多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十六話 看病してもらった 11

「よお! ナナちゃん! なかなかヤンチャな顔になっているな。これはもしかして俺の会社へのスカウトを引き受けてくれる気になったっていう意思表示とみなしていいか!?」

 

ドアを開けて私の姿を見たユーゴさんの開口一番がこれだった。

相変わらずブレない上にめげない人だ。

私は引きつった笑み浮かべた。

 

「なってませんよ。争いごとはもう懲り懲りだとこの三日間で痛感してるところです」

「ゴメンね、ナナちゃん。これでもユーゴ、気を遣っているんだよ」

 

呆れた表情でユーゴさんを見つつ、アイちゃんは申し訳なさそうに言った。

 

「こんばんは。二人とも今日も仕事、お疲れ様だ。ナナミのために来てくれてありがとう」

 

私の背後に立ったアンドロイド姿のグリードに、二人ともそれぞれ異なった驚きの表情を浮かべた。

 

「うお! アイラから写真見せてもらってたけど、こりゃまた随分なイケオジじゃねーか」

「グリちゃん……!」

 

私は背後のグリードを見ると、威厳と穏やかさがあわさった完璧な笑顔で二人を見ていた。

私の時にはあまり見せない、よそ行きの笑顔だ。

……何でしょね? この差。

それはともかくだ。

 

「改めてこんばんは。二人ともお仕事でお疲れなのに来てくれてありがとう。本当に狭いけどあがって」

 

私が笑顔で勧めると、二人とも狭い玄関を上がって部屋に入ってきた。

……何やらアイちゃんが挙動不審だ。

グリードをチラチラ見ながら端末を握りしめている。

ははーん、さてはグリードと写真を撮りたいと見た。

だから私はあえてジト目でアイちゃんを見ながら言った。

 

「アイちゃん、グリードと写真撮りたいんでしょ」

 

するとアイちゃんは比喩でもなくその場で小さくジャンプをした。

 

「へ? え? あれ? 何で気付かれたのかな?」

「いや。かなりわかりやすかったぞ」

 

呆れた調子で言うユーゴさん。

さすが彼女ちゃんのことをよく見ておりますな。

私はウンウンと頷き、イケオジグリードを見上げる。

 

「グリード、アイちゃんと写真撮ってくれないかな?」

「他ならぬ君の頼みだ。個人利用の範囲を超えないことを条件に承諾する」

「します! 約束守ります! だからお願いします!」

 

グリードが二つ返事でOKをするやいなや、アイちゃんが食い気味にお願いをしてきた。

そして早速写真撮影。

最初は普通に撮っていたけど、アイちゃんがお願いしてハートマークを作ったり仲良しアピールをするポーズを取ったりと、アイちゃんはとても盛り上がっていた。

私とユーゴさんは、それを生暖かい眼差しで見守っていた。

 

「ユーゴさん」

「何だ」

「彼氏さん的にあれはOKなんですか?」

「あのグリードはアイラにとってアイドルみたいなもんだ。アイドルに嫉妬してもしょうがねえだろ。アイラが幸せならそれOKだ」

 

言いながら私を見てニヤリと笑う。

 

「それに、俺も十年後にはグリード以上のイケオジになってるから問題ない」

 

私は思わず口をつぐんだ。

すごい自信だな。

でもユーゴさんにはイケオジになる素質が十分にある。

ネームドの傭兵として、富も名声も美貌も知識も経験も十分に備えた、グリード以上の素敵なイケオジになる可能性はあった。

私はそれを想像して笑顔になった。

冗談交じりに言う。

 

「その時は私と一緒に写真を撮ってくれますか」

「もちろん! 一緒に同じ看板背負ってパワードスーツを背に並んで立とうぜ」

「さりげなく傭兵になる未来を捏造しないでください」

「ちぇ。油断も隙もねえな」

 

それはこっちのセリフだってーの。

私達が話をしている間に写真撮影が終わり、アイちゃんは端末を両手で抱えながら大満足の表情を浮かべていた。

ベッドのある部屋にエンジンを組むように座る。

ベッドには私とアイちゃん。

床にクッションを置き、そこにグリードとユーゴさんが座る。

早速ユーゴさんが口火を切った。

 

「アイラから事情は聞いた。なんつーか、お疲れさんかつご愁傷さまだったな。サイバネと生身でケンカして、その程度の怪我で済んだのは僥倖というべきだろう」

 

そして真面目な表情で腕を組む。

 

「事件も刑事手続きを回避できる程度のもんだし、罰もまあ妥当なところだ。気落ちすんなよ。生命及び健康維持の法律違反は生きてりゃ必ず喰らうもんだ。それが人間ってもんだ」

 

ユーゴさん、どうやら私を慰め元気づけてくれているようだった。

グリードがそんなユーゴさんを見やる。

 

「やはり君の周囲の環境は法に違反する者が多いのか?」

「多いね。糖分過多、辛味過剰、規定以上の飲酒と喫煙。破るやつ多いよ。でもどんなキズモノでも、仕事ちゃんとしてくれりゃOKな業界なんだよ」

「君たちの業界は慢性的に人手不足だからな」

「憧れるやつは多いけど、実際にやると思ってたんと違うって言われる仕事ナンバーワンだよ」

 

ユーゴさんはやれやれといった調子でため息をついた。

すると私の横にいるアイちゃんが、心配げに私の顔を覗き込んだ。

 

「ナナちゃん、体の調子はどう? 明日出勤できそう?」

「出勤はできるけど、本調子じゃないからどうなるか不安かも。一番重傷だった腕はしばらくは保護が必要だし、この三日間で体も鈍ってるから一線に立つのは難しいかなーとか」

「そっかー」

 

アイちゃんの話では、私やグリードの予想通り、浄化地帯が広がったことで仕事は繁忙期を迎えているとのことだった。

私の復帰を会社のみんなが待ち望んでいることも知った。

要は人手不足なのだ。

 

「ロイさん、ナナちゃんのケンカのお話、聞きたがっていたよ」

「元傭兵だもんね。そういう話、好きそうだよね」

「ね」

 

私は若干引きつつ答える。

 

「あとさ、お顔どうするの? まだケンカしましたーって感じ残ってるけど、隠さずにいく感じ?」

「私の化粧技術じゃ絶対に隠せないからなー」

「なら、私のホロ装置を使えばいい」

 

横からグリードが話に入ってきた。

 

「グリードの持つホロ装置ってあのゼクウのやつ?」

「そうだ」

 

言うと、グリードは立ち上がって荷物から例のホロ装置を持ってきて私に見せた。

グリードの大きな手に収まる四角くて銀色のそっけないデザインだが、中身は光学迷彩の極みとも言える超高性能なホログラムを生成することができるのだ。

 

「さすが一鍔重機の重役。持ち物がいちいち一流ですなー」

「それほどでもない」

 

若干嫌味をまじえたユーゴさんの言い分に、グリードは全くの無表情で応じた。

グリードは私にそれを差し出す。

 

「顔の腫れが引くまでこれを貸そう。元のナナミの顔に戻ったら返してくれればいい」

 

……本当に、本当にグリードには何から何までお世話になりっぱなしだ。

申し訳なさで胸がいっぱいになる。

だから断ろうとしたんだけど、アイちゃんがすかさずそのホロ装置を手にした。

 

「ナナちゃん、これ使わせてもらお! グリちゃん、ありがたく借りるね! はい、ナナちゃんどうぞ!」

 

アイちゃんの有無を言わさぬ態度に私は押されて、ホロ装置を受け取ることになった。

アイちゃん、たまにこういう所がある。

 

「アイラ、土壇場での押しの強さは、無限軌道の足をした重量系パワードスーツ並みだからな」

 

小声でひっそりというユーゴさん。

いやはや、全くだよ。

私は口に出さずに同意し、仕方ないと言った体でアイちゃんとグリードを見た。

 

「じゃあ、ありがたくお借りするね。顔の腫れが引いたらすぐ返すから」

「君の気の済むまで使ってくれ」

 

私は端末の横にホロ装置を置き、アイちゃんから会社の詳しい状況をさらに聞き出した。

明日も新たな浄化地帯での作業がメインで、大型はもちろん、小型パワードスーツの資源調達員も派遣するとのことだった。

現場はお祭り騒ぎで、結構同業他社でのやり合いも起こっているらしい。

これはよくあることである。

 

「ナナミの怪我の状態を見るに、小型での発掘作業は負荷がまだ大きいだろう。大型を操縦しての仕事を任されると予想する」

 

グリードの予想に、アイちゃんは深く頷いた。

 

「そうだね。本当なら小型でのお仕事を任せたいだろうけど」

「小型は大型よりもより繊細な仕事が多いからな。ナナちゃんの能力を知る会社としては小型に回したい気持ちはよく分かる。でもこれだからなー」

 

ユーゴさんはもちろん、アイちゃんの視線が私の全身をくまなく見渡した。

その表情はさすがに厳しいものだった。

私はいたたまれなくなり、小さく縮こまって口を開く。

 

「明日、社長さんやロイさんと相談するよ。そのうえで上の判断に従うことにする」

 

とりあえず、私の明日の立場が何となくわかってホッとした。

話が一段落し、ユーゴさんがニッと笑う。

 

「んじゃ、明日の話はここまでにして、ナナちゃんには俺の見舞いの品を受け取ってもらおうかね」

 

明るく自信満々に宣言するユーゴさんに、私は腰に手を当ててユーゴさんを見やる。

 

「アイちゃんから聞きましたよ。期待値爆上げして待ってていいって」

「おう。絶対に喜ぶこと間違いなしだ。アイラからのお墨付きだしな」

 

そう言ってユーゴさんはカバンを膝の上に乗せると、無造作に右手を突っ込んで持ち上げた。

 

「それはこれだ!」

「おお!」

 

ユーゴさんのノリに乗って驚きの声を上げる私だが、すぐに素に戻って尋ねる。

 

「で、それは何です?」

「見たところ、記憶装置のようだが」

 

グリードの冷静な指摘に、ユーゴさんは自信満々の姿勢を崩さずに記憶装置を掲げる。

 

「ナナちゃんが喜ぶものはアイラから徹底的にリサーチした。結果、こいつが妥当だと判断した」

「それで中身は何なのだ?」

「それは見てのお楽しみだ。ナナちゃん、動画の再生装置はどこだ?」

「あ、えっと──」

「私に繋げばいい」

 

私を含めた全員がグリードを一斉に見た。

そのグリードと言えば、やっぱり無表情で私達の視線を受け止めていた。

 

「私はアンドロイドだ。記憶媒体の展開は問題なく行える。私に繋げれば良い」

「んじゃま、お願いするわ」

 

グリードは記憶媒体を受け取ると、ケーブルを首に繋いだ。

目を閉じしばらく沈黙するグリード。

恐らくウィルス等のリスクチェックをしているのだろう。

時間としては一分もかからずに目を開いたグリードは、記憶媒体の中身を空中へ展開する。

記憶媒体の中身は動画ファイルだった。

ファイル名は『ナナちゃんへの土産』となっている。

 

「一昨日発掘した前時代のもんだ。既に管理会社に確認して試験的に一般人に公開してもいいって許可はもらった」

「さすが抜け目がないな」

 

冷静なグリードの言葉に、ユーゴさんは再びニヤリと笑う。

 

「曲がりなりにもネームド傭兵だぞ。初歩的なヘマはしねーよ」

「あ! 動画鑑賞用にお土産もってきたんだよ。はい、ナナちゃん」

 

そうして差し出された袋を開けると人数分のポップコーンと炭酸飲料が入っていた。

 

「まるで映画鑑賞だ」

「うん! 気分が出ていいでしょ」

「……そうだな」

 

グリードはアンドロイドでAIだ。

気分なんてものはないし、ないものだから上がるも下がるもないけど、何気ないアイちゃんの発言を否定するようなことは言わなかった。

進歩してる!

今までのグリードなら、私はロボットだから気分などない、とかバカ正直に言っていただろう。

学習し確実に進歩しているのだ。

私はそれが嬉しくてニッコリと笑った。

ポップコーンと飲み物が各自に配られると、グリードは私達を見渡した。

 

「では動画を再生しよう」

 

私は期待に胸を膨らませながら空中に展開される動画に意識を集中した。

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