多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十話 プールに行って告白された 1

「前時代では、北半球のこの時期は夏という季節に入っていたそうだ」

 

毎回来ているカフェのテラス席。

もはや常連と呼んでもいいくらいに来ていて、私の連れの白銀のドラヤキ頭──厳密には違くてもっとシュッとしているけど、遠目で見たらそう見える──の多脚ロボット、グリードに対する店員の接客も慣れたものだ。

で、一番安いコーヒーを飲みながら、グリードと週一でお話をするのが当たり前の日常になっていた。

 

「聞いたことはあるよ。この街も夏らしいイベントやってるしね。この前の七夕もそうだし」

 

そして今日もまた、仕事が終わり時間を作ってやってきたグリードの話し相手となっていた。

 

「そうだな。しかしそれよりももっと注目されていたイベントがある」

「七夕以外に大きなイベントって?」

「前時代ではこの時期は海や山へ行くことが大きなイベントの一つとなっていた。しかしこの街に海も山もない。なのでそれに準ずる場所へ君と行きたいと思っている」

「その場所って?」

 

回りくどいのはこのロボットの個性だ。

しかし、私の思いに気付くことなくグリードは片腕をあげた。

 

「昨日リニューアルオープンした『ハウオリ・パールパレス・リゾート』だ」

「ああ! 確か半年くらい前に一度改装で閉館していたのは聞いていたけど、またオープンしたんだね」

「そうだ。私も昨日、グラトニーと会議をしたときに聞いた」

「そっか。て、もしかしてハウオリってトニーちゃんの──」

「ああ。アップグルントの系列の施設だ」

 

『ハウオリ・パールパレス・リゾート』とは、ホテルとプールが併設されたリゾート施設だ。

プールの種類がメッチャ多いのと、白い宮殿──これがパールパレスを指しているらしい──のような形をしている巨大なウォータースライダーが大人気で夏は大賑わいとなる。

私も子供の頃、水泳が趣味だった父とともに夏はよく通っていたけど、父が亡くなり、すっかり足は遠のいていた。

そうか、トニーちゃんに関係のある施設だったんだ。

 

「人は夏になると老若男女問わず、涼を求めて夏のイベントへと足を運んでいたそうだ。そして、薄着になることで気持ちが開放的になったらしい」

 

目のシャッターが開いて、複眼があらわになった多脚ロボットが私を見つめる。

 

「気持ちが開放的になるということは、欲望も開放的になることと同義だと推測される。ぜひ足を運び、開放的になった人々を観察したい。君も一緒に来てくれるとありがたいのだが」

 

そういう話の流れになるよね。

予想はついていた。

 

「それはいいけど」

 

私はコーヒーのカップをテーブルに置く。

 

「次の給料日まで待ってくれる? ハウオリ、フェリーやアグレアほどにないにしても、確かお金かかる場所だったよね」

 

フェリー──正式にはフェリキタスランド──はこのアパテイアで一番お高い遊園地で、年に一回行けるか行けないかくらいには高級な場所だ。

私は今年の春節に行ったきり、一度も足を運んだことはない。

アグレア──正式にはアグレアブル・ワールド──は前時代の様々な国の建築モチーフにした遊園地で、やっぱりお値段が高い場所だ。

そしてハウオリは、この上位二つよりは抑えめの値段だけど、それでも良いお値段だったと記憶している。

私は庶民なので、そうホイホイとそういう施設に行けるほどお金に余裕はないのだ。

 

「その心配はいらない」

 

そう言うとグリードは指を立てた。

ポッと現れたのは、何かの長方形のコードだった。

 

「ハウオリ・パールパレス・リゾートの一日招待券だ。グラトニーから渡された。ついでに伝言を預かっている」

 

すると私の前に映像画面が現れた。

黄色い頭のロボットが両手をあげてブンブンと振っている。

 

「やっほー! ナナちゃん元気かお? 僕は明けても暮れても仕事仕事の毎日だお」

 

頭の液晶画面には、可愛いく単純化されたイラストで満面の笑みを表示していた。

おお、トニーちゃん、忙しいだろうに相変わらずのようで何よりだ。

 

「で、今日はその仕事に一つに区切りがついたお。『ハウオリ・パールパレス・リゾート』がリニューアルオープンしたんだお! 夏といえばここでしょ! でしょ! ナナちゃんにもリニューアルした僕の施設で夏を満喫してほしくて、この朴念仁AIにチケットを渡したから受け取ってほしいお」

 

すると、液晶画面の笑顔が変わった。

どこか深いというか、温かいというか、私の語彙では表現できない笑顔だ。

すごい。

そこらの最新のAIに勝るとも劣らない表現力は、さすがアップグルントの代表、この街を管理する大物の上位AIというべきか。

 

「僕はこの街を管理するAI。だから、この街ができてからの記録を全て見聞きすることができるお。ナナちゃんは昔、ここにお父上様とよく来てくれていたんだおね。楽しい思い出の場所だと思うんだお。だからリニューアルしたこの施設で、新たにまた楽しい思い出を作ってほしいんだお」

 

驚きの事実に思わず声を上げそうになる。

でも言われてみれば確かにそうだ。

この街は、アップグルントのAIとサージュテックのAIによって完全に管理されている。

至る所にある監視カメラで住人の様子は逐一チェック、記録されているのだ。

……改めて考えると、ちょっと怖いな。

と、トニーちゃんの表情が不機嫌なものに変わった。

 

「そのエスコート役を、人の心に疎い鈍感AIに任せるのはどうにも納得はできないけど、適任者がいないのも事実だお。不躾のことしたら七夕の時みたいに怒っていいお! だからこの堅物AIを連れて、この夏をエンジョイしてきて。そして、感想をぜひ聞かせて欲しいお。それじゃ、またね!」

 

最後は笑顔で手を振るトニーちゃんの映像で終わって、画面も閉じた。

……七夕の時のことも筒抜けかー。

となると、今現時点で私たちの会話もお見通しってこと?

うーん、深く考えると今後の生活に支障が出るような気がして、私は軽く頭を振った。

すると、グリードが私の顔を覗き込んだ。

 

「ナナミ?」

「あ、何でもないよ。でもそうか、そういう事情があったんだね」

「そういうことだ。君はお金の心配をせずに遊びに行ける。早速来週の日曜日に行ってみないか。薄手になって解放された君の心を早速観察してみたい」

 

その言葉に、思わず眉間にしわが寄るのを感じた。

本当にこのAIは変なところで学習をしないな。

 

「あの、グリードさん。そういう下心的な発言は胸にとどめておくべきだと思うんだけど?」

「私に心はない。故に下心はない。ついでに言えば胸もないので、とどめておけないのだが」

「比喩だよ! ちょっとは言葉を選ぼうね、黙るべきところは黙ろうねって話!」

「なるほど、比喩か。言葉の吟味については、より学習の精度を高めることにしよう」

 

納得したようだけど、本当にわかっているのかな?

疑問に思ったけど、ふと気付いたことがあった。

薄手って言ったけど……あ!

 

「グリード」

「何だ」

「ハウオリ行くの、やっぱ給料入るまで待って」

「何故だ」

 

生真面目に尋ねる多脚ロボに、私も生真面目に答える。

 

「今の私の体に合う水着、持ってない。買わなきゃ」

「……なるほど、理解した。確か君の給料日は十日後か。そうなると一番早くても行けるのは再来週になるな」

「そだね。グリードは大丈夫そう?」

「休日だから大丈夫だと思うが、仕事をねじ込んでくる者もいるかもしれない。そうだな、念の為今のうちに調整はしておこう」

 

こうして再来週、私たちは夏を満喫するためにトニーちゃんの施設へ行くことになった。

そして十日後、給料が入ったその日に友人のアイちゃんと商業施設の水着売り場へと向かった。

アイちゃんもこの夏はプールデートをしたいと思っているようで、一緒に水着を買うことになったのだ。

特設エリアになっているそこには、形も色も様々な水着が売られている。

その数に圧倒されつつも、私たちは水着を選び始めた。

 

「ナナちゃんはスタイルいいから、こんな水着もいいと思うんだけど」

 

そう言って見せたのは、布面積が引くほど少ない艶のある黒のセクシー水着だった。

私は思わず顔しかめた。

 

「えー。下着よりも布地少ないじゃん。もっと可愛いのがいい」

「だよねー。私もこれはさすがに着れないな」

「ユーゴさんが頼んだら?」

「ユーゴはこういうの選ばないもん。……多分」

 

思うところがあるのか、改めてセクシー水着を見つめるアイちゃんをよそに、私は水着の物色を続ける。

可愛いとは言っても、子供っぽいのは違うし、色ももう少し少なめで、布面積もそこそこにあって、大人可愛いって感じがいい。

いや、大人可愛いって何? て聞かれたら言葉にできないけど、雰囲気的にそんな感じ。

……うーん、難しいな。

そもそもワンピにするかビキニにするかで悩む。

 

「あ、この水着、色が可愛くてきれい」

「どれ?」

「これー」

 

アイちゃんが見せてくれたのは、花柄がうっすらと浮き上がっている黄色のブラトップに、水色の地にお花畑のような様々な小花がプリントされたボトムだった。

花柄大好きなアイちゃんらしいチョイスだ。

 

「アイちゃんの好きそうなデザインだね」

「そう言われると思って花柄避けてたんだけどなー」

 

照れくさそうに言うアイちゃんに、私は笑顔で言った。

 

「いいじゃん。自分の好きなの着るのが一番だよ」

「そうだよね。……ちょっと試着してみる」

 

アイちゃんは笑って試着室へと向かった。

私はその間も自分の水着を探し続ける。

ふと見えた一着の水着に手が止まった。

お、おお!? これいいかも。

私はその水着を引っ張り出した。

基本は白で、ポイントに赤地に白のドット柄が入っているビキニだが、ボトムの部分がマイクロミニのスカートになっている。

そのスカートの裾にもビキニと同じ色のドット柄があしらわれていた。

イチゴっぽくて可愛いな。

イチゴは、私のあこがれの果物的お野菜で、イチゴ風味は食べたことはあるけど、実物は高くて食べたことはない。

何より、イチゴ自体のデザインも可愛いと思っている。

見れば見るほど、これだ! という気持ちになった。

サイズも問題ないし、よし! 試着しよう!

私もアイちゃんに続いて試着室へと向かった。

私たちはお互いに選んだ水着を見せあい、思いのほか似合っていることを喜び合った。

そしてためらいなくお買い上げ。

 

「ね、いつものお店に行って一杯飲もうか?」

「いいねー。行こう行こう」

 

私たちは上機嫌でいつも通っている居酒屋へと向かったのだった。

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