多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十七話 ごっこ遊びをした 3

土曜日になり、私と四脚のグリードはトレーニングが終わったあと、そのままいつものカフェに行くことにした。

モーニングセットを奢ってもらい──支払いの勝負に負けたのだ! 悔しい!──食事をしてコーヒーを飲みながら私は『大迷宮物語』のことを話すことにした。

 

「あのねグリード、私はこの夏、お店を開こうと考えていたんだけど、呆気なく夢破れたんだよ」

 

四脚のグリードの動きが固まった。

しかし顔に当たる部分に搭載されている複眼がしっかりと光を灯し続けている。

 

「ナナミ」

「うん」

「結論から話すのは良いことだが、明らかに大切な部分を端折っていると推測される。最初から時系列に沿って話してもらえないか」

「おけー」

 

というわけで、私はハンナちゃんからゲームに誘われて、移動制限をされている私はゲームの世界に夏を求めることにしたと説明した。

ダンジョン攻略ではなく、生産職でのんびり生活費を稼いで、できればお店を開きたかったことを話すと、グリードは片手を上げた。

 

「ナナミはどんな店を開きたかったのだ?」

「うんとね、このカフェの縮小版みたいなの。個人経営でコーヒーとデザートが美味しいお店。でね、ダンジョン攻略者の人に疲れを癒やしてのんびり過ごせる場所にしたいなって」

 

そこまで話して、私は顔が熱くなるのを感じた。

何でかわからないけど、恥ずかしいというか照れてしまって頬をかく。

 

「あははー、ありがちだよねー」

「よく聞くカフェの開店動機だが、小さくとも夢を持つこと自体は人にとって良い影響があるとされる。生きる活力につながるからな」

 

グリードは顔の下の部分に手をあてた。

 

「君の夢を叶えてやりたいが、なにぶん私はそのゲームをやっていない。君さえ良ければ私も一緒にゲームをプレイしてもいいか?」

「もちろんだよ! ハンナちゃんもきっと喜ぶよ!」

「ありがとう。では並行して作業を開始する」

「……もうやるの?」

「何か問題でもあるのか? 既にキャラクタークリエイトの段階まできたのだが」

「いえ、ないです」

 

この行動力。

そしてマルチタスクの速さ。

さすがは一鍔(ヒトツバ)重機の誇る管理AIだ。

 

「君は種族は何にしたのだ?」

「生産職に強くて見かけが可愛いホビットにしたよ」

「なるほど。では私はホビットの弱点を補える種族にしよう」

 

わー、どんな子になるんだろう。

楽しみー。

にこにこしていたら、私の目の前に画面が展開された。

いつも見ている動画サイトだ。

グリードは目にも止まらぬ速さで動画を選別し、生産職の詳細情報と金策、そして店舗経営の動画を同時に見始めた。

私はあんぐりと口を開けて、それを見守ることしかできない。

さらには大迷宮物語の攻略サイトをいくつか開いて静的情報も貪欲に取り込んでいる。

グリードは作業をいくつも並行しながら、私を見た。

 

「なるほど。これは正攻法でやっていては二ヶ月で店の開業まではたどり着けないな」

「でしょ」

「だが道がないわけではない。店を開くまでのスキルアップ自体はさほど時間はかからないし、店舗は、所有者と賃貸契約を結ぶことでクリアできる。一週間ほどプレイしていれば開業は可能だろう」

「そっかー!」

 

にわかに指した希望の光。

だが、グリードの複眼の光は冷徹な光を放っていた。

 

「だが、今の君と私の資金を合わせても賃貸可能な物件は非常に限られており、立地も面積も君の理想とする店舗経営には不適格だと断言する」

「そうなの?」

「有志がまとめた現在の商業エリアの状況に、私が調査した内容をまとめたデータを作成した」

 

そして私の前に示されたのが、ゲームの商業エリアのマップと店舗情報が数字化されたものだった。

私はそれをマジマジと見つめ、思わず深くため息をつく。

 

「飲食業、多いね……」

「それに伴う原材料の動きも極めて活発だ。食料品は使い捨てのバフとして需要は高いが、なり手も非常に多い。君のライバルはとても多いのだ。そして先程も触れた立地の件」

 

マップに黒い部分が現れる。

 

「黒い部分が現在空き店舗となっている場所だが」

「うん、皆まで言わなくてもわかるよ。ほとんど裏通りの人が来なさそうな場所ばかりだね」

 

おまけに面積も狭い。

カフェを開くのは正直無謀と言わざるを得ないだろう。

 

「そうだ。だからこそ、新米の我々でも借りれるような値段で安く貸し出されているわけだが」

「ううーん」

 

私は腕を組んで思わず唸った。

グリードに現実を突きつけられ、私の夢は再び打ち砕かれた。

 

「あー、やっぱ根無し草で釣りをして過ごすしかないかー」

「開業自体は問題ないが、プレイヤーにとって大きなベネフィットがない限り、店は閑古鳥が鳴き、君は店舗の維持だけに時間を費やすことになる。それは君の望む夏の過ごし方ではないと推測する」

「推測も何もそのとおりだよ!」

「では、プレイヤーに対してのベネフィットを考える必要がある。立地条件が悪くても、足を運ばざるを得ないほど大きな価値を与える店を目指すのだ」

「ベネフィットねー……」

 

グリードは両手を軽く広げた。

 

「金儲け自体を楽しむプレイヤーももちろんいるだろう。だが君はお金を稼げるのはもちろん、訪れた人に喜ばれる経営を望んでいると推察する」

「うん。お店に来て良かったって思ってほしい」

「ならばプレイヤーが今何を望んでいるかを知る必要がある。そのためには市場と商業エリアの現地調査をすることを推奨する」

 

グリードは両手をおろし、私をじっと見つめた。

 

「明日はゲームをする時間はあるか?」

「あるよ。というか、今日の午後にログインして生産職を一通り触ってみようと思ってたとこ」

「そうか。では今日は生産職をひととおりさらってみて、明日、私と一緒に調査を行わないか?」

「おけー! わかった!」

 

私とグリードは明日の約束をし、お茶会はお開きとなったのだった。

その後、一度家に戻って着替えをして家事をして、お昼ご飯を食べたあとにVRカフェに向かった。

時間はきっちり三時間。

夕方から副業もあるから、無理しない程度に楽しもう。

私はゲームにログインし、低い視界に慣れたところで早速生産職を一通り回ってみることにした。

森に行って木こりになってがむしゃらに木を切り、その流れで木工職人になった。

色んな木材加工ができるけど、私が俄然引きつけられたのは釣り竿だった。

釣り竿のレアリティが高いと、丈夫な上にレベルの高いお魚を釣れるようになる。

私は頑張ったけど、星3つの最高ランクを作ることはできなかった。

そうは簡単にいかないか。

釣り竿は売らずに自分の持ち物にして、木材を市場に売り出した。

いろんな人が出品しているけど、価格は一定している。

誰が決めるんだろうね? こういう価格。

私はそれよりも心持ち低めに設定して出品。

程なくして全て売れたことが知らされ、私の手元にお金がまた入ってきた。

よしよし、貯金へ回そう。

 

そんな感じで次は農業をやってみた。

収穫した農作物でお料理を作って食べる。

初めてのパンはクオリティーは普通だったけど、私には美味しく感じられて嬉しかった。

それと、鉱山で石を掘り掘りした。

その流れで武器や防具を作ったり、獣を狩ってその肉や革を市場へ売ったりして生産職を満喫した。

どれも楽しかったけど、やはり力仕事はホビットにはむいていない。

服飾も挑戦したが、チマチマとした細かい作業がとにかく多く、ホビットの性質はともかくとして、私の性格には向いていないことがわかった。

楽しいなと思ったのは、釣りと料理だ。

お店を開くなら、魚屋さんか調理スキルを活かせる職になるのかな。

てか、魚屋なら市場で売ればいいじゃんね。

店出す必要ないじゃん。

そうなると、やっぱ激戦の飲食業になるんよなー。

私は最後に自分で作った釣り竿で魚釣りをしながら思わずため息をついた。

ゲームでもまさか生活やお金の心配をすることになるとは思わなかった。

もっと気軽に楽しめると思っていたのに、ゲームの世界で生きていくのも大変だ。

私は魚を手際よくポンポンと釣り、それを市場でまた売り払ってログアウトをした。

時間内に急いで荷物をまとめて店を出る。

さ、今度は現実のお金稼ぎだ。

気合い入れていくぞ!

私は元気よく歩いて職場へと向かった。

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