多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

132 / 132
第二十七話 ごっこ遊びをした 9

世間は夏休み期間に入り、私の勤め先も夏休みになった。

私は有休を利用して一週間の休みを取った。

だけど私は、現実世界では副業のメンテナンスステーションのバイト、ゲーム世界ではドーナツ屋さんの経営ごっこ。

つまりずーっと働いている状態だった。

現実もゲームの世界も夏休み期間ということでお客さんのかき入れ時なのだ。

ここがふんばりどころなのはわかってるし、働いている時は楽しい。

しかしふとした時、そうまさに今なんだけど、虚しさに襲われる時がある。

 

「私の今年の夏休みは労働で終わるのかな」

 

ゲーム世界にログインした私は、今日も今日とてドーナツを作りまくって疲れたため一休みすることにした。

ログインしたまま、VRゴーグルを始めとした装置を外し、防音設備の整った壁を眺めながらアイスコーヒーを飲んだ。

そして呟く。

 

「バカンスしたい」

 

心からの欲求だった。

海やプールに行って泳いで、美味しいご飯食べてはしゃぎたい。

山に行って見晴らしのいい景色を見て気分転換したい。

夜景や星空を時間を気にせずに眺めたい。

動物や植物を見て心癒やされたい。

自業自得のこの状況になってから二ヶ月半、今が一番苦しい時なのだと理解した。

だがあと二週間だ。

あと二週間で移動距離の制限が解除される。

そうすれば、また私の行きたいところに自由に行けるようになるのだ。

ちょっと時期がずれちゃうけど、バカンスを楽しみ、美味しいデザートもモリモリ食べてやるからな!

アイスコーヒーを音を立てて啜り、力強くテーブルに置いた。

よし! 休憩終了! 戻って働くぞ!

私はVR機器を装着し、再び私が望んで作り上げたお店へと戻ってきた。

と、目の前にイケメンの竜人が私の前に膝まずき、顔をのぞき込んでいた。

 

「うおっ!」

 

思わず声を上げて仰け反る私に、竜人グリードがその体を支えた。

 

「大丈夫か?」

「あ、うん。でも、いきなりでビックリしたよ」

「すまなかった。君が何か呟いたようなのでそれを聞き取ろうとしたのだ」

 

あ! マイクを切るのを忘れていたのか。

 

「……何呟いているのか聞いた?」

「いや、聞こえなかった。何を言っていたのだ?」

「アイスコーヒー、美味しいなって」

「そうか」

 

セーフ!

私は心から安堵した。

どうやらグリードには気づかれなかったようだ。

グリードは、私がこのゲーム世界にお店を作ることに積極的に協力してくれた存在。

そんなグリードに弱気になっているところなど見せたくなかった。

グリードは私の肩に手をおいた。

 

「しばらくこの世界ではかきいれ時が続く。それはリアルでもそうだろう。辛くなったら遠慮なく言ってくれ。君が楽しめないのなら意味がないからな」

「うん。そん時はちゃんと言うよ。心配しないでね」

 

私が笑顔で言った時だった。

大きな鐘の音が町中、いや、このゲーム世界に響きわたった。

運営からのインフォメーションだ。

 

『先程、最新のダンジョンのボスが討伐され、ダンジョンをクリアしたプレイヤーたちがでました。おめでとうございます!』

 

「おお! クリアした人出たんだ」

「そのようだな。これで攻略法が確立されれば、更に多くのプレイヤーがボスに挑むために準備を進めるだろう。生産職はさらに忙しくなると予想する」

「そうだね」

 

グリードの言葉に頷き、私は椅子から飛び降りると、レジ前の足場に立った。

 

「じゃあ、残り一時間半、がんばるぞ!」

「了解した」

 

グリードもニッコリ笑って頷くと、私の横に並び立った。

ダンジョンをクリアしたことで、すぐに客足に変化はなかったけど、世界全体の雰囲気が熱気と興奮に満ちたように感じた。

結局この日は予想通りの売上にとどまり、グリードは市場の様子を見てくるとのことで、そのまま私はログアウトすることにした。

帰りの電車を待ちながらSNSを確認する。

トレンドにボス討伐、ダンジョンクリアが入っていた。

バージョンアップして二週間。

ようやく討伐出来たんだもんね。

そりゃ盛り上がるわな。

と、タイムラインにハンナちゃんのコメントが上がった。

 

「討伐動画を見た。メッチャためになる! これ見て研究して絶対に今月中にボスをやっつける!!」

 

おー! がんばってね、ハンナちゃん!

私はすぐにイイねボタンを押した。

ハンナちゃんはもちろんだけど、そのお仲間さんや他のプレイヤーも早速のボス討伐の研究に取り組んでいるようだ。

本当に熱心だ。

本気で遊びに取り組めるって、とても良いことだと思う。

まあ私はね、裏方としてあと二週間ドーナツを作り続けますよ。

家に戻ると一通りのことを済ませてからゲームアカウントを立ち上げる。

ボス討伐のお祝いコメントをし、さりげなーく店の商品をPRした。

生産職の皆さん、ぜひアンドーにお立ち寄りくださいね!

送信! ……これで良し!

満足して寝ようとした時だった。

ポンとダイレクトメールが一通着信した。

ん? グリードかな?

メールを開くと、そこには今日ボスを討伐したという人からお礼が綴られていた。

 

信じてもらえなくてもいい。

あなたのお店で買ったドーナツを食べまくって、装備を完璧なものに仕上げた。

そのおかげでボスを討伐できた。

ありがとう、という内容のものだった。

続いて画像が送信されてくる。

何やらおどろおどろしい怪物を討伐した瞬間と、装備の内容をスクショしたものだった。

……え? これ、本当かな?

グリードに共有して、それからコメントしよう。

早速グリードにメッセで連絡を取り、コメントと画像を共有した。

 

「コメント先のアカウントの確認と、画像を解析した結果、ほぼ間違いなく今日ボスを討伐した人物のものだと判断した」

「おお! そうなんだ!」

 

うわあああっ! めでたいし嬉しいねっ!!

私はニコニコ笑顔になった。

私の作ったドーナツがダンジョン攻略に少しでも役に立った!

その事実が大きな力となって体中に漲った。

 

「そっかそっかー! わざわざお礼のメッセージを送ってくれるなんて、丁寧な人だなあ。こっちも負けじとちゃんとしたメッセージ送らないとね!」

「そうだな。しかしナナミ、君は攻略動画を見ていないのか?」

「ん? 見てないよ? 何で?」

 

だって私には関係ないじゃん?

お店の経営や、金策、調理スキルアップ絡みの動画ならともかく、ねえ。

 

「攻略動画のコメント欄で、装備について触れられていて、そこで君の店の商品を利用した旨が書かれていた」

「……ふーん?」

 

だから何だろう?

 

「どうやら事態を把握していないようだ。新ダンジョンを一番最初に攻略した人物、つまりインフルエンサーが君の店を宣伝したのだ。店は明日は定休日。恐らく、明後日の開店時に客が殺到すると予想する」

「えー、そうなの?」

「あくまで予想だが、攻略には装備がやはり重要なのを改めて知らしめたのだ。生産職は星三の装備やアイテムを作るのに躍起になる。そして成功の確率を上げるために君の作るドーナツを欲しがるはずだ。覚悟をしておいたほうがいいだろう」

「……わかったよ」

 

私は未だにピンときてなかったけど、とりあえず頷いた。

グリードの会話を切り上げ、私はメッセージをくれたプレイヤーさんに丁寧にお返事を書いて送った。

これで良し! バッチリじゃんね!

私は満足し、今度こそ寝る支度を始めるのだった。

そして次の次の日。

ログインした瞬間、先にログインしていたグリードから音声チャットが届いた。

 

「ナナミ、急いで店に来てくれ。店の前に行列ができている」

「え?!」

 

え? 何で?!

とにかく私は急いで店に向かうと、店の前に列がきれいに形成されていて、グリードが誘導をしていた。

 

「グリード!」

「ナナミ、開店の準備をしてくれ。定刻より早くなるが、このままでは近隣の店に迷惑をかけかねない」

「うん! わかった!」

 

私達のやり取りを聞いた列のお客さんから拍手がおこった。

いったいいつから待ってたんだ? この人たち。

私は急いで店に入ると、開店準備を急いで進めた。

最終チェックをして、よしやるぞ!

私は台の上に立つとカウンターから両手を振った。

 

「お待たせしました! アンサンブルドーナツ、開店しまーす!!」

 

大きな声で告げると、再び大きな拍手が巻き起こった。

……何だこれ。

内心呆気にとられつつ、私はドーナツを売り始めた。

やはり売れるのは、鉄鋼、革、木工、服飾関連といった武器や装備に繋がるものだ。

グリードが列の形成をしてくれるから、接客と、品出しと、レジを全部担当しなくてはならない。

うおおおおお!

負けんぞおおおおお!

無我夢中で働き、およそ一時間後には全てのドーナツが完売となって閉店となった。

あんなに在庫作ったのに、すっからかんだ。

 

「辛うじて待っていた人たち全員の手に商品が渡ったようだが、私の予想を超える集客だった。インフルエンサーの拡散力と影響力を改めて学ぶことができたのは僥倖だ」

「そっかー」

 

グリードが平然として言うのを、私はぐったり椅子に座って聞いていたけど、気を取り直してグリードを見上げた。

 

「残り二時間、またドーナツ作りに専念するよ。でもどれくらい作ったらいいかな?」

「倉庫に格納できるギリギリまで作っても、恐らく三時間以内には売り切れると予測する」

「うーん、だとしたら、開店中も私はドーナツ作りに専念して、グリードが接客に回ったほうが良い感じ?」

「それがいいだろう。アルバイトを雇えればいいが、教育する時間がないのが悩みどころだ」

「期間もあと二週間足らずだもんね」

 

私がため息をつくと、グリードは跪いて私に視線を合わせた。

 

「ナナミ、無理はしていないか? これはゲームだ。子どものごっこ遊びの延長だ。真剣にやるのはいいが楽しめなければ意味がない。本当に大丈夫か?」

 

その視線は真剣に私を案じてくれているのがわかった。

だから私はグリードの端正な顔に手を触れた。

 

「大丈夫だよ。さっきも言ったけどあと二週間足らずでこのごっこ遊びも終わり。だから全力で駆け抜けるよ。だから私に力を貸して欲しい」

 

そう言うとグリードは嬉しそうに微笑み、私の手に大きな手を重ねた。

 

「もちろんだ。君の望みを叶えるために私はこのゲームに参加をしている。最後の瞬間まで君の夢を支えよう」

 

私達は笑い合い、私はグリードから手を離すと椅子から飛び降りた。

 

「よし! 私はドーナツ作ってるから、グリードは好きなように動いていて!」

「了解した。まずは近隣の店にお詫びをし、それから市場調査へ行ってくる」

「あ! お詫びなら私も一緒に──」

「大丈夫だ。君は在庫の補充に専念してくれ」

「……うん」

 

こうしてこの日はドーナツを作りまくってログアウトした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告