私は解析中のグリードに候補のキーホルダーを渡し、他のキーホルダーに目を走らせた。
と、あるキーホルダーを見つけ思わず眉をしかめる。
ここにもいるか、ショクダイオオコンニャク!
君はお呼びじゃないんだよ。
私はキーホルダーを一通り吟味し、小さくため息をついた。
食虫植物やキワモノばっかじゃん。
ヒスイカズラとか、トーチジンジャーとか、キレイなお花はないの?
そしたら迷わずそちらを選んでたのに。
……や、それはないか。
だってグリードの興味関心は食虫植物に向けられているもんね。
さあ、グリードはどちらを選ぶかな?
「ナナミ、お待たせした。どちらにするか決まった」
「マジ?!」
思わず身を乗り出し、笑顔でたずねる。
「どれにしたの?」
「こちらのウツボカズラにした」
「おお! そっかそっか!」
私は機嫌よく頷きながら、サラセニアのキーホルダーを戻し、差し出されたウツボカズラのキーホルダーを受け取った。
「で、ウツボカズラにした理由は?」
「君が好きだろうと推測したからだ」
その発言に私は笑顔のまま凍りついた。
……え? あれっ? 待って待って?
私は無理やり口を動かす。
「え、あの、何でわかったの?」
「君の今日の行動パターンと、今まで観察してきた君の趣味嗜好を考慮し判断した。君はスマートなものより、愛嬌のあるデザインを好む傾向にある。先程、ウツボカズラのキャラクターぬいぐるみを撮影していた。そのことも大きなヒントとなった」
私は呆気にとられてグリードを見つめた。
「私は君が喜び満足する姿が見たい。それが私の意思だ。故にウツボカズラを選択した」
私は自分でもわかるほど顔を歪めた。
膝から崩れ落ちそうになるのを、必死で踏ん張りグリードに言う。
「それ、グリードの好きなものじゃないじゃんよお……」
「私は食虫植物に興味関心はある。だが、好きかと問われたら現時点では否と答える。食虫植物に君と接している時のようなノイズは出ていないからだ」
グリードは私との距離をつめた。
「君は、私に好きなものを増やそうとするために今日ここに来たのだな」
「……そうだよ」
私はうなだれながら頷く。
「だってこの世界で好きなものが私だけって、寂しいし不安じゃん? もし私がいなくなったら、グリードの拠り所がなくなっちゃう。グリードには私がいなくても、使命を果たして幸せになってほしいんだよ。そのために、この世界で好きなもの、一つでも増やしてほしかったんだよ」
「ナナミ」
グリードは私の手をそっととった。
「仮に君がいなくなったとして、私のモチベーションに影響は確実に出ると予想する。それでも私は使命を果たすため時間が許す限り稼働を続ける。それが最上位のプログラムであり、私の存在意義だからだ。何より、私の大好きな君がこうして応援してくれている。今日のことを含めた君との
「グリード……」
私の手を握るグリードの手に力がこもった。
複眼の光が私を真っ直ぐに見据える。
「ありがとう、ナナミ。期待に添えずすまない。現時点で私の好きなものは、君だけだ」
「うう……わかったよお……」
目的達成ならず。
てか失敗じゃん。
やっぱ一朝一夕にはいかないかー。
私は気落ちしつつ、現状を認めざるを得なかった。
グリードの鋼鉄の手を握り返すと、私は無理やり笑顔を作った。
「ありがとね。気持ちは受け取っとく。これからも良い友だちであり続けられるよう、私も努力すんね」
「ああ。では友情の証のこのキーホルダーを買ってくる」
「うん……って、待って! それは私が奢るの! グリードにプレゼントすんの!」
「言ったはずだ。今日は君に一銭も払わせる気はない」
グリードは私からキーホルダーを取り上げると、速やかにレジへと向かい、一瞬で会計を済ませてしまった。
そして私のもとへ戻って来る。
「買ってきた。さあ受け取ってくれ」
「お金え……」
「ナナミ、君は私から奢られるのがそんなに嫌か?」
露骨に悲しそうに言うグリードを、私は全力で睨みつけた。
「奢られっぱなしが嫌なの! 私だってグリードほどじゃないけど、ちょっとは稼いでいるんだよ。私の稼ぎを信頼できないの?! てか、友達なら割り勘でしょうがよー!」
人目をはばからす私が喚くと、グリードはそのドラ焼き顔の前に人差し指を立てた。
「ナナミ、わかったから静かにしよう。人目を引いている」
「割ーりー勘! 割ーりー勘!」
「……わかった。次回は割り勘だ」
「ホントに?!」
「本当だ」
「約束だよ!?」
「わかった。約束する」
生真面目に言うグリードに、私は落ち着きを取り戻した。
そしてグリードの手からキーホルダーを手に取った。
「じゃ、これ、受け取っとくね」
「ああ。ナナミとおそろいの物を持つことができて、私は嬉しい」
……嬉しい、か。
ロボやAIに心はない。
この街の常識だ。
だからこれは人を喜ばせるための
だけど、私はグリードが本当に喜んでいると感じ取ってしまう。
初めて告白された時と比べて、本当に表現力と演技力が成長したんだなあ。
それとも、グリードには心があるのかな?
私のことが好きだというその現象は、心があることの証明になるのかな。
わからない。
AIのことは専門外だし、ましてや心の有無なんて難しいこと、脳筋の私には荷が重すぎる。
でも、それでも考え続けるのだ。
グリードと対等の、本当の友達になるために。
「ナナミ、どうした?」
グリードの声に我に返って顔を上げた。
笑顔を作って肩をすくめる。
「あ、うん……ちょっと疲れちゃった。休憩したいな」
「では外に出てゆっくり昼食をとろう」
「うん」
グリードの提案にうなずき、私達は熱帯植物園を後にした。
そして、公園内のテーブル付きのベンチでのんびりご飯を食べて過ごし、日が傾く前にグリードを一鍔重機へ送り届けた。
バルマさんが玄関に姿を見せ、私に笑顔を向け頭を下げた。
「カリヤさん、本日はありがとうございました」
「ナナミ、今日はありがとう。とても有意義な一日だった」
続いてお礼を言うグリードの横で、バルマさんは白い歯をむき出してニッカリと笑った。
「失礼ながら、今日の出来事は研究室でモニタリングさせてもらっていました。カリヤさんがこいつのことを大切に思っていること、改めて知ることができ管理者としてとても嬉しく思っております」
そしてバルマさんはグリードのボディを軽く叩いた。
「こいつはまだ成長途上です。まだ伸びしろもあります。そしてカリヤさんの望みは私達の望みでもあります。お互い諦めず、息長く挑戦を続けていきましょう」
バルマさん、気落ちしている私を励ましてくれているのか。
この人は油断のならない科学者さんだ。
でも、ちゃんと温かい赤い血の流れている人でもある。
そう信じ、その励ましの言葉を素直に受け取ることにした。
「はい、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をし、車に乗り込んだ。
「ナナミ、気をつけて帰ってくれ。また連絡する」
「うん。じゃあまたね!」
こうして一人と一機に見送られ、私は車を返しに向かった。
平和で穏やかな黄金色に輝くドームの空が眩しくて、でもとても綺麗だった。
<熱帯植物園に行った 完>