私の怒りをよそに、オッサンは語り続ける。
「さらにあらゆる資源を食い尽くすことで、この星に生存する自由すらも失いかけている! この星に寄生する鉄屑どもを全て駆逐し、それに追従する家畜のような人間どもの眼を無理矢理でも開けてみせる! それが私のおおおおおおおお!!」
私はオッサンの話を無視し、フットペダルを力強く操作してファースト・スターをアンバサダーに突っ込ませた。
アンバサダーを強く抱きしめながら、私は再び背中のバーナーを点火する。
「ナナミ!」
「グリード、伝えて! そんなに自由自由言うなら、今すぐその自由を体験させてやるって!」
「……了解した。ミスター・ハルラモフ、そこまで自由に飢えているのであれば、今ここで私達がそれを満たしましょう」
「グリード、テメエ! 何しようとしてやがる?!」
「その質問はこちらのパイロットに聞いて下さい。ただし、貴方がたとは口をききたくないとのことです」
ヤンキーな乗っ取りAIの詰問に、グリードは全く動じることなく無機質に答えた。
私はやり取りに構わず、アンバサダーを抱きかかえながら走り出す、が、重っ!
フットペダルがメッチャ重っ!
アンバサダーを抱えている上に、おまけに暴れるものだから抱きかかえるのも大変だ。
通常の出力じゃ全然足りない。
バーナーを最大出力まで引き上げると、どうにかフットペダルの動きが軽くなった。
よし! これならジャンプできる!
「グリード、ブースター使うよ!」
「了解」
フットペダルを強く踏み込み、ファースト・スターをどうにかジャンプさせた。
宙に浮いたその瞬間、私はブースターを作動させる。
強烈なGと共に、ファースト・スターはドームの空へと再び飛翔した。
飛べ! 飛べ! 高く高く飛べえ!!
「街の管理AIより通達。ファースト・スターの高度制限を千メートルまで引き上げる」
「了! 解!」
グリードの報告に私は必死に答える。
「離せっ! この、鉄屑野郎が!」
アンバサダーは暴れるが、ファースト・スターはやすやすと押さえ込み続ける。
元々、街中の産業機で装甲が薄く軽い上に非戦闘用であるアンバサダーと、装甲が厚く街の外で戦う傭兵専用の機体であるファースト・スターとでは性能に天と地の差があるのだ。
「抵抗はやめることを強く推奨します、ミスター。既に地上から百メートル以上離れました。落ちたらただでは済みません」
グリードが無感情に警告をする。
「私はどうなっても構わん! 私が死んでも仲間たちが私の志を引き継いでくれる! 仲間たちがいつかお前たちとこの街を破壊して、人に真の自由をおおおおおおおお!」
おっさんの叫びが虚しく空に響いた。
私が操縦桿を操り、機体をピッチアップさせ始めたからだ。
縦にUの字を描いて上昇しはじめ、Gが容赦なく私はもちろんオッサンにも襲いかかっているはず。
しばらくして天と地が逆になり、百八十度ロールをして機体を水平に戻した。
この一連の動きでさらに高度が上昇した。
「お前えええ! 何パワードスーツで、しかも俺達を抱えながら航空機のマニューバしてんだよ! 頭おかしいだろ!!」
「インメルマンターンのことでしょうか。パイロットの技量と機体性能のたまものですが」
「うるせえ! このクソAIが! さっさと地上に降ろしやがれ!」
怒鳴り喚く乗っ取りヤンキーAIに、やっぱりグリードはどこまでも冷静だった。
「貴方はまだ自分の立場を理解していないようです。ラース、貴方がやるべきは、パイロットを守るために今すぐ宇宙に帰還することです」
「クズAIが気安く俺に指図すんじゃねえ!!」
「わかりました。では、しばらく自由な空の遊覧をお楽しみ下さい」
グリードの言葉に答えるように、私は機体を垂直に立てると一気に急上昇を始めた。
凄まじいGに耐えながら高度制限まで上がり続ける。
高度制限が近づき警告音が再び鳴り響く中で、ファースト・スターの速度がゼロになった瞬間、操縦桿を操ってくるりと頭を下に向けた。
そして一気に急降下を始める。
「うわあああああああ!!」
オッサンが叫ぶ。
外の状況がほぼわからない中で、機体の運動と地上では決して経験できないマイナスGに、心も身体も大混乱していることだろう。
あっという間に地上が近づき、私は素早く操縦桿とバーナー、ブースターを操作して機体を水平に戻した。
「ハンマーヘッド。ナナミ、大丈夫か」
「メチャ元気だよ! 大丈夫!!」
グリードの気遣いに笑顔で答えた。
さあ次は得意の技だ。
いつもと勝手が違うけど、頑張れ私! 頑張れファースト・スター!
私は再度インメルマンターンを行うべく急上昇を始めた。
「おおおおおおおう!!」
さっきからうっせーな、このオッサン。
叫びたくなるのもわかるけどさあ。
オッサンの叫びを無視して、もう一度インメルマンターンを行う。
これで上方向に向けてS字が描けた。
「ぅうぐあああああああああああっ!!」
続けてスプリットSを二回行えば、縦型の八の数字が完成!
バーティカル・キューバンエイトという技だ。
アンバサダーを抱えているし、オッサンは叫び続けてうるさいしで大変だったけど、達成感は半端なかった。
うふふ、楽しいね! 嬉しいね! ファースト・スター!
「地上のパワードスーツ部隊が敵の第一波と接触した」
グリードの報告に、一気に顔が引き締まり背筋が伸びた。
そうだ、地上ではオジサンたちが頑張っているんだ。
私も喜んでないで頑張らないとだよ。
「ラース、この空の遊覧で貴方のパイロットは既に心身ともに限界まで消耗していると推測されます。パイロットを守るため、今すぐこの街から離脱し、宇宙に帰ることを強く推奨します」
「うるせえ!! ここまで来たのに引き返せるわけがねえだろうが! おい! そうだろ!?」
最後はオッサンに呼びかけたようだけど、オッサンはうめき声を上げるだけだ。
せっかくグリードが忠告してくれたのに、そっかー、まだ自由を満喫したいんだー。
「グリード、ファースト・スターのバッテリーは?」
「残り五十パーセント」
「お! まだ半分もあるんだ!」
よしよし、いいよー、ファースト・スターのバッテリーがある限り飛んでやる!
ご機嫌でくるくるとロールしながら飛び続けて、再び急上昇した。
「あああああっ! もう、もう嫌だ! 降ろしてくれええええええっ!!」
ついにオッサンが音を上げたが、私はそれを無視して急上昇のGに耐えながら口を開いた。
「乗っ取りAIが! 宇宙に、帰るまで! 私は! やめない! グリード!」
「パイロットからの伝言です。ラースが宇宙に帰るまで続けるそうです」
「ラース! 今すぐ! 帰れええええ!!」
グリードの発言にオッサンはすぐさま応答した。
でも遅いんだな。
再び高度制限あたりで失速状態になった。
機体を縦にくるりと回転させて頭を下にすると、きりもみ回転しながら急降下を始めた。
おおお! これはハンマーヘッドよりもくるぞ!
「あああああ!! やめろ!! やめろ頼む!! やめ──」
コントロールの難しい状態で、オッサンに構ってやれない。
私は操作に専念し、まずはきりもみ回転状態を止め、バーナーとブースターの出力を再び上げて失速状態から回復すると水平飛行に戻した。
リカバリー成功!
さっすがファースト・スター!
姿勢制御バツグン!
バーナーとブースターの圧力調整も最高!
ふふっ、ご機嫌ロールしちゃおっと。
グルグルっとね。
「お前え!! いい加減にしろ!!」
「ラース、こちらのパイロットは自由な空の遊覧を満喫しています」
「これが遊覧か! ボケが!! お前ら揃って頭おかしいぞ!!」
思ったんだけどさ、このAI、今まで出会ってきたAIの中で一番無礼で感情表現が豊かじゃね?
「どうでしょう。バッテリーの限界まで付き合いますか?」
「ふざけんな! こっちのパイロットは
乗っ取りAIが捨て台詞を吐くのと同時に、抱えているアンバサダーから力が抜けるのを、機体越しに何となく感じた。
「ラースが機体から離れた」
グリードが報告をする。
「今、街の管理AIによって街から追い出されているところだ」
「やっとかあ」
気が抜けそうになったが、すぐに顔を上げた。
「ね、オジサンたちは大丈夫?!」
「問題ない。全員無事だ。相手にしているロボットたちも、ラースが完全に追い出されれば自動的に停止する」
「そっか。今すぐにでもオジサンたちのお手伝いに行きたいけど……」
今回の事件の首謀者が乗ったアンバサダーを抱えている。
これを何とかしないと。
「こんばんは、カリヤ様。お疲れ様です」
と、唐突に超絶美少女がモニターに現れた。
街の管理AI、ラストさんだ。
「ラストさん」
「はい。これから私の指示に従って、その機体とパイロットをお連れ頂きたいのです」
「……わかりました」
そうなるよねー。
でもって、回収したあとは恒例の事情聴取があるんでしょ。
あーあー、やだなー。
「ナナミ、素直に街の指示に従おう。君たちは街の危機を救った功労者であり、悪いようにはしないはずだ」
私が深くため息をつくと、グリードが労るように言った。
ラストさんが安心させるように微笑む。
「悪いようにも何も、いつもカリヤ様の人権を守り、ちゃんと礼儀をもって接しておりますよ」
いや、そうなんだけどさー。
長いしツッコミエグいしで疲れるんだよ。
再びため息をつくと、モニターに小型のドローンが飛んで来るのが見えた。
「警備部の本部までこちらのドローンがご案内します。カリヤ様、くれぐれも普通に、曲技飛行等をすることなく、普通について来てくださいね」
「……はーい」
二度も普通、言わなくていいじゃんよ。
釘を刺され、私はテンションがガタ落ちするのを感じながら返事をした。
混乱が続いているであろう街の夜景を眺めながら、案内のドローンについて飛び続ける。
こうして、私のミッションは無事に終了したのだった。