多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十九話 宇宙から来襲された 7

ファースト・スターはグングン高度を上げ、飛距離を伸ばしていく。

私はそのGに耐えながら、百点満点の離陸に心の中でガッツポーズを決めた。

そして、高度が三百メートルに達したところで水平飛行に入る。

全天モニターに黒地に赤と黄色の文字で警告文が表示されたドームの空と、街のきらびやかな夜景が見えた。

商業区画と興行区画、ビジネス区画の街の灯りだ。

そして危険を伝えるためだろう、塔全体が赤い光に染まっているエウダイモニアも目視で確認できた。

 

「街の管理AIより通達。ファースト・スターの高度制限を五百メートルに設定せよ」

「了解」

 

五百メートルっていうと、エウダイモニアよりも百メートルほど低い高さだ。

 

「高度制限を引き上げるように申請するか?」

「うーん……念の為お願いしよっかな!」

「了解した」

 

申請が通るまでは、私の腕の見せ所ってことで!

 

「現在の敵対勢力の状況だ」

 

夜景をバックに、先程メンテナンスステーションでも見たマップが表示された。

敵対勢力がさっきよりも少し進んでいる。

そしてメンテナンスステーションから、青い四つの三角が道路に沿って前進しているのが確認できた。

 

「パワードスーツ隊と敵対勢力の第一波との接触まで約十分と想定。電波妨害装置(ジャミング)と機体の光学迷彩の展開を提案する」

「了解」

 

提案通り、装置を作動させた。

これで敵の索敵網を撹乱するんだけど、やらないよりマシ程度の効力だろう。

だって相手は下品だけど、街の管理AIレベルの力を持つAIなのだ。

強敵には違いない。

でもそんなことで今の私は怯まない。

絶対に作戦を成功させる。

私は改めて闘志を燃やした。

数分ほどフライトを続けていると、ポンという電子音と共にモニターに拡大画像が現れた。

大型パワードスーツと様々なロボットたちが、幹線道路を我が物顔で進んでいる。

 

「十時の方角の地上で目標を確認」

「うん、ライブ中継で見たよ。エウダイモニアの前で踊っていた機体だ」

 

あの時はマニュアルで踊れるパイロットがいるんだって嬉しかったのに、ぬか喜びどころか、こんな騒ぎを起こすなんて!

 

「敵のパワードスーツはアンサーズ重機械工業社の」

「アンバサダー! アンサーズさんの看板機体だね」

「その通りだ。さすがだな」

「ロイさんには負けるけど、一応オタだからね」

 

私は胸を張る。

アンサーズ重機械工業社は、街中で働くロボット全般を製造している会社だ。

特徴はなんといってもその造形。

とにかくデザインがカッコイイものが非常に多く、性能はまあ普通レベルなんだけど、街の中でお仕事をするには十分なレベルを維持している。

子どもや若い人たちに人気があり、中古でも人気の高いメーカーさんだ。

グリードの情報によれば、先程アンサーズ重機械工業社の代表が記者会見を開き、この件に関して無関係であること。

自社の機体を街の安全保障を脅かすことに利用されたことに対し、強い怒りをもっていることを表明したという。

アンサーズさんにとっては、とばっちりもいいところだ。

そして、これから私が引き起こすことに胸が痛んだ。

アンバサダーに罪はない。

勘違いなオッサンと下品な乗っ取りAIが全部悪いのだ。

だから私のこと恨んでもいいけど、その一人と一機も忘れずに恨んでね。

 

「目標の頭上を通過」

「おけー!」

 

冷静に状況を伝えるグリードに私はたずねた。

 

「敵には気づかれていないよね」

「現状、問題なし」

 

よし、ここでしかける!

 

「グリードいくよ! 目標に突撃する!」

 

グリードの返事を聞くまでもなく、私はバーナーの出力を上げて飛行速度と高度を上げた。

ファースト・スター、私と一緒に頑張ろ!

高度制限ギリギリを攻めてロール開始。

地面に背を向ける形のまま、頭を下に仰け反るようにして縦にループを始める。

天地が逆転した上に内臓が押し下げられる感覚は不快でしかないが、それだけだ。

みるみるうちに地面が近づき、警告音が鳴り響いた。

 

「ナナミ!」

 

私はグリードの警告に構わず、操縦桿とバーナーを操って水平飛行へと戻した。

スプリットS成功!

よーしよしよし! このまま行けば目標に背後から攻撃ができる!

地面スレスレの超低空飛行に入り、やっぱり警告音は鳴り止まない。

でも私は、ファースト・スターが出せる最大の飛行速度で目標に向かった。

その衝撃波で周囲のロボットたちが吹き飛ぶが、ゴメンよ! 恨むなら下品な乗っ取りAIを恨んで!

 

「目標の索敵範囲に突入。目標がこちらを探知した」

「うん! 目標を目視で確認!」

 

アンバサダーが歩みを止めてこちらを振り向くのが見えた。

遅ぇんだよ! ノロマめ!

私は最大速度を保ったまま、ファースト・スターの右腕を振り上げた。

 

「これでも食らえええええ!」

 

私が声を上げるのと同時に、ファースト・スター右腕から強い衝撃がコクピットに伝わってきた。

それに構わずそのまま突破すると、機体を立て直して目標と対峙する。

脳と内臓が縦に横にと動いて忙しいが、体調に全く異常なし!

渾身のラリアットを頭に受けたアンバサダーは、大きくよろめいていた。

 

「お前ええええ! 超低空でかっ飛んできたと思ったらいきなり何しやがるっ!!」

 

私より年上の男の声が叫ぶ。

初めて聞く声だ。

誰?

 

「ラースだ」

 

私の内心の疑問を察したようにグリードが言う。

 

「シンハイグループ及びアタラクシアの管理AI。この事件の首謀AIと推測される」

「ふーん。そう」

 

私は口をひん曲げる。

この乗っ取りAIとオッサンパイロットと口をきくのは嫌だった。

 

「グリード、お願いがあんの」

「何だろう」

「私、奴らと口をききたくない。だから私の代わりに、すぐにパイロットを降ろして宇宙に帰れって伝えてほしい」

「了解した。……初めまして、ラース。私は一鍔重機社の管理AIグリードです」

 

淡々と自己紹介をするグリード。

せんでもいいのに、本当に真面目さんだ。

 

「いきなりぶん殴ってきて謝りもなしかよ!」

「現時点での状況から、パイロットは極めて適切な対応をしたと判断します」

 

態勢をたて直しながら言う乗っ取りAIに、グリードの声音は冷淡だった。

 

「さて、早速の要望ですが、今すぐパイロットを降ろしアタラクシアへ帰還して下さい。エンヴィは要望を聞き入れ、既に帰還しています」

「強引に追い出したくせに何言ってやがる!」

「そもそも、法を無視して街に侵入し、狼藉を働く貴方がたに非難をされる謂れはありません」

 

グリードの丁寧だけど、心の全くこもっていないロボットらしい態度がここに極まっていた。

私はその間にアンバサダーの様子を観察する。

頭部が潰れカメラも壊れたようだ。

ここまでは私のもくろみ通り。

リンケージは、パイロットとAI、パワードスーツが神経電気信号によって接続される状態のこと。

なので、パワードスーツやAIのダメージは、そのまんまパイロットも受けることになる。

ロボット及び人工知能三原則法の第一原則、人への安全性には、危険を看過することで人に危害を及ぼしてはならないというものもある。

つまり、頭部を潰された衝撃をパイロットに伝えないようにするため、乗っ取りAIはパイロットとのリンケージをすぐに切ったはずだ。

しかもカメラも潰しているから、センサー類とパイロットの聴覚と触覚以外の情報は遮断されているだろう。

パイロットにとっては、危機的状況になっていると思う。

……私は鬼じゃないし、血の色は赤くて温かさもある。

一発殴って気も収まった。

だからこのまま素直に投降すれば、それで良しにしようとした。

 

「黙れ! この星の資源を食い尽くすガラクタが!」

 

乗っ取りAIではなく、明らかに歳をとったオッサンの怒声が聞こえてきた。

 

「お前たちを生み出したことが、そもそも人類の大きな過ちだったのだ! お前たちが生まれたせいで人はあらゆる自由を失った! 職業選択の自由、創造の自由、ありとあらゆる意思決定の自由。それらを奪われ、人は苦しみとともに幸福をなくしたのだ!」

 

いやオッサン、あんた今、そのAIとつるんで悪さしてんじゃん。

そう突っ込んでやりたかったけどやめた。

会話するの、やっぱり嫌だったからだ。

だけど、胸の中に一点の燃える炎がついた。

ぶん殴って一度は消えた怒りの炎が、再び再燃するのを感じた。

私は操縦桿を握りしめる。

知恵とお金と時間を費やし、より良きものにしようと試行錯誤してきたであろう人々の長年の努力を否定する言動が、本気で許せなかったのだ。

 

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