多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十八話 熱帯植物園に行った 5

私は解析中のグリードに候補のキーホルダーを渡し、他のキーホルダーに目を走らせた。

と、あるキーホルダーを見つけ思わず眉をしかめる。

ここにもいるか、ショクダイオオコンニャク!

君はお呼びじゃないんだよ。

私はキーホルダーを一通り吟味し、小さくため息をついた。

食虫植物やキワモノばっかじゃん。

ヒスイカズラとか、トーチジンジャーとか、キレイなお花はないの?

そしたら迷わずそちらを選んでたのに。

……や、それはないか。

だってグリードの興味関心は食虫植物に向けられているもんね。

さあ、グリードはどちらを選ぶかな?

 

「ナナミ、お待たせした。どちらにするか決まった」

「マジ?!」

 

思わず身を乗り出し、笑顔でたずねる。

 

「どれにしたの?」

「こちらのウツボカズラにした」

「おお! そっかそっか!」

 

私は機嫌よく頷きながら、サラセニアのキーホルダーを戻し、差し出されたウツボカズラのキーホルダーを受け取った。

 

「で、ウツボカズラにした理由は?」

「君が好きだろうと推測したからだ」

 

その発言に私は笑顔のまま凍りついた。

……え? あれっ? 待って待って?

私は無理やり口を動かす。

 

「え、あの、何でわかったの?」

「君の今日の行動パターンと、今まで観察してきた君の趣味嗜好を考慮し判断した。君はスマートなものより、愛嬌のあるデザインを好む傾向にある。先程、ウツボカズラのキャラクターぬいぐるみを撮影していた。そのことも大きなヒントとなった」

 

私は呆気にとられてグリードを見つめた。

 

「私は君が喜び満足する姿が見たい。それが私の意思だ。故にウツボカズラを選択した」

 

私は自分でもわかるほど顔を歪めた。

膝から崩れ落ちそうになるのを、必死で踏ん張りグリードに言う。

 

「それ、グリードの好きなものじゃないじゃんよお……」

「私は食虫植物に興味関心はある。だが、好きかと問われたら現時点では否と答える。食虫植物に君と接している時のようなノイズは出ていないからだ」

 

グリードは私との距離をつめた。

 

「君は、私に好きなものを増やそうとするために今日ここに来たのだな」

「……そうだよ」

 

私はうなだれながら頷く。

 

「だってこの世界で好きなものが私だけって、寂しいし不安じゃん? もし私がいなくなったら、グリードの拠り所がなくなっちゃう。グリードには私がいなくても、使命を果たして幸せになってほしいんだよ。そのために、この世界で好きなもの、一つでも増やしてほしかったんだよ」

「ナナミ」

 

グリードは私の手をそっととった。

 

「仮に君がいなくなったとして、私のモチベーションに影響は確実に出ると予想する。それでも私は使命を果たすため時間が許す限り稼働を続ける。それが最上位のプログラムであり、私の存在意義だからだ。何より、私の大好きな君がこうして応援してくれている。今日のことを含めた君との思い出(ログ)は私の力の一つとなり、私の使命達成を後押ししてくれるだろう」

「グリード……」

 

私の手を握るグリードの手に力がこもった。

複眼の光が私を真っ直ぐに見据える。

 

「ありがとう、ナナミ。期待に添えずすまない。現時点で私の好きなものは、君だけだ」

「うう……わかったよお……」

 

目的達成ならず。

てか失敗じゃん。

やっぱ一朝一夕にはいかないかー。

私は気落ちしつつ、現状を認めざるを得なかった。

グリードの鋼鉄の手を握り返すと、私は無理やり笑顔を作った。

 

「ありがとね。気持ちは受け取っとく。これからも良い友だちであり続けられるよう、私も努力すんね」

「ああ。では友情の証のこのキーホルダーを買ってくる」

「うん……って、待って! それは私が奢るの! グリードにプレゼントすんの!」

「言ったはずだ。今日は君に一銭も払わせる気はない」

 

グリードは私からキーホルダーを取り上げると、速やかにレジへと向かい、一瞬で会計を済ませてしまった。

そして私のもとへ戻って来る。

 

「買ってきた。さあ受け取ってくれ」

「お金え……」

「ナナミ、君は私から奢られるのがそんなに嫌か?」

 

露骨に悲しそうに言うグリードを、私は全力で睨みつけた。

 

「奢られっぱなしが嫌なの! 私だってグリードほどじゃないけど、ちょっとは稼いでいるんだよ。私の稼ぎを信頼できないの?! てか、友達なら割り勘でしょうがよー!」

 

人目をはばからす私が喚くと、グリードはそのドラ焼き顔の前に人差し指を立てた。

 

「ナナミ、わかったから静かにしよう。人目を引いている」

「割ーりー勘! 割ーりー勘!」

「……わかった。次回は割り勘だ」

「ホントに?!」

「本当だ」

「約束だよ!?」

「わかった。約束する」

 

生真面目に言うグリードに、私は落ち着きを取り戻した。

そしてグリードの手からキーホルダーを手に取った。

 

「じゃ、これ、受け取っとくね」

「ああ。ナナミとおそろいの物を持つことができて、私は嬉しい」

 

……嬉しい、か。

ロボやAIに心はない。

この街の常識だ。

だからこれは人を喜ばせるための定型文(テンプレート)であり、その声音は喜びを感じるようにする演技であり、つまり錯覚のはずだ。

だけど、私はグリードが本当に喜んでいると感じ取ってしまう。

初めて告白された時と比べて、本当に表現力と演技力が成長したんだなあ。

それとも、グリードには心があるのかな?

私のことが好きだというその現象は、心があることの証明になるのかな。

わからない。

AIのことは専門外だし、ましてや心の有無なんて難しいこと、脳筋の私には荷が重すぎる。

でも、それでも考え続けるのだ。

グリードと対等の、本当の友達になるために。

 

「ナナミ、どうした?」

 

グリードの声に我に返って顔を上げた。

笑顔を作って肩をすくめる。

 

「あ、うん……ちょっと疲れちゃった。休憩したいな」

「では外に出てゆっくり昼食をとろう」

「うん」

 

グリードの提案にうなずき、私達は熱帯植物園を後にした。

そして、公園内のテーブル付きのベンチでのんびりご飯を食べて過ごし、日が傾く前にグリードを一鍔重機へ送り届けた。

バルマさんが玄関に姿を見せ、私に笑顔を向け頭を下げた。

 

「カリヤさん、本日はありがとうございました」

「ナナミ、今日はありがとう。とても有意義な一日だった」

 

続いてお礼を言うグリードの横で、バルマさんは白い歯をむき出してニッカリと笑った。

 

「失礼ながら、今日の出来事は研究室でモニタリングさせてもらっていました。カリヤさんがこいつのことを大切に思っていること、改めて知ることができ管理者としてとても嬉しく思っております」

 

そしてバルマさんはグリードのボディを軽く叩いた。

 

「こいつはまだ成長途上です。まだ伸びしろもあります。そしてカリヤさんの望みは私達の望みでもあります。お互い諦めず、息長く挑戦を続けていきましょう」

 

バルマさん、気落ちしている私を励ましてくれているのか。

この人は油断のならない科学者さんだ。

でも、ちゃんと温かい赤い血の流れている人でもある。

そう信じ、その励ましの言葉を素直に受け取ることにした。

 

「はい、ありがとうございます」

 

丁寧にお辞儀をし、車に乗り込んだ。

 

「ナナミ、気をつけて帰ってくれ。また連絡する」

「うん。じゃあまたね!」

 

こうして一人と一機に見送られ、私は車を返しに向かった。

平和で穏やかな黄金色に輝くドームの空が眩しくて、でもとても綺麗だった。

 

<熱帯植物園に行った 完>

 

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