多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十七話 ごっこ遊びをした 4

日曜日の午後、私はVRカフェに向かった。

今日はグリードと市場と現地調査をすることになっている。

店で受付をし、部屋に向かいながら私はちょっとワクワクしていた。

グリードがどんなキャラにしてくるのか、とても気になったし楽しみにしていたのだ。

ぶっちゃけ、今日のログインの目的はグリードのキャラクリを見ることだと言ってもいい。

もちろん、私のためにと四角四面に真面目に調査をしてくれるグリードに、そんなことは言わないけど。

待ち合わせの時間に間に合うよう、私は急いでログインの準備をし、そして来ましたよグランシュタット!

噴水広場は今日も変わらず混み合っている。

チームへの勧誘や、クエストへの呼び込みが賑やかだ。

それとは関係なしに歌ったり踊ったりしているだけの集団もいて見ていて飽きない。

様々なプレイヤーたちを見ながら、私はたまたま空いていたベンチへと腰を下ろした。

ちょこんと手を膝にのせて行儀よく座る。

可愛い。

もちろん、寝っ転がることもできる。

可愛い。

ベンチに立ってチェキポーズをすることもできる。

可愛い。

ホビットにして良かったなーとホクホクした気持ちになっていた時だった。

 

「ナナミ、何をしているんだ?」

 

聞き覚えのある声にチェキポーズのまま振り向けば、威圧感バリバリの若い竜人の男がそこに立っていた。

てか、容姿がドストライクなんですが?!

私はチェキポーズをとき、イケメン竜人に向き直る。

 

「その声、もしかしてグリード?!」

「そうだ。待たせたようですまない」

 

大きな体を折りたたむように、グリードは頭を下げた。

体デカッ!

体格差エグッ!

私はポカーンと竜人グリードを見上げた。

 

「ナナミ?」

「あ、ああ、あの、なかなかカッコイイ竜人にクリエイトしたんだね」

 

挙動不審にならぬよう平然とした態度をとる私に、私を見下ろすグリードは微笑んだ。

 

「そう言ってもらえてよかった。君と出会ってから今までの言動を考慮して、君の好みであろう容姿にしたのだ」

「あ、そうなの? 竜人にしたのは」

「ホビットの弱点を補いつつ、サポートできる種族として選んだ。それ以外に特に理由はない」

「そ、そっか」

 

うなずきつつ、私は危機感を持った。

いかん!

意識するとまともに顔を見れん。

しっかりしろ、私!

コレの中身はあの四脚のグリードなんだ!

貫禄とちょっぴり影と色気のあるイケオジグリードなんだ!

 

「ナナミ?」

「うん! 大丈夫だよ! 早速市場調査に行こ!」

「君の時間は限られている。早速本日一つ目の目的を果たそう」

 

するとグリードは身を屈めた。

 

「失礼する」

「へ? ああっ?!」

 

グリードは私をヒョイと抱き上げると、私を肩に乗せた。

 

「では出発だ」

「ままままま待って! これは何?」

 

肩につかまりながらたずねると、グリードは表情なく私を見た。

 

「迅速に移動するための手段だが、何か気に触ることがあったか?」

「うん、あのさ、私ちゃんと歩けるよ!」

「君と私には身長差、体格差があり、はぐれないよう普通に手を繋いだ場合、君の体の負担が大きくなる。だから選択肢から外した」

 

どこまでも冷静に言うグリード。

 

「横抱きは、以前君が酷く恥ずかしがっていたため、これも選択肢から外した」

「横抱き?」

「俗に言うお姫様抱っこというものだ」

「うん! それは正解! 大正解!」

「そういうわけで、今回は肩に乗せるのが一番移動に適していると判断し、実行に移した次第だ。それに」

 

グリードは視線を遠くに投げる。

私もそれを追うと、ポツリポツリとだが、竜人がホビットの子を肩に乗せている姿が見えた。

 

「あのように移動をしているプレイヤーもいる。故に、特にこの場において恥ずかしいことではないと推察する」

「ああ、うん。そうかも……ね?」

 

視界が高くなり、周囲の視線が否応なく私達に集中しているのが丸わかりだ。

でもみんなの目線は、何というか温かいというか、微笑ましく見ているようだった。

……何だよ。

現実世界だけじゃなくて、ゲームの世界でも結局目立つのかよ。

グリードと相手していると、普通からはどうしてもかけ離れるらしい。

 

「では改めて出発だ。しっかり捕まっていてくれ」

「わかったよ」

 

というわけで竜人グリードの肩に乗って、市場へと向かった。

市場は屋外にあって、横並びにズラリとカウンターと看板が立ち並び、店の上部には現時点で最新の素材や品物の値段が表示されている。

ここも人が大勢いて通りを行き来しているが、カウンターにへばりつくようにして画面を見ている人も見受けられる。

 

「ナナミ、生産職は何をするか決めたのか?」

「明確にやってみたいって思ったのは釣りと調理かな。逆にダメだと思ったのはまんま力仕事だね。あと細かいの、性格的に合わない」

「そうか」

「あと釣りはね、趣味の域に留めておきたい気持ち」

「そうなると、選択肢は調理のみとなる。ではその原材料の価格を確認しよう」

 

私達は食料品のカウンターへと向かった。

グリードが器用に片手で検索をかけると、私達の目の前に検索結果の画面が現れた。

画面のデザインはともかく、さすがにこの辺りはゲームだなーと思う。

 

「小麦は供給量も多く価格も安定しているな。……米は少々高止まりしているようだ」

「何でかな?」

「米農家が少ないため需要に対して供給が追いついていないためだ。米は、小麦と比べて収穫までの工程が多く労力に対しての対価が釣り合っていないため、なり手が少ないのが原因だ」

「そっかー」

 

お米、美味しいのにね。

そこでふと、私は昨日から疑問に思っていたことをたずねることにした。

 

「あのさ、思ってたんだけど、この素材や商品の値段って誰が決めてるの? 運営なの?」

「最初はそうだったろうが、今は元締めのような存在がいて価格を操作しているものと推察される」

「元締め?」

「初期からやっている金持ちのヘビーユーザーだ。商品を安値で大量に買い付け、プレイヤーの不満が出ない程度の価格で売りつける。その差額で稼いでいるというわけだ」

 

私は思わず眉をしかめた。

 

「それ、やっていて楽しいの?」

「昨日も触れたが、金を稼ぐこと自体を楽しむプレイヤーもいるということだ」

「自由だねえ」

「このゲーム自体が資本主義をもとにしているからな」

 

私には縁遠い世界だけど、今回は少なからず関わることになりそうだ。

そうして素材の一覧を確認し、次は商品を検索することになった。

 

「ナナミは調理人になるとして、どんなものを作りたいと考えているのだ?」

「デザート! 甘いもの!」

「即答か」

 

グリードは素早く操作をし、検索結果を目の前に表示する。

そうすると出るわ出るわ、甘いものの数々。

私はスクロールをしてその品々を見た。

 

「ざっくり見た感じ、ケーキが多い感じ? あと本当にお菓子。飴とかクッキーとか」

「調理の工程が少なく、短時間でも大きなバフを得られる商品が売れているようだ。バフの内容は、ダンジョン攻略者を対象にしたものがほとんどだな」

「ふーん。やっぱ安定して売れるからかな?」

「その推測は正しい。運営が公表しているデータにおいて、プレイヤーの八割はダンジョン攻略を目的にしている」

 

グリードは検索結果の横に、運営の公表しているデータを表示した。

 

「しかしダンジョン攻略だけでは、よほどの幸運に恵まれない限り金銭に限界が訪れる。そのため、生産職と兼業している者も半数ほどいるようだ」

「ハンナちゃん、毎日ログインして漁師の仕事もしているって言ってた」

「さすがのハンナも、まる一日張り付いているようなヘビーユーザーには敵わないだろうからな。金策はゲームの大切な柱の一つなのだ」

「そっかー……」

 

さすがスロウスさんの作った会社のゲーム、一筋縄ではいかないか。

私はふと思い立ち、ホットケーキを検索してみた。

……あ、あった!

でも数少な!

持ち歩いて手軽につまめるものじゃないもんね。

竜人グリードが私を見る。

 

「ナナミ、ホットケーキを検索した理由はなんだ?」

「えっと、その……私が食べたかったからだよ」

 

私は照れて頭をかきながら説明した。

最近ホットケーキの美味しいお店を紹介する動画を見て、私の中でホットケーキ欲が高まっていたのだ。

 

「ふわふわもいいけどさ、表面がカリッとしていて中身ずっしりも捨てがたいよね。バターとシロップかけてさー、美味しそうだなーって」

 

想像して幸せ気分になる私を、グリードは表情なく、しかし目を光らせて見ていた。

 

「だからここでその欲を発散できたらって思ったんだけど、需要は少なそうだね」

「ナナミ、現実の世界でテイクアウトできる店はある。君が食べたいのなら今すぐにでも奢ってやろう」

「ちがうよ! そのお店に入って雰囲気も一緒に食べたいの。それと、奢らなくていいから。ちゃーんと稼いで自腹切るから」

「……そうか」

 

イケメン竜人が露骨にしょんぼりするな?!

見ろ! なんか私に対する周囲の視線が厳しくなってんじゃん?!

 

「話をそらしちゃったのは謝るよ。だから調査を続けよ?」

「……了解した」

 

私は気を取り直してケーキをさらに細かく検索した。

片手で食べられるものということで、カットされたショートケーキやチョコレートケーキ、チーズケーキといった喫茶店の定番商品が多い。

と、その中に私の目を引く商品があった。

 

「あ、シュークリームもいいよね! シューがふわふわもザクザクも捨てがたし。私は生クリームとカスタードクリーム両方入ったのが好きで──」

「ナナミ」

「うん、ゴメン。謝るから奢らないで。注文しないで」

 

改めてそれぞれの商品のバフをチェックする。

攻撃力や魔力、素早さアップが多い。

ケーキはたくさんの数を持てないけど、バフの数も多く持続時間も長い。

飴やクッキーは単体のバフが多く持続時間も短いが、個数を多く持てる。

こうしてバランス取っているのだろう。

 

「ダンジョン攻略者にとって課題になるのは、プレイヤースキルもそうだが装備を含めた重量制限だ」

「あー、そういえば生産職開放のためのダンジョンでそんなのあったよ」

 

ホビットは他の種族より力が低く設定されているため、重量系の職業は向いていないとされている。

なので、私も慣れない弓使いとなってダンジョンに挑んだのだった。

 

「重量が増えれば素早さが落ちる。どのゲームでもそうだが、素早さは攻撃力に直結する重要なパラメータだ。軽量かつ高性能な装備やアイテムが重宝されるのはそのためでもある」

「なるほどねー」

 

色々制限があるんだな。

でもだからこそ、頭を使ってプレイする楽しさがあるのだろう。

すると再びグリードが私を見た。

 

「さて、市場の調査はこれくらいにして、空き店舗の状況を実際に見に行くことにしよう」

「調査、これくらいで大丈夫なの?」

「まずは今日の目的を果たしたい。時間が余ったその時は、もう少し深掘りをすることにしよう」

「おけー!」

 

私達は市場を離れ、商業エリアへと向かった。

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