多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十七話 ごっこ遊びをした 5

スタート地点の噴水広場から空き店舗への道のりはかなり複雑だった。

でも私は地図読み得意だったし、それ以上にグリードのナビが優秀だったこともあって、迷わずに一つ目の店舗にたどり着いた。

建物と建物の間に間に挟まれたその店舗は、オシャレな外観をしているものの、陽があまりささずに魅力が半減しているように見えた。

 

「狭いね」

 

思わず正直な感想をこぼすと、グリードは頷いた。

 

「そうだな。カウンターでの対面販売がしかできなさそうだ」

 

周囲にイートインできるスペースもない。

テイクアウトオンリーのお店になりそうだ。

 

「もう少し陽がさしてくれれば外観は悪くないんだけどな」

「辛うじて西日はさしそうだが、全体的に薄暗い印象は否めない。外観を明るくする工夫が必要になるだろう」

 

私はグリードを見た。

 

「ねえ、ここが今空いていて私達でも手が届くお値段の店舗なんだよね?」

「そうだ。付け加えるなら、噴水広場から最も近い店舗でもある」

「うーん、そっか。……ね、スクショ撮ってもいい?」

「もちろんだ」

 

私はグリードの肩から降りると、スクショ機能で店舗をバシバシ撮った。

 

「よし、こんなもんかな」

「では噴水広場に戻り、次の店舗に行くことにしよう」

「え? ここから次の店舗に行くんじゃないの?」

「それでは客の目線に立った観察ができない」

 

グリードは冷静に言いながら膝をつくと、私をソッと抱き上げた。

 

「客の大半は噴水広場、及びその周辺から店に向かうことになる。その動線を知ることは重要なことだ。手間はかかるが無駄なことではない」

「わかったよ」

 

グリードは私を再び肩に乗せると、店を後にして噴水広場へと戻った。

噴水広場と候補の空き店舗を往復し、都度道中と空き店舗の観察をしスクショを撮った。

そして、候補の店を見終わった時には、私の残り時間は残り三十分となっていた。

噴水広場に設置してある空きベンチに私達は座り、スクショを見ながら店舗の検討をすることにした。

 

「どこもイートインはできそうにないお店だったね」

「そうだな。全て店舗が陽があまりささず、狭いか、だいぶ極端な土地の形をしていた」

 

スクショを目の前に展開しながら、腕を組み思わず唸る。

 

「うーん、テイクアウトオンリーにするとして、お客さんの通いやすさを考えると最初に見たとこと、一番最後に見たお店かな」

「君の考えは妥当だ。一店舗目は道は入り組んでいるが、噴水広場から最も近い。最後に見た店舗は距離はあるが大通りを使ってのアクセスが良好で迷いにくい」

「お店の周辺の空気も悪くなかったよ。特に最後に見たお店、周りのお店も可愛い雑貨屋さんや、雰囲気のある軽装備のお店で良い感じだった。私もあんな可愛いお店作りたいな」

 

あのお店の界隈に混じっても恥ずかしくない、小さくて手作り感あふれるお店にしたい。

想像して思わず笑顔になった。

 

「推察するに、ナナミは最後に見た店舗を気に入ったようだが」

「うん! 面積は狭いけど形は悪くなかったし、周囲のお店もいい感じだったから」

「そうか。早速管理者に連絡を取りたいところだが、どんな店にしたいのかをまとめない事には始まらない」

「だねー」

 

そこが問題なのだ。

甘いものを売るお店、だけでは全然足りない。

私は顎に手を当てる。

 

「片手で食べれて、重量が嵩まないデザートかー。飴やガムやクッキーはライバル多いのわかってるし」

「チョコレート、ヨウカンも意外に数が多い。現実での非常食のイメージのせいだろうか」

「現実のイメージもあるんだねえ」

「見方を変えよう」

 

そう言うと、グリードは一つの画面を展開した。

私はそれをマジマジと見つめる。

 

「ロードマップ?」

「これからこのゲームがどんなアップデートを行うのか、月ごとにまとめられた重要な資料だ」

「重要なの?」

「重要だ。商売をやるなら尚更だ」

 

グリードは珍しく口調を強めて言う。

 

「今から一ヶ月後、七月末のアップデートで新たなダンジョンが開放される。今はそれに向けて装備を整えつつ、金を蓄えている期間だというのがわかる」

「そっか。新しいダンジョンが開放されたら、新しい装備や素材が出てくるもんね」

「市場が大きく動く時だ。そしてバフアイテムの価格が高騰する時でもある」

「みんな買うもんね。供給が追いつかなくなるのか」

「そういうことだ。ダンジョン開放は、ダンジョン攻略者だけのイベントではなく、我々生産職の稼ぎの機会でもある。ここを目がけて絶好の商品を売り出したいところだ」

「うーむぅ」

 

私は再び腕を組んで考えようとしたその時、軽快な電子音が鳴った。

 

『カリヤ様、退室のお時間まで後十分です』

「どうやら、ここまでのようだな」

「そだね」

 

退室のインフォメーションに、現実へ意識を向けようとして何かが頭に引っかかった。

……ん? 何か見逃してね?

待て、待て待て待て!

 

「ナナミ?」

「グリード黙ってて」

「……了解した」

 

ここを逃がしちゃいけない。

私は頭をフル回転させる。

今まで見てきた装備品や素材、バフアイテムは全てダンジョン攻略者を対象にしたものだ。

では、生産者は?

私は弾かれたように立ち上がると、ダッシュで市場へ向かった。

 

「ナナミ、待ってくれ! 置いてかないでくれ!」

 

グリードが言って私の後を追う気配を感じた。

でも私の足は止まらない。

このゲーム世界にいられる時間は残り十分を切っている。

急いで調べなければ!

程なくして市場へ到着。

私は空いてるカウンターへと飛びつくとデザート系のアイテムを検索した。

膨大な数に目眩がする。

でもちゃんと調べないと。

 

「ナナミ!」

 

グリードがやって来て私を抱きかかえると、怖いほど真剣な表情で私を見つめた。

 

「突然どうしたんだ? 頼むから教えてくれ。力を貸すから」

「調べたいの」

「何をだ」

「生産職に必要な一時的なバフアイテムを」

「了解した」

 

グリードは私を肩に乗せると、素早く検索をし直してくれた。

瞬く間に検索結果が表示された。

 

「やっぱり!」

 

私は歓喜の声を上げた。

検索結果には、生産職用のバフアイテムが並んでいた。

しかし、ダンジョン攻略者用のアイテムに比べればその数は少なく軒並み高額だ。

需要がないわけではないだろう。

恐らく供給が慢性的に足りていないのだ。

 

「なるほど。君は生産職向けのバフアイテムの生産を思いついたのだな。確かにこれから必要になってくるアイテムだ」

 

グリードは、ダンジョン開放はダンジョン攻略者だけのイベントではなく、生産職の稼ぎの機会だと言っていた。

ならば、生産職の一時的なバフアイテムも需要があるはずだ。

私はグリードに笑ってみせた。

 

「ログアウトしたら何を作るか考える!」

「わかった。一緒に考えるから、いつものカフェで落ち合おう」

「おけー」

 

そうして私は急いでログアウトをし、荷物をまとめて店を出た。

時間ギリギリで本当に焦った。

ドームの空はオレンジみを帯びていたものの、まだ十分に明るい。

日が伸びたなー。

空を見上げて呼吸を整えつつ、いつものカフェへと向かう。

ふふ、方向性は見えた。

何作ろうかな。

あ、でもその前に、生産職のレベルアップをしてお店を出せるレベルに到達しないとだよ。

あれこれ考えているうちにカフェに到着。

よし! グリードはまだ来ていないな。

奢られる前に買っちゃおうっと。

私はコーヒーと、少し迷ってドーナツを買った。

サクサクホロホロのオールドファッション大好きだ!

カロリー高いけど。

テラス席がまだ空いていたので、私は着席して早速ドーナツを口にしようとした時だった。

 

「ナナミ、遅くなってすまない」

 

人通りのある通路から、嫌でも目立つ四脚ロボットがスルーっとやって来た。

この四脚ロボットがこの店に頻繁に訪れることを知っている人は慣れたものだが、やはり奇抜なデザイン故に人目を引くようだ。

私は軽く手を振った。

 

「グリード、大丈夫だよ。今来たばっかだから」

「そうか。少し待ってくれ。席代を払ってくる」

 

そう言ってグリードは店内に向かった。

グリードは飲食をしないので──というか四脚の姿ではできないので──代わりに席代を払っているのだ。

最初は店側も遠慮していたようだけど、グリードの説得で席代をいただくことになったという顛末がある。

グリードは席代を払うと店を出てすぐに私の元へ来た。

 

「さてナナミ、君に先に言っておきたいことがある」

「何?」

 

私がドーナツを手にしながらたずねると、グリードの複眼の光が強く真っ直ぐに私を見つめた。

 

「私への断りなく、すぐに行動に移す癖は改めてほしい」

「え?」

「先程の検索のことだ。思いついたら即行動は君の尊ぶべき個性だが、何かあった時に私が対応ができない事態は避けたい。私がいない時はともかく、私がいる時はひと声かけてほしい」

 

……どうやら先程の私の思いつきの行動を諌めているようだった。

いや、だってあの時は時間なかったし、体のほうが先に動いちゃって……という言い訳は飲み込んだ。

 

「ゴメンね。できるだけ気をつける」

「私は君の力になりたいのだ。存分に利用してほしい」

 

私は思わず眉をしかめた。

 

「その言い方、あんま好きくない」

「突き詰めれば私は道具だ。人に利用されて価値が出る存在だ。だが、他ならぬ君がそう言うなら、今後は言い方を考慮することにする」

 

あんま、私の意図が通じていないように思えたので、更に眉間にシワを寄せた。

 

「グリードは道具かもしんないよ。多分それ正しい。でも私にとっては大切な友だちなんだよ。だから、友だちを利用するなんてしたくないし、その言い方も止めてほしいんだよ」

 

グリードは私の言葉を受けて沈黙した。

ロボットやAIは道具だ。

それはそうなんだけど、私はグリードのこと、本当に友だちだと思っている。

でも、私は全然子どもで助けられてばかりだから、対等の友だちになるべく、私の今できることを頑張っているのだ。

少しでもグリードの使命の手助けができるようになりたい。

そう思っているんだけどな。

……ちゃんと口に出して言おう。

口を開こうとしたら、グリードがテーブルに置かれた私の手に鋼鉄の手を重ねた。

 

「ありがとう、ナナミ。君が私のことを大切な友だちと認識してくれていることを……そう、これは嬉しいと認識している」

「でもそれってノイズなんでしょ?」

「そうだ。道具には不要のものだ。だが前にも話したが、このノイズこそが私を私たらしめるものであり、最早切り離せないものだ」

 

重ねている鋼鉄の手が優しく私の手を握った。

 

「君だけだ。このようなノイズを生み出しているのは君だけなのだよ。ナナミ」

 

その言葉に私の顔は一瞬にして顔が熱くなるのを感じた。

あの、これって口説き文句じゃないの?

今ここで言う言葉か?!

 

「ナナミどうした? 顔の表面温度と心拍数が上がったようだが──」

「だいじょぶだよ!!」

 

私は力強く即断言した。

 

「だから手を離そう。そんで本題に入ろ?! ね?!」

「そうだな。了解した」

 

グリードは素直に手を離し、私は照れ隠しにドーナツにかぶりついた。

うん! 美味し!

コーヒーを飲む。

うむ、組み合わせ最高!

 

「さて、ここに来るまでに開店までのスケジュールを作成した」

 

目の前に画面が展開される。

私とグリードの現実のスケジュールとゲームのスケジュールを合わせたものだ。

まずは、私とグリードの調理レベルをお店が開店できるレベルまで上げることが最優先になっていた。

そして開店に必要な資金稼ぎはグリードがやり、私は商品開発をすることになっている。

本当に真面目でしっかりしてるなー。

 

「グリード、私もお金稼ぎ手伝うよ」

「いや、資金については私が担当する。その代わり君には、商品開発と店舗デザインをしてほしい。調理スキルを上げることはもちろん、商品を開発し、店の外観やレイアウトを考えるのだ」

「今まさに何を作るか考えていたんだよねー」

 

私は再びドーナツを口にした。

このカフェ、デザートは普通にみんな美味しいんだけど、最近発売された四種類のドーナツは当たりだと思っている。

どれもみんな美味しくて、夜には品切れになっていることも多い。

SNSでも好評だったし。

……ドーナツにしようかな。

片手で食べられるし荷物としても嵩張らない。

あ、良くね? ドーナツ!

即座に立ち上がってレジへ行こうとした時だった。

 

「ナナミ」

 

グリードが少し強めの口調で私を呼び止める。

あ、そうだった。

グリードに一言言わなきゃ。

 

「うん、あのね、ドーナツ全種類買ってくる」

「何故だ。これで夕食をとったら、間違いなく一日のカロリーをオーバーする」

「あのね、お店の商品、ドーナツにしようと思って。なので、このお店のドーナツを調査したいので全種類買ってきます!」

「……君は本当にその場の思いつきですぐに行動をするのだな」

「ゴメンね。手伝ってくれたら嬉しい」

「鋭意努力しよう。ドーナツは全種類一つずつでいいのだな」

「そうだよ……って! どこ行くの?!」

「もちろんドーナツを買ってくる」

「私が調査するからって、早っ!」

 

私が言葉を続ける間にも、グリードはさっさと店内へ行ってしまった。

そしてドーナツを全種類とコーヒーをお買い上げし、席へと戻ってきた。

 

「グリード、お金……」

「店のための調査なのだろう? なら調査費用として私が出すの当然だ」

 

ズイッとコーヒーとドーナツがのったプレートを私に差し出す。

 

「さあ、調査開始だ。足りなければ言ってくれ。いくらでも追加するから」

「や、これで十分だよ」

 

何かわからないけど、グリード、気合入っている?

ロボなのに気迫みたいなのを感じるんだけど。

気圧されつつ、私はドーナツを取り上げてかぶりついたのだった。

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