多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十一話 皆とゲームで遊んだ 7

師匠こと、リベラリタス戦の当日となった。

アイちゃんと一緒にログインして師匠の城の前に行くと、ユーゴさんと部下の三人、ハンナちゃん、グリードが待っていた。

リーダーのユーゴさんが、私達を見渡す。

 

「さて、この七人と一機でリベラリタスを倒すことが今日の目的だ。シビアな戦いになるだろうが、くれぐれも仲良く! 楽しく! 遊ぼうな。特に」

 

ユーゴさんが私とジョンを見る。

 

「ジョンはナナちゃんを煽らない。ナナちゃんもコイツの煽りは徹底スルーだ。いいな」

「うっす!」

「了解です!」

 

言いつつ、私は内心で頬をふくらませる。

ジョンが煽りさえしなければ、私は大人しくて善良なプレイヤーだもん。

すると、ハンナちゃんがピョンと私の隣へ来た。

 

「大丈夫ですよっ! 私はいつでも先輩の味方ですからねっ!」

 

するとニコラさんとフラヴィオさんも私の前にグイグイとやって来た。

 

「俺も俺も!」

「一緒に大火力を叩き込んで、ジョンを煽り返してやろうな!」

「お前らあ……」

 

歯ぎしりするジョンに、ユーゴさんが渋面になった。

 

「おい、何で早速波風立ててるんだよ」

「君たちはユーゴの話を聞かなかったのか?」

 

グイグイくる男二人の前に立ちはだかったグリードも三人を窘めた。

しかし三人はどこ吹く風で、ニコラさんは余裕で口笛を吹いている始末だ。

……このメンツで大丈夫かな。

アイちゃんは苦笑しながら、ユーゴさんを見上げた。

 

「まあまあ。時間も限られているし、そろそろ行かない?」

「そうだな。くれぐれも仲良くだぞ!」

 

私達は元気よく応じ、師匠戦に突入した。

翼の生えた巨大なトゲトゲの狐、師匠のリベラリタスが私達を睥睨する。

頭の中に、師匠戦のイメージは叩き込んできた。

後はイメージ通りに動くだけだ!

私は杖を握りしめ、師匠を睨み返す。

そして戦闘が始まった。

まずは師匠のターンをやり過ごそう。

でも、動画で見るのと実際に動くのとでは勝手が違う。

頭ではわかっているけど、体が動かないのだ。

それは恐らく、ハンナちゃんとグリード以外のメンバーもそうだったのだろう。

一戦目は体力を半分削ったところで全滅、城の外へと放り出された。

 

「頭の中にイメージはあっても、中々動けないー」

 

私が呻くと、隣にいたニコラさんが肩をすくめた。

 

「このメンツでやるのも初めてだし、最初はこんなもんでしょ」

「そうそう。何回もやれば慣れますよ! 大丈夫でっす!」

 

ハンナちゃんの励ましに私は頷いた。

 

「うん。頑張る」

「時間はまだある。倒すまでチャレンジを続けるぞ」

 

そして、私達は負け続けても諦めずに挑戦を続けた。

さすがに三戦目になってからは目が慣れてきた。

序盤はもちろん、体力を半分以上削り、怒り状態になった師匠の多彩で苛烈な攻撃を見極められるようになった。

何となく、戦いの流れを掴めたかも!

体力を四分の一を残して全滅し、城の外へと戻された。

隣にいたグリードが私を見上げた。

 

「今回の動きは良かった。見えてきたか?」

「うん! 目が慣れてきたし、頭のイメージ通りに動けるようになってきたよ!」

「覚醒しましたね、先輩!」

 

そんな中、アイちゃんが肩を落とす。

 

「蘇生と回復が追いつかない。タイミングも難しい」

「それじゃ俺、導師になろうかな!? そうすれば攻撃と回復を兼任できるから、アイラ姉さんの負担も減るっしょ」

 

フラヴィオさんの提案にハンナちゃんが頷いた。

 

「確かにヒーラーはもう一人欲しいでっすね」

「でも火力が落ちるだろ」

 

腕を組んで言うジョンに、ニコラさんが両腕を上げた。

 

「床ペロしている間は攻撃力はゼロだぞ。アタッカーが死なずに継続的に火力を出し続けたほうがいいって。アイラ姉さんの負担も減って、余裕を持って行動できるようになるだろ」

「そうかもだけどさー」

「ジョン」

 

不服そうなジョンに、グリードが呼びかけた。

グリードに弱みを握られているジョンは、大げさに顔を引きつらせる。

 

「な、何だよ」

「君がセットしている火事場のスキル、今回は外して他のスキルに変更することを要請する」

「えっ?!」

「あ! ホントだ! グリードさん目敏い!」

 

ユーゴさんとハンナちゃんが驚き声を上げる横で、アイちゃんは首を傾げる。

 

「火事場って?」

「体力が三十パーセント以下の時に攻撃力が爆発的にアップする格闘家のスキルでっす」

「お前、こんなもんつけてたのか」

 

呆れるユーゴさんに、ジョンはばつ悪そうに頭をかいた。

 

「いやその、少しでも火力アップしたくて」

「その火力のせいで、私とユーゴが受け持つヘイトを君に取られる場面が多々あった。結果、敵の攻撃が君に向くことになり、君が倒れることが多くなっているのだ。私達だけでなく、アイラの負担が大きくなっている一因でもある。今日の目的達成のため、スキルの変更を改めて要請する」

 

グリードの指摘に、アイちゃんとユーゴさんは腑に落ちた表情になった。

 

「なるほどな。何かヘイト取るのが難しいと思ったら」

「他の人に比べてジョンさんの蘇生が多かったの、そういう理由だったんだね」

「やー、ダメージの大きな数字を出すのが気持ちよくて」

「今すぐ変えろ」

「うっす!」

 

ユーゴさんに圧を漂わせた真顔で言われ、ジョンは素直に従った。

 

「色んなスキルがあるんだなあ」

 

私が言うと、ハンナちゃんは手を腰に当てた。

 

「火事場は、タイムアタックやソロプレイのような、やりこみ要素の時につける上級者スキルでっす。今の時点ではオススメできません」

「デカイ数字出したい気持ちはわかるけどな」

 

ニコラさんは狩人の帽子を触りながら苦笑した。

フラヴィオさんのジョブチェンジに伴う準備と、ジョンのスキル変更もあり、一度休憩することになった。

私はゴーグルを外し、持ち込んだアイスコーヒーを飲んで一息ついた。

端末を手にした時、グリードからメッセが届いた。

 

「ナナミ。ゲームが終わったら君にコーヒーを奢りたい。時間はあるか?」

 

この表現、グリード独特のもので、つまり二人で会って話をしたいという意味なのだ。

私はOKのスタンプを送った。

 

「わかった。ゲームが終わったらいつものお店で待ってる。師匠を倒して、気分良く会いたいね」

「皆が目的達成のために高い意識を持っていると推察した。この調子でいけば時間内に必ず倒せるだろう」

「うん」

 

よし、頑張るぞ!

ゴーグルをつけてロディアの世界へ戻った。

そして四戦目。

明らかに皆の動きが安定した。

ディフェンダーがヘイトを取り続け、ヒーラーの回復も厚くなったことで床の掃除をする回数がグンと減った。

懸念していた火力は、敵の体力を削るスピードは落ちたものの継続的にダメージを与え続けられている。

いい流れだ。

直感的に思った。

この調子なら倒せる!

師匠の必殺技をかわし、ハンナちゃんが魔力アップの補助スキルを付与してくれた。

チャンスだ!

私は今持っている最大火力の炎の魔法を選択した。

燃えない燃えた燃える燃えるとき燃えればファイアー!

心の中で適当な呪文を唱えた瞬間、師匠の全身が炎に包まれ、師匠の体力が大きく減った。

後三センチくらい。

いける!!

 

「これでも喰らいやがれえええっ!!」

 

ジョンの渾身の一撃が師匠に炸裂。

後一センチ!

 

「トドメ頂きいっ!!」

 

ニコラさんの狩人の必殺技、怒涛の弓矢の攻撃でついに師匠の体力を全て削りきった!

討伐完了の文字がファンファーレと共に私の目の前に現れる。

 

「やった!!」

「倒したあああ!!」

 

皆が歓声を上げる中、私も自然と笑顔になった。

駆け寄ってくるアイちゃんとハンナちゃんと手を取り合って喜びを分かち合う。

やった! やったやったやった!!

やっと倒せた! 嬉しいよう!

大量のお金をゲットし、スキルも新たに開放された。

そして再び城の外に出ると、城の扉が大きく開かれ、城内の更に向こうにある扉──裏門?──も開かれていた。

 

「皆さん、師匠討伐、おめでとさんでっす!」

 

ジョンたちが引き続き大喜びをする横で、ハンナちゃんが笑顔で拍手をした。

ユーゴさんがハンナちゃんに手を差し出す。

 

「君の助言とスキル、動きに助けられた。ありがとうな、ハンナちゃん」

「補助役冥利に尽きます。お役に立てて、本当に良かったでっす!」

 

二人は笑顔で握手をした。

 

「ナナミ、アイラ、時間内に倒せてよかったな」

 

グリードの言葉に、私とアイちゃんは同時に頷いた。

 

「グリちゃんお疲れ様、ありがとうね!」

「グリード、色々ありがとう! 助かったよ」

「あ、そうだ! 皆で記念にスクショ撮ろ!」

 

アイちゃんの提案に皆が快諾し、城の前で皆が思い思いのポーズをしながらスクショを撮った。

スクショ撮影が終わり、私はグリードをこっそり見る。

グリードにとってゲーム自体は興味はなさそうだし、この出来事も小さな小さな経験に過ぎないだろう。

それでも、なんかいい感じに作用してくれたらいいなと思う。

と、グリードがこちらを向いた。

 

「ナナミ?」

「うん。観察、ちゃんとできた?」

「ああ。君たちが欲望をエネルギーにして努力をし、力を合わせて目標を達成する瞬間を目の当たりにできた。実に有意義な時間だった」

 

言い方が堅苦しい上に、やっぱり人の観察が至上なのか。

思わず苦笑すると、グリードが私の手を取った。

えっ? 突然、何?

 

「後で会う約束は覚えているだろうか」

 

低く声を潜めて言うグリードに、私は何故かドギマギしながら口を開いた。

 

「え? も、もちろんだよ」

「……楽しみにしている」

 

…………。

…………………。

いつもの『と言ってみたが〜』的なオチがない。

つ、ついに学習したのか、グリード!?

その調子だよ!

でも、周囲に人もいるせいもあって何か恥ずかしいよ!

だからといって無下に手を解けないし。

 

「よおし! 次はインドだ!!」

 

ハイテンション状態のジョンの言葉に、グリードの手が離れた。

……ちょっとホッとした。

 

「……インド?」

「次のエリアのボス、インドゥストリアのことですよ」

「なるほど、略してインドね」

 

アイちゃんとハンナちゃんの会話を聞きながら、次のエリアに思いを馳せる。

次のエリアか。

どんな世界が待っているのだろう。

だけど、私とアイちゃんが行けるのは来月以降になる。

ユーゴさんが皆を笑顔で見回した。

 

「今日はありがとう! お疲れさんだったな。そろそろ三時間経つから解散するぞ」

「あれ? ユーゴさんも落ちるんですか」

「おう。これからアイラと夕飯食ってくる」

 

朗らかに応えるユーゴさんに、ジョンのテンションが明らかに落ちた。

 

「そっすかー」

「いいなー、彼女持ち」

「俺も彼女欲しー」

 

ニコラさんとフラヴィオさんの言葉に、ユーゴさんはその端正な顔に不思議そうな表情を浮かべた。

 

「何だよ、お前らも作りゃいいじゃん」

 

すると、三人組は衝撃を受けたようによろめいた。

 

「これが! 何もかもを持つ男の余裕!」

「俺達がバク宙しても言えないことを平然と言ってのける! 僻みと妬みを通り越してしびあこ!」

「ユーゴさん、カッケー!」

 

最後の最後まで、男三人組のノリは変わらなかった。

私達は挨拶をして解散し、そのまま私はログアウトをした。

これからデートのアイちゃんとは店の前で別れ、私は夕暮れを映し出すドームの空の下を歩き出す。

いい気分だ。

苦労して勝利を手にした後のコーヒーは、きっと格別の味だろう。

足取りも軽く、いつものお店へと向かった。

 

そして一ヶ月後、私はアイちゃんと共にロディアの世界、バハギアへログインした。

既にラスボスを倒したユーゴさんと部下の三人組、『ラスボス前症候群』とやらを患っているハンナちゃん、人を観察するためだけにたまにログインをしていたグリードも一緒だ。

 

「じゃ、まずは感覚を取り戻すためにリベラ師匠と戦って、それからインドに行こうか」

「はーい!」

 

私のバハギアでの戦いは、マイペースに続くのだった。

 

<皆とゲームで遊んだ 完>

 

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