多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十八話 熱帯植物園に行った 2

ドライブ当日の朝八時半。

私は超ゴキゲンで地下鉄に乗り、軽トラを借りにレンタカー屋さんへ向かっていた。

うっふっふっふー。

気を引き締めなければ顔がすぐに緩んでしまう。

今日この日を本当に楽しみにしていたのだ。

一昨日はアイちゃんやロイさんにも指摘された。

何の車を借りるのか聞かれて、軽トラと答えたときの二人の表情ときたら今思い出しても解せない。

 

「初ドライブが軽トラックって、ナナちゃんはそれでいいの? もっとカッコイイ車も可愛い車もあったでしょ」

「四脚のグリードを載せるには軽トラ一択になるのはわかるけどよ、もうちょっとこだわっても良かったと思うぞ」

 

唖然としたような、呆れたような二人に、私は内心で憐れみを抱いた。

この二人はわかっていないのだ。

軽トラがメチャイカした車だってこと。

だから語って聞かせたのだ。

軽トラがいかに素晴らしい車なのか。

燃費、コンパクトさ、小回りがきいて狭い道や舗装されていない道も走れる機動性。

四脚のグリードを余裕で載せられる積載能力。

ステキな働く車だ。

そういうの、大好きだ!

気分良く語る私に二人の反応は何故か微妙だった。

 

「お前はパワードスーツ以外にも軽トラオタも兼ねていたのかよ」

「ナナちゃん……そうだったね。働く車、大好きだったもんね。うん、もう何も言わないよ」

 

残念だが、私の語彙では軽トラの魅力を語りきれなかったのだろう。

しかし、今日実際に乗ることできっとその魅力を更に知ることができる。

そしたらまた話して聞かせてやろう。

私はまた顔がニヤけているのに気付き、顔を引き締めた。

そして目的地の駅に到着。

ワクテカしながらレンタカー屋に小走りに向かった。

お店に一番乗りで入店。

アンドロイドの男性店員さんが接客応対し、本日借りる軽トラのもとへ案内してくれた。

……きたよ。

きたよきたよきましたよおおお!!

私のテンションは最高潮に達した。

機能美の極限を突き詰めた造形!

ピカピカに磨かれた純白のボディ!

必要最低限のAIによるシステムを搭載した、超シンプルな運転席!

ふおおおお! 最っ高!

ハイテンションのまま、店員さんそっちのけでグルグルと車を仔細観察する私。

 

「カリヤ様、久しぶりの長距離運転とお聞きしております。本当にAIによるアシストは必要最低限のこの車でよろしいでしょうか」

 

声をかけてきた店員さんに私は笑顔で頷いた。

 

「はい! できる限り自分の力で運転したいんです!」

「かしこまりました。それではこちらが物理キーになります」

「はーい!」

 

私は物理キーを受け取った。

よっしゃあ! これで今日一日、この車のオーナーは私だ。

よろしくお願いね!

私はポンと軽くボディを叩いた。

あ! そうだ!

私は勢い良く店員さんの方を向く。

 

「写真撮ってSNSに上げていいですか」

「もちろんでございますよ。よろしかったら一緒にお撮りしましょうか?」

「お願いしますっ!!」

 

こうして店員さんのご厚意で軽トラと一緒に写真を撮ってもらった。

写真を見せてもらい、思わず吹き出す。

ぶっふぉ! メチャにやけてて不細工すぎんじゃんよ!

……ま、いいか!

車はキレイに撮れてるしね。

その後、軽トラ単体でも写真を撮り、いよいよ出発する時がやってきた。

運転席に座り、ドアを閉めてシートベルトを装着。

物理キーをさそうとして大事なことに気付いた。

そうだ! グリードに連絡しなきゃだよ!

私はメッセを立ち上げてグリードに今から迎えに行くことを伝えた。

ついでに先程撮ってもらった不細工な私とカッコイイ軽トラの写真も送付する。

これでよし! と。

物理キーをさして、エンジンのスタートボタンを押した。

元気のよいエンジン音に思わずニッコリする。

お、張り切ってんね!

店員さんが笑顔でお辞儀をした。

 

「それではカリヤ様、お気をつけて行ってらっしゃいませ。良い一日を」

「ありがとうございます! 行ってきます!」

 

私はゆっくりとアクセルペダルを踏み込んだ。

ゆっくりと車は前に進み出し、徐々に加速する。

店員さんの指示に従って車を店の駐車場から一般道へ。

難なく車の流れに乗り一路、グリードの待つ一鍔(ひとつば)重機へ向かった。

最初はちょっぴり緊張したけど、そこはAIのアシストがついている上に、道路自体も街の管理AIの目が光っている。

程なくして運転に慣れた。

まあでもね、無理なく安全運転ですよ。

そのまま一般道を進み、道路標識に従ってビジネス区画に入った。

高いビルが立ち並ぶ区画を走り抜け、一鍔重機のビルを目指す。

そして目的地のビル前に到着。

守衛さんに許可を取って門を開けてもらい、四脚のグリードとその関係者の人たちが待つ玄関へと車をつけた。

私は車のエンジンを止め、ドアを開けて玄関に降り立つ。

 

「おっはようございまーす!」

 

我ながらご機嫌かつ元気に挨拶できたと思う。

すると、ピカピカのテカテカに磨かれたグリードがすかさず私のそばに来た。

 

「おはよう、ナナミ。今日はいつにも増して元気なようだ」

「今日この日を楽しみにしてたからね!」

「そうか」

 

そして褐色肌で坊主頭のオジサンが笑顔で一歩前に出た。

グリードの管理をするとっても偉い科学者のバルマさんだ。

 

「おはようございます、カリヤさん。グリードのお迎えありがとうございます。どうでした? ここまでの運転は」

「はい! AIのアシストもありましたから、すぐに慣れました」

「……そのAIのアシスト、かなり極限まで削った車体のようですが」

「自分の力で運転したかったんです。だからこの車にしました」

「そうですか」

 

拳を握って力説する私に、何故か引き気味のバルマさんたち。

私は構わず話を続ける。

 

「本当はマニュアル車を運転したかったんですけど、この街には博物館にしかないそうでして。マジ……じゃなかった、本当に残念です」

「カリヤさんは本当にマニュアル操縦がお好きなんですね」

「はい! 大好きです!」

 

笑顔で答えると、バルマさんたち関係者さんたちも笑顔になった。

私の気持ちが伝わったのだろう。

良いことだ。

と、グリードが私の手を取った。

 

「ナナミ、時間が惜しい。ドクたちとの会話は別の機会にして、早速ドライブに行こう」

「そうだね。待ってて。荷台開けるから」

 

私は手袋をつけて、荷台を開けてブリッジを設置した。

グリードが荷台に乗り込んだのを確認して、ブリッジを収納して荷台を閉める。

手袋を外しているとバルマさんが関係者の一人から荷物を受け取り、私の前にやってきた。

 

「カリヤさん。こちらグリードと私達からの差し入れです」

 

差し出されたものは、バスケットに入ったランチボックスだった。

わあ、かんわいいっ!

 

「よろしいんですか?」

「はい。日頃グリードがお世話になっているお礼も兼ねています。どうぞお受け取りください」

「ありがとうございます!」

 

私は頭を下げつつバスケットを両手で受け取った。

バスケットを助手席に置き、運転席に乗り込む。

エンジンスタート!

 

「それじゃあ、行ってきます!」

「ドク、しばらく頼んだ」

「あいよ。カリヤさん、道中お気をつけて」

「はい!」

 

私はバルマさんたちに見送られ、いざ出発をした。

次なる目的地は、ここから車で一時間ほどの場所にある学術区画のアディス熱帯植物園だ。

 

「さて、君は私をどこに連れて行ってくれるのだろうか」

 

車のスピーカーからの突然の美声に、私は運転をしつつギョッとした。

 

「え? ……グリード何かしたの?」

「この車のアシストAIの機能を少し拝借した。この車は自動運転に対応していない。荷台にいる私と話すのは運転に支障が出るため、やむを得ず拝借した次第だ」

 

淡々と答えるグリードに、私はジト目になった。

 

「それ、法律的に大丈夫なの?」

「運転や道路交通法に支障をきたす改造は違法だが、今の私はナナミの運転をアシストするAIだ。全く問題ない」

 

ホントかよ。

だが、本当に法律違反なら即座に街の管理AIから警告が来るはずで、それがないってことは問題はないと見なされたのだろう。

……じゃ、いいか。

 

「この方角は学術区画に向かうと予想する」

「そだよー。学術区画のどこに行くかは着いてからのお楽しみだよー」

「そうか。ドクたちと行き先を予想していたのだが、最終的に三つに絞られた」

「ふーん、どこ?」

「アパテイア北展望公園、自動車博物館、七鞘航空宇宙博物館だ」

 

お! 七鞘を予想に上げたか。

 

「七鞘は惜しかったね。今日は行きません」

「今日は行かないということは、将来的には行く予定があるのか?」

「うん」

 

気のせいか食い気味にたずねてくるグリードに私は笑って頷き、アイちゃんとの計画を話して聞かせた。

 

「そうか。今調べたが確かに二人は月に一度は足を運んでいるようだ」

「月一かー。アイちゃん、プラネタリウムならともかく、宇宙関係に興味があるわけじゃないから……」

「ユーゴの意思を優先しているのだろう。しかしそれで苦手意識を持たれては元も子もない。私と博物館の関係者とで、君やアイラも喜ぶ特別なプランを作成しよう」

 

グリードが俄然やる気を見せている。

やっぱり宇宙関連には高い興味があるんだな。

 

「日付が決まったらぜひ教えてほしい」

「おけーい」

 

私は機嫌よく返事をし、改めて運転に集中した。

一般道から高速道路に入り、スピードアップ。

と言っても軽トラだから、そんなにスピードは出ないけど、信号機なしの整備された道路はテンションが上がる。

よーし、音楽かけちゃお。

 

「ミュージックプレイヤー起動。ドライブ特集をセレクト」

 

私の声に反応して、端末に搭載されているミュージックプレイヤーから爽やかかつノリの良い音楽が流れ始めた。

その後もグリードと雑談しながら高速道路を進み、やがて学術区画に入った。

高速道路を出て再び一般道路へ。

目的地のある公園へと車を走らせ、公園の駐車場で車を止めた。

まずは荷台からグリードを降ろし、その後駐車場に一発で駐車完了。

時間は十一時を少し過ぎたあたりだ。

私はバスケットを持って車を降りると、駐車を待っていたグリードがすぐさま私のもとへやってきてバスケットを取り上げた。

 

「グリード」

「この荷物は私が持つ」

 

言って、素早く搭載されているコンテナに収納してしまった。

私は唇を尖らせる。

 

「それくらいの荷物、私が持つよ」

「荷物持ちは私の役割だ」

「いつ決めたの、そんなこと。聞いたことないよ」

「話したことはないし、君に話す必要のないことだ。それよりも目的地に行くことを推奨する」

 

この頑固ロボめ。

でもいつまでも駐車場で話しているのも時間の無駄なことは確かだ。

 

「わかったよ」

「それと、良ければ君と手を繋ぎたい」

「……いいよ」

 

これがイケオジの姿だったら流石にためらっただろう。

でも四脚なら特に問題はない。

見かけは大事なのだ。

私たちは手を繋いで駐車場を出て、目的地のアディス熱帯植物園へと足を進めた。

日曜日ということもあり公園内は人が多い。

ランニングをする人や家族連れが多いのはもちろんだが、広い芝生でたくさんの人がマットを敷いてヨガをやっていた。

私は右隣にいるグリードをチラリと見る。

ここまで来たら、さすがにグリードも行き先がわかったんじゃないかな?

芝生を左手に見ながら角を曲がった時、見慣れない大きな建物が見えた。

思わず声が出る。

 

「何ぞ、あれ」

「温室だ。それもこの世界最大の大温室。今日の行き先はアディス熱帯植物園だったのだな」

「そうだけど……」

 

呆然としつつも歩みは止まらない。

何はともあれ、私たちは本日の目的地に到着したのだった。

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