多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十一話 皆とゲームで遊んだ 5

拓けた道を進むと、地面は徐々に湿った地面へと変わった。

周囲の風景も植物が生い茂り、どんよりとした霧に覆われた暗い森が目の前に現れる。

 

「時間的に、ここのボスを倒して終了か」

「うん。ジョンさんたちのおかげで早く進められているね」

「お二人の役に立てているなら何よりっすよ!」

 

ジョンのやつ、ユーゴさんとアイちゃんにはデレデレ対応じゃん。

私やグリード、他の二人の塩対応はどこいった?

思わずジト目でやつを見た時、

 

「ジョンはユーゴさんのこと崇拝してるんだよ」

 

言ったのはフラヴィオさんだった。

私はフラヴィオさんを見上げる。

 

「崇拝、ですか?」

「そ。アイツ、ユーゴさんに憧れて傭兵になったんだ。同じ会社に入るんだって、養成学校時代から頑張ってた」

「そうだったのか」

 

グリードがさり気なく私の隣と話題に入ってきた。

フラヴィオさんは気にする様子もなく頷く。

 

「ああ。だからユーゴさんにいいとこ見せようと必死なわけ。周りにユーゴの犬って揶揄われてもちっとも気にしてないし、ユーゴさんへの信仰心は筋金入りだよ」

「へー」

 

ジョンのユーゴさんへの態度についてはわかったけど、何でそこまで崇拝しているんだろう。

そう思った時、その本人がこちらを向いて私達を睨んだ。

 

「おいそこ! 余計なこと教えてんじゃねーよ! てか、もっと火力出せ! 俺はともかくユーゴさんの足引っ張るな!」

「へいへーい、さーせーん」

 

チャラチャラヘラヘラとフラヴィオさんは応じた。

さすが、アイツの扱い慣れてるな。

私もフラヴィオさんにならい応じることにした。

 

「……さーせんしたー」

「お前が言うと、よりムカつく」

 

んだと、コラ!

私が身を乗り出そうとした時だった。

 

「ジョン」

 

グリードのシャッターが開いて複眼があらわになる。

その圧にジョンは明らかに怯んだ。

 

「な、何だよ」

「これ以上、私の友人へのあたりが強くなるようなら、君の蒸し返したくない過去を開示する用意が私にはある。君には紳士的な対応を」

「よおし! 時間もないし、みんなで仲良く力を合わせてチャッチャと森を抜けるぞ!!」

 

グリードの言葉を遮って態度を変えるジョンに、本人とグリードを除いた全員の視線が呆れたものになった。

ユーゴさんは怪訝な表情で首を傾げる。

 

「グリードの知るアイツの過去って何だ?」

「そこは聞かないであげよ? 人は触れてほしくない過去の一つや二つ、あるものでしょ」

「……そうだな。アイラは優しいな」

「えへへ」

 

おい、スキあらばいちゃつくのはやめてもらおうか。

と、複眼のシャッターを閉じながらグリードがこちらを見た。

 

「ナナミ、君もジョンの対応を真に受けないよう、適度に受け流すことを推奨する」

「うん、気をつける」

 

グリードの言うとおりだ。

今はチームワークが必要な時。

大人の対応、大人の対応。

私達は改めて、霧に覆われる森の奥へと歩みを進めた。

更に凶暴化した敵と戦闘を行いながら霧の深いところへ進んだ途端、ショックが体を襲った。

え? 何?!

ステータス画面を見れば体力が減っている。

ええっ?! 何で?!

 

「この霧は瘴気なんだよ。この霧が溜まっている場所、瘴気だまりは体力が減っちゃうの」

 

すかさず体力を回復してくれたアイちゃんが、真剣な表情で教えてくれた。

グリードは周囲を見渡す。

 

「なるほど。道も細く見通しが悪い上に、瘴気でさらに戦える場所が限られるのか。よく考えて設計されているな」

「関心してないで、さっさと進むぞ」

 

ジョンに促され、私達は瘴気だまりに気をつけながら森を進んでいく。

しばらくすると周囲の闇より濃い巨大な影が見え隠れするようになった。

形状からして、塔とも大きな木のようにも見える。

 

「あの建物がボスのいる場所だ」

 

ニコラさんが教えてくれた。

 

「近いんですか?」

「いや、大きいから近くに見えるだけで、実際にはもう少しかかる。引き続き集中して行こう」

「はい」

 

ニコラさんの言う通り、道は入り組んでいて中々目的地の塔まで辿り着けなかった。

今までで一番長く感じるフィールドだ。

ザコ敵を倒しながら、ようやく塔の目の前へと辿り着いた。

塔は大きな木と合体していて、壁面には木の根っ子がはっている。

ここにも人がたくさんいて、グリードに視線が集まる中、ユーゴさんが私の方を向いた。

 

「ここのボスは三体出てくる。攻撃力の高いオーガと魔女と悪魔。まず真っ先に叩きたいのは魔女だ。コイツは味方全体を回復させる魔法を使う。敵のヘイトはディフェンダーが受け持つから、魔女を集中的に狙ってくれ」

「了解です」

「とにかく観察することだ。敵の動きもそうだが、他のアタッカーの動きも落ち着いて見てくれ」

「はい」

 

私は頷いた。

よし、気合い入れてこう!

 

「準備はいいな? それじゃ今日のラストバトルだ。勝ってきれいに終わらせよう!」

 

ユーゴさんの言葉に私達は元気に応じた。

あっという間に塔の中へと転移し、中も外同様、木の根っ子の自己主張が激しい状況だった。

私達は三体の敵と対峙する。

筋肉モリモリで大きな斧を持ったオーガと、いかにもな悪魔と、花のような帽子をかぶっている魔女。

杖を構えると、戦闘が始まった。

オーガをグリード、悪魔と魔女をユーゴさんが引きつけている間に、私達は魔女に集中砲火を浴びせた。

ていうか、三人の火力の凄さよ。

すんごいダメージ数なんだけど、何が違うのかな。

私も頑張らなきゃ!

三体が繰り出す敵の全体攻撃をみんなの動きを見てかわし、程なくして魔女は倒せた。

 

「次は悪魔だ」

「了解です!」

 

ニコラさんが教えてくれて、私は視線を悪魔へと向けた。

その長い尻尾の全体攻撃を危機一髪かわしながら、魔法攻撃を叩き込む。

またしても悪魔は尻尾攻撃をして、今度は余裕でかわせたけど、攻撃に集中していたジョンがダメージを受けた。

しかも、何か黄色い光が彼の体を取り巻いている。

 

「ゲッ! 麻痺った!」

「待ってて! すぐに回復するから!」

 

アイちゃんは詠唱中だった全体回復魔法をかけてから、状態異常回復の魔法をジョンにかけた。

 

「あざす!」

「ジョン、あまり張り切りすぎんなよ!」

「うっす!」

 

ユーゴさんにジョンは素直に頷いた。

その間にも私達は攻撃を続け、悪魔も討伐完了!

後はオーガのみだ!

フラヴィオさんを見習って攻撃魔法をオーガに浴びせ続けた。

敵は断末魔をあげながら消滅。

ステージクリアだ!

 

「上出来だ! みんなお疲れさん!」

「お疲れ様でした!」

「お疲れです!」

 

アイテムのドロップはなかったけど、再び大量のお金をゲットし、塔の外へと戻ってきた。

 

「アイテムゲットしたけど、盾だったわ。いらん」

 

肩をすくめるジョンにニコラさんが笑う。

 

「プレイヤー同士でアイテム交換できれば良かったんだけどな」

「売るしかねーか」

「盾使うジョブ、使う予定がないならな」

「俺はこの拳で勝負するって決めてんだ」

 

ゴツいナックルを見せつけるジョン。

と、唐突にチャイムの音がした。

 

「カリヤ様、退室のお時間まで後十分です」

 

あ! VRカフェのインフォメーションだ。

支度もあるし急いで落ちなきゃ。

 

「ユーゴ、みんな、私とナナちゃんは時間だから落ちるね」

 

恐らく同じ連絡が来たであろうアイちゃんが言い、私も頭を下げた。

 

「今夜はありがとうございました!」

「こちらこそありがとうな。また遊ぼう」

 

ユーゴさんが爽やか笑顔で言うと、ニコラさんとフラヴィオさんが、私に寄ってきた。

 

「ナナミちゃん、またね!」

「また一緒に遊ぼう! でもって今度は師匠を倒そう!」

 

……師匠?

と、グリードがすかさず私の前に出た。

 

「私も落ちる。今日は突然だったが一緒にプレイしてくれてありがとう」

「こちらこそ!」

「グリードもまた遊ぼうな!」

 

私は笑顔でみんなに手を振り、ゲームをログアウトした。

ゴーグルとヘッドセットを外す。

自然と椅子にもたれた。

ふー、結構濃い三時間だったなー。

目は疲れるし肩もこったけど、充実した時間だったと思う。

……またみんなと遊んでみたいな。

と、余韻に浸っている時間はなかった。

帰る準備しなきゃ。

急いで支度をし、同時に部屋を出たアイちゃんとVRカフェを後にした。

 

「ナナちゃん、どうだった?」

 

人の流れに乗って駅に向かっていると、アイちゃんがたずねてきた。

私は笑顔を浮かべた。

 

「疲れたけど楽しかった」

「良かった!」

 

安心したようにアイちゃんが微笑む。

私は頭に手をやった。

 

「みんなに迷惑かけちゃったけどね」

「ナナちゃん初心者なのにあそこまで動けたのすごいよ。何回もやれば、きっと皆と同じくらい上手くなるから」

「そっか」

 

手に持つ端末が震えると、グリードからメッセが届いていた。

 

「お疲れ様。今夜はありがとう。また遊ぶ機会があれば誘ってほしい。気をつけて帰ってくれ」

 

私は顔を上げてアイちゃんを見た。

 

「グリードからメッセきた。また遊ぶようなら誘って欲しいってさ」

「グリちゃん、ゲームに興味持ってくれたのかな」

「多分、ゲームをやっている人に興味を持っているんだと思うよ」

 

私が苦笑すると、アイちゃんは吐息をつく。

 

「だとしたら、本当に人に興味がむくように設計されているんだね。一鍔さん、どうしてそんな設計にしたんだろう」

「うーん」

 

グリードの使命のことを言うべきか判断に迷ったけど、

 

「何でかね?」

「ね」

 

結局言わないことにした。

秘密にするようなことではないと思うけど、これはグリードの口から直接言うべきことだと思った。

グリードに口、ないけど。

 

「それよりも、また時間があったらグリードも誘って遊ぼうよ」

「うんうん! また時間を合わせて遊ぼ! 次のエリア、見てみたいし」

「だよね。フラヴィオさんが言ってた師匠ってのも見てみたいし。てか、師匠って何? 知ってる?」

「師匠は次のエリアのボスのあだ名で、私も聞いただけで見たことないはないよ」

 

アイちゃんの話では、次のエリアのボスは相当に強く、初見殺しとまで言われているらしい。

 

「次の目標は師匠討伐かな」

「だね!」

 

……と、無邪気に思っていた時期がありました。

 

「強っ!」

「動きが今までのボスと全然違ってた」

「うん。全く動きについていけなかった」

 

大勢の人とともに、呆然と城の外に立ち尽くす私とアイちゃん。

 

「リベラリタス。これが最初の難関ボスにして師匠と呼ばれている存在か」

 

そしていつもどおり冷静なグリード。

次の土曜日、暇だった私はまたロディアをやろうと思いたち、同じく暇だったアイちゃんとグリードを誘ってロディアにログインをした。

前回と同じノリで雪の降るエリアを探索しながら敵を倒して、廃墟の城へと到着した。

ただ、ザコ敵すらも強く固く、苦戦しながらどうにか辿り着いた感じだ。

言外に告げられているような気がした。

ここから先は、今までとは違うのだと。

嫌な予感を抱きながら、翼の生えたトゲトゲの狐っぽい魔物、師匠ことリベラリタスとご対面。

その圧倒的なパワーとスピードに、野良パーティは瞬く間に壊滅し、外へ放り出されて今に至るのだった。

グリードは私達を見上げた。

 

「動き自体は今までのエリアボスの総復習と言えるが、さらにそこに難易度を上げているようだ。諦めずに何度も練習をすれば、いずれ攻略はできるだろうが」

「できるだろうが?」

「野良ではその意志と練度にムラが出やすい。そのことも攻略の難易度を上げていると推測する」

「良くも悪くもいろんな人とマッチングするからね」

 

アイちゃんは腕を組んだ。

そして私は一つのことを理解した。

 

「ああ、だからフリーチャットで条件をつけて募集しているのか。意志も練度もできるだけ同じか上の人と組んで、早く攻略をしようとしているんだね」

「そうだ。作業を楽に効率的に行いたいというのは、誰しもが持つ欲望だ」

 

城の前は本当に賑やかで、下手したら始まりの広場よりも人が多い。

踊ったりパフォーマンスしているだけの人もいれば、微動だにしない人もそこそこにいる。

恐らくゲームの外で雑談をしているか、席を外しているのだろう。

そして、フリーチャットで募集をかけている人もかなりいた。

単純にクリアをしたい人、ドロップアイテム目当てに周回したい人、タイムアタックをしたい人などなど。

私はため息をついた。

 

「いろんな人がいろんな目的でここに来ているんだなあ」

「ああ、実に観察が捗る」

「観察?」

 

グリードの言葉にアイちゃんが反応した。

 

「私の目的は人とその欲望の観察だ」

「欲望」

「人を動かす原動力の一つだ」

 

すると、アイちゃんは頬に手を当てた。

 

「……ユーゴも言っていたけど、グリちゃんってちょっと悪魔っぽいとこあるよね。と言っても悪魔、実際に見たことも会ったこともないけど」

「前にも言ったが、私にそのような設定はない。人に対して害意もない。私はただ人とその欲望を観察をしたいだけだ」

「うん。私はナナちゃんの友達を信じてるよ」

「その信頼に応えられるよう努力は惜しまないつもりだ」

 

その時、私の頭の後ろに視線を感じた。

 

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