多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十六話 看病してもらった 12

動画の内容はアニメ映画だった。

タイトルは『フルベット・ギャラクシー』。

遠未来の宇宙を舞台に、各地の星系を巡りながら宇宙船でレースをするという内容だ。

宇宙船は持っているものの、その維持にも苦労する男主人公が一攫千金を狙うという野望を持ってレースに出場するという流れになっている。

で、そんな野望を持つ男がある日、不燃ゴミ捨て場でバッテリー切れを起こしていた女の子のアンドロイドを拾い、その女の子が恩返しにと航海士として働くことになる。

そんな前置きのあと、物語は本編に突入。

各星系のコースは多種多様であり、おまけに宇宙船同士でのバトルなど手に汗握る展開が満載で、アクション大好きな私は途端に魅了された。

メカ物の戦闘は、対人とはまた別に燃えるよね!

一攫千金の内容と謎が明かされ、レースはさらに熾烈に白熱したものになっていく。

いろんなことがあって主人公チームは残念ながら優勝を逃すが、一攫千金の鍵を手に入れていた。

裏表の組織やチームから彼らは狙われるが、主人公は自力で一攫千金を目指して再び宇宙へと旅立っていったのだった。

 

動画が終わり、私は満面の笑顔で拍手をした。

ユーゴさんはしてやったりの表情で私を見る。

 

「な? ナナちゃんの趣味あったアニメ映画だったろ?」

「はい! めっちゃ面白かったです!」

「そうだろそうだろ。俺も好きなんだよ、宇宙を舞台にした物語。だからこの映画が気に入ってな。ぜひ誰かと共有したくてアイラに話したら、ナナちゃんを紹介してくれたんだ」

「ナナちゃんの趣味は、知り尽くしているからねー」

 

アイちゃんは何故かグリードに向かって腕組をしてふんぞり返る。

それを見たグリードは整った笑顔を見せた。

 

「君がナナミの大切な友人であることは理解している。私もナナミの大切な友人となるべく、これからも努力していくつもりだ。そのためにも、君とも良き協力関係をこれからも築いていきたいと思っている」

「さすがはAI。良くも悪くも模範解答すぎる」

 

感心するユーゴさんの発言に、アイちゃんは珍しく口をへの字に曲げた。

 

「ささやかなマウンティングが通じないなんて、さすがはグリちゃんだね」

「……私はアイラにマウンティングをされていたのか」

「気づいてなかったの!?」

「そうか。あの一連の発言はマウンティングだったのだな。初めてかつ貴重な経験だ。ちゃんと学習しておこう」

「やめて! 学習しないで! 純粋なグリちゃんのままでいて!」

 

たまらずアイちゃんが叫び、私とユーゴさんは滅多にないアイちゃんの態度に笑ってしまった。

そしてグリードが準備してくれたデザート──キラキラのフルーツ山盛りのタルトだった!──を食べながら、みんなで感想会をした。

私達三人の意見は面白かった、の一択だった。

アニメにあまり興味ないアイちゃんも、主人公と女の子アンドロイドの交流に感動したと言っていたし、私とユーゴさんは宇宙船とロボアクションで盛り上がった。

そしてグリードは、現実に即した質の良いSFアクションだったと評した。

 

「現時点では宇宙に娯楽はないが、遠い未来、この地上の状況が落ち着いたら宇宙空間を舞台にした娯楽が発展する可能性はある。何より企業ではなく私的に宇宙船を持ち、自由に宇宙に出ていける状況は非常に素晴らしい未来だ」

「このどん詰まり気味の現状から目を逸らすには良い題材だろ?」

「否定しない」

 

ちょっぴり皮肉っぽく言うユーゴさんに、グリードは皮肉がそもそも通じていない様子で、しかしそれを否定しなかった。

 

「やっぱ今、自由に宇宙に出るのは難しいかー」

 

私が紅茶を飲みながら言うと、アイちゃんがタルトを食べる手を止めて私を見る。

 

「ロケット一台作るのも大変そうだもんね」

「あと燃料ね。無人ならともかく、有人は厳しそう」

「確かに、燃料は大きな問題だが、逆を言えば燃料の問題を克服できれば、人が再び宇宙へ上がることは可能だ」

 

するとユーゴさんがびっくりしたようにグリードを見た。

 

「そうなのか?!」

「ああ。八剱グループには凍結された有人ロケットが無傷で残されている。グループ企業である七鞘(ナナツサヤ)航空宇宙研究所は稼働しているから、八剱グループの凍結が解除され、燃料の問題を克服できれば、宇宙へ行くことは可能なのだ」

「へー、そうなんだね」

 

七鞘航空宇宙博物館という、アパティアでもマニアな博物館があることは知っていたけど、そっかー。

私は他人事のように聞いていたけど、ユーゴさんの目がギラリと輝いたことを見逃さなかった。

すると、アイちゃんが私に身を寄せて耳打ちをした。

 

「ユーゴ、宇宙に興味持ってるんだよ。だからこのアニメも大のお気に入りなの。七鞘航空宇宙博物館も何回も行ってるし」

「え、そうなの? 知らなかったよ」

「初公開の情報だもん」

「だよねー」

 

ユーゴさん、宇宙に興味があるのかー。

ロマンチストな一面もあるんだな。

 

「デートでプラネタリウムも行くけど、博物館のほうが圧倒的に多いかなー」

「アイちゃん、それで大丈夫なの?」

 

アイちゃんの趣味からして、どう考えてもプラネタリウムのほうが好きそうなんだけど。

すると、アイちゃんはニッコリと笑った。

 

「うん。ユーゴが子どもみたくはしゃいでいるのを見るとほっこりするんだよね」

「アイラ、お前はそういう目で俺を見ていたのか」

「うん!」

 

ユーゴさんの問いかけにアイちゃんがきっぱりと頷くと、ユーゴさんは顔も耳も真っ赤にしてうつむいた。

すっごく照れているのが目に見えてわかった。

そんなユーゴさんに、グリードは冷静な視線を向ける。

 

「今、七鞘航空宇宙博物館へ問い合わせたが、確かに君が年間パスを買うほど熱心に通っていることが確認された」

「確認すな!」

「何が恥ずかしいのか私には理解不能だが、これ以上触れたくなければ触れないでおこう」

「そうしてくれ」

 

ユーゴさんにとって宇宙とは、心の繊細な部分に通じることなのかな。

私はアイちゃんを見る。

アイちゃんは全てを知っているようで、温かい眼差しでユーゴさんを見つめていた。

そうして宇宙のお話は終わり、デザートも食べ終えたアイちゃんとユーゴさんは帰ることになった。

 

「それじゃナナちゃん、明日職場でね」

「うん! 早めに行ってみんなにお詫びする」

 

アイちゃんの横でユーゴさんが笑顔を浮かべた。

 

「変に恐縮する必要も無理する必要もねーからな。久しぶりにシリウスに乗れるんだろ? 周囲の目は気にせず楽しく仕事してくれ」

「はい! ありがとうございます」

「今夜はナナミのためにありがとう。君たちのことをまた少し知ることができて、私としても有意義な時間だった。これからもナナミ共々仲良くしてほしい」

 

私の背後からグリードが言うと、アイちゃんは満面の笑顔を浮かべた。

 

「もちろんだよー」

「……七鞘の人たちによろしく言っといてくれ」

「了解した」

 

こうしてアイちゃんたちは帰路につき、その姿が見えなくなるまで見送った私はドアを静かに閉めた。

グリードが率先して部屋の片付けをし、私は食器を食洗機に放り込んで、その間に洗面台で洗顔と歯磨きをした。

鏡に映る私の顔は、やっぱりケンカしてやったぜー的な痕がいまだに残っていたけど、一昨日に比べたらだいぶ腫れは引いていた。

さすが、遺伝子レベルで調剤された薬の効き目はテキメンですな。

これにグリードから借りたホロ装置があれば完璧に隠せる。

部屋に戻るとグリードがベッドメイクまでして、もう完全に寝るだけの状態になっていた。

 

「グリード、ありがとう」

「礼を言われるようなことはしていない。それよりもそろそろ就寝することを推奨する」

「明日から仕事だしね、寝坊しないようにしないと」

「私がいるから問題はない。必ず起こす」

 

こころなしか気迫を感じるグリードに、私はちょっぴり引きつつベッドに座った。

端末でSNSのチェックをし、端末を充電器に置くとベッドに横になった。

 

「私は今日のことを社に報告してから充電モードに入る。おやすみ、ナナミ。良い夢を」

「ありがとう。おやすみなさい」

 

部屋の照明が落ちて、私は目を閉じた。

今日のアニメ、楽しかったな。

個人が自由に宇宙へ行く時代かあ。

前時代はそれに近いことを実現しようとしていたけど、結局八十年前の企業間の大戦争によってその未来は大きく後退したのだ。

個人どころか、どんな超大企業(スーパーメジャー)でも叶わない宇宙への進出という人類の夢。

しかもこのドーム都市の中にいなければ、まともに生きていくことも難しい星へと変わってしまった。

……悲しいなぁ。

人はどうしても戦いという選択肢を捨てることができないことが、たまらなく悲しかった。

しかし次第に眠気の波が押し寄せ、私は感情を手放しそれに身を任せた。

 

ふと、目が覚めた。

 

「ナナミ、起こしてしまったか。すまない。起こすつもりなかったのだが」

 

私の傍らに、添い寝をしようとするグリードがいた。

今夜もこれですか。

まあ、これも今日で最後だ。

私は口を開いた。

 

「入るなら入って。眠い」

「わかった」

 

グリードは静かに、しかし迅速に私の布団に入ってきた。

 

「改めておやすみ、ナナミ」

「おやすみ」

 

私は速やかに眠気にその身を委ねた。

こうして謹慎最終日の夜は更けていったのだった。

そして、翌朝。

宣言通り、朝の六時きっかりにグリードは起こしてくれて、私はグリードが用意してくれた朝ご飯を食べる。

完全栄養食、キナコミルク味と温められた牛乳。

炒った大豆とゴマ、アーモンドを練り込んだという完全栄養食の中でも挑戦作なのだが、私はチョコレート味の次に気に入っている。

実はコーヒーや牛乳ともよく合うのだ。

うん、普通に美味いね!

私が食事をしている横で、グリードがネットの情報番組を空中へ展開した。

特に心に残るニュースはなく、あっという間に食事終了。

薬を飲み、体にも薬を塗り貼りし終えて身支度を開始した。

洗顔と歯磨きをし、グリードの手を借りてホロで顔の傷を隠す。

服はできるだけ着脱のしやすいものを選び、グリードの手を借りずに着替えた。

荷物をまとめ終えて出勤の準備が整ったのは七時半、後三十分はのんびりできる。

 

「グリード」

「何だ」

「ここに座ってください」

「わかった」

 

グリードは私が指し示した向かいの席に腰を下ろした。

 

「謹慎中の三日間、お世話をしてくれて本当にありがとうございました」

 

私は深々と頭を下げた。

 

「ナナミ、頭を上げてくれ。私は使命に基づいて行動したに過ぎない。礼を言われるようなことはなにもしていない」

 

その言葉に頭を上げると、グリードは穏やかなほほ笑みを浮かべて私を見つめていた。

 

「この三日間、本当に色々とあった。私の経験と学習が大きく捗り、非常に有意義な時間だったと言える。もちろん、このような事態は二度と起きないに越したことはない。それ故に貴重な時間だった。また困ったことがあったら頼って欲しい」

「うん。その時は声かけるね」

 

この三日間がグリードの成長に繋がれば良い。

そして使命を全うしてほしい。

そのために、私がグリードにしてあげられることなんて本当に数少ないのだから。

 

「会社の人へお詫びの挨拶や手続きで時間を取られるだろう。少し早いが、家を出ることを推奨する」

「そうだね。わかったよ」

 

私達は立ち上がり、グリードは配送用ドローンを呼び出して荷物を送っていた。

それを見届け、私は身なりの最終チェックをし、荷物を持って玄関から外に出た。

うはー、三日ぶりの外だー!

 

「謹慎明け、おめでとう」

 

グリードはそう言って玄関から出てきて、一人と一機で社宅を出た時だった。

 

「ナナミ」

 

グリードの声がした。

あれ? グリードは私の横にいるのに、向こうの方からグリードの声がしたぞ。

視線を向けると、奇抜なデザインをした多脚ロボットが私の元へやって来るところだった。

 

「あ! 四脚のグリードだ!」

「君が好きだと言っていた姿だ。だからいち早く見せたかった」

「そうだったんだね」

 

四脚のグリードが私のもとに着いた。

そして何かもう当たり前のように、二機のロボットが私の手を取った。

 

「職場まで送ろう」

「君の会社の社長へご挨拶をしておきたいからな」

 

それぞれのグリードが言い、私は口をあんぐりと開けた。

 

「二機ともついてくるの?」

「そうだが?」

「なにか問題があるのか?」

「……ない、と思う。多分」

 

すると二機のロボたちは揃って雰囲気を明るくした。

 

「では行こう」

「安心してくれ。ちゃんと無事に会社まで送り届ける」

「……うん、ありがとね」

 

何だよ、この状況。

こうして私は二機のロボを引き連れて出勤するという、滅多にない経験をするのだった。

 

<完>

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