのは間違いないんだけどさ。

 

「エンジン、問題なし」

「燃料、良し」

「電気系統、良し」

「姿勢制御、良し」

「LSS、問題なし」

 

……うはー! これ上がるう!

夢だけど、やっぱ発進の瞬間って上がるよねえ!

 

「ナナミ、行こう」

 

グリードに促され、私は力強く頷いた。

 

「了解。ファースト・スターから本部、ミッション開始」

 

私はレバーを動かし、フットペダルをゆっくりと踏んだ。

ブースターが作動し、無重力空間ということもあってファースト・スターはゆっくりと、しかし徐々にスピードを上げて前進した。

ん? 無重力空間?!

ここ、やっぱ宇宙なの?!

ならばファースト・スターなのも納得だ。

シリウスというか、シリウスを製造するノーザンライツ工業は、宇宙空間や深海のような極地に適応する機体を製造していないからだ。

 

「本部からファースト・スターへ、速度を時速一万二千キロまで上昇せよ」

「了解」

 

ここが宇宙なら楽勝じゃんね。

まずは私の体慣らし、機体の肩慣らしといったところだろう。

 

「機内の気圧の上昇を確認。エンジン、LSS、リンケージともに安定。ミッションは順調と判断」

 

事務的にグリードが報告をする。

よおし、じゃ、最初の目標を目指してゴーゴー!

私はフットペダルをさらに踏み込んだ。

 

「時速六千百二十キロに到達」

 

この時点で体にかかる負荷は全く問題ない。

今日この日のために頑張って鍛えてきたもんね。

……あ、そうなの?

リアルな私は、夢の私に未だついていけていない。

私は周囲をさっと見渡す。

周囲が暗いからどんだけスピードが出ているかわからない。

スピードメーターからの数字だけが頼りだ。

 

「時速一万二千キロに到達」

 

おし、最初の目標に到達したぞ。

余裕だね!

 

「本部からファースト・スターへ。時速二万四千キロまで到達せよ」

「了解」

 

顔を引き締める夢の私。

時速二万四千キロって、確か第一宇宙速度くらいだっけ?

……ふーん?

現実の私は、夢の状況に首を傾げる。

ロケットでも飛行機でもない、人型パワードスーツがその速度を出す必要ってどこにあんの?

……うん……うん、夢だ。

間違いなくこれは夢だな! うん!!

 

「極々超音速に到達」

 

人型の有人パワードスーツによる極々超音速での飛行は現状、八剱(ヤツルギ)重工社製のファースト・スターと、ラインアトラス社製のアルビオン、アムステラ重工社製のエシュ・エレグバの三機しか確認されていない。

つまり、グレートスリーに挙げられてる機体だ。

今回のミッションはファースト・スターで第一宇宙速度までいくこと。

この速度を出せる人型で有人のパワードスーツは、この太陽系には恐らく存在しない。

つまりこのミッションをクリアできれば、ライバル社と大きな性能の差を見せつけることができることもあり、かなり力を入れているのだ。

……へー、そうなんだねー。

さすがは夢。

ありえないシチュエーションだ。

私は、夢の私の知識を他人事のように受け止めてて、はたと気付く。

八剱重工?

八剱重工は、八剱グループの主要企業の一つで確か今は凍結されているはず。

だから今は一鍔重機さんじゃないの?

そうしている間にもスピードメーターの数字がドンドン上がっていく。

 

「時速二万二千キロに到達。機内の気圧、さらに上昇を確認。エンジン、LSS、リンケージともに依然として安定」

 

グリードの報告に夢の私は気を引き締める。

スピードメーターの数字は着々と数字を増やしていた。

時速二万二千、二千五百……九百……二万三千。

宇宙空間は真空で気体分子が少ない。

だから地上で大きな課題になる、気圧とか気流とかはほぼ度外視できる。

でもパワードスーツの機体内はそうはいかない。

宇宙服がモコモコになのも、その気圧に対応するためなんだけど、操作しづらくなるのが難点だ。

圧力も半端ないしな!

……苦しい。

でも、私は死ぬほど頑張って努力してここまできたんだ。

お金と資源をかけまくったデザインチャイルドやサイバネティクスな人たちを蹴散らして、今この席にいる一般人(オリジナル)

ましてや過酷な宇宙空間において、身体の作りは適していないと言われる女だ。

ここで音を上げたら、宇宙や深海に進出したいオリジナルと女性の未来が潰える。

負けられない。

絶対にミッションを成功させてやる!

私はレバーを傾け機体に大きく弧を描くような軌道をとった。

遠心力を利用してさらに加速を試みるのだ。

時速二万三千六百……七百……八百。

……くそっ! 数字が動かなくなった。

 

「頑張れ相棒! 私はまだいけるぞ!」

 

身体を押しつぶしそうな圧力の中で、私はファースト・スターを叱咤した。

それに応えるファースト・スターのエンジンにも機体にも、まだ余裕があると、戦えると、機内から聞こえる音や振動からうかがえた。

となると!

 

「グリード! 私に遠慮すんな! もっとスピード出せ!」

「ナナミ」

「さもなきゃリンケージ、全カットするぞ! いいのか?! 私は全っ然構わないけどな!! マニュアル最高っ!!」

 

夢の私、てっきりリンケージを受け入れているのかと思いきや、やっぱりマニュアル大好き人間だった。

うむ! それでこそ私だ!

 

「……君なら本気でやりかねないと判断。了解した。人体の保護より君の望みを叶えることを優先する」

 

グリードが言った途端、ファースト・スターは明らかに加速し、更に機内の圧力が上がった。

酸素は供給され続けているのに、息苦しさがグンと増す。

そしてついに来た! 時速二万三千九百!

頑張れ私!

頑張れファースト・スターとグリード!

あともう少しで目標に手が届く。

そして、スピードメーターが時速二万四千キロを示した瞬間、大きな音が世界に鳴り響いた。

それは聞き慣れた音。

朝六時のアラームだ。

そう認識したと同時に世界が歪み、暗転する。

そして再び世界が眩しい光に満ちた。

見慣れた天井と照明。

小さくとも心安らぐ私の居場所の一部だ。

そこに、ひょいと影が現れた。

 

「おはよう、ナナミ。現在の時刻は午前六時を回ったところだ」

 

もう何か当たり前のように添い寝しているグリードが、私の顔をまじまじと見つめていた。

イケおじにガン見されて、私は気恥ずかしくてそっぽをむこうとするが、その前にグリードの口が開いた。

 

「どうやらまた夢を見ていたようだが覚えているか?」

「……うん、覚えているよ」

 

私が宇宙空間でファースト・スターに乗って技術の実証実験をしている夢だ。

私は照れ隠しも兼ねて、寝ぼけ眼をこすりながらたずね返すことにした。

 

「それがどうしたの? 私また、寝言言ってた?」

「言っていた」

 

頷くグリード。

うん、普通に恥ずかしすぎるんだが?

 

「もっとスピード出せと。それとマニュアル最高とも言っていた」

「ああ、それはね──」

 

私は覚えている範囲で先程まで見ていた夢をグリードに話した。

グリードは無表情に聞いていたが、私とリンケージをしたという話に表情が動いた。

錯覚だ。

間違いなく錯覚なんだけど、グリードの無機質なカメラアイがキラキラして、まとう雰囲気と表情が喜色に満ちた。

 

「私と、ナナミが、リンケージを……」

「うん。夢だけどね」

 

体を起こし、噛みしめるように言うグリードに、私も体を起こしながら苦笑して言った。

しかしグリードは何というか、とても感動した様子だった。

 

「私とナナミが、ファースト・スターに乗ってリンケージをした」

「グリードさん、夢の話だよ」

「わかっている。私とナナミがリンケージをした。夢なのに夢のようだ」

「うん。夢だから」

 

イケオジアンドロイドが雰囲気をキラキラさせながら言うのを、私は丁寧に突っ込む。

こんな表情、表現もできるんだ。

いや、できるようになったんだなあ。

私はそっちの方に感心をした。

と、そのキラキラした雰囲気が消えて、グリードはすんとした表情で私を見つめる。

 

「しかし、その状況及び実験は流石に荒唐無稽だと言わざるを得ない。有人の、人型パワードスーツが出す必要のない速度だ」

「それは私も思ったよ」

 

いきなり現実に戻ってきたグリードに、私は頷く。

 

「仮にありえるとすれば、可変型のスーパー・ノヴァが候補になると予測するが」

「ああ、スーパー・ノヴァ、飛行機型になれたもんね」

 

前に街の外でひと悶着があった時に、グリードがスーパー・ノヴァで助けに来てくれたことを思い出した。

 

「現状のスーパー・ノヴァは宇宙空間での活動を想定した造りになっていないし、今後もその予定はない」

「そうなんだね」

「宇宙空間での活動は、大型のパワードスーツより、宇宙服型の小型パワードスーツか、人やAIによる遠隔操作での小型ロボットが一般的だ。実際、アタラクシアの修復や保全にはその方法が取られている」

「へー、知らなかったよ」

 

この星の低軌道上にある空中電脳都市アタラクシア。

天気とタイミングが良ければ街の外から見えるらしいけど、私は一度たりともお目にかかったことはない。

周囲の人からも見たという話は聞いたことはない。

縁遠い街だなーと思う。

 

「大型パワードスーツは、前時代から月や火星の探索や開拓、土木や建設作業に用いられることが主だった。ただ、企業間での諍いが起こった際に軍事運用されることが多かったのも事実だ」

 

私は思わず顔をしかめた。

 

「あのさー、宇宙行くのも留まるのもとんでもないコストがかかるんでしょ? 宇宙に行ってまで戦争すんなよって思うんだけど」

「利権と安全保障が絡むからな。話し合いで済むなら、そもそも戦争は起こらない。私達AIも結局は人の道具だ。前時代はそれが顕著で、企業の利益を優先するよう調整されていた」

「で、結局大戦争になって今の状態でしょ。スロウスさんが呆れて悲観的になる気持ち、ちょっとわかるような気がするよ」

 

ため息をつきながら言う私に、グリードはロボらしく冷静に答えた。

 

「私達に使命を与えた人物もそう思ったのだろう。だからAIの主導で人類の保護と再建が進められているのだ」

「あーあ、朝から凹むなー」

 

肩を落とすと、グリードは落とした肩にそっと手を置いた。

 

「朝一番にする話題ではなかったな。起きよう。私は朝食の準備をする」

「うん」

 

私が頷くと、グリードは静かにかつ素早くベッドから離れるとキッチンへと向かった。

私はふと思い出し、口を開いた。

 

「ねえ、グリード」

「何だ」

 

律儀に体ごと向き直るグリードに私は問いかけた。

 

「グリードたちに使命を与えた人物って、確かここ最近では一番のAIの研究者だった人だよね。名前、……アラヴェルドフさん、だっけ?」

 

子供の頃の睡眠学習の記憶を掘り起こして言うと、グリードは頷いた。

 

「キリル・ミハイロヴィチ・アラヴェルドフ。戦前から戦後のAI研究の第一人者であり、数学者、哲学者、心理学者、認知科学者としても名を馳せた、戦後の知の巨人と呼ばれている」

 

そしてグリードは小首を傾げた。

 

「彼の弟子だったドクことバルマ博士曰く、スロウス以上のひねくれ者かつ悲観主義者だったらしい」

「……スロウスさん以上かー」

 

それだけ聞いて、うへぇな気持ちになった。

つまりそれって、相当な癖強の難物ってことでしょ。

関わりたくないなー。

いや、もう亡くなった人だから関わることは絶対にないんだけど。

グリードは真顔で私を見た。

 

「彼のことをもっと知りたいなら、ラストに聞くといいだろう」

「ラストさん? 何で?」

「彼の晩年の世話をしていたのはラストだからだ」

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