多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十九話 宇宙から来襲された 6

リヒトさんと整備士さんたちがお客様を避難所へ案内する中、私は静かに跪くファースト・スターを見つめる。

真っ白な機体は戦闘用の特殊コーティングが施され、まるで発光しているかのよう。

そして漫画やアニメに出てくる主人公機や看板機体のような、美しく重厚な造形。

さすがグレートスリーの一機、いつどこで見ても完璧な機体だ。

シリウス大好き、ノーザンライツ工業オタの私だけど、その造形と性能の高さは認めざるを得ない。

悔しいけど、やっぱカッコイイな!

そこに、私のそばにやってくる気配を感じた。

 

「オジサン、ナマでファースト・スターを見んのは初めてだけど、噂に違わぬすげえ機体だな。街中のパワードスーツと格が全然違うのが一目でわかる」

 

計画のために居残り組になった常連のオジサンがファースト・スターを見ながら言うのを、私は笑顔で頷いた。

 

「はい。人類の知恵と努力の結晶の一つで、地上に残された最古にして最新のパワードスーツです」

 

ファースト・スター。

この宇宙で最初に生まれた星の名を冠する人類初の大型パワードスーツにして、今も改良を重ねて進化を続ける一鍔重機の看板機体だ。

本当はもっともっと語りたかったけど、さすがに我慢した。

背後から車のエンジン音が忙しく聞こえてくる。

振り向けば、メンテナンスステーションに存在していた大型車を含めた車が敷地を出ていき、オバサンや整備士さんの指示に従って道路を塞ぐように駐車していくのを見た。

 

「協力できる車でバリ張るのはいいが、できればここに来る前に片をつけたいところだな」

「そうですね」

 

街のためとはいえ、もし壊れでもしたら保証がどこまできくかわからない。

でもそれを言ったらオジサンを始めとした、大型パワードスーツのパイロットたちも同じだろう。

 

「お客様は本当によろしいんですか? パワードスーツ、もしかしたら壊れちゃう可能性もありますけど」

「多少傷がつくくらいなら問題ない。それに、人が乗っていればロボットは攻撃はできないからな」

 

オジサンは手を腰にあてると、ニヤリと私を見た。

 

「若い子が度胸と根性見せるんだ。オジサンたちも頑張らなきゃだろ」

「ありがとうございます。絶対にここに来る前に仕留めてみせます!」

「心意気は良しだが、無理はしてくれんなよ」

「はい!」

 

私は感謝を込めて一礼をした時、グリードがスイーッとこちらにやって来た。

 

「ミスター、貴方のパワードスーツにワクチンを投与しました。諸々の確認をお願いします」

「わかった」

 

オジサンはその場を離れ、所有するパワードスーツへと向っていった。

オジサンを含めた、作戦に協力してくれる大型パワードスーツは四機。

その全てにハッキングに対抗するワクチンプログラムをインストールしたのだ。

 

『作戦開始、五分前です』

 

敷地内にグリードのアナウンスが流れる。

じゃ、私もそろそろ乗り込もうかな。

準備運動もしなきゃだし。

手にしていたヘルメットをしっかり被ると、ファースト・スターへ近づいた。

空気が抜けるような音がしてコクピットが自動で開く。

そして私が乗りやすいように位置や動きを調整してくれた。

こうしてスムーズに搭乗。

座席の位置を調整し、シートベルトをしている時に気づいた。

物理キーにキーホルダーが付いていて小さく揺れている。

見覚えのあるキーホルダーだった。

 

「このキーホルダー」

「そうだ。君との友情の証として買ったものだ」

 

コクピットにグリードの落ち着いた美声が聞こえた。

先日、アディス熱帯植物園で買ったウツボカズラが描かれたアクリル板のキーホルダーだ。

思わず苦笑する。

 

「調べたんだけどさ、ウツボカズラの花言葉って友情もへったくれもないんだよね」

「そのようだな。だが花言葉は関係ない。私と君がお揃いのキーホルダーを持っているという事実が、花言葉よりずっと重要だと認識している」

「……そうだね」

 

でも今度は、もっと前向きな感じの花言葉のキーホルダーを買いたいな。

……さて、雑談も雑念もここまでだ。

私は下を向いて深く息を吐き出し、そして正面を向いた。

エンジンのスイッチを押す。

 

「よし、グリード閉めて」

「了解」

 

コクピットが閉まり、全天モニターの正面に一鍔重機のロゴと技術提供企業のロゴが表示され、周囲の風景に切り替わった。

 

「生命維持装置(LSS)オン。リンケージによる操作は全てカット。マニュアルによる操作に移行中……移行完了。火器管制システムカット。環境、対物、赤外線、センサーオン。……燃料温度の上昇を確認。バッテリー九十八パーセント。機内の油圧良し。LSS、問題なく稼働中」

「システム、オールグリーン、だね」

「そうだ」

 

さすが天下のグレートスリー!

起動が早いな! 凄いな! 悔しいな!

でも、シリウスも凄いもん!

私は悔しさを隠しつつ、立ち上がろうと操縦桿に手を伸ばし、フットペダルに足を乗せたときだった。

 

「ナナちゃん!」

 

ファースト・スターを見上げながら駆け寄る人がいた。

リヒトさんだ。

私はマイクをオンにした。

 

「リヒトさん?」

 

リヒトさんは呼吸を整えながら、真剣な表情でファースト・スターを見上げた。

 

「君のパイロットの腕はよく知っているし、信頼もしているけど、本当に大丈夫かい?」

「はい! 危なくなったら、真っ先に走って逃げ帰ってきます!」

「うん。サヤちゃんはロボットだから心はないけど、でもきっと、ナナちゃんが危険な目にあうことには反対するし、心配もすると思うんだ。だから、本当に気をつけて!」

「……はい!」

 

リヒトさん、いい人だな。

その心配を杞憂のものにするためにも、頑張らなきゃね!

 

「じゃあグリード、動かすよ」

「了解した」

「それでは立ちまーす!」

 

私がマイクに呼びかけると、リヒトさんがファースト・スターから遠ざかっていくのが見えた。

それを見届け、操縦桿とフットペダルを操ってファースト・スターを立ち上がらせた。

立ち上がり成功。

ふふん、シリウスと操縦感覚が似ているから、これくらいは余裕だもんね。

さ、準備運動開始。

街の誰もが知るアパテイア体操だ。

……よしよし、駆動系も姿勢制御も問題なしと。

 

「ナナミちゃーん」

 

言いながら大型パワードスーツの一機──ノーザンライツ工業のレグルスだ!──が前に出てくる。

画面にパイロットが表示された。

サヤネさんのファンのお兄さんだ。

マイクとチーム通信で話しかけてくる。

 

「あのさ、これ、褒め言葉だから気を悪くしないで欲しいんだけど!」

「はい」

「ヌルヌル動いてキモいよ!」

「ありがとうございます! 最高の褒め言葉です!!」

 

私は機体を操作しながら満面の笑顔で答えた。

 

「ファースト・スターっていうか、大型パワードスーツってこんなに動けるもんなのか?」

「信じられるか? しかもマニュアルなんだぜ?」

「スーツ酔い、大丈夫なの?」

 

次々にチーム通信で話しかけてくるオジサンやお兄さんたちに、私は力強く頷く。

 

「私、乗り物には強いんで大丈夫です!」

『作戦開始、三分前です』

 

グリードが敷地内にアナウンスをする。

 

「ナナミ、誘導に従って所定の位置についてくれ」

「おけー」

 

私は体操をやめると、両手に誘導棒を持った四脚のグリードの指示に従って敷地を出て道路に足を踏み入れた。

続いて四機の大型パワードスーツが私の後ろに並ぶ。

 

「作戦の確認をします」

 

グリードは私を含めたオジサンやお兄さんたちにチーム通信で話しかけた。

 

「ナナミが敵パワードスーツと敵性AIの相手をします。その間に貴方がた四機は、こちらに迫ってくる敵性AIの操るロボットの排除を行います。ここを最終防衛ラインとし、敵性ロボットの侵入を阻止することが勝利条件です」

「OKだ」

「了解ですよっと」

 

自ら志願しただけあって、四人には軽い調子とは裏腹に気合が漲っていた。

嬉しいね! 心強いね!

 

「ナナミは目標に接近し、その動きを止めることを最優先に行動してくれ。その際、パイロットを確実に生存させることが勝利条件となる。街の管理AIがそれを望んでいるからだ」

「うん。勘違いなオッサンのせいで人生台無しにする気は全くないよ。そこは安心して」

 

私は力強く頷いた。

 

「店長、パワードスーツ隊の準備完了しました」

「避難民の誘導、及びバリケードの準備も完了しています。計画における全ての準備が完了しました」

「了解です。本部に最終確認を取ります」

 

グリードとオバサンの報告を受け、リヒトさんが本部へ連絡をしているようだ。

その間にマスクを装着し呼吸を整えた。

 

「確認取れました! 直ちに計画を開始してください!」

「了解しました」

「了解です」

 

いよいよ始まりだ!

私はヘルメットのシールドを下げると、マイクと通信で宣言する。

 

「ファースト・スターから関係者へ、それでは行ってきます!」

 

私はファースト・スターの右足を一歩引いて走る構えを取った。

……ゴー!!

私は操縦桿とフットペダルを動かすと、ファースト・スターは道路を猛然と走り出した。

これは助走だ。

行くぞ行くぞ行くぞ!

背中のバーナーを点火させると、フットペダルを踏み込み、ファースト・スターをジャンプさせた。

ホーップ!

ステーップ!

ジャーンプ!!

ファースト・スターを大きくジャンプさせた瞬間、バーナーの出力を引き上げた。

バツグンのタイミング!

操縦席に体が押し付けられるGと共に、重力の枷を振り切ってファースト・スターは飛翔した。

 

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