多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十一話 皆とゲームで遊んだ 4

道中の敵とも戦ったけど、グリードの動きは傍から見ても全く危なげがなかった。

 

「グリード、凄いね。動き、全然問題なさそうだよ」

「ありがとう。だが、まだ学習の余地はあり最適化はできる。砦のボス戦でこのゲームのNPCレベルまで持っていくつもりだ」

 

私の言葉にグリードはいつもの淡白な調子で答えた。

ユーゴさんが斧を片手に腰に手を当てた。

 

「敵に回したら厄介極まりないが、味方にしたらかなり心強いな。下手な人間より強えし」

「ユーゴ、模擬戦のこと、まだちょっと気にしてるんだよね」

 

アイちゃんがイタズラっぽい笑顔を向けると、ユーゴさんは不満げにそっぽを向いた。

 

「もう気にしてない」

「そう? でもニコラさんから、今でも時々相手するように頼まれるって聞いたよ」

「……アイツ、余計なこと言いやがって。明日しごく」

 

呻くようにしてユーゴさんが言った。

以前、グリードの勤め先の企業イベントで、ユーゴさんとグリードはパワードスーツの模擬戦をやったけど、その時に時間ギリギリでユーゴさんが押し負けたのだ。

表向きは平静を装っていたユーゴさんだけど、実はとっても悔しがっていて、更に腕を磨こうと今も頑張っているとアイちゃんから聞いた。

 

「ユーゴは強い。後日データを解析した技術者たちも、ユーゴの動きをAIに勝るとも劣らない動きだと賞賛していた」

「そりゃどうも。だが、負けちゃお終いなんだ。強い敵と戦うのは名誉だが、勝って生き残らなきゃ意味がねえ」

 

片手を上げて皮肉っぽく笑うユーゴさんに、グリードの淡白な姿勢は全く変わらなかった。

 

「そのためにAI(私達)がいるのだ。君が生き残るそのために、私達の力を存分に活かしてほしい」

「はいはい。勉強させてもらいますよ」

 

こんな感じで道中は進み、先程の砦の前についた。

私の視界では扉は開いているが、初見のグリードは閉まって見えていることだろう。

と、視線を感じた。

自然と顔をそちらに向けると、三人の男達がこちらを見ている。

ん? どこかで見たことがあるな?

三人組の男の一人が声を上げた。

 

「……グリード?!」

 

格闘家と思しきその姿。

聞き覚えのあるその声は。

 

「ジョン・ライル!」

「げっ! ナナミ・カリヤ!」

 

まさかの天敵登場。

私達は反射的に睨み合った。

が、そこに狩人の男と黒魔術師の男がジョンを押しのけて私に笑顔を向けた。

 

「ナナミちゃん?! 偶然だね!」

「帽子被ってたから気付かなかったよ。その衣装、黒魔術師でしょ? 俺とおそろいじゃん! これって運命!?」

 

早速距離を詰めてくる男二人に、私は一歩退きグリードがすかさず私の前に出た。

 

「君たちとは先日会ったな。場所はハウオリ・パールパレス・リゾート。二十八日と九時間三十二分五十六秒ぶりだ。ジョン、ニコラ、フラヴィオ」

「えっ?」

 

ユーゴさんが声を上げ、グリードと同じく私の前へと出た。

 

「何だお前ら、このゲームやってたのか」

「あっ! ユーゴさん!!」

「お疲れ様です!」

 

三人はユーゴさんを見るやいなや折り目正しく敬礼をした。

グリードがユーゴさんを見上げる。

 

「ユーゴ」

「ああ。コイツらは俺の部下だよ。性格はナンパな奴らだけど腕は立つ。このゲームの腕前は知らんがな」

「俺達、一週間前から始めてステージ四まで行ったんすよ!」

 

目をキラキラさせてジョンが嬉しそうにユーゴさんに言う。

春節の時も思ったけどコイツの態度、私と全然違うじゃん。

例えるなら……そう、たまに公園に行くと見かける、犬のロボだ!

大好きな飼い主と大好きな散歩ができて──そう設定されている──ご機嫌な犬!

そんなジョンにユーゴさんは笑顔を向けた。

 

「すげーじゃん。俺は発売当日から始めたけど、まだステージ三止まりだ。アイラとのんびりやってる」

「見ろ! ユーゴさんのこの余裕!」

「彼女さんと一緒ですか? いいなー」

「俺もその台詞言ってみてー」

 

ユーゴさんと三人組は盛り上がる。

私はアイちゃんの横に並び立った。

 

「アイちゃんは知ってるの?」

「ニコラさんとフラヴィオさんのこと? もちろん。ちょっとチャラいとこもあるけど、基本は優しくていい人たちだよ。てか、ナナちゃんとグリちゃんが二人の知り合いだったことに驚きなんだけど」

「前にプールに行った時に偶然会ったんだよ」

「ナナミがあの二人にナンパされていたのだ」

 

いつの間にかこちらに来ていたグリードの補足にアイちゃんは声を上げた。

 

「えっ?! そうだったの?! ……うーん、悪い人たちじゃないんだけど、ナナちゃんにはもっと落ち着いていて、堅実な大人の男の人と付き合ってほしいという思いが──」

「心配には及ばない。私がナナミのそばにいる間は、あの三人に不埒な真似はさせない」

 

生真面目なグリードの言葉に、アイちゃんは両手を握りしめて頷いた。

 

「グリちゃんお願いね。私もフォローするから」

「アイラのフォローがあれば万全の体制に近い。私たちでナナミを守ろう」

「うん!」

 

……あの、私、そんなに危なっかしい?

いや、多少は自覚はあったよ。

でもそこまでされると、ちょっとショックなんだけど。

 

「あ、そうだ! せっかくだから固定で一緒に行きませんか?」

 

ニコラさんの提案に、男二人が顔を向けた。

 

「お! いいね!」

「ユーゴさんがよければやりませんか?」

 

すると、ユーゴさんがこちらを向いた。

 

「て、三人が言ってるんだが、どうする?」

「ユーゴはどうなの?」

「俺は構わないと思ってるけど、アイラたちの意思を尊重するよ」

 

グリードとアイちゃんは一瞬顔を見合わせ、揃ってユーゴさんの方を向いた。

 

「いいよー」

「私は構わない。ナナミも問題ないか?」

「え、うん。全然問題ないよ」

「よし。アイラとナナちゃんは後一時間くらいで落ちるから、それまでやってみよう」

 

と言うわけで、六人と一機で固定パーティを組み、最初のボスへ挑むことになった。

結果だけ言えば、圧勝だった。

私も再戦でちょっと慣れていたこともあったけど、グリードの安定感と、三人組のアタッカーの破格の攻撃力が相乗効果を生み、難なくクリアしたのだ。

 

「さっすがユーゴさん! ディフェンダーでも優秀ですね!」

「回避ディフェンダー、かっけー!」

「てか、現実同様、安定しているなー。安心して戦える」

 

手放しで褒めるジョンたちに、ユーゴさんは明らかに苦笑した。

 

「そんなに褒めても何も出ねーぞ。てか、お前らめっちゃ強えじゃん。結構やりこんでるな?」

「ジョンがかなりハマっていて、付き合わされてるんですよ」

「ハマっているのはお前らも一緒だろ! 昨日も夜中の二時までやったじゃねーか」

「楽しむのはいいが、仕事に支障がないようにな」

 

ジョンたちもVRゲーム機を自宅に持っているのかな。

そうでなきゃ、夜中までやり込めないもんね。

さすがは傭兵、性格はともかく稼ぎはそこそこあるようだ。

 

「悔しいけど確かに上手かったね」

 

私が言うと、アイちゃんが頷いた。

 

「やり込んでいる人たちは違うね。動きに無駄がないというか」

「やり込むことで学習し、動きが最適化されたのだろう。それができる時間と環境があることが彼らの強みだ」

「だねー」

 

と、ジョンと目があった。

何故か、フフンと鼻で笑われる。

……コイツ!

前言撤回してえ!

褒めて損したわ!

 

「前から疑問に思っていたのだが、ジョンのナナミに対するあたりが強いように見えるのだが」

「あはは、彼も彼で思うところがあるんだよ」

 

グリードの問いかけに、アイちゃんが頬をかきながら言う。

私はアイちゃんに問いかけた。

 

「何それ?」

「また今度話すよ。今は気にせずゲームに集中しよ。あんまり酷いようなら、ユーゴに言うから」

「? ……わかった」

 

ワケわかんないけど、アイちゃんがそう言うなら私も大人になって、今は良きメンバーでいようじゃないか。

私の心が広くて助かったな、ジョン・ライル。

でも次はねーぞ。

私は奴に向けて内心でシャドウボクシングをした。

そして私達は、砦を通過して次のエリアへと進んだ。

地面が徐々に砂地へと変わり、さらに景色が単純化される。

赤い月に照らされたその光景は、砂、砂、砂、砂まみれだ。

 

「こういう地形、砂漠っていうんだよね」

「そうだ。街の周辺では見かけることはないが、この星の至るところでこのような地形が広がっているとされている」

「そうなんだ」

 

グリードの説明に、私は思わずしゃがんで砂を観察する。

 

「砂、すっごく細かいよ。これが現実だったら、機械の隙間に砂が入ってメンテナンスが大変そう」

「ああ。しかも粒子は固くボディを確実に傷つける。自動修復をもってしても正常状態を維持するには困難が伴うだろう」

「そっかー」

「おーい、行くぞー」

 

ユーゴさんに促され、私とグリードは砂漠に足を踏み入れた。

道中の敵はやっぱり可愛げのかけらもない、不気味なものばかりだ。

しかもちょっと凶暴化している気がする。

それでもチームワークで危なげなく倒すことができた。

そして、最初は物珍しかった風景もあまりに単調でちょっと飽きてきた頃、ボスがいる遺跡へとたどり着いた。

入口前には人が大勢いる。

私達がくると、グリードに視線を向ける人たちがチラホラといた。

と、そのうちの女性二人組──剣士と白魔術師だ──がグリードの前にやって来た。

 

「あの! 一緒にスクショ撮ってもいいですか?!」

「街でもたまに見かけますけど、その騎士の鎧の模様もカッコイイですね! よければぜひ」

「このゲームを貶すことをせず、常識の範囲内の使用であるなら構わない。また時間もあるので手短にお願いしたい」

「はい! ありがとうございます!」

 

グリードの事務的な応答に女の子たちは喜び、再びグリードの撮影会が突発的に行われた。

 

「グリード、やっぱ目立つな」

「てか、俺らよりモテてるんじゃね?」

「それは、この世界にロボの姿だから悪目立ちしてるだけだろ。それに、外面が女でも中身がそうとは限らねーし」

「そーだけどさー」

 

男三人がヒソヒソしているのを、ユーゴさんは呆れたマナコで見ている。

要望通りグリードの撮影会はすぐに終わり、私達は六人と一機の固定でボスに挑むことになった。

遺跡の奥と思しき場所に転移した私達が身構えるのと、砂が大きく盛り上がり敵が飛び出てくるのはほぼ同時だった。

 

「やっぱキモいなあ」

 

ドン引いているアイちゃんの声。

砂の地面から出てきたのは、前に水族館で見たイソギンチャク的な、でもデカい上に長くてウネウネしていて、見た目も動きもキモい魔物だ。

 

「サンドワームだ。こいつは特に弱点属性はない。さっきのボス同様、敵の動きをよく見て攻撃するようにな」

「はい!」

 

ユーゴさんのアドバイスに私は頷いた。

 

「よし、グリード行くぞ」

「了解」

 

ユーゴさんとグリードがボスの元へと向かい戦闘が始まった。

グリードは初見にも関わらず安定した戦いができていたけど、私といえばぎこちないことこの上なかった。

 

「ナナミ、同じ黒魔術師のフラヴィオの動きを参考にするといい。彼の動きは理想の動きに近い」

「見て見て! 参考にして!」

 

グリードのアドバイスに、フラヴィオさんはチャラさ全開の笑顔で両手を振った。

何となく気が軽くなる。

そっか、慣れてるんだもんね。

敵の動きをよく見つつ、フラヴィオさんの動きも参考にしよう。

……忙しいぞ。

私がダメージを受けても、アイちゃんの回復魔法で助けてくれる。

私、お荷物だな? 間違いなく。

しかし、他のメンバーが慣れている上に優秀だったため、瞬く間にサンドワームを討伐できた。

 

「よっしゃあ! 楽勝楽勝」

「お疲れさーん」

「お疲れ様です」

「すいません、ご迷惑おかけしました」

 

私が頭を下げると、ユーゴさんが明るく笑った。

 

「初見ならこんなもんだ。気にすんな」

「そうだよ、私も最初はボコボコにやられてユーゴに迷惑かけてたもん。だから大丈夫だよ」

 

ウンウンとアイちゃんが頷く。

グリードが私の隣に来た。

 

「私はともかく、君以外の全員は何度か対戦し慣れているようだ。比較はここでは成長の妨げにしかならない。君は君のペースで成長をしていけばいい」

「うん」

 

私のもとには大量のお金が入り、新たなスキルが開放された旨のインフォメーションがあった。

そして、目の前にあった大量の瓦礫がなくなり、遺跡の奥への道が拓ける。

よし! 気を取り直して次のステージに突入だ!

私はみんなの後に続いた。

 

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