多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十七話 ごっこ遊びをした 8

開店から一週間が経った。

ゲームは大型アップデートを迎えて長時間のメンテナンスに入った。

このメンテナンスが終われば、新たな迷宮を目指してプレイヤーたちが殺到するだろう。

ハンナちゃんやそのお仲間さんたちは、この日のために有休を取ったそうだ。

私は今日は副業でログインできないけど、メンテナンス明けがどうなるか、とても楽しみでソワソワしていた。

もちろん、仕事はきちんとこなしていますとも!

 

「ナナちゃん、どう? お店は順調?」

 

お昼休み、補給基地で完全栄養食を食べているとアイちゃんが話題をふってきた。

私は苦笑する。

 

「最初の三日間は盛況だったけど、メンテ前には落ち着いたよ。開店ブーストがかかっている状態だったみたい」

「そっかー。ナナちゃんがいない日は、グリちゃんが店番してくれているんだよね」

「そう。ついでに転売対策もしてくれてね、本当にゲームの世界でも頭上がらないよ」

「でもさ、一時、SNSでちょっと話題になったよね」

「うん……」

 

私の考えたミニカップ、特に星三のグレードのものが転売の格好の対象となり、どんどん市場で値段が上がっていくことに目をつけたプレイヤーさんの投稿から、ちょっとした小火がおきた。

私はSNSでゲーム用のアカウントを作って運用してたんだけど、一部のプレイヤーさんからクレームとまではいかないまでも、ミニカップが買えない状況を何とかしてほしいという声をもらった。

私は申し訳ない気持ちで謝罪文を書き、転売の対応をさらに強化することを明言したのだ。

で、グリードが打った手が、販売個数を一人一個に変更し、買ったその場でミニカップを食べてもらうことだった。

開封して中古状態にするという現実にある手段をゲームに持ち込んだのだ。

これが覿面にきいて、今度は転売屋さんからクレームがきたけど、グリードは無視して構わないと言ったから私は無視して断固たる姿勢を貫いた。

こうしてミニカップは、本当に欲しい人が欲しい時に買う商品となったのだ。

 

「でもその市場? に出ちゃった商品は、すごいことになってるんでしょ?」

「うん。でも、もうそれは仕方ないって。今後は市場にできるだけ出ないように調整することで、運営のちょっかいを回避しようって」

 

アイちゃんがため息をついた。

 

「何か、お金にかけるパワーが凄い人がいるんだね。しかもゲームなのに」

「ね。現実でもそういう人なのかもね」

 

私達はお昼を食べながらゲームの話に花を咲かせ、そして午後の仕事に勤しんだ。

メンテ終了は午後五時。

六時に仕事が終わり更衣室でSNSを確認したときには、既にメンテは終わっていて、いち早くログインした人たちが新たなダンジョンに挑戦しているポストが並んでいた。

それと同時に、メンテ明けにログインをする人が集中し、ログインの順番待ちをしている人たちの嘆きのポストも見受けられた。

ハンナちゃんは……あ、無事にログインできて仲間の皆とダンジョンに挑もうとしているところだった。

頑張ってね、ハンナちゃん。

私は応援を込めてイイねボタンを押すと、着替えて会社を出た。

副業先に行くため、地下鉄の駅へと向かう。

と、端末が震えてメッセの着信を知らせた。

 

「ナナミ、こんばんは。仕事は終わっただろうか。私は仕事が終わり次第ログインをして店番をする。君は安心して副業に専念してほしい」

 

相変わらずスタンプも絵文字もない文字だけのメッセだが、グリードらしいと言えばらしい。

私は地下鉄の駅に着くと、ホームで電車を待ちながら返信をすることにした。

 

「グリード、こんばんは! 仕事が終わって、これから副業先に向かうところだよ! ログイン待ちの人いるみたいだから無理しないでね」

 

可愛いタヌキさんのスタンプをあわせて送信。

これでよし!

端末を閉じて、ちょうど来た地下鉄に乗った。

お仕事、引き続き頑張ろう!

私は小さくガッツポーズを取るのだった。

しかし現実は甘くなかった。

グリードは、ログイン待ちが三時間とのことでログインを断念し、お店は臨時休業することになった。

 

「市場の状態を直接確認したかった」

 

副業が終わったあとにお家でグリードとやり取りをした時、グリードは残念そうな様子で言った。

その様子に、私はちょっと嬉しくなった。

グリードが演技とはいえ、残念そうな様子を見せたことに表現力が更に上がったことが見られて、それが嬉しかったのだ。

 

「明日はログインできるといいね」

「そうだな」

 

こうしてアップデート後のログインは明日に持ち越された。

そしていよいよ今日はログインする日だ。

公式のSNSの情報では、ログインができない問題は明け方には解消され、現時点では問題なくログインできるとのことだった。

今はできるだろうけど、夕方から夜はまた混雑するんじゃね?

私は疑心暗鬼になったけど、今はこれからの本業に集中することにした。

家を出て電車に乗り出勤。

集中してお仕事を頑張った!

 

「先輩、今日はログインするでっすか?」

 

休憩時間中、ハンナちゃんとメッセでやり取りをした。

 

「うん。グリードは昨日ログインしようとして諦めたけどね。今日はログインできるといいなって」

「運営が徹夜で頑張って作業していたようで、今日は待つとしても、そこまで時間はかからないんじゃないかって仲間内で予想しているでっす」

「だといいなあ。グリード、市場の様子をすごく気にしてたし」

「グリードさん、すっかり経営ゲームにハマっているでっすね」

「そだね」

 

私達は笑いあうスタンプを送りあった。

 

「先輩のお店、繁盛するといいでっすね」

「本当にね。頑張るよー」

 

私は燃えているたぬきさんのイラストスタンプを送った。

そして午後も仕事に集中して取り組み、定時で退社、夕飯を買ってVRカフェへと向かった。

途中、グリードからメッセが入った。

 

「こんばんは、ナナミ。仕事は無事終えただろうか。私はあと一時間ほどで仕事を終えてゲームにログインする予定だ。SNSの情報では三十分から一時間待ちとのことだった」

 

私は立ち止まり、素早く画面をタップする。

 

「こんばんは! 今カフェに向かっているところだよ。待っている間に夕飯食べて、ログインに備えるね」

「了解した。ログインできたら、SNSのゲームアカウントに開店の告知をしてほしい」

「りょー!」

 

敬礼しているタヌキさんのスタンプを送信し、私は再び歩き始めた。

VRカフェに到着し、三時間の予約をして個室に入室する。

ゴーグルをつけて早速ログイン! しようとしたけど三十分待ちとのことだった。

じゃ、予定通りご飯食べて待ちますか。

買ったおにぎりを食べながら、待機画面を見つめること三十五分。

ログインのチャイムが鳴り、私は大迷宮物語の世界へと降り立った。

噴水広場は見たことがないほどキャラクターたちで溢れかえっていた。

あー、これは凄いなあ。

私が始めた時期って閑散期だったのかと錯覚するほどの賑わいだ。

そして視界の低さが何か懐かしい。

たった数日しか経ってないのにね。

ひとまずお店へと向かおう。

開店の準備をしてSNSに告知しないと。

私はトタトタ走ってお店へと向かった。

 

噴水広場の賑わいに比べて、店の周辺はいつもどおりの人の往来だった。

思わずホッとする。

お店に入り、在庫の確認をして開店の準備を始めた。

ひとまず今日は在庫を出し切っちゃって、市場の様子を確認してから追加で作ろう。

そしてSNSで開店の報告をし、私は数日ぶりにお店を開いた。

しばらく暇だったけど、三十分後くらいにポツポツとお客さんがやって来た!

接客をしながら情報も収集する。

曰く、新素材が出て武器防具や装飾品のレシピが出現したこと。

当然のことながら、新素材の価格が高騰していること。

新たなダンジョンの敵が極めて強力であり、歴戦の廃ゲーマーでも苦戦し、ダンジョンの最奥にいるボスを討伐した話はまだ出ていないこと。

ダンジョンで獲得したレアな武器や防具、アイテムがとんでもない桁の値段で売り出されていることなどだ。

 

「となると、皆さんの腕の見せ所ですね」

「ここのドーナツ食ってブーストするぜ」

「迷宮のレアアイテムに負けないもの作ってみせるからね!」

 

意気込む職人さんたちと軽く雑談をしつつ、私は接客を続けた。

そして一時間が経過した時、武器防具装飾品を始めとしたドーナツが売り切れ始めた。

お客さんの波が途絶えている間に、SNSで売り切れ商品を報告する。

商品、補充したいなあ。

そう思っていた時だった。

 

「ナナミ、一人で任せてすまない」

 

竜人グリードが走ってやってきた。

おー! グッドタイミング!

 

「グリード、こんばんは! 来てくれて助かったよ。在庫切れの商品出ちゃったから、今すぐ作りたい!」

 

グリードは在庫を確認しすぐに頷いた。

 

「そうだな。店番は私がするから君は商品を作ってくれ」

「うん! お願いね!」

 

私はお店の裏でドーナツを作り始めた。

こうして私の今日のゲームプレイ時間の大半はドーナツ作りに費やされた。

その間にもお客さんがポツポツと来てくれて、売上は想定の範囲内に収まった。

 

「ゴールデンタイム中だけど、私、時間だから上がらないと」

「在庫は十分だ。閉店まで私に任せてくれ」

「いつもありがとう」

 

私がペコリと頭を下げると、グリードは屈んで腕を伸ばして私を抱き上げた。

おおおお、好みの顔を間近に見ることになって心臓が跳ね上がる。

 

「また明日の朝に会おう。気をつけて帰ってくれ」

「う、うん」

 

顔が火照るのを隠しきれず、うつむく私にグリードは私の頬に手を触れた。

 

「顔を隠さないでくれ。店番については気にしなくていい。できる範囲であと一ヶ月、楽しく経営をしよう」

「わかった」

 

グリードは何か勘違いをしているようだけど、ドーナツ作りで疲れていた私には否定する気力もなかった。

時間通りにログアウトして店を出て家に戻った。

シャワーを浴びてニュースの確認とゲームの情報を確認する。

……やっぱり新ダンジョンのボスを討伐したという話はない。

今までになく難しい。

それが大多数のプレイヤーの感想だった。

私の作ったドーナツで、少しでも力になれるといいな。

私は端末を充電器に置いてベッドに横になる。

さあ寝よう。

明日は副業もあるし、バッチリ寝てしっかり現実世界でも働くんだ!

 

「おやすみなさい」

 

家の電気が消え、私もまぶたを閉じて眠りについた。

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