多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十七話 ごっこ遊びをした 1

職場復帰して一ヶ月。

資源調達員の仕事は順調だった。

新たに浄化された地域での発掘作業はやり甲斐もあり、レアメタルや貴重な戦前のデータもたくさん手にすることができた。

もちろんその成果は給与にも反映される。

給料日がとても楽しみだ。

副業も無事に復帰させてもらい、こちらも以前以上に気合を入れて働いた。

様々な種類の強化外骨格(パワードスーツ)や乗り物に触れられ、お客様とのやり取りは大変な時もあるけど基本は楽しい。

順調だ。

 

そして軽度な運動ならOKと医師から承諾を得て、二週間前の朝からグリードと一緒にトレーニングを始めることにした。

内容はアパテイア体操と、ゴールデン体操と呼ばれる全身運動と軽いランニングだ。

アパテイア体操はこの街が推奨する運動強度が高めの全身運動で、ゴールデン体操はシニア向けの強度が低めの体操のこと。

この二つを真面目にしっかりやると、結構運動した感じになる。

てか、最初は息切れしたくらいだ。

そして週に三日、ランニング。

奇抜なデザインの四脚ロボがいつも付き添っているので、なんか目立ってしまっているが、人目を気にしていたらグリードと付き合えない。

人型ロボット(アンドロイド)の時も抜群なイケオジなので結局目立つしね。

というわけで、こちらも順調!

文句なしの生活だ。

満足満足、めでたしめでたし。

 

そう私は満足していたのだけど、季節は夏に突入した。

街が主催する夏のイベントも目白押しで、本業も副業もその話題で盛り上がり始めた。

八月には長期休暇もある。

みんな、休暇には何処そこのイベントに行くだの、リゾート区画でバカンスするだの、そのための準備で買い物するだの、みんな夏を満喫しようとしていた。

で、私はと言えば置いてけぼりだった。

何故なら、私は通称『健康維持法』と呼ばれる法律に違反し、罰として三ヶ月間、自宅から半径五キロ以上の移動を禁止されていたからだ。

例外は就業時と通院時だけ。

リゾート区画はもちろん、商業区画も興行区画も学術区画も半径五キロを超えるため行けない。

つまり、どこにも遊びに行けないのだ。

ただただ仕事をし、健康のために運動をし、週に一度いつものカフェに行ってお茶するだけの日々。

残り二ヶ月、私は耐えられるだろうか。

会社の更衣室の椅子に座ってぼんやりと考えていた時だった。

 

「あれ? ナナミ先輩、まだ帰ってなかったんでっすか?」

 

ドアが開き入ってきたのは、つなぎ姿に天パで眼鏡の女の子、後輩のハンナちゃんだった。

我に返った私は笑顔でハンナちゃんに軽く手を上げる。

 

「ハンナちゃん、お疲れー。ちょっと一休みしてたんだよ」

「今日は副業、ない日なんでっすか?」

「うん、そう」

 

会話しながらハンナちゃんは自分のロッカーへ向かい姿が見えなくなった。

ハンナちゃんは整備士チームで、主に大型パワードスーツのソフトウェアを担当している。

そして生粋のゲーマーでもあるのだが、ハンナちゃんは夏をどう過ごすのだろう。

 

「ねー、ハンナちゃん」

「はーい、何でっすか?」

「ハンナちゃんは夏休み、どっか出かけるの?」

「いえー、ゲーム三昧でっす。そもそも人混み、嫌いでっすし」

 

うーん、実にハンナちゃんらしい。

 

「ナナミ先輩はどこか行かれるんですか?」

「や、私は──」

「あ! そうでした、すみませ、あいたっ!」

 

ゴンと何かがぶつかる音が重なった。

多分謝ったときに頭をロッカーにぶつけたのだろう。

 

「大丈夫?!」

「大丈夫でっす……それより、先輩はそうすると夏休みはどうされるんでっすか?」

「副業三昧になりそうな予感だよ」

 

私は苦笑しながら言う。

副業は決して嫌なわけじゃない。

ただ、私も夏らしいことをしたいだけなのだ。

ま、無理だけどな。

 

「じゃあじゃあ! もう現実逃避しちゃいません?!」

「……はい?」

「ちょっと待っててください! 着替えちゃいますんで!」

 

ガサゴソ音がして慌てて着替えているらしかった。

そして可愛いキャラクターTシャツとチノパン姿のハンナちゃんが、端末を持って私の元へ来た。

 

「先輩、この夏はゲーム三昧しちゃいましょう!」

「ゲーム三昧?」

「そうでっす! オススメはこれでっす!」

 

そう言って画面を空中展開して見せてくれたのは、可愛いくデフォルメされた人やロボット、獣人たちが元気よくダンジョンらしき場所に挑もうとしている画面だった。

タイトルは。

 

「大迷宮物語?」

「はい! 今年の二月に公開されたダンジョン攻略ゲームでっす」

 

ハンナちゃんは熱くゲームの説明をしてくれたが、要約するとキャラクターたちの住む町を中心に、各地に様々なダンジョンが発生し、探索はもちろん、強敵との戦いや攻略のタイムアタックなどで盛り上がっている、とのことだった。

しかしだよ。

 

「これ、あの『ロディア』を作ったゲーム会社のでしょ? またエグい展開があるんじゃ……」

 

ロディア、正式名はロード・オブ・ディアボリカというゲームを友人たちとやったことがある。

でも、あまりに血も涙もない物語の真実に私の心はバッキリへし折られて以来、手を付けていない。

あの、人に対して辛辣かつ悲観的なスロウスさんの会社らしいゲームだった。

疑心暗鬼になる私に対し、ハンナちゃんはあっけらかんと笑った。

 

「さすが先輩、鋭い! パッケージとゲームデザインに騙されたと嘆くプレイヤーも多いでっす」

「やっぱりね!」

 

私はハンナちゃんにむかって笑顔を浮かべた。

 

「やらないよ」

「待って待って先輩! 話は最後まで聞いてほしいでっす!」

 

確かにエグい展開を匂わせるフレーバーはあるものの、それはダンジョン攻略に限った話。

ダンジョン攻略者を支える後方支援に関してはその限りではないというのだ。

ハンナちゃんは上機嫌に語る。

 

「街で生産職をメインにするプレイヤーもいるでっす」

「生産職って、武器屋とか防具屋とか?」

「はい。それよりも更に遡って、素材自体を売りに出すこともできます」

「ああ、そこからなのね」

「生産職はダンジョン攻略じゃなくて、素材の入手、商品の作成や販売、市場のチェック、店の経営がメインになってくるのでっす。だから、先輩にもきっとできるでっすよ」

 

私は画面に展開されているゲームのPVを見つめる。

楽しそうに釣りをしたり、酪農や農業をしているキャラクターたち。

町にお店を建てて、経営する様子も映し出されていた。

そして夏らしく海で遊ぶ姿や、現実に勝るとも劣らない花火大会の光景をバックに、

 

『この夏を、グランシュタットで満喫しよう!』

 

PVはそう締められていた。

 

「グランシュタット」

「舞台になる町の名前でっす」

 

ふーん。

楽しそう? ではある。

戦いはもうコリゴリだし、このゲーム会社のメインストーリーには関わりたくない。

でもそれを避けてゲームができるのなら、移動制限の残り二ヶ月をゲームで過ごすのはありの選択だった。

それに、ハンナちゃんがせっかく気を遣ってくれたのだ。

無下にはしたくなかった。

私はハンナちゃんを見上げる。

 

「一度だけやってみよっかな。そもそも肌に合うか試してみないとわかんないし」

「それがいいでっすよ! もしやる日が決まったら教えて下さい。私、張り切ってご案内しますんで!」

「うん、わかった」

 

その後、ハンナちゃんと一緒に夕飯を食べて家に帰った後、改めてゲームのPVを見た。

本当にこれだけ見れば楽しそうなんだよなー。

でも、私は騙されないぞ!

なので、動画サイトで有志の人が上げた生産職の紹介動画を見た。

そこでわかったことがある。

ゲーム世界とはいえ、れっきとした経済があること。

ゲームの攻略には、お金なしには語れないこと。

そしてお店を経営するには、しっかりとした知識が必要だということだった。

……経営の知識って、何?

だってこれ、ゲームでしょ?

お店の経営、気軽に楽しめるもんじゃないの?

訝しみながら更に動画を検索。

すると『グランシュタットでの効率的なお金の稼ぎ方』とか『グランシュタットでの店舗経営術』だとか、何かガチ金策と思わしき動画がザクザク出てきた。

ざっと見たけど、内容はさっぱりわからない。

……やっぱ一度、やってみたほうがいいな。

スケジューラーを展開して確認すると、明日の夜は副業が入っている。

最短で明後日か。

仕事帰りになっちゃうけど、体験するだけなら短い時間でも問題ないよね。

というわけで早速ハンナちゃんに連絡し、明後日一緒にゲームをやることになったのだった。

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