多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十八話 熱帯植物園に行った 4

温室を全て見終わった私達を待っていたのは、カフェレストラン、そしてミュージアムショップという名のお土産屋だった。

早速カフェレストランの電子看板が目に入る。

本物の熱帯植物の果実を使ったスムージーや、コーヒーとチョコレートもそれぞれ数種類。

私はそれらの値段に比喩でなく足を一歩引いた。

あ、あれっ?! メッチャ高くね?

フードなんて、軒並み高級レストラン並じゃん?

ドン引く私の隣にグリードが並んだ。

 

「ナナミ、昼食は私とドクたちが用意したものがあるが、何か食べたいものがあるのか?」

「ないよ! ないから!」

 

全力で否定する私に、グリードは複眼の光をひたりと向けた。

圧を感じるのは気のせいか。

 

「値段を気にしているようだが、気になるものがあるなら遠慮なく言ってくれ。私が奢ってやろう」

「いい! いいよ! だいじょぶだよ!」

「そうか」

 

グリードは無感情に言うと、看板に視線を向け、そして何故かカウンターへと向かった。

四脚のグリードに店員さんは驚いたようだが、グリードは全く気にする様子もなく何かを注文したようだった。

嫌な予感がした。

あのロボ、何か企んでやがる!

グリードは店員さんからオレンジ色の飲み物を手にすると私のもとへ戻ってきた。

 

「ナナミ、先程のお詫びを買ってきた。本物のマンゴーを使ったマンゴースムージーだ。受け取って欲しい。そして私の目の前で飲んで欲しい」

 

マンゴースムージーを差し出すグリードの複眼がキラリと輝いた、ように見えた。

 

「私に君の欲望を満たすさまを見せてくれ」

「やだよ」

 

即答すると、グリードはガクリとクモのような脚を曲げて体を傾けた。

そうわかりやすくガッカリすんな。

 

「……そうか。では仕方がない。これは捨ててこよう」

「待って!」

 

クルリと背を向け、カウンターへと引き返そうとするグリードを呼び止めた。

 

「何で捨てようとすんの。もったいないじゃん」

「これは君のために買ってきたものだ。君が必要としなければ、あっても意味がない。それに今の私は飲食は不可能だ。だから捨てる」

 

こんのロボめ!

思わず奥歯を噛み締めた。

私がグリードの性格をなんとなく理解しているように、グリードもまた私の性格を学習して理解している。

私が食い意地が張っている上に、粗末にしないことを理解して、こんな三文芝居をしているのだ。

ぐううう、悔しい!

私はグリードからマンゴースムージーをひったくると、ストローから中身を吸い上げた。

……お! おおおおお!

味が濃い! スゲー美味しい! 好き!

マンゴー風味のデザートを食べたことあるけど、本物のマンゴーはこういう味なんだ!

私は感動したけど、ふと我に返って隣の小癪なロボを見た。

ジーッと私を見ている。

観察している。

 

「あのさ、あんま見ないでくれる?」

「その訴えは却下する」

「あ、そう」

 

私はグリードに背を向け、マンゴースムージーを堪能しようとした時だった。

新たな衝撃に、飲む手が止まる。

 

「ナナミ、どうした?」

 

目敏くたずねてくるグリードに、私はミュージアムショップの一点を指差した。

それは一見、トウモロコシのような外見をしているぬいぐるみだった。

ただ、実にあたる部分がツブツブしておらず、どちらかというとバナナのような雰囲気だ。

そして異様なのはその大きさ。

デカい。

私の身長の二倍近い高さがある。

前に深海水族館に行った時、リュウグウノツカイとダイオウイカの二分の一スケールのぬいぐるみがあったが、これもその類のものか?

 

「あれはショクダイオオコンニャクの実物大スケールのぬいぐるみだ」

「ショクダイ、オオコンニャク?」

「熱帯の花の中でも最大級のものだ」

「えっ?! あれ花なの?!」

「そうだ」

 

グリード曰く、前時代に熱帯雨林に生息した世界最大の花で、トウモロコシともバナナとも見える部分は花序(かじょ)といい、そこから発する強烈な異臭で虫を呼び寄せるのだという。

その異様な臭いは、死体花や死体植物とも呼ばれるほど凄まじいものだったそうだ。

……どんだけだよ。

 

「欲しいのか?」

「いらないよ! 家に置く場所ないし置きたくないよ、あんなデカくて不気味なの!」

 

何を言い出すんだ、このロボ。

怖いのは、冗談でも欲しいと言えば、このロボはためらわずに買ってしまうことだ。

これだから、冗談の通じないお金持ちロボは困る。

私はショクダイオオコンニャクのぬいぐるみから目を逸らし、マンゴースムージーの残りを啜った。

うん、美味しい! ご馳走さま!

私は空になったスムージーのカップをカウンターへ戻し、ミュージアムショップへと足を踏み入れた。

カフェレストランとショクダイオオコンニャクで出鼻をくじかれちゃったけど、ここが勝負の場所だ。

ここでグリードの好きを見つけてやるぞ!

私は店内をまずぐるりと見て回った。

熱帯植物のキーホルダーやぬいぐるみ、シャツやポストカードなどなど。

植物の苗も販売されていたけど、食虫植物も販売されていて人の趣味の幅広さと奥深さを感じた。

てか、買う人いるんだ?

というか、全体的に値段がお高いな!

その中で手が届きそうなのはキーホルダーだった。

小さな食虫植物のぬいぐるみにボールチェーンがついたものとか、アクリル板のおしゃれデザインのものとか色々ある。

私が個人的に好きなのはウツボカズラだ。

では、グリードが好きな食虫植物は何だろう。

グリードにとっては難問だろうが、ここで何としても決めてもらうぞ。

これこそが、私が今日この植物園に来た最大の目的なのだから。

 

「グリード、ちょっと来てー」

 

食虫植物の苗を見ているグリードを呼ぶと、グリードは素直にこちらにやって来た。

 

「どうした、ナナミ」

「うん、あのね、キーホルダーを買おうと思ってんだけど」

「いいだろう。どれがいい?」

「それはこっちのセリフだよ」

 

私はアクリル板のキーホルダーを二つ手にとった。

一つは、形はキュートなのにトラップがえげつない私のお気に入りのウツボカズラ。

もう一つは、形はスマートなのに血管のような赤い葉脈が不気味なサラセニア。

どちらも蓄光型になっていて、夜になると植物の形が光って闇に浮かび上がる仕様だ。

不気味キレイを狙ったのだろうか。

そんな思いを露とも出さずニッコリ笑ってグリードに言った。

 

「グリードはどっちが好き? 好きな方を一緒に買おうよ」

 

グリードが目に見えて固まった。

あれだけ饒舌だったグリードが沈黙している。

だが複眼の光は灯っていた。

恐らく一生懸命考えているのだろう。

 

「グリード?」

「……ナナミ、私は君の好きな方で──」

「いっつもそれじゃん。私はグリードの好きなものがいいの」

「私が好きなものは君だ、ナナミ」

 

真剣な口調で告白するグリード。

何度か言われているけど、最近は動揺する。

グリードの告白は、初めて告白された時と比べると、何というか友達以上の響きを感じるからだ。

だが! 今日の私はちょっと違うのだよ!

動揺する心を無理やり静め、表情を改めた。

 

「うん、ありがとう。でも今は私以外でお願いします。グリードの好きなものをお揃いで買って、いつも持ち歩くの、友達って感じでいいじゃん!」

「そうだな。君とおそろいの物を所有するのは友達として魅力的な提案である」

「でしょ。だから好きな方選んで」

 

グリードにキーホルダーをずいと見せつけると、グリードが再び固まった。

いつにない長い沈黙に心が挫けそうになる。

……やっぱダメかなー。

でも諦めたくない。

なんかいい感じに水を向けられないかな。

私も脳筋な頭を必死で働かせる。

……あ、そうだ。

 

「グリードはどっちの方がノイズが多く出るの?」

「ノイズ」

「そうだよ。この選択ってぶっちゃけ無駄なことじゃん。そういう時、ノイズが出るんでしょ? ノイズが多く出るほうが関心が高いってことじゃないの?」

 

するとグリードはキーホルダー越しに私を見た。

 

「そんな単純なことではないのだ」

「そうなの?」

「そうだ」

 

グリードは再びキーホルダーに目を戻す。

 

「少し待ってくれ。今解析しているところだ」

「わかった」

 

いいよいいよ、じゃあ待とう。

今日はいくらでも付き合うぞ。

私は深く頷いた。

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