多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十八話 熱帯植物園に行った 1

私の名前はナナミ・カリヤ。

この星、唯一の人類の生存圏であるアパテイアというドーム状の街に住んでいる。

職業は資源調達員。

先の大戦による放射線や暴走したナノマシンによってボロボロになったこの星で、街の外に放置されている貴重な資源やデータをかき集めるのが主な仕事だ。

今は補給基地でお昼休憩をとっているところ。

向かいに座り、スティック状の完全栄養食──バニラ風味──を食べている同僚にして友人のアイちゃんに、私は完全栄養食──私は好物のチョコ風味──を食べる手を止めて厳かに言った。

 

「ドライブに行きたい」

 

アイちゃんは私を見つめつつ完全栄養食をモグモグしていたが、やがて飲み込むと口を開いた。

 

「行けばいいんじゃない?」

「うん。今週末に行こうと思ってる」

「いいと思うよ」

 

アイちゃんは愛嬌バッチリの顔に笑顔を浮かべて頷いたが、すぐに首を傾げた。

 

「何か問題でもあるの?」

「行き先が決まってなーい」

「それは大問題だねー」

 

言葉とは裏腹にアイちゃんはニコニコ笑っている。

 

「ナナちゃんはドライブでどこか行きたい場所あるの?」

「いっぱいあるよ。サイバーシティ・オオエドとか、アパテイア南展望公園とか」

「……南展望公園って、街の南の端っこにあるただのお山だよね」

「うん。家から遠いからチョイスしてみた」

「ただ単に遠い場所に行きたいだけなの、ナナちゃんらしいね」

 

アイちゃんは苦笑したが、やがて真面目な表情になった。

 

「だったら悩む必要ないと思うけど?」

「グリードを連れてくの」

「それが何か問題あるの?」

 

私は腕を組んだ。

 

「グリード、いつも私の行きたい所に付いてきてくれるんだけど」

「グリちゃんらしいね」

「だから今回は、グリード自身が行きたい場所に連れて行きたいなって」

「うんうん」

 

私は腕を組んだまま思い切り眉をしかめる。

 

「だからグリードに聞いたの。グリードの行きたい場所はないかって。そしたら、君の行きたい所が私の行きたい所だって言ってくんの」

「……あー、グリちゃんが主体的に行きたい場所がないわけね」

「そう! それ!」

 

私はアイちゃんを指差した。

手をおろし、アイスコーヒーを一口すすって言葉を続けた。

 

「私、常々グリードには私以外に好きなものができてほしいって思ってるんだけどさ、未だにそれができてなくて」

「うーん。ロボットにしてAIだもんね。そもそもロボやAIに心があるのかって話だし」

「この際心の有無は置いておいて、グリード、興味のあるものあるんだよ。それが好きに至った例がなくてさ」

「グリちゃんの興味のあるものって?」

 

たずねるアイちゃんに私は指を立てながら言う。

 

「人の欲望と幸福」

「グリちゃんのもはや代名詞だね」

「製造者から与えられた最上位の使命だからね。あと経営もそうなのかな」

「お仕事だもんね」

「うん。それと深海でしょ、宇宙でしょ、あとは……熱帯植物」

「……何か、マニアなラインナップだね」

「そなんだよねー」

 

私は再度、腕を組んだ。

 

「で、深海は去年のクリスマスに行ったんだ。アパテイア深海水族館。だから宇宙か熱帯植物にしようかなあ」

 

するとアイちゃんが身を少し乗り出した。

 

「宇宙って、七鞘(ななつさや)航空宇宙博物館のこと?」

「そだよ。宇宙っていったらあそこ一択でしょ」

「うん。あのね、そこは私とユーゴで一緒に行かない?」

 

およ?

表情に出たのだろう、アイちゃんは再びニコニコ笑顔になった。

ちなみにユーゴとは、アイちゃんの最愛の彼ピのことだ。

 

「ユーゴが宇宙に興味があって、年パス持ってくらい博物館に通っているのは知ってるでしょ?」

「前にそんなお話してたね」

「うん。別にそれが不満なわけじゃないけど、ちょっとマンネリも感じてて……」

「そっかー、私とグリードを連れてくことでマンネリ打破したいわけね」

「ぶっちゃけるとそんな感じ」

 

ばつ悪そうにアイちゃんは笑うけど、気持ちはわからなくもない。

私もグリードが興味あるからといって、深海水族館に何度も足を運んでいたら、元々私自身はそこまで興味はない。

いずれは飽きてしまうだろう。

状況を理解し、私はニッコリと笑った。

 

「たまにはみんなで遊びに行くのもいいね。アイちゃんたちが良かったら、ぜひお供させてほしいなあ」

「うん! ユーゴと話してみる。たぶん断ることはないと思うけど、シフトのことがあるから日程調整が必要だし」

「おけー。まずはそちらに任せるね」

 

ユーゴさんはこの街では花形の仕事と言われる傭兵だ。

傭兵とは、街の外にはびこる危険物や危険生物を排除するのが主なお仕事で、誇張ではなく傭兵なくしてこの街の繁栄は決してない。

私達、資源調達員が安全に資源を調達できるのも休み無く働き続ける傭兵のおかげなのだ。

私は椅子に深く腰掛けなおした。

 

「となると、残りは熱帯植物か」

「確か熱帯植物専門の植物園あったよね」

「うん。アディス熱帯植物園だったかな? マニアな博物館の一つとして挙げられてた」

 

私が言うと、アイちゃんは遠い目をして虚空を見つめた。

 

「去年、グリちゃんとアパテイア植物園に行ったでしょ」

「そうだね。何か懐かしいね」

「うん。その時にグリちゃん、食虫植物に釘付けになっていたよね」

「……うん」

 

食虫植物そのものと、その姿を真剣に観察するグリードに、私とアイちゃんはドン引きしたことを思い出す。

 

「グリちゃんはあれかな? ちょっと不気味なものが好きなのかな?」

「まだ好きって確定したわけじゃなくて、普段見慣れないものだから興味深いとは言っていたけど」

「そっかー」

 

するとアイちゃんは真剣なマナコになって私を見た。

 

「ナナちゃん、頑張ってね!」

「うん。できる限り偏見のない状態で挑むよ」

 

私が力強く頷いた時、ドアがノックされた。

私達が応じる前にドアが開く。

顔を見せたのは私の仕事の先輩兼バディであるロイさんだ。

 

「おう、お前ら昼飯食ったか? そろそろ仕事再開すっぞ」

「はーい」

「ていうか、応じる前にドア開けないで下さいよ」

 

私が訴えると、ロイさんは面倒臭そうに頭を掻いた。

 

「はいはい、失礼しましたよ。お嬢さん方」

「反省している様子が全くないです」

「反省してますよー。俺、ご覧の通り強面だから伝わりづらくてなー」

 

適当な調子で言うロイさんに、私とアイちゃんは揃ってため息をつきつつ立ち上がった。

私はアイスコーヒーを飲み干して、完全栄養食の空袋と一緒にリサイクルボックスへ放り込む。

 

「じゃあ、午後も安全第一で頑張りましょう」

「おー」

 

アイちゃんの声かけに私とロイさんは唱和し、私達はハンガーへと足を運ぶのだった。

そして午後も安全にお仕事をし、退勤後に地下鉄で副業の仕事先へ向かう。

副業はメンテナンスステーションの接客だ。

メンテナンスステーションとは、車やトラックの他、ロボットや強化外骨格(パワードスーツ)の充電やメンテナンスを行う場所。

メンテナンスステーションでのカフェで、人型ロボット(アンドロイド)のサヤネさんと接客したり、店長のリヒトさん──こちらは人だ──と人や車やロボットを誘導したり。

三時間きっちりお仕事をし、帰宅したのはもう少しで夜の十一時になる頃だった。

シャワーを浴びて寝る準備をバッチリ済ませてから、大型端末を立ち上げてメッセの確認をする。

その中の一つにグリードからのメッセージがあった。

着信は三十分前だ。

 

「ナナミ、こんばんは。今日は本業と副業、お疲れ様だ。まだ週半ば。体調を整えることを最優先に今夜はゆっくり休んでほしい。返信は不要だ」

 

スタンプも絵文字もない、全く飾り気のない文章は、四角四面な性格設定をしているグリードらしい。

毎日送られてくるお疲れ様メッセージは、私にささやかながら明日への活力を与えてくれる。

返信不要とのことだったけど、私はテキストを打ち込んだ。

 

「グリード、こんばんはー! 夜遅くにゴメンね! お疲れメッセージ、ありがとう!」

 

最近お気に入りのタヌキのイラストのスタンプをつけて送信。

すぐに既読マークが付き、メッセージが表示された。

 

「改めてこんばんは、ナナミ。返信は不要だと伝えたが」

「そうなんだけど、どうしてもお知らせしたいことがあってメッセしました」

「お知らせとは何だろう」

「はい! 次の日曜日にドライブに行こうと思っています! それで、グリードも一緒に行けたらいいなと思ってお知らせしました!」

 

ババーンと両手を広げてバンザイするタヌキさんのスタンプを同時に送信する。

 

「そうか。次の日曜日は特に予定はない。ぜひ同行させてほしい」

 

私のテンションに関係なく、あっさり淡々と了承の返事をするグリード。

真面目一辺倒のグリードにテンションの高いメッセージは期待してないけど、私だけが浮かれているみたいでアホの子のように思えてくる。

まあ事実、私は経験の浅いアホな小娘だけどさ。

 

「それで、ドライブの行き先はどこだろうか」

 

グリードの問いかけに私は即、植物園のことを伝えようとしてテキストを打つ手を止めた。

途中まで打ったテキストを消して改めて打ち直す。

 

「当日まで内緒でーす」

「わかった。では追求はしない」

 

本当にアッサリしてんな、このロボ。

 

「それともう一つ、私はどの姿で行けばいいだろうか」

 

ん?

 

「別にいつもどおりの四脚でいいよ」

「車はレンタルするのだろう?」

「そだけど」

「四脚の姿だとレンタルできる車が限られてくると予想する」

 

……あ、ああっ!!

確かにいつもの四脚の姿では助手席に乗せられない!

四脚のグリードは、私の胸の高さくらいかつ、幅は私の肩幅より大きい。

おまけにコンテナを背負っていて、長さもそこそこにあるのだ。

やっべ! 完全に失念してた!

私はおでこに手をあて、うなだれた。

 

「ナナミ、どうした?」

 

グリードの追加メッセージに私は顔を上げ、急いでテキストを打ち込んだ。

 

「ドライブと目的地を考えるのに夢中でそのこと考えてなかった」

「もしやと予測していたが的中したか。検索した限りでは私が四脚だった場合、車種は軽トラック一択になる」

 

初ドライブが軽トラック!

……うん、全然ありじゃね?

 

「じゃ、軽トラで」

「待ってくれ。君は車を選ぶことも楽しみにしていたのではないのか」

「まあね。ティガーみたいなスポーツカー、乗ってみたかったけど」

「私が人型になれば選択肢は増える。一度再考することを要請する」

「や、いいよ」

 

私はニコニコするタヌキさんのスタンプを送信した。

 

「私は多脚ロボットのグリードの方が好きなんだよ。人型よりもずっと馴染み深いし愛着もある。だから軽トラで行くよ! 決めた!」

 

私がテキストで宣言すると、既読マークがついたまま、グリードからの返事がしばし途絶えた。

あれ? どうしたのかな?

 

「おーい、グリード、どしたのー?」

「すまない。しばし考えを巡らせていた」

 

んん? 何考えていたんだろ?

 

「車種は君の好きな車にすればいい。ただ、まだ時間はある。他の車にしたいならいつでも言ってくれ」

「おけー。また連絡すんね」

「承知した。それでは、おやすみナナミ。良い夢を」

「ありがとう! おやすみー」

 

おやすみなさいするタヌキのスタンプをつけて送信した。

これでよしと!

私は満足し、メッセを閉じた。

時計を見れば既に次の日を迎えている。

軽トラ、検索したかったけど、明日にすっか!

ふふふ、楽しみだなー!

私は端末を落とし、機嫌よくベッドに横になった。

 

「おやすみなさい!」

 

その言葉とともに、部屋は暗闇に包まれた。

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