多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十七話 ごっこ遊びをした 2

ゲームを体験すると決めた翌日、ハンナちゃんからゲーム開始までに準備することを教わった。

アカウント登録やIDとパスワードの設定。

キャラクタークリエイトに時間がかかるから、前もってどの種族で、どんな職業につきたいかをざっくり考えてほしいとのこと。

どれもパソコンの端末で前もってできるとのことで、副業後に家に帰ってから作業を行った。

これがヤバかった。

キャラクリの細かさと奥深さに見事に沼にハマり、満足したキャラクリができたのは午前二時になって街の警告を受けた時だった。

前もってやっといて良かった。

絶対にネカフェでの時間を全部、キャラクリに注ぎ込むことになっていた。

こえーよ、キャラクリ。

ちなみに選んだ種族は生産職に向いているとされるホビットの女の子にした。

実はPVを見たときから目をつけていたんだよね。

背がちっちゃくてお顔もかわよーな上に、動きもトテトテしててかわよーが詰まった種族なのだ!

と私は勝手に思っている。

 

キャラクリの目処がついた私は満足して眠りにつき、翌日は遅刻することなく出勤できた。

昼間は頑張って本業をこなし、運良くレアメタルをいくつかゲットできた。

アイちゃんやロイさんと大喜びして職場に戻り、その後、ハンナちゃんと合流する時間を決めて、家には帰らずにそのまま以前も利用したVRカフェに向かった。

ゲームをやる時間は三時間と決め、個室に通された私はドキドキしながら、VR装置をつけてゲーム装置を起動した。

迷うことなく大迷宮物語を選択し、即ログイン完了。

アニメ映画のような可愛くてキレイなプロローグを見て、キャラクリ開始。

昨夜のお試し版で作成したとおりのキャラクリを迷うことなくして、ゲーム世界へとダイブした。

 

初上陸したグランシュタットの時間は午前中で天気は雲一つない快晴だった。

夏らしい強い太陽の日差しが眩しい。

そして私の周りには大勢のキャラクターがひしめいていた。

ハンナちゃんの情報によれば、ゲーム内で自宅を持たない人たちは、ログイン後はこの噴水広場に必ず来る、とのことだった。

ハンナちゃんとの待ち合わせの時間は、この噴水広場で十分後になっている。

広場の周辺を少し見学しようか。

石造りのカラフルな町並みがすっごく新鮮で可愛らしい。

お店も並んでいて通りは賑わっている。

あ! あのカフェ、おっしゃれー!

思わず駆け寄ったものの、オシャレな外観を眺めるだけにとどめ、様々なお店やキャラクターを観察しながら噴水広場を一周した。

現実時間では、そろそろ集合時間だ。

 

「せんぱーい! せんぱーい! ナナミ先輩どこでっすかー?!」

 

可愛いうさ耳ロン毛の獣人キャラが、聞き覚えのある声で私を呼んでいる。

多分ハンナちゃんだ!

私は両手を大きく上げてジャンプを繰り返した。

 

「ハンナちゃーん、ここだよー!」

「先輩?! ……あっ! いた!? ナナミ先輩?!」

 

装飾の凝ったローブを着ているうさ耳獣人が驚いたように駆け寄ってくる。

そして私達は手を取り合った。

 

「先輩先輩、ホビットにしたんでっすか?!」

「うん。生産職に向いてるって聞いたし、ちんまくて可愛いじゃん?! 完全に見た目で選んだ」

「かわよー! メッチャかわよでっすよ! キャラクリ、頑張ったんでっすね!」

「ありがとー」

 

興奮気味に褒めるハンナちゃんだが、ハンナちゃんのキャラクリも相当凝っていると素人目でもわかった。

 

「ハンナちゃんも可愛いねー。確か人気あるんだよね、うさ耳と猫耳の獣人。本当は迷ったんだよ」

「えへへー、手軽に可愛くなれる種族を選びましたー」

 

ニッコリ笑う、うさ耳ハンナちゃん。

いや、本当に迷ったんだよ。

人間と同じく、何を着せても似合う種族だから。

背丈もなく平たい体型のホビットは、衣装がデフォルメ化される傾向にある。

つまり何を着せても、可愛く見えてしまうというチャームポイントかつ欠点があるのだった。

 

「じゃあ先輩、時間限られているし、最序盤のクエストをクリアして、生産職ギルドに入るまでを超速でやっちゃいましょー!」

「りょー!」

 

こうしてハンナちゃんと、途中で合流したハンナちゃんの仲間の皆さんとで、生産職開放のクエストという名のチュートリアルの数々に挑んだ。

ところで、私の頭上には若葉マークがついているんだけど、若葉マークのプレイヤーを手助けすると、運営から様々な報酬が貰えるらしい。

そんな仕様もあって、ハンナちゃんはもとより、ハンナちゃんのお仲間さんも好意的に接してくれた。

初心者ダンジョンも仕様でレベルダウンさせられるにも関わらず、ハンナちゃんたちはとても強かったし、わからないところは色々教えてくれた。

助かるけど、こんなに甘やかされていいのかな?

ちょっと心配になったけど、目の前の情報をさばくのに必死で、そんな思いは瞬く間に消え失せた。

そして最後、ダンジョン最下層のボスを討伐してダンジョンをクリアできたのだった。

 

「よし! ダンジョンクリア!」

「俺らのミッションもクリアだな!」

「先輩、これで生産職ギルドへの登録が可能になりましたよ!」

「ありがとうございます! 本当に助かりました!」

 

私は誠心誠意の気持ちで頭を深々と下げた。

するとハンナちゃんの仲間たちが笑った。

 

「そんな丁寧に頭下げる必要ないって」

「そうそう。俺達も下心はあるからな」

 

運営の報酬のことだろう。

それでも私はとても嬉しかったのでニコニコ笑顔を浮かべた。

すると、仲間の皆さんたちの表情がとろけた。

 

「ホビットかわえー」

「やっぱサブキャラ、ホビットにしようかなー」

「既にサブをホビットにしている俺、高みの見物」

 

サブキャラまで作っているのかー。

皆さん、ゲームにかける情熱がハンパないなー。

私は感心した。

 

「じゃあ、私は先輩のギルド登録と生産職のご案内を引き続きするでっす」

「OK! じゃあな」

「ナナミさん、頑張って!」

「生産メインにするなら、金策動画見て勉強することをオススメするぜ」

「そうそう! 生産職、作業効率と市場の流れ見るのメッチャ大事だからな」

 

こうしてハンナちゃんのお仲間さんと別れたんだけど、お仲間さんたちのアドバイスが引っかかった。

やっぱり金策が大事になってくるのかー。

 

「それじゃ、生産職ギルドへ行きましょう!」

「うん。ねえ、ハンナちゃん」

「何でっすか」

 

私は先程聞いたアドバイスのことをハンナちゃんにたずねた。

するとハンナちゃんの顔が真面目なものになった。

 

「生産職に限らずですけど、この世界はお金に関してはシビアでっすね。本気でこのゲームの楽しみたいなら、毎日の金策はとても大事になるでっす」

 

普段はダンジョン攻略をメインにしているハンナちゃんですら、毎日生産職──魚釣りが楽しくて漁師になったそうだ──に手を付けているらしい。

 

「ダンジョン攻略に必要な最低限の装備は運営からも提供されるでっすけど、レアリティも最低限でっすから、それだけだと苦戦するし時間もかかるんでっす。だから生産職が作成したレアリティの高い装備や道具を購入するための金策は必須なんでっす」

「なるほどー」

 

と言いつつ、やっぱり私はピンときていない。

話を聞いているうちに、生産職のギルドへやって来た。

大きな石造りの建物で、立派な門の前からして人が大勢いる。

 

「呼び込みしてるね」

「それぞれの職の仲間を募集しているんでっす。皆で作業すれば、それだけ効率的でっすからね」

「それはそうだね」

「ただ、毎日ログインするのが大前提のとこがほとんどでっす。先輩は気にしなくても大丈夫でっすよ」

 

なんか会社みたいだなー。

そんなことを思いながら建物の中へと入った。

石造りのカウンターがずらりと並ぶカウンターは、まるでお役所のようだ。

人も大勢いてカウンター越しにやりとりをしている。

わあ! 壮観!

驚く私に、ハンナちゃんはニッコリ笑った。

 

「ここが生産職ギルドでっす。いつでも転職は可能でっすから、まずは一通りやってみて、先輩の好きなお仕事を見つけるのがおオススメでっす」

「うん。……あのさ、お店を出すためにはどうしたらいいのかな?」

 

するとハンナちゃんは顎に手を当てた。

 

「正攻法としては、商業区域で土地を買うところからスタートでっす」

「そこから?!」

「そこからなんでっすよ」

 

ハンナちゃんの話では、商業エリアというものがあり、そこで土地を買い、店を建てて、開業ができること。

そして生産職のレベルが一定以上必要なことを教えてくれた。

私はがっかりと肩を落とす。

 

「そっかー、すぐにお店が開けるわけじゃないんだね」

「はいー。しかも土地、お金持ちのヘビーユーザーにほとんど買いつくされちゃってますからね」

「絶望的じゃん」

 

私の夢が破れたのを感じたが、ハンナちゃんは人差し指を立てると横に何回かふった。

 

「それは早計でっす。なのでいち早く店を開きたいなら、ヘビーユーザーの買った物件を借りるんでっす。そこでお店を開くことも可能なのでっすよ」

「……ゲームのファンタジー世界なのに、妙にリアルだね?」

「はい。この世界、お金マジ大事でっす! だから先輩が楽しく長続きできる生産職を探してほしいでっす」

「りょー」

 

私はずらりと並ぶカウンターを改めて見ると、魚の形をした看板に目をとめた。

 

「じゃあ、まずはハンナちゃんもやっている漁師からやってみようかな」

「はい! 釣り、楽しいでっすよ。まあ、本格的にやるなら、道具や餌にもこだわりが必要になってくるでっすけどね」

「本当に凝ってるなー」

 

こうして私は新米漁師となった。

近くの海でハンナちゃんと釣りをしながら雑談をして過ごし、釣った魚を市場へ売るまでを教えてもらった。

私の手元にクエスト以外でお金が手に入った!

そこまでやって三時間が経ったので、私はハンナちゃんに何度もお礼をして、ゲームの世界から帰還した。

ふー、疲れたー!

しかし、退店する時間が迫っており、私は慌てて荷物をまとめて店を出た。

首や肩をほぐしながら駅へと向かう。

うーん、これは店を出すのは諦めようかな。

現実のお金とプレイ時間には限りがあり、毎日ログインはできない。

何より、プレイ期間は移動制限中の二ヶ月間だ。

根無し草でもできる仕事に就いて、のんびりまったりするのが無難かな。

でもお店、やってみたかったなー。

ちょっと残念な気持ちを抱えつつ、地下鉄の駅の階段を降りたのだった。

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