多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十九話 宇宙から来襲された 1

この世界を知りたい。

色んなところに出かけて、美味しいものを食べて、見たことのない風景を見たい。

たとえそれが、この世界最大の構造物であるドームの中の、人工的な仮初めのものであったとしても。

でも、本業のお給料だけでは行ける場所もできることも限られる。

だからお金を稼ぎたい。

幸い、私の勤めている会社は副業OKだ。

だから法律に反しない程度に私は副業をしていた。

内容はメンテナンスステーションの接客。

メンテナンスステーションとは、街の中にいくつかある車やロボット、強化外骨格(パワードスーツ)などのエネルギー補給や整備、パイロットやドライバーの休憩施設のことだ。

私はそこに併設されているカフェの接客や、車やパワードスーツの誘導を主にやっている。

勤め始めてからそろそろ一年が経とうとしていて、仕事にもだいぶ慣れてきた。

もちろん、たまに失敗はする。

でも、店長のリヒトさんや人型ロボット(アンドロイド)のサヤネさん、整備士の人たちとの関係も良くて、これからも勤め続けたいなと思っている。

 

今日はその副業の日。

私は地下鉄で副業先へ向かいながら、ふと顔を上げた。

目に飛び込んできたのは車内の電光案内表示で、映し出されていたのはニューストピックだった。

この街で最高を誇る電波塔にして観光地、エウダイモニア。

その前で反ロボット、反AIのデモ活動が行われているとのことだった。

朝のニュースでもやっていたな。

というか、ここ一ヶ月で活動が活発になったと思う。

そりゃ前からそういう思想を持つ人たちがいて、デモ活動もまれに行われてはいた。

でも、ニュースに取り上げられる程になるとは。

そのニュースに私は少し悲しくなった。

私はロボットもAIも好きだからだ。

でもこの世界にはいろんな人がいて、いろんな考えがあることを認めなければならない。

だから受け流して、関わらなければそれでいい。

それぞれの世界で平和に共存できればそれで良し。

それが大人ってもんでしょ?

……違うかな?

と、目的の駅についた。

さあ! 気を取り直して働くぞ!

私は心の中で気合いを入れて電車を降りた。

 

メンテナンスステーションに着いた私は、更衣室で制服に着替え、リヒトさんの指示で併設されているカフェでの接客に向かった。

カフェは小さくて、カウンター席が六席、二人用のテーブル席が二つ、四人用のテーブル席が一つある。

飲み物メニューは定番をしっかり押さえているけど、軽食は完全栄養食が少し割高で売られているだけだ。

アルコールは当然取り扱っていない。

そもそもこの街の全ての乗り物は、アルコールが検知された時点で運転できなくなる仕様になっている。

 

「おー、盛り上がってるみたいだな」

 

常連客の髭のオジサンが、カフェの壁に設置されているモニター映像を見て呟く。

モニターにはニュース番組が映し出されていて、エウダイモニアで行われている反ロボット、反AIのデモ活動の様子が映し出されていた。

周囲が暗くなり、人々が色付きのライトを振り回していたり、電子看板を掲げていたり、何というか華やかだった。

私は洗い終わったトレーを拭く手を止めた。

 

「朝からニュースになっていましたよね」

「ああ。呑気なもんだ。現場の苦労も知らんと好き勝手に言っちゃって。人だけでこの街と星を支えられるかっての。オジサンの現場、万年人手不足でロボやAI無しじゃ立ちいかないってのに」

 

冷めきった表情でアイスコーヒーを飲むオジサン。

私は会話を続けることにした。

 

「お客様のお仕事って」

「建設業だよ。この街、あちこちで老朽化してっからな。整備と補修しないと、瞬く間にガタがくるぞ」

「建設業でしたか」

 

おお、街のインフラを支える大事なお仕事だ。

そして老朽化という言葉に、以前ラストさんとお茶会をした時のことを思い出す。

その時に街の問題点の話になって、その一つに街の老朽化が挙げられていた。

オジサンはストローで氷を突きながら話を続ける。

 

「この街は戦前に造られていて、もう百年以上は経っている計算だ。八十年前の戦争を乗り越えてそれでも持ちこたえているのは、この街の大枠を造った八剱(ヤツルギ)グループの技術力の高さのおかげだな。箱物作らせたらこの星系一と言われるのも伊達じゃない」

 

八剱グループかー。

その言葉に私の脳裏にちょっと不気味で、でもカッコイイ四脚のロボットの姿がよぎった。

グリード。

八剱グループの企業の一つ、一鍔(ヒトツバ)重機の管理AIにして重役、そして私の大事な友だちだ。

今のオジサンの言葉を聞いたら、少しは喜んでくれたかな。

……それはないか。

だってロボットやAIに心はないもんね。

でも、私は悪い気はしなかった。

だからグリードの代わりに喜んでおこう。

わーい、やったね!

と、自動ドアが開く音がした。

反射的にドアに笑顔を向けて挨拶をする。

 

「いらっしゃいませー!」

 

お店に入ってきたのは、作業着を着た二人のお兄さんたちだった。

 

「こんばんはー。今日はナナミちゃん一人か?」

「違うって。ナナミちゃんがいる時は、さーやんはこの時間は休憩中なんだよ」

「あー、そっかそっか」

 

言いながらカウンター席にやってくる。

ちなみにさーやんとは、サヤネさんの愛称だ。

この二人はサヤネさんのファンで、彼女目当てにやって来るとリヒトさんから聞いていた。

 

「おやっさん、お疲れでーす」

「おう、お前さんたちもお疲れ。上がりか?」

「俺は上がりっす」

「俺は帰投の途中っすねー」

「さっさと帰投して上がりゃいいのに」

「いや、ちょっとさーやんが心配で」

 

この三人は顔見知りで、顔を合わせると世間話をするくらいには仲が良いと私は見ている。

でも、サヤネさんが心配とは?

や、それよりもお二人のメニューを聞かねば。

 

「メニューはお決まりですか?」

「俺、アイスコーヒーMで」

「俺はアイスミルクティーSサイズで」

「かしこまりました」

 

まずは会計を済ませて、私は手早くアイスコーヒーとアイスミルクティーを作る。

当初は急いで作ろうとするあまり、てんやわんやになっていたこの作業も慣れた。

でもサヤネさんの作業スピードに比べたらまだまだ改善の余地がある。

目指せ達人級!

 

「お待たせしました」

 

二人の前にアイスコーヒーとアイスミルクティーを置いた。

二人は揃ってお礼を言い、それぞれの飲み物に口をつけた。

そんな二人にオジサンが声をかける。

 

「それで、サヤネちゃんが心配って何だよ」

 

オジサン、ナイス質問。

するとお兄さんの一人がストローから口を離してオジサンを見た。

 

「だってここ最近、反ロボットのデモ活動やってるでしょ。今日もやってるし、さーやんが連中のヘイトに巻き込まれないか心配で」

「ここに来るほとんどの連中、ロボット嫌いな奴いないだろ」

「ですよねー。俺もそう言ったんすけど」

「でも万が一ってこともあるだろ」

 

ここに来る人たち、ロボット嫌いの人がいないって断言できるの、何でだろ?

私は疑問を口にすることにした。

 

「何でここに来る人たちがロボット嫌いじゃないって言い切れるんですか?」

「そうだそうだ」

 

私の質問に、サヤネさんを心配するお兄さんが頷きながら言うと、オジサンは一口コーヒーを啜り、そして口を開いた。

 

「お前さんたち、仕事はなにしてんの?」

 

二人は一瞬口をつぐみ、やがてお兄さんの一人がストローでコーヒーをかき混ぜながら言った。

 

「俺は電気工事士です。いつも街の地下で電気関係の工事をしています」

「街の地下ですか」

「そう。電気や通信のインフラは全部地下にあるからね」

 

オジサンの仕事に勝るとも劣らない、街のインフラを支える重要なお仕事だ。

しかもずっと地下の作業って大変そう。

するとオジサンはニヤリと笑った。

 

「景気はどうよ。人手は足りてるか?」

 

するとお兄さんは深くため息をついた。

 

「景気はいいんでしょうけど、人手が足りなくてロボとAI頼みですね。新規に加えて改修する場所も多いから」

「そうなんですね」

 

へー、そんな事情があったとは。

街の老朽化、もしかしなくても私の想像よりずっと深刻な問題かも。

 

「俺はご存知の通り、運送業です。ドローンを始めとした小型ロボや大型ロボが運べない荷物を運ぶのが仕事です」

 

サヤネさんを心配するお兄さんの名乗りに、私は笑顔を向ける。

 

「いつも見てますよ。大型トラックやトレーラーで来店されますよね」

「そうそう。もちろん、荷物を運び終わってからだけどね」

 

働く車のドライバー、かっこいいじゃん。

このお兄さん、街の物流を支える大事なお仕事についているのだ。

オジサンは真面目な表情でお兄さんを見た。

 

「運送業なんて、特にロボとAIの進出が進んでいる業界だろ」

「前時代からそうですね。今更、ロボやAIのない状態なんて考えられないし、想像もしたくないですよ」

「というわけだ」

 

オジサンは私に笑顔を向けた。

 

「店長とも話したことあるけど、ここに来る客のほとんどが街のインフラに関わる仕事をしているそうだ。そしてロボやAIとは切っても切り離せない事情が各業界にある。好き嫌いの問題じゃない。街を支えるためにはロボやAIが必要なんだよ」

「なるほどです」

 

私が真面目な気持ちで頷くと、お兄さんの一人が声をかけてきた。

 

「そういや、ナナミちゃんは副業でここで働いているんだっけ? 本業聞いても大丈夫?」

「大丈夫ですよ。私は資源調達員で、いつもは街の外で働いています」

 

オジサンとお兄さんたちが揃って声を上げた。

 

「おお、見かけによらず過酷な仕事してんだね」

「景気はどうだ」

「今日は空振りに終わりましたー」

「それは残念」

「明日のお楽しみが増えたと思えばいいさ」

「はい」

 

常連さんたちと話していると、再び自動ドアが開く音がして私はそちらに顔を向けた。

作業着姿のオバサンが店に入ってくる。

 

「いらっしゃいませ。店内でお過ごしですか?」

「ええ……アイスのカフェオレ、Mサイズ」

「かしこまりました!」

 

会計を済ませて素早くカフェオレ作成。

 

「お待たせしました。ごゆっくりお過ごしくださいませ!」

 

オバサンは商品を受け取ると、チラリと笑顔を向けて二人用のテーブル席に座った。

この人も街のインフラに関わるお仕事してんのかな?

……カッコイイじゃん。

と、ニュースのライブ中継を映し出している大型モニターからノリの良い音楽が流れ出した。

聞いたことのない曲だけど、手拍子やら鳴り物やらが音楽に合わせてリズムを刻んでいる。

視線を向ければ、三機の大型パワードスーツが音楽に合わせて踊っていた。

立場を忘れて思わず画面を見つめる。

反AIってことはもしかして神経電気信号接続(リンケージ)なし、つまり手動(マニュアル)で踊ってんの?

へえ! いいじゃん!

私以外にもマニュアルで踊れるパイロットがいてちょっと嬉しかった。

 

「……大型はロボットのうちに入らないんすかね」

「マニュアルなら、ただの機械の塊を人の手で動かすだけだからOKってことなんじゃねえの」

「こじつけっぽいなー」

「でもよく踊れるよな。マニュアルであんなに動いたら、スーツ酔い一直線だろうに」

「そこは酔い止め飲んでんだろ」

「ですよねー」

 

オジサンたちは画面に見入って好き放題言っていた。

ちなみにスーツ酔いとは、大型パワードスーツの乗り物酔いのことだ。

大型パワードスーツはその構造上、揺れや加速がコクピットに伝わりやすい造りになっている。

リンケージをしている場合、接続したAIがパイロットの目や耳からの感覚情報を処理してくれて、スーツ酔いを防いでくれる。

でもマニュアルにはそのサポートがないから、歩いただけでも酔ってしまう人は少なくないのだ。

だから酔い止めのお薬を飲んでいるか、私のように乗り物に強い人なのだろう。

 

「よく踊れてるとは思うけど、動画サイトに上がっている謎パイロットのダンスよりは格が落ちるな」

「謎パイロットって?」

「ファースト・スターやアルビオン改で踊ったパイロットのことだよ。しかもマニュアルで。本家も絶賛してエンタメのニュースになったじゃん」

「ああ、あったな、そんなの」

「でもパイロットの正体は今でも不明だから、謎パイロットってことで」

 

私はさり気なく三人から体ごと視線をそらし、作業を再開することにした。

その謎パイロット、私のことだ。

知られると間違いなく面倒なことになる。

これ以上は触れないようにしよっと。

私は汚れたグラスをストッカーに並べて食洗機へと放り込む。

その間に空いているテーブルと椅子を拭いて、店内を少しでも清潔に保つようにした。

そしてカウンターへ戻り、洗い終わったグラスを食洗機から取り出した時だった。

大型モニターから一際大きな歓声が上がる。

思わず画面に目をやると、金色の長い髪をなびかせたキレイな女の人が歓声に手を上げて応えながら、特設されたであろう壇上に上がっているところだった。

 

「出たな、このデモの主催者だ」

「ここ最近で一躍有名になりましたよね」

「見た目も悪くないですしね。さーやんには劣るけど」

「さーやんと比べんなよ、さすがに可哀想だろ」

「まあ、美人なのは確かだ」

 

本当に好き勝手言ってんな、この人たち。

でも彼女、私ですら知ってる顔だ。

確か名前は──

 

「皆さんこんばんは。私はソレンヌ・タンギー。このデモの主催者です」

 

画面の向こうで、ソレンヌさんはにっこりと笑った。

 

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