多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

130 / 131
第二十七話 ごっこ遊びをした 7

日曜日の午後一時、グランシュタットにアンサンブルドーナツ、略してアンドー、オープンしました!!

結局、オープンまでに一ヶ月かかっちゃったから、実質一ヶ月間だけの私のお店。

シックだけどかわいい外観のお店と、その脇に置かれた開店祝いのお花を見て思わず涙ぐむ。

ゲーム内外問わず協力してくれた皆のおかげだ。

本当にありがたいし嬉しい。

 

「ナナミ、何かあったのか?」

 

グリードが私の様子に気付いて私を抱き上げ、目線を合わせた。

私は慌てて涙を拭う。

 

「泣いているのか? 何故だ? 現実で何かあったのか? 私に話せることなら話してほしい」

「大丈夫だよ。嬉しくて感動してたの」

「そうか」

 

グリードは視線を和らげ、私を抱きかかえたまま店を見つめる。

 

「君の夢の第一歩を叶えた。この一ヶ月、悔いのない経営で店を繁盛させよう」

「うん」

 

きっとあっという間だろうけど、どうせなら繁盛店にしたいな。

と、気配を感じてそちらを向くと、ウサ耳とネコ耳の獣人の女の子が私達を見ていた。

 

「あのお、今日開店したドーナツ屋さんってここであってますか?」

「あってます!」

 

私はグリードの腕から飛び降りると、店内に入って台の上に飛び乗りカウンターから顔を出した。

 

「いらっしゃいませー!」

「いらっしゃいませ」

 

グリードも営業スマイルを浮かべて初めてのお客さんを出迎える。

私の笑顔よりも、竜人グリードの接客に色めき立つお客さん二人。

正直よのう。

気持ちはわかるけどな。

私も未だにときめく時あるもんよ。

獣人の女の子二人は服飾と宝飾のお仕事をしているらしく、そのスキルアップのある星三のストロベリーと紅茶のドーナツを一つずつご購入。

ミニカップにも目をやったけど、値段が値段だけに諦めたようだった。

 

「ありがとうございまーす!」

「ありがとうございます。またお越しください」

「はーい」

 

獣人の女の子たちは、グリードの完璧な接客に完全に舞い上がりながら店を去った。

 

「……やっぱ、ミニカップに目が行くみたいだね。でも値段見てびっくりしてたみたいだった」

「そのような価格設定にしたからな」

 

女の子たちの姿が見えなくなってから口を開くと、グリードは私の方を向いた。

 

「星二と三のミニカップについては、金策目的の準廃や中堅以下のプレイヤーを振るい落とし、少しでも市場へ流れる量を調整する必要があった。そうしなければ、運営の手が入るのがわかったからな」

「……そうだね」

 

私はちょっとションボリしつつ頷いた。

初めて市場でドーナツを売り出した時のことを思い出す。

あの時、星二のミニカップをスロウスさんに買い占められ、グリード以外の皆が混乱していた。

 

「このスロウスさんて誰でっすか?」

「運営の一人だ」

 

ハンナちゃんの質問にグリードがあっさり答えると、ネコ耳さんが首を傾げた。

 

「グリードさん、どうして運営さんの名前をご存知なんですか?」

「このゲームを作った会社と現実世界で関わりがあるからだ」

「……あんた、どこかの会社の経営者なのか?」

 

狼さんが言うと、グリードは無表情で彼を見た。

 

「この世界で、現実での我々の素性を詮索するのは無粋ではなかろうか」

「違いない」

 

狼さんは苦笑したけど、すぐに真顔に戻った。

 

「……俺の予想だが、運営の手が入ったのってもしかしてデフレ対策か?」

「君の予想は正しい」

 

ん? デフレって物の価値が下がることだよね?

 

「何で私のミニカップが、デフレと関わってくるの?」

「ミニカップもそうだけど、君の商品全部が生産職の一時的なスキルアップに繋がることはわかるよね」

「はい」

 

狼さんに私は素直に頷く。

 

「そうするとグレードの高い商品が多く市場に出回りやすくなる」

「いいことでっす」

「買い手にとってはな。だが、星ニや星三の商品が数多く出回ることで価値が下がり、値段も下がる」

「あの……何かいい事のように思えるんですが」

 

ネコ耳さんの言葉に、狼さんの視線が厳しくなった。

 

「それが長く続くと、生産者にとっては売上や利益下がることになる。長い目で見るとあまり良くないことなんだよ」

「あー……確かに。それにモチベーションの問題も出てくんな」

 

ドワーフさんが腕を組みながら言う。

 

「簡単に上質の商品が手に入るなら、必死こいて金策する必要なくなるもんな。ゲームへの滞在時間が短くなる。それって運営する側にとっちゃ、あまり嬉しくないことだよな?」

「そのとおりだ」

 

グリードは頷いた。

 

「知恵と時間を使って金策をし、高難易度のクエストをクリアすることでプレイヤーたちの賞賛を得ることは、ヘビーユーザーにとっては大切なモチベーションではないかと推測する。そして運営側にとっても、安易に全てのプレイヤーに高難易度のクエストをクリアされる状況は、ゲームバランスを崩すことになるため手を入れざるを得ないのだ」

「そういうことかー……」

 

良かれと思ってやろうとしていることが、まさか混乱を招くことになろうとは。

私はガッカリしつつ、皆と相談して対応策を練ることにした。

で、その結果、ミニカップを含めた商品を私が想定していたお値段よりも高めに設定し、運営側のちょっかいを回避する手段を取ることにしたのだった。

ミニカップについては転売対策も含めて一人に二個までと個数制限もつけた。

でも、開店から一時間後にミニカップばかりを買うお客がいっぱい来て、瞬く間に売り切れてしまった。

 

「お金、持っている人は持っているんだねえ」

 

私は感心したが、グリードの表情なく言った。

 

「ナナミ、私は今から市場へ行ってくる。店を一人で任せてもいいか?」

「いいけど……何かあったの?」

「それを確認するために行ってくるのだ」

「わかった!」

 

私はグリードを送り出し、グリードがいない間も頑張って接客に勤しんだ。

開店初日ということと日曜日ということもあり、お客さんがたくさん来てくれて忙しかったけど嬉しかった。

しばらくして、グリードが無表情で戻ってきた。

 

「お帰りー。何かわかった?」

「嫌な予想が当たった。先程のミニカップの購入者たち、集団で転売をしている者たちだった」

「え」

 

私はグリードの顔をマジマジと見つめる。

 

「今現在、この店で販売したミニカップは二十個だが、その全てが五倍の高値をつけられて市場で販売されていた。人海戦術で商品を定価で買い占め、利益を得ようとしているのだろう。このままでは君のミニカップが投機の対象とみなされるのは時間の問題だ」

 

私はグリードの報告に空いた口が塞がらなかった。

だがすぐに我に返ると、拳を握りしめてグリードに宣言した。

 

「じゃ、ミニカップ、いっぱい作って価値を下げる!」

「それは焼け石に水の状態になると予想する。君の生産能力に限界があるからな。それに他の商品の生産と販売を無視することはできない。この店はミニカップ屋ではなく、ドーナツ屋だ。そのことを忘れてはいけない」

「ううう、そうだけどさー」

 

私の作った商品が正当に使用されず、お金稼ぎの道具にされていることが悲しかった。

何とかしたいと思っても、お金も時間も限りのある私の手には負えない状況なのが歯がゆかった。

 

「私に何かできることないかな」

 

するとグリードは私を抱き上げて顔に手を触れた。

好みの顔をした顔が間近にきて心臓が跳ね上がったが、グリードの視線は真剣だった。

 

「君にできること。それはこの店で一ヶ月間、悔いなく誠実に商売をすることだ。君が思い描いていた理想の店にするためにドーナツを作り、皆に信頼され喜ばれる接客をして商品購入してもらうことが、転売対策よりもずっと重要だと断言する」

「でも、転売対策してない店って噂されるかも」

「既に個数制限をして対策をしている。その上でさらに対策を立てることはもちろん必要だが、それは君の仕事ではない」

 

そしてグリードは微笑んだ。

 

「転売対策については私に任せてもらえないだろうか。根絶は不可能だが、打てる手はまだある」

「……うん」

 

私はグリードの言葉を受けて、弱気になる心にムチを打った。

グリードの言うとおりだ。

私はこのゲームではドーナツ屋さんで、生産職の皆に少しでも良い商品を作るお手伝いをしたいと思っている。

転売屋に振り回されて初心を忘れちゃいけない。

私はグリードの腕から飛び降りると、グリードを見上げて拳を振り上げた。

 

「じゃ、転売対策はお任せするね。私はドーナツを作るよ! そんで皆に喜んでもらえるようなお店にする!」

「その意気だ」

 

グリードはニッコリと笑った。

──魂が消し飛ぶかと思った。

好みの顔でそんな笑顔を向けるな!

私は挙動不審になりそうになるのを誤魔化すため、お店に慌てて入るとドーナツを作る準備を始めた。

 

「私、ドーナツ作るから、グリードは接客お願い」

「了解した」

 

煩悩退散! 煩悩退散!

私は材料をボールに入れて練り始めるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告